皇軍魔導士七尾理奈   作:.柳

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蒼島の戦い④

「それでその魔導士が情報を持っているという事か?」

市街地に到着した南條がガーデルマンを監視するように見ながら七尾に聞くと七尾は「そうらしい」と答え、帝国軍の拳銃を観察していた。尺取り虫のような部品を上部に装着しているこの拳銃は七尾も1周目に博物館で見たことがあり、少し感動もしている。これを戦利品にしようか。七尾の頭に一瞬そういった考えが浮かんだが賊と同じ事をするのかと自らを叱り、帝国軍の拳銃を南條に預ける事にした。彼が一番信頼できるし盗む事も無いだろうと考えたからだ。

「変な形の拳銃だな。それより、本拠地を教えると彼女は言っていたが七尾に話したのか?」

南條も拳銃を見ると私と同じ感想を言った後すぐに本題に戻った。やっぱり南條は真面目だな。

「いや、まだ。小隊長が来るまでは話さないと言っていたから。ほら、ガーデルマン。小隊長が来たぞ話してくれ」

七尾がガーデルマンに話すように勧めると昔話をするかのように始めた。

「そうね。まずはこちらの魔導士の数について話しましょうか。残りの数は私を含めてたったの2人、制空権はそちらに支配されたわ。歩兵は三千人、壊滅状態よ。それからこれを渡しておくわ」

そう言うとガーデルマンは南條に本拠地が標された地図を渡した。良かったな南條、勲章ものだぞ。私がそう思いながらニマニマしていると南條が「七尾、勲章ものだなとでも思っているだろ」と言ってきた。彼はエスパーなのだろうか。

「情報が手に入ったのは有難い。だが貴様は俺たちに味方を売るような真似をしたんだ?」

「売るなんてとんでもない。味方を守る為にやっているのよ」

ガーデルマンは飄々としていた。特に嘘を付いている様子も無いなと七尾は考えていたが、南條はガーデルマンを疑っている。冷静に考えればガーデルマンはかなり怪しい。もしかしたら彼女は我々を罠にはめるかもしれない。だが、それにしては妙に誠実さが感じられるのだ。確証は一切無いが七尾はそう感じたのだ。

「俺がこの情報を信用できる証拠は?」

「あら、嘘を付いている人間がこんなにも落ち着いているとでも思うの?」

ガーデルマンが南條に子供をたしなめるようにそう言うと南條の眉間にシワが入り、更に難解そうな表情にした。

「だがそれでは証拠には、」

「南條、彼女を信じてみれば?責任は私が取るからさ」

「ウーム。しかしなぁ」

「なるほど、南條は私を信頼出来ないと。士官学校で周りに友人と呼べる人物がいなかったお前の数少ない友人である私を信頼出来ないと」

私がふざけるようにそう言うと南條は違うとすぐに否定した。そもそも南條は真面目すぎる。

だから士官学校でかなりおしゃべりな私くらいしか友人が出来ないのだ。あの頃はなかなか面白かった。何せ1度南條は小児性愛者なのではないかという噂が士官学校に流れ、南條は教官室に引き摺られていくわ、私は女子の士官候補生に同情されるわでなかなかの騒ぎだった。まぁ、仕方が無かったのかもしれない。南條も南條で私が近くにいても嫌な顔をしなかったのだから。ただ、私にとってはクソ真面目な友人としか見えないが他の奴らから見ると南條は南條英敏とは見られておらず陸軍中将である彼の父親、南條英勝《ひでかつ》の息子としか見ていないらしい。それでは周りがあまりにも不憫だ。南條は非常に正義感の強い私目線では善人なのにそれを気付く奴がなかなかいないのだから。

「七尾、負けたよ。そいつの情報を信じるよ」

「それは良かった」

「あの、小隊長殿」

ひとりの候補生が話の腰を折ってしまい申し訳ないとでも言いたげに南條に何かを質問したがっている。

「ん?どうしたんだ」

「司令部より通信です。日が暮れたので戻れと」

「了解した。土産を手に入れた事だしな」

我らが魔導小隊は重要な情報を土産に司令部へ意気揚々とガーデルマンを連れて飛んでいった。

そして運命の翌日、皇国軍の士気は非常に高まっておりどんな事が起きても勝てるような頼もしさをその心に備え、燃えるかのように陸軍旗や師団旗、連隊旗を振るい本拠地へと行軍を開始した。無論我々魔導部隊も最前線で戦う事になる。この戦いに勝てば帝国軍の植民地であるこの蒼島が手に入り、皇国は列強に並ぶ強力な国力になる。そうすればこの国の軍が解体されないかもしれない。それならば更に身体に力が入る。高揚する戦意がこの小さな身体から溢れだしそうだ。そう考えながら武者震いしていると南條が私に「怖いのか?」と変な事を聞いてきたのですぐに私が「ひとりで敵の魔導中隊に突撃する奴が怖がると思うか?」と答えると南條は「そうだった」と笑った。 そうこうしている内に敵の本拠地が見えてきた。やっぱりガーデルマンは嘘を付いていなかったのだ。帝国軍は疲弊しているものの、対空砲や機関銃を備えた塹壕を構えて我々を討とうとしているので決して油断は出来ない。そこから両軍のにらみ合いが始まり数十分経ってその沈黙を破ったのは皇国軍だった。銃声が辺りから鳴り初め、それを皮切りに蒼島の戦いの終止符を打つ為の戦いが始まった。

「さて、私たちも対空砲を潰しますか」

「七尾、前みたいに突っ込んでいくなよ」

「南條、私は成長する女の子だよ?」

「あー、そうだな」

南條は私の最後の一言をどうしても耳に入れたくないらしく、適当にあしらってきた。全く、女の子は傷付きやすい事を知らないのか。中身は男だけど。そういった風にひとりでボケながら七尾は対空砲を撃っている兵士の頭に照準を合わせた。


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