皇軍魔導士七尾理奈   作:.柳

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蒼島の戦い③

「あぁ、爽やかな朝だ。飛んでいて気持ちが良い」

朝からの出撃はしばらくぶりであり、私は気分が高揚していた。それを落ち着かせるかのように朝特有の涼しい風が私の頬を撫で、精神を日本刀のように研ぎ澄まさせる。息を吐くと白い息が飛び出して後方へと飛んでいく。やっとだ。やっと蒼島の戦いの終止符を付けることができるのだ。やっと一段落できるのだと考えながら南條を見るといつも通りの難解そうな表情をしていた。多分彼なりの考えがあるのだろう。二人の候補生はというと一度戦闘を経験したからなのか前回程は緊張していなく大分落ち着いている様子である。 かなりの時間飛んでいるが周辺は至って平和で地上を歩いているのは友軍の歩兵のみであり、それ以外といえば投降してくる本隊からはぐれた帝国軍の兵士ぐらいだ。これでは遊覧飛行と変わらない。七尾はそう考えながらも頭のどこかでこの状態が続いて、違う部隊が本拠地を見つけて自分達は後片付けをするだけなら良いのにと思っていたが遊覧飛行もそう長くは続かなかった。

遠くを見つめてみると鳥のような何かが飛んでいるのに七尾は気付き、悪い予感がしながら双眼鏡で覗くと予想的中。鳥のような何かは敵魔導士だった。幸運な事に彼はこちらに気付いてなく、本拠地に帰る途中のようであった。

「追跡してくる」

七尾はゴーグルを装着すると敵魔導士のストーキングを開始した。

「小隊長殿、副小隊長殿ひとりで大丈夫なんですか?」

伍長が不思議そうにそう聞くと南條は呆きれ顔で「七尾は人数が少ない方が気楽で良いらしい」と答えると伍長僅かながら不満そうな表情を浮かべている。

「副小隊長殿は出世する気が無いのでしょうか」

「だろうな。この小隊も本来は優れた魔導適正を持っているあいつが小隊長になる予定だったのに柄じゃないと言って辞退したんだ」

「不思議な人ですね」

「それは俺が一番分かっている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七尾が小隊から離れて数十分後先程の帝国魔導士を捕捉し、気付かれないように気を付けつつ追跡を続けていた。敵も警戒しているのかしきりに周りをキョロキョロと見渡し、怖がっているようであり、敵の本拠地が近くにあるのではないかと七尾を期待させる。双眼鏡で再び敵を良く見てみると負傷しているらしく帝国軍の人員の少なさを示しており、この戦いの終わりを告げているようだ。

捕虜にしたらすぐに手当てをさせなければと考えていると敵は休憩をする為なのか廃墟と化した市街地へと消えていった。

「本拠地はこの辺りなのか?」

七尾は背負っている通信機を使い、南條に報告をする。

「こちら七尾。敵魔導士は市街地に消えた。繰り返す、敵魔導士は市街地に消えた。これより私も着陸し追跡を再開する」

「こちら南條。了解した。無理はするな」

「了解」

なるべく音を立てないように地面へ足を着け、ゴーグルを外す。この市街地が僅か二月前までここが人々で賑わっていたとは到底信じられない。七尾は銃を構えながらそう思っている。もし、敵がこちらに気付き攻撃しようとしたら間違いなく撃たなければいけない。私だって手負いの敵を殺すのは御免だ。出来ることならば天寿を全うさせたい。

「今日は殺したくないんだ」

適当な建物に入るとカランという缶の落ちる音が聞こえ、ゆっくりと二階の扉を開けると1人の魔導士が包帯を巻いていた。彼女は私に気付くと咄嗟に拳銃を向けた。不味い、殺さなければいけなくなる。

「待て!殺す気は無い!」

私は慌ててライヒの言葉でそう叫ぶ。だが、敵の言葉をそう易々と信じる訳は無く、まだ拳銃を向けている。

「え?子供?」

彼女は案の定の反応をしてきたので私はそれをあまり気にせず、無作法に彼女の隣に座る。

「ライヒにだっているでしょ?私くらいの年の魔導士」

「そうだけど。それでも信じられない」

「信じるしか無いよ。目に見えるものはある程度真実だからね」

彼女はかなり落ち着いたらしく、威嚇する獣のような表情から穏やかな表情へと変わっていったがそれでも拳銃を離さない。まだこちらを恐れている訳だ。まぁ普通だ。むしろ敵同士が座って話しているこの光景の方がよっぽどおかしい。彼女を見ると血が滲み、健康な状態とはいえない。だから敵が隣に座っていても落ち着いているのだろうか。それとも諦めているのか。どちらが正しいのかは私には分からない。

軍隊で最も尋問や拷問を受けやすいのは誰だか分かるだろうか。勿論、受けやすいのは多くの情報を持っている者つまり士官が受けやすい。だから第二次世界大戦末期の日本軍は階級章を外し、階級が分からないようにしていた。そしてそれと同じ事が今ここでも起きている。そう、彼女の戦闘服には階級章が付いていないのだ。つまり、この戦いも終わりが近いという事だ。

そしてこの時私はあることに気付いた。彼女は諦めているのではなく、落ち着いているだけだったのだ。まるで負けるのが分かっていたかのように。

「あなた、なんて名前?」

「私は七尾。あなたは?」

「ガーデルマン」

ガーデルマンは自身の名前を言うと両腕を出した。縛れという事らしい。私も素直な人間だ。ガーデルマンの両腕を縛り、通信機で南條に報告をした。

「こちら七尾。敵魔導士をひとり拘束した。そっちに合流する」

「こちら南條。了解した。何か情報を持っていると良いんだが」

ここで通信が切れる。するとガーデルマンは私に微笑みこう言った。

「本拠地の場所なら教えるわ」




今更のキャラクター紹介

七尾理奈(ななおりな)
本家同様にこちらの世界に転生してきた。こちらの世界では捨て子であったがある寺の住職に拾われ養子となる。二歳の時に前世の記憶を取り戻し、枢軸勝利という歴史に変える為軍を志す。
非常に優秀な魔導適正を持っており、若冠6歳にして士官学校の入学を許された。
所属
第22魔導大隊(第18師団)

南條英敏(なんじょうひでとし)
軍人一家に生まれた秀才。幼い頃から英才教育を受けており、士官学校を首席で卒業。魔導適正があった為、魔導士官となる。丸眼鏡。所属は七尾と同じ

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