お久しぶりになってスミマセン
。
今回は前回に続いて、解散ライブの続きになってます!!
では、早速本編です!!
紫乃「碧志は楽屋に戻らないのか?」
碧志「ん?あぁ、せっかくの妹と教え子の晴れ舞台だからな。舞台袖から応援させて貰うよ。他のバンドの演奏も見たいしな」
紫乃「俺はこのあと出番があるから、楽屋に戻らせて貰うぞ」
碧志「おう、お互い頑張ろうぜ」
舞台袖に碧志を残し、NSEのメンバーは全員楽屋へ向かう。
NSEの楽屋に戻る途中、Crown.Clown.の楽屋の前で紫乃は足を止めた。
紫乃「それじゃあ俺は、こっちの楽屋に戻るぞ」
桃華「バンドの皆さんにヨロシクね~♪」
紫乃と別れ残りの3人が楽屋に戻る。
緋砂人「わりぃ、俺しょんべん行ってくる」
桃華「汚い!トイレって言いなさいよ!!」
緋砂人「わりぃわりぃ」
緋砂人は2人から離れてトイレに向かった。
緋砂人「ゴホ!ゴホ!ガフッ!コフッ!」
楽屋から離れたトイレの洗面器を緋砂人は吐血で真っ赤に染めていた。
猶黄「そろそろ限界か?」
緋砂人「猶黄!?……どうしてここに?」
猶黄「……お前の様子がおかしかったから、俺達に何か隠し事をしているなと感じて後を追ってみたって訳だ。心配するな、桃華と碧志には話してないし、紫乃は今はそれどころでは無いだろう。アイツも俺達には内緒で何か進めてるみたいだし」
緋砂人「……そこまで色々と気づいていながら、何故口に出さない?」
猶黄「俺は碧志と違ってお人好しじゃないからな。わざわざ自分に関係ない事にまで首を突っ込むような事はしない。基本的には何事も本人の自己責任だと、俺は思っているからな。ただそれが、ヤバそうであればそれに釘を刺す事もある。例えば今みたいにな?」
緋砂人「充分お人好しだよ……。何故分かったんだ?」
猶黄「ウチのメンバーは分かりやすく音に出るからな。緋砂人は何かを隠そうとする時は強がる傾向にある。今日だと自分は絶好調だと周囲に印象付ける為に、わざと激しく歌う。ただそんな時は、いつもより少しだけ歌声のペースが走り気味になる。他のメンバーならともかく、俺や紫乃がそれに気づかないと思われているのなら、えらく舐められたものだな」
緋砂人「舐めてなどいないさ。やっぱりお前が一番メンバーの事が見えてるよ」
緋砂人は困ったように笑う。
猶黄にバレてしまった以上、これ以上ライブは続けられないだろう。
しかし猶黄から返って来た言葉は意外な物だった。
猶黄「これからどうする?俺としてはこのまま救急車を呼んでお前を病院送りにしたい所ではあるが、お前がこのライブに懸けている想いを理解している。だから無理強いはしない。どうするのかお前が決めろ」
緋砂人は猶黄の言葉の意図を察した。
お人好しではない猶黄の事だ、『やる覚悟があるのなら最後まで死ぬ気でやれ、何かあったときの責任は俺がとる』と言っているようだ。
緋砂人「わりぃ、迷惑をかける」
猶黄「いつもの事だ」
足音が遠ざかっていく。
緋砂人の言葉を猶黄が受け入れてくれたのだと、緋砂人は悟った。
緋砂人は身嗜みと呼吸を整えるまでその場から離れなかった。
_______________
香澄「『Yes! BanG_Dream!』でした!」
会場から歓声が湧く。
香澄は嬉しくて、観客に手を振り返した。
碧志「いいぞー!ポピパー!!」
紗夜「市ヶ谷先生、楽しそうですね」
碧志「氷川さん」
舞台袖からポピパにエールを送る碧志に紗夜は声を掛けた。
紗夜「市ヶ谷先生から見て、今日のPoppin'Partyの調子はどうですか?」
碧志「調子は良さそうだぞ?全体的にバランスがいいし、戸山さんの歌声も安定している」
紗夜「…………」
紗夜はポピパの一挙手一投足に嬉々している碧志を見つめていた。
香澄「では続いて、『Happy Happy Party!』」
たえのギターのリズムで楽しげな曲が始まる。
碧志はそれに合わせて手を叩きリズムを取る。
紗夜「…………そのっ、あの!」
碧志「どうしたんだ?」
紗夜「…………ラウダ……」
碧志「ん?」
紗夜「どうして市ヶ谷先生達、Non Stop Emotion!!が私達の曲、LOUDERを演奏したんですか?」
碧志「え?私達の曲?」
紗夜の質問に対して、碧志から返って来た言葉は紗夜にとって予想外の物だった。
紗夜「何処か私の質問で分からない箇所でもありましたか?」
碧志「LOUDERは元々、別のバンドが歌っていた曲をRoseliaがカバーしたと緋砂人から聞いているよ?」
紗夜「LOUDERは元々、湊さんのお父様のバンドで歌われていた曲です。そして湊さんがお父様から譲り受けた楽曲です」
碧志「…………なるほど。これで全てのピースが繋がった」
紗夜「ピースですか?」
碧志「あぁ」
碧志は視線をポピパから紗夜に移し、説明を始める。
碧志「まず緋砂人は、LOUDERは元々緋砂人がバンドを始めるキッカケを与えてくれたバンドの曲だと言っていた」
紗夜「それが湊さんのお父様達のバンドという事ですね?」
碧志「その通りだ。そしてこのライブの目的は、俺達の思い出作りなんかじゃない。ちゃんと目的と信念を持って動いている」
紗夜「目的と信念ですか?」
碧志「このライブの目的は、低迷するバンド業界の盛り上げとこれから来るであろう、大バンド時代を担うバンド達の踏み台になるため。そして緋砂人は、湊さんの踏み台になりたいと思っているんだろう。そしてそれがバンドを始めるキッカケを作ってくれた、湊さんのお父様への恩返しだと思っているようだ。…………いや、それだけでは無いな」
碧志は少し離れた所にいて、ポピパを見ていた友希那に視線を向ける。
碧志「湊さんと緋砂人は似ている所がある。そんな湊さんと最後に正面から全力でぶつかって見たかったんだろう」
碧志の言葉に、過去からの緋砂人から友希那への数々の敵意に納得がいった。
紗夜「市ヶ谷先生はLOUDERを弾いてみてどうでしたか?」
碧志「楽しかったぞ?」
紗夜「そうではなくて……」
碧志「???」
紗夜はため息を吐いてから言葉を続ける。
紗夜「難しくは無かったですか?」
碧志「うーん、簡単だったかな?」
紗夜は少しだけ拗ねたような素振りを見せた。
紗夜「私達の楽曲は決して簡単な物ではありません。嘘でも多少苦戦したと言って欲しかったですね」
碧志「苦戦しなかったのは氷川さん、君のおかげでもあるよ」
紗夜「私のおかげですか?」
碧志「俺って昔から、誰かの演奏を真似して覚えるのが得意なんだ。LOUDERは氷川さんが基本に忠実に丁寧に弾いていたから印象に残っていたし、それを真似しやすかったから苦戦する事が無かったんだ」
人の真似をすると言うと簡単なように感じるが、それが如何に難しい事であるかを紗夜は理解している。
真似だけで一流になれるなら、とっくにジミ・ヘンドリックスのような超一流のギタリストが何十人も現れているはずだから。
故に、碧志は間違いなく天才であると紗夜は再認識した。
彼が天才であるかどうかは彼以上に彼のギターが雄弁に物語っている。
香澄「『Happy Happy Party!』でした!」
紗夜と碧志が話している内にポピパが演奏を終え、最後の一曲に入ろうとしていた。
香澄「このステージがいつまでも続いてくれたら嬉しいけど、次がいよいよ最後の曲です。…………私達の気持ちは一度離れ離れになりました。もう元に戻れないんじゃないかって思うくらいの大雨が心に降りました。でもそこで、諦めなかったからここまでやって来れました。雨が止んで虹が出るように、辛いことや悲しい事を乗り越えれば、その後には楽しい事やキラキラドキドキした事が必ず待っているんだって、気持ちと想いを込めてこの曲を作りました。聴いてください、『二重の虹(ダブルレインボー)』」
「雨上がり 傘を捨てて
羽ばたく夢を(見たんだ)
虹の先の未来へ!」
碧志「やっぱりこの曲は素敵だな」
紗夜「そうですね」
拓哉「おやおや、これは面白い子がいるね」
ポピパの次に出番を控えている、TK NETWORKのキーボードであり日本一の作曲家であり、桃華の父である小室拓哉が舞台袖に現れた。
拓哉「まだまだ面白い子が沢山いるねぇ」
碧志「お久しぶりです。おじさん」
拓哉「やぁ碧志君、久しぶり。今は高校の教師をやっているんだって?桃華に聞いたよ」
碧志「おかげさまで、楽しい教師生活を送らせていただいてます」
拓哉「君ほどの逸材が下火で燻っているのは勿体無く感じるなぁ。どうだい?ウチの事務所でスタジオミュージシャンとして働かないか?高校教師以上の給料を確約しよう。活躍次第では、更に倍の給料を支払うぞ?」
あまりに破格の報酬。
一アマチュアのギタリストには勿体無過ぎる条件と言っても過言ではない。
しかしそれだけの価値が碧志のギターにはあると、日本一の作曲家に評価されていることが碧志には嬉しかった。
しかし碧志は首を横に振った。
碧志「自分には勿体無過ぎるご提案ではありますが、
お断りさせていただきます。自分は今日のライブをもって、ギタリストを引退するつもりでこの舞台に立っていますから」
紗夜「なっ!?本気ですか市ヶ谷先生!?」
碧志は紗夜の質問に対して今度は首を縦に振る。
紗夜は少し残念そうな表情をした。
続いて拓哉は更に残念そうな表情をした。
拓哉「そうか残念だよ」
碧志「お気遣いありがとうございます」
紫乃「ほぅ……確かにお前の言う通り悪くないな」
紫乃が楽屋から戻ってきた。
どうやら次の出番であるTK NETWORKを観に来たようだ。
紫乃「Poppin'Partyのデモテープを聴いた時は本当に大丈夫か心配だったが、碧志や緋砂人の言う通り本番に強いタイプのようだな」
碧志「だから言ったろ?…………!??」
全長数メートルはある巨人から頭を抑え付けられているような感覚が碧志と紗夜を襲った。
碧志と紗夜はその大きすぎる気配の先を振り向き確認する。
そこにはCrown.Clown.のギタリストである、中国系アメリカ人のジョアン・リーが微笑んでいた。
その麗人は、艶やかな黒髪とその際立った容姿から想像もできないほどの圧倒的オーラを身に纏い、碧志や紗夜を比較対象に上げる事がおこがましい程のオーラを放っていた。
紫乃「紹介しよう、ウチのバンドでギターをしている……」
碧志「ジョアン・リーさん……」
紫乃「知っているなら紹介する必要も無いな」
碧志「知ってるも何も、現状世界一の女性ギタリストの名前を上げろって言ったら、真っ先に名前が上がる超有名人だろ」
紫乃「日本語は喋れないから基本的に話さないと思うが、よろしく頼む」
ジョアン・リーは微笑み、会釈をする。
碧志は身震いがした。
今まで紛いなりにも世界トップクラスのベーシストと演奏してきた碧志でさえ、感じた事の無い圧力とオーラを纏い碧志の目の前に立っている。
目の前に立っている。
ただそれだけである。
しかし碧志は流れる汗を止めることができなかった。
香澄「Poppin'Partyでした♪ありがとうございました!」
空気を裂くようにポピパの曲が終わり、観客に挨拶して舞台袖に帰ってきた。
碧志「みんな、お疲れ様」
碧志はハイタッチで迎える。
りみから順番に戻ってきたメンバーと順番にハイタッチをしていく。
香澄「あっ!この人雑誌で見たことある!」
香澄はジョアンの両手を握った。
香澄「私、戸山香澄です!よろしくお願いします!!」
たえ「あっ!この人、ジョアン・リーだ!!香澄!?サインして貰おう!?」
香澄「だったら、サイン色紙を取りに一回楽屋に戻らなきゃだね!行こっ!おたえっ!」
香澄とたえは楽屋に向けて走り出した。
沙綾「えっと……ウチのメンバーがスミマセン!」
初対面であるジョアンに対しても物怖じせず、礼儀も欠けた会話をしてしまった事を、沙綾はジョアンと紫乃に頭を下げ謝罪した。
それから沙綾、りみ、有咲が慌てて楽屋に戻る。
ジョアンは走り去る5人に微笑みながら静かに手を振る。
この後、TK NETWORKの演奏が始まるが碧志は横に立っている世界レベルのギタリストの存在が気になって、気が気では無かった。
緋砂人「……し……あお……。碧志!!」
碧志「へ?」
緋砂人「なにボーッとしてんだよ?もうTK NETWORKの演奏終わっちまうぞ?」
長い時間、物思いに更けてしまっていたようだ。
緋砂人の言う通り、TK NETWORKのメンバーが舞台裏に捌けようとしていた。
碧志「スマナイ、声を掛けてくれてありがとう」
碧志の裏にはCrown.Clown.のメンバーが控えていた。
リーダーのジョアン・リーを筆頭に、他の4人も皆、世界トップクラスの実力者。
今日の観客の半分以上は彼らの演奏を観に来ていると言っても過言では無い。
外国での初ライブとは思えない落ち着きように、それぞれのメンバーからかなりの自信が伺える。
紫乃「それじゃあ、行こうか」
紫乃を先頭に舞台に上がっていく。
今日一番の歓声が彼らを迎える。
紫乃以外はその歓声に手を振り応える。
緋砂人「アイツ、観客に愛想振り撒かない所は変わってないな」
紫乃は観客が嫌いという訳ではない。
もちろんファンを大切には思っている。
しかし紫乃は職人気質が強い。
その為、自分が観客に届けるべきなのは愛想ではなく、一流の音楽だと思ってる。
よって自分はベースを弾くことに専念する。
それが彼の信条である。
しかし今回は日本でのライブ、紫乃以外は日本語が不得手であるので、今回は紫乃がMCを務める。
紫乃「どうも、Crown.Clown.です。今日は最高の音楽で耳を幸せにして帰ってください。……では一曲目、『Shooting Star』」
美しいギターのメロディーラインから曲が始まる。
その瞬間、碧志を含む聴者には流れ星が見えたような錯覚に襲われた。
碧志は何度もCD音源でCrown.Clown.の楽曲を聴いている。
しかし音源と生で聴くのでは全く違う。
まるでオーケストラを聴いているような優美さと正確さを兼ね備えいる。
"一人交響楽団(Human Orchestra)"とも称される、ジョアン・リーのギターに碧志は今まで一度も覚えた事の無いような高揚を覚え、全身の鳥肌が立った。
緋砂人「紫乃のやろう、俺達と演奏してる時は全力じゃ無かったって事かよ」
紫乃は、NSEの演奏時よりも正確に美しく、そして激しく、聴く人を魅了する音を奏でていく。
"神の調べ"と称されるその異名に削ぐわぬ、神々しい演奏に碧志を含む観客は全て、完全に魅了されてしまった。
紫乃「えぇ、ここまで続けて三曲聴いて貰いましたが次が最後の曲となります」
この日一番のブーイングが響き渡る。
そのブーイングが彼らへの称賛の裏返しであることは言うまでも無い。
三曲の演奏が一瞬で終わってしまったと感じてしまうほど、Crown.Clown.の演奏は圧倒的であった。
この後に出番を控えるOne-day's youはFWFで準優勝している程の実力者であるが、このバンドの後に演奏しなければならないというプレッシャーで震えが止まらなくなっていた。
緋砂人「あーあ、可哀想に……震えちゃって。だから順番はくじ引きじゃなくて、こっちで決めようって言ったのに。こりゃ、推薦者の猶黄に責任取らせないとな」
震えが止まらないOne-day's youのメンバーを緋砂人が弄る。
しかし余裕が無いのか、その言葉に反応することができない。
緋砂人の言葉が独り言のように寂しく宙に舞う。
紫乃「では最後の曲は新曲です。……その前に、最後の曲のサポートメンバーを紹介します。…………市ヶ谷碧志!!」
碧志「んなっ!?」
碧志は呻き声を上げる。
碧志だけでは無い。
周囲もざわつき始める。
有咲「んなっ!?碧志が演奏するのか?」
沙綾「でも碧志先生も驚いた顔してるよ?」
有咲達の遠くから見える碧志の表情は、驚きを隠しきれないといった感じである。
緋砂人「どーすんだ?」
碧志「どーするも何も。そんな予定無いだろ?」
緋砂人「予定なんてどうでもいいだろ?大事なのは、"やるかやらないか"と"できるかできない"だ」
緋砂人は二択を迫る。
碧志自身が"やるのかやらないのか"。
碧志の技術が"できるかできないか"。
碧志の中では既に本能的に答えは出ている。
しかし理性がいつまで経ってもブレーキを踏んでいる。
会場のざわめきは収まらない。
碧志が見える角度にいる人物は皆、碧志の一挙手一投足に視線を注いだ。
そんな中、一筋の光明とも思える音が会場のざわめきを切り裂いた。
「♪♪♪~♪~♪」
ジョアン・リーが高速タッピングを披露する。
その美しくも主張の激しいギターの神業に全ての観客・スタッフ・演奏者の言葉と視線、思考を奪った。
『そんな所にいないで同じギタリストなら、ギターで語り合いましょ?』
碧志はそう言われている気がしてならなかった。
周りのざわめきが消えていく。
周りの音が消えていく。
周りの人が消えていく。
碧志は高揚感に支配され、ジョアン・リーとその仲間しか見えなくなっていた。
昔、一度だけ同じ感覚を覚えたことがある。
それはFWFの時だ。
周りの雑音が全て消えて、自分達の音楽しか聴こえない。
その時の演奏が上手く行ったかどうかは覚えてなくて、後で映像で確認して成功していた事実を把握した。
今はそんな事どうでもいい。
ギターを弾きたくないのか?
"否"
この高揚感を彼女らにぶつけたい。
そして自分がどれくらい通用するのか試してみたい。
リフを覚えていないのか?
"否"
新曲はツインギターで演奏する曲になっている。
しかし紫乃の練習に何度も何度も付き合った。
リードだろうがリズムだろうが、どちらも目を瞑っても演奏できるくらい鮮明に覚えている。
既に答えは決まっている。
碧志は自分の相棒を担ぐと、気がつけばジョアン・リーの隣に立った。
紫乃「お前はリードだ」
碧志「分かった」
そんな事はどうでもいい。
早く弾かせろ。
ドラムの音頭で曲が始まると同時に、碧志とジョアン・リーは二人だけの世界に入った。
それぞれが相手へ感情を込めた音を贈る。
二人の技術は神々しくも情熱的で激しく、観客や演者は言葉を失った。
天使の様に整っていて美しいジョアン・リーのギターと、荒々しくそれでいて人の心をたぶらかす悪魔のような碧志のギター。
全く真逆の二人のユニゾンは、今ここが世界の中心だと言わんばかりのギターによる咆哮。
その中で、紫乃だけがほくそ笑んでいた。
_______________
「もう一人ギタリストが欲しいの」
リーダーであるジョアンがメンバーに自分の胸の内を明かす。
これはジョアンだけでなく、全員が思っていた事でもある。
ツアーでアメリカ全土を回ったが、その間リズムギターは全て打ち込み。
ジョアンはリードに専念していた。
ジョアンは常々不満を持っていた。
リズムギターのポイントは、バッキングやアルペジオを主体にバンドサウンドを組み立てることにある。
ジョアンはそれが楽しくて、その技術は自分が世界一であると自負している。
しかし、ギターのソロなどを行うリードギターがいないとバンドとしての目玉が不在になる為、常にやりたいリズムギターではなくリードギターをやらされる。
ジョアンのリードギターの腕前も世界トップクラスであることは間違いない。
しかし、リードギターの役割を全うしながらリズムギターをやりたい自身の気持ちを抑えられずにいた。
そこで、全米のオーディション番組や伝を使ってギターを探して回った。
しかし、ジョアンと相性がいいギタリストは見つからなかった。
何故なら、大抵のギタリストがジョアンのギターに萎縮して弾けなくなるか、ジョアンの求める相棒のレベルに達していないかのどちらかであった。
そんな日々が数ヶ月続いたある日。
緋砂人から解散ライブをして、日本のバンド業界を盛り上げないかと誘いがあった。
今さら解散したバンドでの演奏に興味など無かった。
何故なら、あれから自分は更なる高みへ羽ばたいたからだ。
今さら地面は見ない。
そう思っていた。
しかし緋砂人から、日本でのNSE再結成の演奏の映像が紫乃の下へ送られてきた。
「碧志が格段に上手くなっている」
紫乃はそう思っていた。
しかし緋砂人から送られて来たメッセージには、『碧志が復活した時の映像だ』と書かれていた。
緋砂人に詳細を確認した所、碧志にはメンバーのレベルに合わせて無意識に演奏レベルを落とす癖があるらしい。
それが原因でずっと自分の演奏を見失っていたということ。
その時紫乃は思い出した。
FWFの時、碧志が自分に迫って来ているような感覚に襲われたこと。
その時の事は、碧志自身良く覚えていないと言っていたこと。
そして、碧志は元々リードが得意でリズムが苦手であると本人が言っていたこと。
そこで紫乃は思い付いた。
NSE以上の実力者しかいない状況で、リードギターにのみ専念させた場合どうなるのかと。
碧志の潜在能力を100%まで引き出したら、どれくらいの演奏ができるのか興味が湧いた。
その興味を現実にする為に、紫乃は今回の解散ライブへの出場することにした。
_______________
そしてその結果、ギタリスト二人による激しいぶつかり合いが目の前で行われている。
碧志はジョアンのギター以外は全く見えていない。
しかし、周りの音としっかり調和しながらも自身の存在感をまざまざと見せつける。
そんな碧志のギターを押さえつけるように、ジョアンの調律の取れた美しい音色が合わさる。
観客を含めて、誰一人言葉を発するのを忘れてしまうような圧倒的存在感のぶつかり合い。
「碧志が本当の姿を取り戻し、ギタリストとして前に進む覚悟ができたらきっと争奪戦になる。そうなれば碧志はここにはいられなくなる。社会科教師の市ヶ谷碧志もギターを教えてくれる市ヶ谷碧志もいなくなる。君にその覚悟はあるのか?」
少し前に、緋砂人から言われた言葉を有咲は思い出していた。
有咲「そっか……そういう事だったのか」
有咲の瞳からは涙が出ていた。
覚悟は決めていた筈なのに。
この演奏を聴いて、碧志が自分のそばから離れてしまうと確信してしまった。
香澄「有咲?」
香澄が不安そうに有咲の顔を覗き込む。
ダメだ。
みんなを不安にしてしまう。
有咲「いやぁ、ゴミが入っちまってさぁ……!?」
その瞬間、香澄は有咲を抱き締めていた。
有咲「かす……み……?」
香澄「私達の前では強がらなくていいんだよ?」
その言葉が有咲の防波堤を壊してしまった。
流れ続ける涙を止めることは出来なかった。
碧志「ハァ……ハァ……ハァ……」
演奏を終えると碧志は全身汗だくで、ステージには碧志とジョアンの吐息しか鳴っていなかった。
碧志「???」
碧志が周りを見渡しているとジョアンが手を掲げ、ハイタッチを碧志に求めた。
碧志が快くハイタッチに応じると"パァン"と手がぶつかり合って、乾いた音がなる。
遅れて、歓声が爆発した。
いかがでしょうか?
次回でいよいよ解散ライブのラストを予定しております!
しかしまた期間が空くかもしれませんのでごゆるりとお待ちいただけると幸いです。
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特に評価・感想は執筆の励みになりますのでよろしくお願いしますm(_ _)m
ではまた次回、ほなっ!(^^)ノシ