周りで人の話し声がする…
よく聞こえない…
寝ていた?
直前の記憶が曖昧だ…
「では、治療を始める。少し下がっていてくれ」
治療?誰が…私が?
状況を把握する為にも、とりあえず起きないと…
あれ、起き上がれない…
身体中が強ばっている様な感じで力が入らない。
「元気に、なああああああれええええええぇぇぇ!!!」
耳が痛くなるくらいの声がしたと思ったら、背中や肩数ヶ所にチクっとした感覚が走る。
すると、先程までの強ばりが嘘の様に無くなっていく。
「なんなのよ…五月蝿いわね…」
なんとか腕に力を入れて起き上がろうとすると、ガッツリと肩を掴まれた。
「おっと。まだ動いちゃいかんぞ。俺は少し退出するが、帰って来るまで起き上がるなよ」
「礼を言うわ、華佗。後でよろしくね」
「なに、お易い御用さ」
華佗…華琳様の頭痛を診ている医者の名前の筈だけど、何故私の治療を…?
それに、この声は華琳様?
「まったく。無茶し過ぎよ、桂花」
私が横たわっている寝台の横へ椅子を引いてくると腰を下ろす。
「色々要因はあるみたいだけど、倒れた1番の原因は疲労だそうよ」
「申し訳…ありません…」
悔しい。
情けない。
この程度で倒れてしまう自分が、弱い自分が憎い。
「貴女に1つ、命令を与えるわ。暫く、休暇を取りなさい」
休暇を取る?
私が?今?
「そんなっ!私は、もう、必要ありませんか!?この程度で倒れる様な私はっ!まだ働けます!まだやれます!だから、だから…どうか…お傍に……」
悔しい。
悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい悔しい。
私はまだ出来る。
私はまだ働ける。
私はまだ華琳様のお傍に居たい。
ただ、それだけなのに…
「違うわ桂花。落ち着きなさい。華佗にも言われたでしょ。まだ動いては駄目よ」
優しい華琳様の声。
優しい手で頭を撫でてくださる。
嬉しいのに、涙が止まらない。
私は、華琳様に、華琳様だけには捨てられたくない。
もう、失いたくない。
「今は呉蜀との連携も上手くいっている。貴女のおかげよ。貴女が身を粉にして働いてくれたから、予定よりも早く計画が進められている。冥琳や朱里も驚いていたわ」
「だから、今はしっかりと休みを取りなさい。ゆっくり休んで、また、私を助けてちょうだい」
止まらない涙を拭ってくれる華琳様のお声は、泣きじゃくる子供をあやす様に、どこまでも優しかった。
「入るが、構わないか?」
入口の外から華佗の声が聞こえる。
「ええ、大丈夫よ。そうだ、桂花。あと1つ言わなきゃいけない事があったわ」
立ち上がってお召し物を整えた華琳様が私の顔を見て笑う。
「今回は貴女に先を越されたけれど、まだ負けを認めた訳じゃないわよ」
先を越された?負けを認める?
起きたばかりでモヤモヤしてる私の頭では意味を上手く理解出来なかった。
そんな私の表情を見て
「まだ、私は何も諦めてないって事よ」
そう言って華琳様は部屋を後にした。
その後、華佗から今の私の身体の事、これからの過ごし方の注意点を聞かされた。
「まぁ、こんな所だな。あと何か聞いておきたい事はあるか?」
「1つ、いいかしら」
「おお、なんだ?何でも聞いてくれ」
「お酒は、飲んでも大丈夫なの?」
「酒か。本当は控えて欲しいが、少量ならまだ問題ないだろう」
「そう、分かったわ。後は大丈夫よ」
「そうか。俺はまだ許昌に居る。何かあれば直ぐに呼んでくれ」
華佗はそう言い残して部屋を出た。
そして、部屋の前に居た侍女を呼ぶ。
「買ってきて貰いたいものがあるのだけど、お願いするわね」
そう言って私は"メモ"を手渡した。
これも、一刀が広めた物だったわね。
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