ちょっとした短編集   作:ミストラル0

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予定より少し遅くなりました。後編です。


結城友奈は勇者である 後編

合宿を終えた翌日、大赦よりまだバーテックスが一体残っていた事を知らされた勇者部一同。『あと一体なら』と余裕の勇者達に対し魔王こと雪兎の表情は何故か暗かった。

 

「どうしたのよ?何か心配事?」

 

「まあな」

 

そんな心配を他所にその生き残りのバーテックスは二学期が始まるまで現れなかった。そして、その現れたバーテックスもスピードだけが取り柄のジェミニ一体だったため、樹にあっさりと討伐され勇者達は拍子抜けといった感じであった。

 

「これで本当に終わりなのね」

 

「そうよ、これでおしまい」

 

「………だといいんだがな」

 

その後、いつも通り屋上に戻った一同は文化祭の出し物について話始める。

 

「演劇をやるからには勇者部っぽいのがいいわよね」

 

「となると、やはり勇者が魔王を討伐するお話ですか?」

 

「そうね、丁度魔王様にぴったりなのがいるしね」

 

「はいはい!私、勇者の役がやりたいです!」

 

こうして話し合いは進んでいったのだが、その間、雪兎は一言も喋る事はなかった。

 

**********************

 

それからしばらく平穏な日々が続いた。もうバーテックスは現れない。そう思っていた勇者達だったが、その平穏はある日再び崩れ去る。

 

「樹海化警報!?」

 

「何で!?もうバーテックスは全部倒したはずじゃ………」

 

そう、バーテックスの襲来を報せる樹海化警報が勇者達の端末に鳴り響いたのだ。

 

「やはりこうなったか」

 

「天野、あんたこうなるって知ってたの!?」

 

「それについては後で説明してやる。今はバーテックスをやるのが先決だ」

 

「わかった。ちゃんと説明しなさいよ!」

 

そうして樹海へと赴くと、そこには見たことのあるバーテックス達がいた。

 

「嘘……あれって全部私達が倒したはずのバーテックスじゃ…………」

 

「乙女、蠍、射手、蟹、牡牛、山羊、天秤、魚、牡羊……また随分と大盤振る舞いな事で」

 

九体ものバーテックス、しかもその全てが一度倒したはずのバーテックスであるせいか勇者達のショックは大きい。

 

「ほら呆けてる暇があったらさっさと片付けるぞ」

 

「え、ええ!行くわよ、皆」

 

とはいえ、一度倒したバーテックスであれば今の勇者部の面々の敵ではなく、少し時間は掛かったものの無事に九体のバーテックスを討伐する事に成功し、屋上へと帰還する。

 

「さあ、説明してもらうわよ?」

 

「少し長くなるぞ?」

 

そう前置きして雪兎は勇者達にバーテックスについて、天の神の存在、そして、満開の真実を語った。

 

「何よ、それ………」

 

「じゃあ、私達は勇者の資格を失うまでずっとバーテックスと戦わないといけないの?」

 

「そうなるな」

 

「だとしたら、魔王が満開を凍結していなかったら………」

 

「身体機能や記憶を失い続けていた…………」

 

雪兎から語られた真実に表情が強張る勇者達。そんな中、とある事に気付いた勇者がいた。

 

「天野先輩、私の足や二年間の記憶ももしかして満開の後遺症ですか?」

 

「流石は東郷だな。自力でその結論に至ったか」

 

「ちょっ!?てことは東郷は勇者だった経験が!?」

 

「そういう事だ」

 

バーテックスがまだ無数にいる事もそうだが、それ以上に勇者達を恐怖させたのは満開の後遺症だった。

何せ東郷美森という証拠があるのだ。それを使えばどうなるか等考えるだけでも恐ろしい。

 

「じゃあ、先輩がお見舞いに行ってる女の子も………」

 

「ああ、彼女は20回満開を繰り返して普通の生活すら不可能になった娘だ」

 

その言葉に勇者達は絶句する。20回、それが想像を遥かに越えた回数だったからだ。

 

「大赦はそれを知ってて黙っていたってわけ?」

 

「満開を超えるシステムが大赦には作れなかったから使わせざる得なかったんだろうな」

 

「だから天野先輩はアプリを改良して満開を使わずに済むようにしたと?」

 

「そうだ」

 

「でも、バーテックスの侵攻が続くなら意味無いじゃない!」

 

自分達の行いが時間稼ぎでしかなかったと知り、雪兎の胸ぐらを掴む風。

 

「ふ、風先輩、天野先輩に当たってもーー」

 

「構わん、東郷」

 

「知ってたなら……助けてよ。私達を助けてみなさいよ!魔王!」

 

そこから風の溜め込んでいた感情が爆発した。部長として、そして、何よりも勇者部として皆を巻き込んでしまった自身だからこそ溜め込んでいた全てを雪兎にぶつけてしまう。だが、雪兎はそれを全て黙って受け止めていた。

 

「……気は済んだか?」

 

「………………ごめん」

 

「まあ、突然あんな話されたらこうなるわな」

 

「それでもごめん」

 

「らしくねぇぞ、風。いつもの元気はどうした?」

 

「えっ?今なんて………」

 

「さてと、俺は帰るわ」

 

「ちょっと待ちなさいよ~!」

 

その後、ぐだぐだとなってしまい、その場は解散となった。

 

**********************

 

風side

 

あの日から数日、あいつは学校に来なかった。SNSにも返信はなく、心配になって家を訪ねてみるが、家に帰っている様子も見られない。

 

「どこで何やってんのよ、あいつ………」

 

すると、突然、東郷から連絡が来た。

 

『天野先輩が、神樹様の壁の外側でバーテックスと戦っています』

 

最初は目を疑ったが、合流した東郷から話を聞くに、東郷が壁の向こう側の真実を確かめに行ったら天野が無限に等しい数のバーテックス相手に戦っていたのだという。そこで私は思い出す。

 

『知ってたなら、助けてよ!私達を助けてみなさいよ!魔王!』

 

あの時の私の言葉だ………あいつはその言葉を聞いてバーテックスを、天の神を倒そうとしたのだろう………私達の為に。

 

「いくら魔王でも、一人でなんて無謀過ぎるわ」

 

「そうだよ!助けにいかなきゃ!」

 

「お姉ちゃん……」

 

「そうね………魔王にばっかり良い格好させてたら勇者の名が廃るわ!」

 

待ってなさいよ、魔王!あんたには言いたい事が山程あるんだから!

 

side out

 

**********************

 

「ほんと、キリねぇな、これは」

 

その頃、雪兎は壁の向こう側でバーテックス達と交戦していた。十二星座級はまだ再生が追い付いていないのか姿は見えないが、星屑と呼ばれる小型のバーテックスが無数に存在し、雪兎の行方を遮っていた。

 

「だけどな、この程度の雑魚、いくら来ようと無意味なんだよ!」

 

しかし、星屑ごときでは雪兎を阻む事は出来ず、徐々にバーテックスの数は減っていく。だが、雪兎も連日連夜戦い続けていたせいか、疲労が隠せなくなり始めていた。

 

「くっ、せめて、親玉の居場所くらい特定しときたかったんだがなぁ………って、ここでそうくるかよ」

 

雪兎が一時撤退を考えていると、それをチャンスと捉えた天の神が十二星座級を投入してきたのだ。

 

「あー、これはちょっと不味いかねぇ」

 

これには流石の雪兎も少し弱気になっていた。その時だった。突然、バーテックスが攻撃を受けて仰け反ったのだ。

 

「何魔王様が弱気になってんのよ」

 

「らしくないわね、魔王!」

 

「犬吠埼に三好!?何でここに!?」

 

「風先輩だけじゃないですよ!」

 

「水臭いじゃないですか、天野先輩」

 

「私達だって勇者なんです!」

 

「結城、東郷、樹ちゃんまで………」

 

やってきたのは勇者部の面々だった。

 

「こんなところまで来るなんて物好きなやつらめ………」

 

「そういうあんたこそ一人で何やってんのよ」

 

「魔王なんだから自分以上の悪がいるなら叩き潰すのはおかしくないだろ?」

 

「このひねくれ者め」

 

そうこうしている間に友奈達がバーテックス達を押し返していく。

 

「このまま一気に!」

 

「ちょっと待って!何かが来る!」

 

「やっとお出ましか、天の神!」

 

そこに現れたのは謎の神々しさを放つ光の玉。その姿に雪兎は勿論、勇者達もそれが天の神であると確信する。そして天の神は十二体のバーテックスを取り込みゴッド・スタークラスターへと変貌する。

 

「うげ、全部盛り!?」

 

十二体全てのバーテックスの力を集約したその姿は醜悪と言っても過言ではなく、その力も天の神が融合した事で大幅に増強されていると推測される。試しに攻撃を加えてみるが、周りの星屑を取り込んですぐさま再生してしまう。

 

「面倒な再生能力だな」

 

「再生方法も気持ち悪い……」

 

「まあ、やりようはあるがな」

 

星屑を再生に利用するなら近付く星屑を片っ端から叩き潰す、もしくは再生しきる前に他の部位を破壊する等の方法で攻撃を続ける。

 

「ここまできたら出し惜しみは無しだ!全部持ってきやがれ!」

 

雪兎の容赦の無い砲撃がスタークラスターの身体を削っていく。

 

「結城!トドメはお前がいけ!」

 

「えっ!?私!?」

 

「憑依武装の裏技だ。全員の精霊を集めてぶん殴ってこい」

 

「なるほど!」

 

「そんな機能があったのね」

 

「友奈ちゃん、私の力を使って!」

 

「決めてきなさい!結城友奈!」

 

「友奈先輩、お願いします!」

 

「友奈!任せた!」

 

青坊主、義輝、木霊、犬神が友奈の籠手に宿っていく。

 

「おまけだ!こいつも連れてけ!」

 

そう言って雪兎も自身が作った人造精霊である兎型の精霊・十六夜を呼び出し友奈に託す。

 

「えっ?天野先輩の精霊!?」

 

「意外に可愛らしい!?」

 

「……………そう言われると思って今まで出さなかったんだよ」

 

「でも、何か納得」

 

「いいからさっさと行ってこい!」

 

「はい!」

 

いつものように他の面々で封印の儀を執り行い、御霊とそれに融合した普通御霊とは違う鏡のような形の天の神が露出。それに向かって友奈が突撃する。

 

「いくよ………6連、アルティメット勇者パーンチ!!」

 

そして、一撃毎に青坊主、義輝、木霊、犬神、十六夜、牛鬼のシルエットを宿した拳を叩きつけ御霊を砕いた。すると、スタークラスターだけでなく周りにいた星屑達も砂へと変わっていく。

 

「終わった、の?」

 

「ああ、これで終わったんだ………」

 

すると、張り詰めていた緊張がなくなったせいか、疲労の限界に達していた雪兎が気を失ってしまう。そのせいで飛ぶ事を維持出来なく雪兎はゆっくりと落ちていく。

 

「ちょっ!?天野!?」

 

それを慌てて受け止める風。

 

「天野先輩、こんなになるまで一人で無茶してたんですね」

 

「でも、らしいって言えばらしいわね」

 

「兎に角、今は早く戻って先輩を休ませてあげましょう?」

 

「そうね、まったく、世話の焼ける魔王様なんだから」

 

そう呟く風の表情は勇者部一同にはいつになく柔らかな印象を受けた。

 

**********************

 

それから月日は流れ3月14日。讃州中学は卒業式を迎えた。

 

「もう卒業式か……あっという間だったな」

 

「ほんとね………天の神との戦いがもう半年も前になるのか」

 

そして、三年生である雪兎と風は式を終えて最後のホームルームの為に教室へ向かっていた。

 

「結城も樹ちゃんもおもいっきり泣いてたな」

 

「そうね、まさか夏凜まで泣くとは思わなかったわ」

 

そんな卒業式の感想を口にしながら二人は教室へと辿り着く。そこからは担任からの挨拶があったくらいであったが、最後の最後になって行動を起こした人物がいた。

 

「最後にちょっといいか?」

 

「おっ、どうかしたのか?魔王様」

 

そう、魔王様こと雪兎だ。

 

「ちょっとこの場を借りて言いたい事があってな」

 

「というと?」

 

「………犬吠埼風さん」

 

「えっ?」

 

いつにも増して真面目な表情で名前を呼ばれ驚く風。

 

「俺と付き合ってくれないか?」

 

「「「「きゃー!!」」」」

「「「「おぉー!!」」」」

 

「な、ななななな!?」

 

まさかの公開告白に教室のテンションは爆上がり。一方の風は完全に予想外の展開に固まってしまっていた。

 

「で、返事をもらいたいのだが」

 

「今ここで!?」

 

「今日は卒業式でホワイトデーだぜ?これ以上のタイミングはねぇだろ?」

 

「……………あの時のチョコはそうゆうんじゃないって、言ったじゃない」

 

「で、返事を貰いたいんだが?」

 

「……………し、仕方がないわね、付き合ってあげるわよ」

 

「「「「おぉー!!」」」」

 

「魔王様がとうとう勇者を落としたぞ!」

 

「これはビッグニュースね!新聞部にタレコミしなくちゃ!」

 

この告白劇に教室は卒業というしんみりした空気を吹き飛ばしてしまう。

 

「つ、付き合う事になったんだから、ちゃんと名前で呼びなさいよ?」

 

「わかったよ、風」

 

「ぐは!?」

 

「だだ甘オーラに当てられた!?」

 

「衛生兵!衛生兵はどこだ!?」

 

そんなこんなで最後のホームルームは魔王様の告白劇に見事乗っ取られるのであった。

 

**********************

 

「という訳で、付き合う事になった」

 

「おめでとうございます、天野先輩」

 

その後、勇者部の部室にて他の面々にもその報告をする雪兎と風。

 

「良かったね、お姉ちゃん」

 

「やっとというかなんというか」

 

「おめでとうございます!風先輩、天野先輩」

 

「あまあまとフーミン先輩………これはビュオオオオオウだよぉ」

 

美森に続き、樹、夏凜、友奈、そして天の神がいなくなったことで満開の後遺症から回復し勇者部の一員となっていた園子からも祝福(?)の言葉が告げられた。

 

「園子、頼むからネタにすんなよ?」

 

「それはいくらあまあまのお願いでも聞けないかなぁ」

 

「東郷」

 

「はっ、全力で阻止します」

 

「わ、わっしー!?」

 

そんな風に最後の部活も終始賑やかだった。

 

**********************

 

友奈達が帰り、樹も気を効かせて先に帰った部室にて、雪兎と風の二人は中学最後の時間を過ごしていた。

 

「そういえば、雪兎。あんたいつから私の事好きだったのよ?」

 

「何だよ、いきなり」

 

「なんとなく気になったのよ」

 

「わーったよ……………でも、最初は風の事を、いや、同い年の皆を俺は特別意識してなかったんだわ。自分じゃない第三者視点から俯瞰して見てたようなもんだ」

 

「えっ?」

 

意外な言葉だった。でも言われてみれば風にも思い当たる節がいつも思い返された。

 

「前に天の神を倒した後に俺が転生者だ、って言ったよな?」

 

「うん」

 

実は雪兎はあの戦いの後に自身が転生者であった事等を勇者部の皆に明かした。友奈達も最初は驚いていたが、そう言われれば色々と納得出来るとあっさり受け入れられた。

 

「その記憶には色々助けられたんだが、その弊害として人が本物の人として認識出来なくてな」

 

自分一人が物語の中にいるような違和感で、雪兎はそう思うようになってしまっていた。

だが、雪兎の言葉を続ける。

 

「それを変えてくれたのが風だったんだ」

 

「わ、私が?」

 

「随分前にチア部の助っ人した事あったろ?」

 

「うん、あるわね」

 

それは風自身が度々勇者部の皆に語っていた出来事だ。

 

「あの時な、風が一際輝いているように見えた…………そしたら俯瞰して見るなんて勿体無いように見えてな。それが始まりだった。もっともっとこの世界をちゃんと見てみたくなった」

 

「……」

 

「風はな、俺に色彩をくれたんだよ………今まで白黒でしか見えなかったものが色鮮やかに見えた…………で、気付いたら好きになってた……………………何言ってんだろうな、俺」

 

「そっか、私は人知れず魔王を既に討伐してたのね」

 

「そのせいで、その勇者に首ったけだよ」

 

そう笑い合う二人。

 

「ところで、そう言う風はどうなんだ?」

 

「う~ん………乙女のヒ・ミ・ツよ」

 

「うわ、ずる!?」

 

「聞きたかったらもっと私を惚れ込ませてみせる事ね」

 

「………樹ちゃんに聞こうかね」

 

「それは卑怯よ!」

 

これは一風変わった勇者と魔王の物語。

 

 

 

天野雪兎は魔王である 終




とりあえずゆゆゆシナリオはおしまいです。
ゆゆゆいはやるかやらないか未定ですが、感想とか次第ですかね?

次はどんなifになるかはお楽しみに!
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