原作ブレイクは加速する………
大赦side
大赦。神樹様を崇め管理し、勇者達の支援・指示を下す組織。彼らも目下の悩みは一人の少年であった。
天野雪兎。各所の調査、連絡員等からの報告から大赦にも"魔王"と称されるこの少年はあまりにもイレギュラーな存在だった。
一つ、三百年にも及ぶ積み重ねで作られた勇者アプリをたった一人で解析し改良してみせた事。
二つ、満開の秘密にも気付き、勇者達の実力を底上げした上でそれを不要と凍結させた事。
三つ、その他大赦にとって組織の存続を揺るがしかねない秘密を握っている事。
これらの事から大赦は彼を大いに警戒していた。始めは彼を様々な手を用いて従わせるか排除しようとした。だが、彼はそれすら予測し先手を打っていた。これにより彼をどうこうする事は実質不可能になってしまい、大赦は彼を敵に回さぬ為に彼の要求を飲む事になった。
その彼の要求は以下のものだ。
・自身の行動についてはある程度黙認する事。
・自身のバーテックス戦への介入の許可。
・勇者アプリから"満開"のシステムを切り離し別のシステムとし、任意以外で発動しないようにしておく事。
・満開のデメリットを勇者達に公表しない限り満開を使わせない事。
これらを守る限りは彼は勇者を支援し、大赦とも敵対しない、と言った。
実際、彼は勇者達に協力し、9体ものバーテックスを勇者達の完勝という形で示してみせた。そんな彼が次に要求してきたのは、バーテックスの完全消滅が確認出来るまで勇者達にアプリを持たせたままにする事と、大赦にとって重要な"彼女"への面会だった。
「勇者アプリに関しては問題は無いとして」
「奴は一体どこで"彼女"の事を」
「ここで下手な理由で要求を拒めば魔王がどんな手を使ってくるかわからん………」
「彼が改修した勇者アプリの理論データを提供してきた以上、これは飲まねばなるまい」
彼も今回の要求の一つが簡単な事では無いと分かっていたようで、彼は手土産として前回のバーテックス戦にて多大な戦果をもたらした勇者アプリのデータを大赦に提供してきたのだ。
大赦としてもこのデータは無視出来ないものであり、大赦の上層部は彼に他の勇者を同行させない事を条件に"彼女"こと"乃木園子"への面会を許可するのであった。
side out
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園子side
彼の事を私も聞き知っており、いつか話をしてみたいとは思っていた。そんな彼が私に面会を求めていると知った時は流石の私も驚いた。何せ今の私は大赦にとって切り札であるのと同時に最高機密に等しい存在。そんな私を彼は何処で知ったのだろうか?更に言えばあの秘密主義の大赦が条件付きとはいえ自由面会を認めるなんて………気付けば私は彼の面会を心待ちにしていた。
そして初めての面会の日、私は再び彼に驚かされる事となる。
「うわぁ、これは気が滅入りそうな部屋だな」
開口一番、彼が口にしたのは部屋の感想だった。
「よくこんな部屋に居られるな?」
「あはは、自己紹介も無しにそんな事言われたのは初めてだよ」
「おっと、こいつは失礼……讃州中学三年、天野雪兎、あだ名は魔王だ……乃木園子さん」
「園子でいいよ。三年なら私よりも年上のはずだから」
「あいよ、園子」
彼は話に聞いていたよりもずっと面白い人だった。だが、まずは確かめなければならない事を聞かねばならない。
「それで、私にわざわざ面会を求めたのは何故?」
そう、面会の理由だ。まあ、おおよその目星はつけてはいたが確信は無かった。しかし、私の予測は外れる事となる。
「満開や勇者システムの真実………っていうのは表向きの理由で、本音はあんたに直接会ってみたかったから、かな?」
「…………えっ?」
「そんなにおかしな理由か?」
「お、おかしいよ!?私と会う為のだけに貴方はどれだけの対価を支払ったの!?」
思わずこの二年で出した事の無いような大きな声を出してしまう。
「落ち着けって………まあ、それなりのもんはくれてやったが、あの程度で園子に面会出来るようになるなら安かったもんさ」
詳しく聞けば、彼は彼が改良した勇者アプリの元データを大赦に提供したのだと言う。もし私の友人達が聞いたら卒倒するだろう。
「それに満開も勇者システムもバーテックスの事もある程度は既に知ってるしなぁ………その辺の事となると、事実確認にしかならんよ」
「そ、それじゃあ、本当に私に会う為に来てくれたの?」
「さっきからそう言ってるんだがなぁ」
「あはは………これは確かに大赦が持て余すんだよぉ」
この時、私は確信した。彼は大赦では扱い切れる人ではないと。その後、本当に彼は事実確認だけ済ませると他愛の無い話を始める。
「さて、そろそろ面会時間も終わりか」
私にとっては久しぶりの楽しい時間が、それももうおしまいのようです。
「そんじゃ、"また"来るわ」
「えっ?」
"また"?彼は今そう言わなかったでしょうか?
「今度は何か手土産でも持ってくるわ。この部屋は流石に殺風景過ぎる」
そう言って背を向けながら手を振り、まるで友人の部屋から帰るような気軽さで去っていきました。
side out
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風side
十二体全てのバーテックスを破り、そのまま勇者部に残留する事を決めた夏凜や天野と共に青春を謳歌する私達。そして、夏休みに突入したある日。樹が「友達と出掛けてくる」と告げ出掛けて行ったので、私も一人で街をフラフラしていた…………のだが、私はそこでとんでもないものを目撃する。
「あれ?あそこにいるのって、樹と……………天野ぉ!?」
友達と出掛けたはずの樹がこともあろうか天野と一緒に歩いていたのだ。しかも矢鱈楽しげに…………これは事件だ!私は早速勇者部の他のメンバーを召集した。
「………で、私まで集められたのね」
「樹ちゃんが天野先輩となんて意外だなぁ………」
「そうでも無いわよ、友奈ちゃん。天野先輩は樹ちゃんだけはずっと名前で呼んでるもの」
「確かに!」
「そんな事よりも!あの樹が私に嘘ついてまでこんな事をするって事の方が問題よ!」
そう、あの樹がお姉ちゃんであるこの私に嘘をつくなんて………
「でも、見た感じは二人とも楽しそうよね………これはもしかしてもしかするのかしら?」
「い、樹ぃ~!」
「ふ、風先輩、抑えて!」
…………気を取り直して追跡を開始すると、二人は電車を乗り継ぎイネスへと向かっていた。
「イネス………天野先輩、わかってるわ」
「どうした、東郷………」
イネスに入ってからは樹が天野を先導して歩いていた。そして、二人が入っていったテナントは………
「……………ファンシーショップ?」
あの魔王野郎には縁の無さそうなぬいぐるみ等の品揃えが良いと評判のお店だった。
「い、意外過ぎる」
「何か探しているようね」
それからしばらくして、目的の物が買えた二人はお店を出てフードコートへと移動を開始する。
「………」
「どうしたのよ、風?そんなに愛しい妹を取られたのが悔しいの?」
「ま、まだそうと決まった訳じゃないでしょ!」
「風先輩、しー」
「すみません………」
夏凜の言葉にムッとして声を上げてしまい、友奈に注意される私………何だろう?今日の私はなんだからしくない。
「二人はジェラートのお店に行ったみたい」
「ジェラート………っ!?何か忘れているような………」
「東郷さん?」
「あっ、魔王のやつ、ちゃんと樹に奢ってあげてる」
遠慮している樹だが、天野は一言二言言って樹にジェラートを手渡す。そんな時、東郷が天野のジェラートを見てまた声を上げる。
「あ、あれは!?醤油豆味!?」
「本当に今日の東郷はどうしたのよ!?」
だが、私はそれどころではなかった。
(何で樹と………って、何想像してんのよ!?普通はあいつのポジションに私でしょ!!)
何故か樹の姿に自身の姿を重ねてしまい顔が熱くなる。
「どうかしましたか?風先輩」
「えっ?な、なな何でも無いわ!」
気付けばいつの間にか正気に戻った東郷に顔を覗き込まれていた。
「何やってんだ?お前ら」
こうやって騒いでいたのが悪かったのか、私達が再び二人の監視の為に前を向くと、そこには呆れ顔の天野と苦笑している樹がいた。
「えっと…これは…………その…………」
「はぁ、大方何処かで樹ちゃんといるの見掛けて尾行してたんだろう………言っとくが、気配と騒ぎ声で途中からバレバレだったからな?」
「「「「うっ」」」」
「こうなるのが嫌でわざわざイネスまで来たってのに………」
「それで、天野先輩と樹ちゃんは付き合ってるんですか?」
「は?」
「あ、あわわわ………」
そこに友奈が核心に触れる質問をするが、天野は「なんでさ」と言わんばかりの顔を、樹は顔を真っ赤にしてあたふたしている………理由が気に食わないが、この樹も中々…………はっ!?
「………はぁ、要らん誤解をされそうだから言っとくが、樹ちゃんと一緒だったのはこいつを買う為だよ」
そんな中、天野は誤解だと告げ、先程のファンシーショップの紙袋を見せる。
「と、言うと?」
「…………とある理由で長期入院してる知り合いに差し入れとして買いたかったんだが………………………男一人でファンシーショップに入る勇気が、な」
「「「あー」」」
これには私、友奈、東郷の三人も納得した。おそらく、あいつは友奈や東郷、それに私が一緒だと要らぬ誤解を受けると思い、一般的に見れば兄妹に見えそうな樹に同行を頼んだというところだろう。そして、それが私にバレるとからかわれると察した樹が「友達と」と誤魔化したというのが真相のようだ。夏凜?ダメダメ、夏凜だと絶対に途中で揉めるし、そういうお店知らなさそう。
「私にお願いしてくれたらいつでも一緒に行ったのにぃ~」
「友奈ちゃん、それはそれで困るから樹ちゃんだったのよ」
「でも、ちょっと待って………あのお店で買ったって事は、渡す相手は女子?」
私がそう呟くと、天野はジェミニ・バーテックスも真っ青なスピードで逃げ出した。
「者共!追えぇえええ!!」
「「「おー!!」」」
それを追って私達も駆け出すも、結局私達はあいつを見逃してしまった…………ちっ。
side out
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勇者部の面々をなんとか撒いた雪兎は再び乃木園子の所を訪れていた。
「ーーって訳で撒くのに苦労したぜ」
「ふふふ、やっぱりユッキーは面白いね」
「何故か知らんがその呼ばれ方は背筋が寒くなるから勘弁してくれ」
「じゃあ、あまあま」
「何かダボ袖の子に言われそうなあだ名だな…………まあ、それでいいわ」
「じゃあ、あまあまね」
今日の彼女は前回に比べて機嫌が良い。何故ならば雪兎が大赦との交渉で特別に部屋に置く事を許された"サンチョ"という猫のぬいぐるみのおかげだ。残念ながら触ったりするのは難しいので園子の膝の上にチョコンと置かれているだけではあったが、彼女の機嫌を見れば買ってきたのは正解だったようだ。
「で、あまあまはどうするの?」
「どうするとは?」
「………バーテックスだよ」
「ああ、それか」
大赦が事前に知らせていたのは黄道十二星座の名を持つ十二体。しかし、神樹が張った壁の向こう側にはまだ無数のバーテックスが犇めいているのを二人は知っていた。
「来るっていうんなら潰す………あいつらがお前みたいになるのはどうにかしてみるさ」
「わっしー達をお願いね?あまあま」
「ああ………」
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それから数日後、雪兎を含む勇者部一同は十二体のバーテックスを撃破した報酬として大赦の合宿施設を訪れていた。
「…………海なんて久しぶりだなぁ」
そして、現実逃避するように雪兎はビーチに刺したパラソルの下で海を眺めていた。
当初は雪兎は参加するつもりはなかったのだが、友奈を筆頭に勇者部のお節介焼き共に半ば拉致の如く連れてこられていた。
何故、雪兎が現実逃避しているかというと、勇者部の面々は総じて美少女率が高い。そんな面々と海水浴等行けば男女比1:5のハーレム状態。その嫉妬の目を向けられる覚悟で雪兎は今ビーチにいるのだ。
「おっ待たせ~」
「おっせえぞ……………」
そこに女子達が着替えを終えてやって来たのだが………その姿を見て雪兎は硬直してしまう。
「どうよ、この風様の水着姿は!」
「………」
「天野?」
「………………すまん、少しフリーズした」
日頃から女子力がどうのこうの言っている風だが、その容姿は紛れもなく美少女と言ってよく、普段は見れない私物の水着姿となればその破壊力は言わずもがな。更にそこに友奈達四人も加わっているのだから雪兎が顔を赤面させ硬直するのも無理は無い。
「へぇ~、あんたもそういう顔するんだ」
「うっさい!」
「あ、天野先輩照れてる~」
「おし、結城、ちょっとこっちこい」
「ちょっ!?痛いですよ先輩!?」
そんな雪兎をからかった友奈は雪兎に頭を掴まれて海の方へと連行されていく。
「友奈ちゃ~ん、準備運動はしっかりするのよ~」
「わかった~」
「引き摺られながら準備運動って、器用なやつね、友奈は………」
その後は時々樹と荷物番を交代しながら雪兎も海を満喫した。
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風side
天野と樹が一緒に出掛けたあの日以降、私はちょくちょく天野を意識するようになった。
例の入院患者の娘とは度々会っているらしく、「いつか紹介できればいいな」とあいつは言っていたが、その言葉に胸が少しだけチクッとした。「もし私も同じ状況になればあいつは会いに来てくれるだろうか?」そんなまるで恋する乙女のような恥ずかしい想像をしていまい、まともにあいつの顔を見れない日もあった………つまり、非常に不本意ではあるが、私はあいつにホの字らしい。挙げ句、東郷にはーー
『私と樹ちゃんは気付いていますよ?だって風先輩、最近ずっと天野先輩の事見てますし』
等と言われてしまう始末だ。幸い、友奈や夏凜には気付かれていないみたいだが………
「………でも、さっきの反応からして脈無しではないわね」
あの傍若無人の魔王様も年頃の男子と反応はあまり変わらないらしい。
見れば丁度あいつは樹と交代して荷物番に着いたところだった。そこで私は荷物番をしているあいつの隣に座った。
「楽しんでる?」
「それなりにな………まさか強制連行されるとは思わなかったが」
「勇者部の合宿なんだから部員は全員強制参加よ」
私がそう言うとあいつは観念したようにこう告げた。
「まあ、来て良かったとは思ってるよ………ありがとな、犬吠埼」
「そ、そう………」
素直にお礼を言われ顔が熱くなる。
「も、もう一泳ぎしてくるわ」
そして、私は逃げるように海へと飛び込んだ。
side out
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旅館に戻ると、部屋には豪勢な料理が並べられており、勇者部の面々は何かの間違いでは?と疑いはしたものの、結局は食べる事になった。
「確か、神棚のお供え物って時間が経てば食べてもいいのよね?」
「やめい、俺の分けてやるからそんな恥ずかしい真似すんな」
「えっ?いいの?」
「ほれ」
「あ、ありがと」
そんなこんなあって賑やかに食事を終えると、1日の疲れを癒すべく温泉へと向かった。
「ふ~、極楽極楽」
どうやら他の客はいないようで、温泉は勇者部の貸し切り状態だった。
「………女湯の方は騒がしいな」
壁の向こう側からは女子達のキャッキャッとした声が響いている。
「早めに出るか」
男子には耳に毒なその会話から逃げるように雪兎は温泉を後にした。
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風side
温泉から出ると、流石に同じ部屋では寝れないと、あいつは部屋の戸を仕切りにして一人仕切りの向こうに行った。
「さて、合宿の夜と言えばこれよね」
恋ばなをしようとしたのだが、夏凜はどうもそういう話には疎いようで、友奈、東郷に至っては百合の花が咲く始末、一応樹にも聞いてみると、彼氏ではなく、兄にしたい人物はいるとの事……このお姉ちゃんを差し置いて兄とはどこのどいつだ!
「そういう風先輩はどうなんですか?」
そして、東郷からとうとう私へと話が回ってきてしまった。
「えっと、その…………」
「これは意外な反応……」
「だ、誰なんですか!?」
「い、言わないと、駄目?」
「だって風先輩から始めたお話でしょう?」
「お姉ちゃん、観念しよ?」
「樹が裏切った!?」
「あれ?という事は東郷と樹は知ってるの?」
「ええ」
「あくまで予想ですけど」
「ズルいよ東郷さん!私にも教えて!」
そんな風に騒いでいると………仕切りの戸が勢いよく開き、明らかに不機嫌そうな魔王様がこちらを睨んでいた。
「お前ら、今何時だと思ってやがる」
「「「「「す、すみません」」」」」
「さっさと寝ろ」
それだけ言うとピシャンと戸を閉められた。
「こ、怖かった………」
「ええ、下手な怪談よりも恐ろしかったわ」
「次はなさそうだし、早く寝ましょうか」
こうして合宿の夜は過ぎ去っていくのであった。
side out
サンチョの声、何故あの人を起用したのやら……
一応、次でゆゆゆ本編はおしまいです。
次回も魔王が色々とやらかします。