何で最初からハードを選んでるんだろう?
やあ、皆の衆。
俺だ、ワラキーだ。
ライブ当日。
やはりというか、5pb.のライブということもあって凄い人数だ。
まだ朝だってのにいるとは…ファンとは恐ろしいものよ。
昨日とかからいたのか?まさか、それよりも前?
作戦立てて、確実に犯人を追い詰めるために動いていたら3日なんてあっという間だった。
本当は俺もライブを間近で見たかったけど、仕方無い。
会場を一目見れただけでもよしとしよう。
「件、行くわよ」
「はい、アイエフさん」
「二人なんだからいつものように話してほしいんだけど」
「緊張してましてですね?」
「…まあ、アンタの場合はそのくらいの方がいいか」
「ずっと緊張してろと申すかアイエフどん」
「どんって何よ。それより、本当に犯人はリーンボックスにいるの?」
「ああ、間違いなく、犯人はリーンボックスで計画を実行する。
それに、俺の予想が正しいのなら…あちらも気付いてるだろうな」
俺の予想に、アイエフは呆れの表情。
「それなら、よく逃げないわね」
「さぁな。あくまで俺の予想だよ」
俺とアイエフはそうして港へ着いた。
二人行動をしてる訳、それはライブ会場への被害を少なくするためだ。
一人を差し押さえるなら大勢は刺激を与える。
二人でいいと俺が皆に言ったんだ。
港は俺達を除いて人がいない。
当然、会場へと赴いているんだろう。
大好きかよ、歌が。
「逃げなかったんですね」
俺は、俺達の前に立っている奴に話し掛ける。
「しかし…ここまで大胆な脅迫状を出すなんて事をしなければ犯罪は成功していたかもしれませんよ」
「貴方が脅迫状を教会へ送った犯人ね。大人しく投降すればまだ優しく済むわよ」
「それはできない」
目の前の黒いスーツを着た男はこちらへ振り向く。
左手に、赤いディスクを一枚持った状態で。
やはり、グレートレッド製のディスクを持ってるか。
となると…苦戦しそうだ。
「よくここにいると分かりましたね?是非、そちらの推理を聞かせてもらいたい」
「推理なんて難しいものじゃありませんよ」
まず、動機について始める。
この3日間、必死に調べてきたんだ。
間違えは許されない。
「貴方の動機…きっかけは随分と前になる。5pb.さんがまだ教会にプロデュースされてない頃、貴方は敏腕プロデューサーとして多くのアイドルを世に出してきた。…しかし、5pb.さんが教会にプロデュースされてから、殆どのファンはそちらへと流れていった…それこそ、5pb.一強とでも言えるくらいにね」
「しかし、それで私がこうするという理由にはならない」
「話は最後まで聞くもんですよ、プロデューサーさん」
「アンタから聞きたいって言ったんだから、大人しく聞きなさいよ」
「…それもそうですね」
続きを聞こうとする姿勢に戻った犯人に俺は話を再開する。
「勿論、貴方も彼女の歌の素晴らしさは理解している筈、認めてる。そうでしょう?」
「ええ、彼女は人を魅了する歌を純粋に歌える素晴らしい逸材ですよ」
「
「…」
「調べたところ、貴方はアイドルたちに慕われる存在だった。多くのアイドルにね。なら、貴方はそのアイドルたちに少なかれ何かご相談を受けていたのでは?差し詰め、内容は最近出てきた売れっ子についてとかでしょうね。辞めた子もいたんじゃないですかね。
順風満帆だったアイドル生活に水を刺されたようなもんです」
「確かに、そのような相談も受けました。辞めてしまったアイドルも……なるほど、本当に私の事を調べてたんですね」
「はい、そりゃもう。3日かかりましたよ」
「…初めは、素直に認めていたんです。あんな綺麗な歌を歌える存在を私は知りませんでした…しかし、他の子は違う。厳しいアイドル業界を生きるのに必死だった。だからこそ、ぽっと出の彼女は目の上のたんこぶだったんでしょうね。相談に乗ったとき、かなりの激情をぶつけられましたよ」
「それが何度も続いて、貴方は思い付いてしまったんですね。
今回の犯行を」
男は頷く。
きっと、精神に余裕がなかったんだろう。
マジェコンヌにアイドル達からの相談、普段の仕事からの疲れ。
ストレスを溜めすぎると人はおかしくなる。
「一度、リセットしようと思った。そんなとき、タイミングよくあの方が現れたんです」
『私なら、その望みを叶えられる。君の願望は人を想う正しい行いだ』
「そう言って、私にこれを渡してきたんです。…いけない行いだとは、理解していました。ですが、止まろうとは思わなかった」
「自分よりも他人を優先した結果、貴方は犯行を決心した」
「アンタはそんなことしてアンタが育ててきたアイドルや同僚が悲しむとは思わないの?」
アイエフの言葉に犯人は首を横に振る。
説得は、無駄なのかもしれない。
それでも、可能性を捨てちゃダメだ。
「これは私が決めたことです。彼女たちは関係ない」
「そうですね。貴方が一人で決めて一人で実行したこと、それは否定しようのない事実だ。…ですが、他にやりようはあったでしょう?他でもない貴方こそ、誰かに相談するべきだった…親しい誰かに」
「綺麗事を言いに来たんじゃないでしょう」
「…本当にやめないんだな」
「くどいですよ。…ライブ開始まであまり時間がない。貴方がたを排除して実行させてもらいます」
結局、こうなるか。
間が悪かった、そうとしか言えない。
この人が悪いわけではない。
この人は自分を犠牲にする事を選んだ。
だが、それは間違いだ。
洗脳の果ての偶像信仰なんて、それこそ嘘にまみれてる。
彼は赤いディスクを投げると、ディスクは光り始める。
ディスクから現れたのは…この世の者と呼べるものではなかった。
「おいおい…?」
何でも利用する気かよあのクソ蜥蜴…!
『■■■■■■──』
気配として感じるのは、以前戦ったサマエルとフェンリル…後、その他複数の魔獣のものだ。
だが、目の前の存在は…その全てに該当しない。
不定形の怪物と化してしまっている。
目と思わしき物がいくつもギョロギョロと一点を見ることなく動いている。
口には牙のような物が見えるが形は酷く歪、そも、噛む為としての機能をあの口は失っているだろう。
手も脚もない、生物の原型を保てていない。
こんなものを生物と呼べるか?
「ズェピア、相当気味の悪いのが出たけど…?」
「これは…消さなきゃダメだ」
グレートレッド、お前は何をしたいんだ。
こんなおぞましい物を造って、何がしたい!
命に対する冒涜だろう…?
「私とアンタの二人だけ、勝つ算段はある?」
「俺が奴の注意を引き付ける。アイエフは物理以外での攻撃を頼む」
「魔法は得意じゃないんだけど…四の五の言ってられないわね」
「大丈夫、君の厨二魔法を信じてるからゴホォ!?」
みぞおち。
深く突き刺さる拳の威力はまた上がっていることが分かってしまった。それと同時に俺の頑丈さも上がってやがる…
「真面目にやんなさいよ!」
「イエス、マム!」
「やれ!!」
「っ、アイエフ!」
「くっ!」
「■■■■■!!」
不定形の怪物はおぞましい声をあげながら口からいくつもの触手を伸ばして俺達を突き刺そうとしてきた。
俺とアイエフは迫る触手を回避し、怪物を見る。
「■■■、■──」
ギョロギョロと動く目はいつの間にか俺達を捉えていた。
正気度が下がりそうな見た目だ。
早いとこ倒さないと…
それに、これの元になった魔物達が可哀想過ぎる。
解放してやらないと。
黒い銃身を撃つにしても、あの蜥蜴が対策を積んでないとは思えない。
確実に当てられるタイミングで放とう。
「さて、たまには主役らしく決めますか!」
「前みたいに死にそうにならないでよね」
「前みたいにと言えば、サマエルも元になってるから一撃即死の毒がある筈だ。当たるなよ?」
「上等よ、やってやろうじゃない」
「やる気に満ちているようで何より。ここで仕留めるぞ!」
「ええ!」
俺達は各々の武器を取りだし、怪物と対峙する。
インストール、『分割思考』『高速思考』
二つの能力を俺に宿す。
擬似的な未来視を可能とするそれはアトラス院で院長であった頃のズェピア・エルトナム本人のもの。
故に、的確かつ最善の判断を可能とする。
けれど、まだ一手が足りないと俺の頭が告げている。
…それでも、下手に使うわけにはいかない。
まず、様子見も兼ねて戦う。
俺とアイエフの攻撃がどこまで通じるのかを確かめなきゃならない。
相手の行動を演算しながら、怪物へと駆ける。
─いざとなれば使え、という頼もしい声を聞きながら。
あんまり長くならなかったけど、次回はクソ蜥蜴の生み出した怪物とのバトルです。
次回、『哀れな怪物に終わりを』