皇軍魔導士七尾理奈   作:.柳

5 / 10
蒼島の戦い⑤

当たり前の事のように小銃の引き金を対空砲を撃っている兵士に向けて引く。するとごく当たり前に弾が発射され、その兵士の頭から血などが飛び出し死ぬ。戦場では良くある話だ。それを皮切りに敵塹壕への攻撃を開始する。銃弾に魔力を込め塹壕に撃ち込むとまるで手榴弾のような爆発が起き、敵が何人か吹き飛ぶ。そういった工程を何度か行うと塹壕に友軍の歩兵たちを侵入させる事が出来た。敵の死体が少しずつ増え、勝利に近づいていた。だが、友軍も僅かながら犠牲者が発生しており、私も真下で殺されそうになっている味方の歩兵を何度か助けた。彼らは一様に感謝してきたが感謝をする時間があるのであれば早く銃を拾い、敵を倒してくれと思ってしまった。私は私が少し恥ずかしかったが、もしかしたら私は照れているのかもしれないとも七尾は考える。

戦闘が開始してからしばらく経つがあと数時間はかかるなと私は思っていたが、他の小隊の隊員達も同じような事を考えていたらしい。これを終わらせるには大火力で一気に叩くのが最良の手段だ。だが、数日前厄介な事に大量の砲弾を積んだ皇国軍の輸送艦が帝国軍の駆逐艦に沈められた為、砲弾が底を付いている。つまり、砲撃支援をする事が出来ないのだ。だから歩兵や私たち魔導士でと攻めていくしかない。それならば我々が出来る限り素早く作戦を進め、早く本土に帰るまでだ。

「よし!やるぞ!」

私は自身に喝を入れると敵塹壕への激しい攻撃を再開した。そして再び隙を作り、地上で戦っている歩兵にそれを教える。

「あそこから突撃出来るぞ!」

「了解しました!魔導士殿!」

歩兵はそこから敵の塹壕に侵入し、隠れている兵士を倒していく。そんな事を何度も繰り返していた。その時ふと「神とやらに祈ってみるか」と考えた。だが、未定形に頭を下げるのは御免だ。それならばすべての銃弾を敵に向けて撃ち込み、銃剣のみで斬り込みにいって玉砕した方がずっとましだ。

「七尾、砲撃支援が出来ない時貴様ならどうする」

「南條は私がそういった事を考えるのが苦手なのを忘れたのか?」

私がそう答えると南條は呆れるように「苦手だというのは嘘だな。軍刀組だろ」と言ってきた。確かに私は軍刀組だ。だが、教本通りに答えただけなので実戦で上手くいくとは限らない。事実、南條は私よりもよっぽど柔軟に小隊を動かせる。だから私は小隊長を辞退したのだ。

「頭脳労働は南條の担当だ。私は敵を倒すしか能が無いし、南條は賢いし。まぁ、あれだよ。砲撃と同じ事をすれば良いんだから魔導士全員で魔力を込めた弾を塹壕に撃ち込めば良いんじゃない?」

「それだ七尾!思い付くじゃないか!」

まさか私の適当なアイデアが採用されるとは、とうとう南條も自棄になってしまったのだろう。可哀想に。

「南條、疲れてるの?」

「安心しろ俺はまともだ」

そう言うと南條は通信機で周りの魔導士に私のアイデアを伝えだした。やめろ、なんだか教科書の落書きをみんなに見られたみたいで凄く恥ずかしいから。まぁ、こんなふざけた意見が通る訳が無い。9歳児の思い付いた事だしな。

「ダメだったろ?」

「七尾、みんなが賛成したぞ!」

「えぇ、」

そして南條の通信を聞いた味方の魔導士達が続々と集まってきた。その光景は今にでもワルキューレの騎行が流れ出しそうである。それよりも何故私のようなほぼ新入りのアイデアが通ったのだろうか。それが分からないが考えれば考えるだけ無駄なのだろう。おそらく私の目は色々と投げ出した目をしている。あぁ、考えるのが面倒だ。もう良いや、やろう。そう思いながら我々は銃を構え、魔力を込める。その時の光と音はさながら黙示録のラッパ吹きであり、地上の敵兵達の表情は見えないが震え上がっている事だろう。

「撃てぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

壮年の魔導大隊長の声を合図に一斉に撃ちだす。さて、考えて貰いたい。魔力を込めた弾の威力は手榴弾を超える。そんな弾が1度に数十発撃ち込まれる。地上はどうなるだろうか。簡単に言えば元々地獄のような場所が更に恐ろしい場所へと姿を変えるのだ。阿鼻叫喚。そんな言葉が似合う場所へと。

そんな事も何度も行った。すると敵は見えなくなり、歩兵による後片付けとなった。塹壕があったはずの場所は跡形も無く潰され、全く違う地形となっている。

「私達は勝ったのか?」

「恐らく、俺達の勝利だ」

「これで本土に帰れるよ」

「あぁ。そうだな」

これでふかふかの布団で眠る事が出来る。前線の固いベッドは腰に悪いからしばらくは勘弁して貰いたい。9歳で腰痛持ちなんて笑えないぞ。そう考えていると口からあくびが漏れだすと釣られて南條もあくびをした。

「伝染った」

南條はそう言うと涙を拭きながら塹壕があった場所をじっと見ている。私はそれが不思議に感じ「なんで地上をジロジロと見てるの?」と聞いたが南條は答えなかった。ただ見ているのだ。

司令部に戻ると今までの疲れがやって来たのか地面に座り込んで眠りかけてしまった。

「やっぱり、私は幼いんだね」

「そうだな。貴様はたまにそれを忘れている。だから無理をするなと言っているのだ」

「優しいな、南條は」

「そうか?」

「それに謙虚だ」

私は常々南條は周りの奴らを良く観ていると感じている。部下のちょっとした事に気が付くから的確な判断を下せる。だが、人を見る目はあまり無い。現に少し前に死んだ候補生を南條は優秀な奴だと評価していたが、その候補生は誰がどう見ても頭に血が上りやすいポンコツだった。そう、南條は人を見る目以外は非常に優秀なのだ。

まぁ、何がともあれ私たちの仕事はこれで終わりだ。私は仮眠を取るとしよう。




軍刀組とは
首席者や次席以下、卒業席次上位数名の事。要は成績優秀者です。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。