2月某日。
勇者部の部室には魔王・天野雪兎を除く六人の勇者が集結していた。
「今日集まってもらったのは他でもない来る2月14日の"例の日"に関してよ」
「14日?にぼしの日ね」
「バレンタインよ!」
「流石はにぼっしー」
「私、横文字は苦手で」※公式
「東郷さん、私はぼた餅の方がいいなぁ」
「と・に・か・く!バレンタインに日頃の感謝と
そう意気込む風だったのだが……
「本当にそれだけ?お姉ちゃん」
「い、樹?」
「そろそろ素直になったら?フーミン先輩」
「もう私や友奈、それに新参者の園子まで知ってるのよ?今更隠す必要あるのかしら?」
「ぐは」
樹、園子、夏凜からの三連打で崩れ落ちる。
「普通にあげればいいんじゃないの?」
「………甘いわね、友奈……あいつはね、ああ見えて結構モテるのよ」
「そう言えば去年は貰った全員に相応のお返しをしてたって聞きましたね」
「なるほど、だから今年はインパクトのある渡し方をしてみようと」
「つまり!『ドキドキ!フーミン先輩のバレンタイン大作戦!』って訳だね!」
こうして、今年も聖戦の幕が上がるのであった。
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2月14日 バレンタイン当日
「今年もこの日が来たかぁ……」
「何を黄昏ているのだMy同志天野よ」
「雨宮か……いや、チョコがな」
登校する雪兎の隣に現れたのは新聞部の奇才・
「なるほど、今年も貰った大量のチョコの処理か」
「処理とか言うなよ……まあ、しばらくはチョコを見たくなくなるけどな」
風達も言っていたが、この魔王様はそこそこモテる。割りと何でもやれるし、容姿も並み以上。ファンクラブもいるとかいないとか……
「それに律儀にお返しをする同志も同志だろうに……だが、今年はそうもいかんのだろう?」
「どういう意味だ、雨宮」
「俺は知っているのだぞ?お前が今年は犬吠埼姉からチョコを貰えるかとそわそわしていると!」
「なっ!?」
この雨宮という男。奇才というのは雪兎以上の情報収集能力を持ち、様々な方面に伝を持つ事からで。あだ名は『魔王軍参謀』つまりは雪兎の同類扱いである。
「流石のお前も本命から貰っては義理のお返しは出来まい」
「……」
「沈黙は是なり、だ」
「相変わらずイイ性格してやがるぜ、お前は」
「大赦相手にあれだけ立ち回ったお前程では無いさ」
「………そういやお前の家も一応大赦の関係者だったな」
そう、この雨宮の実家は大赦でそれなり地位にいる家らしく、満開のシステム等一部のやり方に反対していた勢力で、雪兎が色々と引っ掻き回したのを期に組織内の浄化作業をしていたのだと言う。
「我が家としては大赦の中の腐敗勢力の一掃が叶い万々歳だったがな!」
「うん、お前が友人で良かったよ」
「それで、結局はどうなのだ?」
「………まあ、期待してねぇと言ったら嘘になるな」
「ほう、今回はヤケに素直ではないか」
「少なくとも同じ部活なんだから例え義理でも貰えるとは思う」
「……端から見れば本命以外あり得んのだがな」
「何か言ったか?」
「いや、何でもない」
そうこうしているうちに二人は校門に辿り着く。
「そうだ、乃木先生には新作を期待していると伝えておいてくれ」
「お前もアレの読者かよ!?」
そこからはクラスが別のため別れたのだが………
「うわ、下駄話から既にこれかよ」
雪兎の下駄箱には既にいくつものチョコの包みがはみ出していた。
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風side
「下駄箱から既に凄まじいわね」
「初めて見たけど、本当に凄いわね」
面と向かって渡すのが無理であれば下駄箱に入れてみては?という夏凜の案だったのだが、去年のアレを知る私が却下した。机も同様だ。
「というか、天野先輩モテるんですね」
「まあ、あまあまだからねぇ」
「何でそのっちが威張るの?」
そう、遺憾ながらあいつは割りとモテる。あと、先程一緒にいた雨宮も変人の部類ではあるが何故かモテる。
「で、結局どうするのよ、風」
「あっ!」
「どうしたの?友奈」
「師匠がチョコ貰ってる」
「「「何!?」」」
友奈の言葉に慌てて見てみれば、あいつは後輩と思われる女子生徒からチョコを受け取っていた。
「あっ、あれ私の友達……」
「いっつんのクラスメイトさんかぁ……やるぅ」
(パキッ)
「ふ、風先輩!?は、柱に罅が!?」
その後も教室に辿り着くまでに学年問わず4個ものチョコを貰っていたあいつ。その度に「今度は壁が!?」「触ってないのに窓に罅が!?」「目からハイライト消えかけてる!?」と友奈達の声がしたのだが、何かあったのだろうか?
「おはよう風、って!?何その目!?ハイライト消えかけてるって!」
一度解散して教室に入ったらクラスメイトからそんな事を言われた…………そっか、さっきから友奈達が騒いでたのは私が原因か。
「まあ、原因はなんとなく想像つくけど、落ち着きなって風」
「私、こんな嫌な女だったかなぁ?」
「うわぁ、これは重症だわ」
そんなネガティブな気分のまま放課後を迎えてしまった。
side out
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その日の放課後。
「ちわーッス」
紙袋一杯になってしまったチョコを持って部室を覗きに来た雪兎。しかし、いつも賑やかなはずの部室は何故かシーンとしていた。
「あれ?誰もいないのか?犬吠埼はもう教室出たはず何だが………って、そんなとこでどうした?犬吠埼」
誰もいないのかとよく部室を見回すと、部屋の隅に体操座りで踞っていた風を発見した。
「………」
「結城達は?」
「………」
雪兎の質問に風は黒板を指差す。そこには『本日の予定!料理研究部のお手伝い』と書かれていた。
「なるほど、それで既にOBの犬吠埼は部室に残ってたわけか?」
(コクリ)
(これ、どうすりゃいいんだ?)
踞ったまま頷く風に雪兎もどうしていいか戸惑う。
「というか、本当に今日のお前はどうしたんだよ?」
「……………気に、しないで………少し、自己嫌悪してる、だけだから」
朝から様子が変だと思っていたが、これは思ったより重症そうだ。何せやっと返ってきた返事はこれである。
「………ん?これは?」
「そ、それは!?」
ふと机を見ると素人ながら丁寧にラッピングされた包みを発見する雪兎。すると、風は目で判るくらい動揺し始める。
「………チョコか?」
「だ、だったら何よ!悪い!私だって女子なのよ!」
「いや、そこまで言ってないんだが………ってか、これ渡さないのか?」
「……あんたのよ」
「え?」
「だから!あんたに渡すつもりだったって言ってんのよ!気付きなさいよ、バカ!だけど勘違いしないでよ!それは日頃の感謝とか、そういう意味で用意したのであって!そういう意味は全然無いんだからね!」
見事なツンデレ発言に雪兎も苦笑を禁じえない。そして、風が落ち込んでいた理由を察する。
「………もしかして、これ見て遠慮してた?」
そう言って雪兎はチョコの入った紙袋を掲げる。
「今年も大量じゃない………樹のクラスメイトにも貰ってたみたいだし」
「見てたのやっぱりお前らだったのか……」
以前のイネスの時と同様に見ていたのには気付いてたらしい。そして、
「これな、記念受験みたいなもんなんだとさ」
「………は?」
「いや、何か知らんが、『天野先輩に渡す事が出来れば本命に渡す時に緊張しなくなるって聞いて』という事らしい」
「………………………は?」
「あとは、これは雨宮に聞いた話なんだが、チョコの出来を確かめるって意味もあるんだとか。ほら、俺って貰ったチョコに応じてお返ししてたろ?あれで自分の作ったチョコのランク付けしてたらしい」
「なにそれ」
これには風も苦笑する他なかった。
(まあ、半分ぐらいはガチのもあんだけどな)
風がいつもの調子に戻ってきたので、それは雪兎の心の中にしまっておいた。
「という訳でこれはありがたく戴いておくよ」
そう言って雪兎は風のチョコを紙袋ではなく、自分の鞄へとしまおうとするが……
「………今食べて感想聞かせてよ」
「今か?」
「今」
「どうしても?」
「どうしても」
「…………」
「…………」
「わかったわかった!今食うよ」
そう言って雪兎はしまおうとしたチョコを丁寧に開封する。
「へぇ~、トリュフチョコか」
中に入っていたのは丸いトリュフチョコだった。
「どれどれ……はむ」
「………どうなのよ?」
「そう急かすなって………うん、バレンタインで貰ったチョコでは一番かな」
少し照れながらも雪兎は素直にそう言った。
「そ、そう……」
「残りは帰ってからでもいいか?」
「まあ、感想は聞かせてもらったし、いいわよ」
残りのチョコを鞄にしまったところで部室の扉が開き、友奈達が戻ってきた。
「結城友奈!ただいま戻りました!って、あれ?師匠もいたんですね」
「だから師匠はやめろと何度も言ってるだろうが……で、何の手伝いだったんだ?」
「運動部の恵まれない男子に配る義理チョコの量産の手伝いよ」
「…………毎年恒例のアレか」
「あっ!これついでに作った師匠の分です!」
「ついでかよ!?」
「私のはぼた餅です」
「何故にぼた餅……いや、どうせ結城の要望だろ?」
「正解よ」
雪兎が友奈達とそんな話をしていると、樹が風の隣に立つ。
「お姉ちゃん、ちゃんと渡せた?」
「樹、あんたクラスメイトの娘の事、知ってたわね?」
「あっ、バレた?」
「最近樹が策士になってる気がする」
そんなこんなで結局騒がしくなる勇者部なのであった。
糖分補給は出来たでしょうか?
雪兎の悪友・雨宮は某ゲームの◯並が元ネタです。
後編も明日か明後日には投稿する予定です。