ワラキー異世界渡航劇   作:ロザミア

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今回、展開が急です。


監督気取り、覚醒する?

やあ、皆。

俺だ、ワラキー……と言いたい。

姿は違うので元ワラキーになってしまう。

 

昨日はネプギアたちと絆を深めることに成功した。

やったぜ。

そうそう、ネプギアは夕食の時に皆に謝ってから一言言ったんだ。

 

『皆さん、今日はごめんなさい…でも、明日は絶対に女神化も成功させて見せるので、見捨てないでください!』

 

多分、ずっと不安になっていたのは見捨てられてしまう事だったんだろう。

俺もその時は驚いたからな。

頼っても良いですかとかならまだしも見捨てないでは予想外だった。

 

アイエフとコンパ、イストワールはそれに

 

『見捨てるわけないでしょ。…明日も頑張りましょ』

 

『ギアちゃんはもっと、私たちを頼って良いんですからね?』

 

『ネプテューヌさんたちが捕らえられてしまったのは全て私のミスです…ネプギアさんに重責を負わせてしまっているのに、そのような真似はできませんよ』

 

イストワールに関しては、申し訳なさが滲み出ていて凄かったが、それは仕方ないと思う。

でも、イストワールも必死だったんだと思うし、責められない。

 

ネプギアは皆の言葉を聞いて嬉しそうにしていたし、よかった。

 

やっぱり、言葉を重ねるより気持ちを伝え合えた方がいいよな。

 

まあ、そんな事があった昨日だが……

 

「ねえ、こう、拳にはめる武器とかない?」

 

「拳にか?そうだな……これなんてどうだ?」

 

「あ、よさそう…ズェピア、ちょっとこれ装備してみなさいよ」

 

「あいよ」

 

アイエフと一緒に武器屋に来ていました。

探してみたが、そういった類いは無かったのでこちらに足を運んだわけだ。

 

店主に渡されたガントレットを装備してみる。

 

なるほど、重すぎる訳でもない、頑丈そうだ。

誰にも当たらないようにジャブ、ジャブ…

 

「いいな、これ」

 

「気に入ってもらえたか」

 

「ああ。いくらなんだ?」

 

「こんぐらいだな」

 

「案外安いな…」

 

「じゃあ、これでいいのね?」

 

「おう、これ買った!」

 

「毎度あり!」

 

というわけで、俺にも武器が手に入ったぞ。

こぉんな素晴らしい装備は元の世界のどこを見ても見られんぞ。ファーハハハハハ!

 

「これで一先ずは安心ね」

 

「おう。これで俺も必殺技を出せるぜ」

 

「ゲームじゃないんだから…」

 

「まあ聞け。その名も…ガントレットハーデス!」

 

「何よそれカッコいいじゃないのよ!」

 

「え、うん……」

 

凄い食い付き。

まさか、こいつ……同志(中二病)!?

 

いや、待て。

アイエフは確かに携帯電話を何個も所有しているし時折変な反応を示すが、まさか……

 

「私も何か思い付いた方がよさそうね!」

 

「あ…(察し)」

 

「何よ?」

 

「イエ、ナンデモゴザイマセンアイエフサマ」

 

「様!?しかも片言だし……」

 

これは、まさか……いや待て、まだ片鱗が見えてるだけだ。完全にそうだとは

 

「そ、それより!早く戻ろうぜ!?」

 

「?そうね、戻って、イストワール様の話を聞かないと」

 

これ以上長引かせると嫌な予感がしたので教会に戻ることに。

店主からはドン引きの目線をいただいた。いらない。

 

そんでもって、イストワールが昨日の朝、俺たちにゲイムキャラの居場所が分かったと言ったので、準備を終えてから聞くことに。

とりあえずさっさと終わらせたが、何処にいるのやら。

 

 

 

 

 

 

 

 

プラネテューヌ教会

 

「皆さん、集まりましたね」

 

「はい、イストワール様」

 

「それでは、プラネテューヌのゲイムキャラの居場所をお伝えしたいと思います。」

 

俺たちはイストワールの前へと集まり、話を聞いている。

 

「ゲイムキャラはどうやら、バーチャフォレストの最奥部にいるみたいです」

 

「最奥部…モンスターも手強そうだ」

 

「はい、十分に気を付けてください」

 

「だな、そんじゃ皆、バーチャフォレスト最奥部に行って、ゲイムキャラの助けを得るぞ!」

 

「アンタが仕切ってどうすんのよ!」

 

「ゴッホ!?」

 

背中に一撃!

俺の背骨が折れたらどうする馬鹿者!

 

くっそぉ……

 

「あいてて……まあ、分かった。それならリーダーはネプギアにしよう」

 

「え、私ですか!?」

 

「おう。その方が色々と良さそうだ」

 

「ギアちゃん、ファイトです!」

 

「コンパさんまで!?うぅ…分かりました、頑張ります!」

 

「頑張ろ頑張ろ~」

 

そうと決まれば出発。

イストワールからのエールを背に、俺たちはバーチャフォレスト最奥部を目指す。

 

「俺、これが終わったら…」

 

「死亡フラグを立てようとするな!!」

 

「グフ!?……て、あれ、そこまで痛くない」

 

「わざと軽くしてんのよ」

 

「アイエフの優しさを身に染みて体験したぜ」

 

「なら、ボケの頻度を下げてよね」

 

「あいあい」

 

「やっぱり二人とも仲良しですね~」

 

「ですね、コンパさん」

 

「……まあ、仲間だし、否定はしないわ」

 

「ツンデレしろよ!」

 

「はあ!?何で正直に言ったらそんなこと言われなきゃならないのよ!」

 

「お前のキャラがツッコミキャラだけになってしまうだろうが!」

 

「お前のせいでしょうがっ!」

 

「たわばっ!?」

 

今度は普通に痛かった。

 

容赦ないっすね、アイエフ先輩……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーチャフォレスト最奥部まで、着いた。

 

そこで、汚染という凶暴化に近い変化をしたモンスターと戦ったが、まだ余裕で倒せる。

 

皆、そこまでの消耗もなくここまで来れた。

 

これで突然『貴様らこんなところでノコノコと何をしている?』とか筋肉ムキムキの男が出たりしなければ平気だ。

 

「さて、ゲイムキャラは何処かねぇ」

 

「そうですね……最奥部も広すぎる訳じゃないので見つかるとは思うんですけど……」

 

ネプギアと話しつつ、最奥部を探索するが……取り合えず手当たり次第って感じだ。

 

ちなみに、隊列はアイエフが先頭で俺とネプギアが真ん中、コンパが後ろだ。

先頭で平気かと聞いたが問題ないとの事。

 

まあ、諜報員だって言ってたし、引き際をミスる事はないだろう。

 

すると、アイエフが止まった。

おっ?見つけたか?

 

「……何か聞こえるわ」

 

マジですか。

俺たちは静かに耳を澄ませる。

 

……確かに!

 

「何か叩くような音がするな……!」

 

「はい!」

 

「嫌な予感がしますぅ……」

 

「取り合えず、行ってみましょう」

 

全員で、そこへと急ぐ。

 

そして、音の発生源を発見した。

 

刀…でいいのか?それでディスクを破壊しようとしているスッゲェ不健康そうな肌の色をしていて、黒いフード付きにネズミのような鼻や耳がついている緑色の髪をした女がいた。

 

「って、あれがゲイムキャラか?」

 

「そうだとしたら、止めないと!そこの人、やめてください!」

 

「ああ?何だァてめぇら!邪魔するんじゃねぇよ!」

 

チンピラぁ!

すっげぇチンピラ!

 

「おいヤンキー、その刀を捨ててこちらへ来なさい、親御さんが悲しむぞ!」

 

「テメェ、警察か!」

 

「そうだ!」

 

「違うでしょうが!」

 

「ブレイン!?」

 

頭に、頭に拳骨……!痛い!

アイエフさん、遠慮が消えてきてますよ!?

 

取り合えず、チンピラは刀でディスク…多分、ゲイムキャラを壊すのを中断して俺たちの方を向く。

敵意むき出しだ。

 

「何でこんなことするんですか!?ゲイムキャラさんが壊れたら、ゲイムギョウ界が……!」

 

「何でこんなことするか、だァ?

こいつぁ、我々マジェコンヌにとって目障りなヤローらしいからなぁ…消すのは当たり前だろ?」

 

「アンタ、マジェコンヌの一味なの?」

 

「へっ、教えてやる義理はネェが…まあいい、耳かっぽじってよく聞きな!」

 

「ふざけんな綿棒だって持ってきてねぇぞ!」

 

「誰も耳掃除しろって意味で言ってねぇよ!!」

 

「え、でもかっぽじってって…」

 

「ズェピア、アンタは黙ってて?」

 

「はい」

 

何て威圧感だ……グレートレッドにすら臆す事がなかった俺が震えている!?

何てやつだ……

 

「もういいか?…犯罪組織マジェコンヌが誇るマジパネェ構成員、リンダ様たぁ……」

 

「構成員ってことは下っ端か」

 

「下っ端ですね」

 

「下っ端ね」

 

「下っ端さんです」

 

「なっ……!?だ、誰が下っ端だぁ!?誰が!?」

 

俺たちの下っ端発言に下っ端(リンダ)は憤慨した。

でも、構成員って下っ端……ですし?

 

「うるさいわよ、下っ端のくせに。さっさとそこを退きなさい。下っ端のクセに生意気よ!」

 

あの、アイエフさん?今ちゃっかりと写メ撮りました?

証拠ですか?現行犯ですか?

 

これがプラネテューヌのやり方か……

 

「下っ端さん、お願いですから邪魔しないでほしいです」

 

コンパさん、貴女結構毒舌ですね……

 

あ、俺も便乗すべき?

 

「下っ端……職を得れなかったからマジェコンヌなんかに……!」

 

ネプギア!?

お前何てこと言ってるんだ!?

確かに、職を選べない人は望まない職場に行く人もいるけどそれはあんまりだよ!

 

「……大丈夫だ、下っ端。俺にも、辛い時期はあった……だけど、その内気に入らない仕事も楽しくなってくる!大丈夫だぞ!」

 

「テメェはテメェで慰めにもならないことを言ってんじゃねぇ!?下っ端下っ端連呼しやがって……!!

ゲイムキャラよりも先にテメェらをぶっ倒してやらぁ!」

 

リンダは苛立ちが頂点に昇り、怒りの表情で刀をこちらへと向け、襲い掛かってくる。

 

ガントレットさんがなければ即死でした

 

「くっ、コイツ強い!?」

 

「力があるな……」

 

「どうしてあんな攻撃でも強く思えてしまうです!?」

 

「……もしかして」

 

「ネプギア、気づいたか?」

 

「マジェコンヌのシェアが、それほどゲイムギョウ界のシェアよりも強いって事ですよね」

 

「多分な……」

 

シェアの差がこんなにあるだけで強化されるのか。

こりゃ、ヤバイ。

 

おまけに、俺の力も戻っていないしネプギアの女神化もない。

 

「何だ何だァ?人を下っ端呼ばわりした割には弱ぇな…マジェコンヌの邪魔をしたらどうなるか、その体に教え込んでやるよ!」

 

俺たちは結構、ピンチだった。

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

どうしよう……このままじゃ。

 

負けてしまう、そう思ってしまうほどに下っ端の力は強かった。

 

マジェコンヌのシェアが下っ端に力を与えているんだ…

でも、ここで負けたらゲイムキャラが…ゲイムギョウ界が……お姉ちゃんが!

 

「負けるわけにはいかない!」

 

「何度来ても、同じだぁ!!」

 

「キャァァ!?」

 

下っ端に向かって、ビームソードを振るうけど、簡単に弾かれてズェピアさんたちの方へ吹き飛ばされる。

 

「「「ネプギア!(ギアちゃん!)」」」

 

吹き飛ばされた私をズェピアさんが抱き止めて、アイエフさんとコンパさんが駆け寄ってくる。

 

全力でやっているのに……!

 

やっぱり女神化しか……

ズェピアさんが本来の力を出せない今、私がやらないと……!

 

「ッ……!!」

 

そうしようとした瞬間、また、私の脳裏にはあの時の声がした

 

『女神の力とはこの程度か…』

 

『攻撃とは、こうするんだ!!』

 

「ッ…ダ、ダメ───」

 

やっぱり無理だと口にしてしまいそうになる。

違う、違う!

私はもう、決めたの!

 

「もう、私は……」

 

「ネプギア?」

 

負けるわけにはいかない。

昨日の決意を、憧れた心を嘘にするわけにはいかないの。

 

心配そうに見つめてくるズェピアさんが見える。

怪我はないかと焦るコンパさんが見える。

歯が立たないことを悔しがるアイエフさんが見える。

 

「大丈夫です……ズェピアさん、アイエフさん、コンパさん。私、やります!」

 

「ネプギア、アンタ……」

 

「ギアちゃん、まさか…!」

 

「…いけるのか?」

 

「……はい!」

 

立ち上がり、女神化をすると宣言する。

大丈夫なのかと不安げに見てくる二人と、出来るのかと問うように見てくるズェピアさんに、笑いかける。

 

昨日の誓いを胸に、昨日までの臆病でいた私から変わるの!

 

私の願いを、ぶつける。

守りたい、助けたい、救いたい。

 

その為なら、恐怖だって!

 

「全て、断ち切って見せます!これが、私の─」

 

 

 

「─『変身』!!」

 

「な、何だとぉ!?」

 

その言葉と共に、私を中心に光が溢れる。

 

決意と、覚悟が私に力を貸してくれる!

 

「女神、ネプギア!願いを胸に、いきます!」

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

俺は今、目の前の光景に目を奪われている。

ネプギアが立ち上がり、女神化をすると伝えた。

 

大丈夫なのか?出来るのか?

昨日だって出来なかったじゃないか。

そんな思いがなかったとは言わない。

少なからずあった。

 

でも俺は、そう宣言したネプギアの瞳を見た。

決意のこもった瞳だ。

それを見るのは、二回目だった。

 

一回目は、オーフィス。

二回目は、ネプギア。

 

それを見て俺は、いけると確信した。

 

「これが、女神化……」

 

ネプギアの姿が変わった。

ネプギアの淡いピンク色の髪が輝く。

白い衣装の背中には機械的な翼からも光があふれていた。そして、光が収まると同時に水色へと変化した瞳。

 

手に持つ武器も変わっている。

これが、女神の力か!

 

「ど、どうして、女神の力を取り戻すんだ!?」

 

「…貴女が、ゲイムギョウ界を壊すなら、私は!

ゲイムギョウ界を守るために、貴女を倒します!」

 

「くそが!」

 

リンダは悪態をつきながらネプギアへと向かっていく。

だが

 

「遅い!」

 

「な、はえぇ!?」

 

ネプギアは下っ端を上回る速さで接近。

もう既に、技の準備に入っていた。

 

「これで、終わりです!音速剣、フォーミュラーエッジ!」

 

その名の通り、素早い斬撃が下っ端に襲い掛かる。

マトモにくらった下っ端は吹き飛ばされる。

刀も持てない位にダメージは入った。

 

「くっ、くそ!?このままじゃ───

 

 

 

──何てな」

 

焦っていた様子の下っ端は、ニヤリと笑うと、懐からディスクを取り出す。

何だ、あれは……?

 

「いざって時のために持ってきて正解だったぜ…あの赤い龍から貰ったモノ、見せてやらぁ!」

 

「赤い龍…!?グレートレッドか!?」

 

「あーそうそう、そんな名前だったなぁ…ほらよ!」

 

ディスクを無造作に投げると、そこから赤いオーラが流れ出る。

ディスクが光り、光が収まると……

 

「何だと……!?」

 

「あれは……ドラゴン……!?」

 

「こんな時に……!」

 

「エルエル、あれは何ですか!?」

 

赤く、東洋の龍のように細長い体をして、尚且つ異様な呪いの気配。

上半身さえも龍のそれとなっていて、最早堕天使の面影すらなく、龍と化した皮肉の存在。

 

「サマエル……!」

 

「へぇ、コイツはそんな名前なのか……じゃあ、サマエル!あの女神どもをぶっ倒しちまいな!」

 

「─■■■■■■■■!!」

 

「くっ!?」

 

サマエル…龍殺しが何故!?

しかも、マジェコンヌに手を貸していたなんて……!

 

マズイ、あれの毒はネプギアたち女神でも辛いなんてもんじゃない!

 

あれと戦えば、ネプギアが…アイエフが、コンパが!

 

クソ……どうすればいい!?

 

「■■■■!」

 

「ッ、何て重い攻撃……!」

 

「ネプギア、駄目だ!逃げろ!」

 

「でも、逃げたらゲイムキャラさんが!!」

 

「■■■■■!!」

 

「あっ───!?」

 

何度も手に持つ武器でサマエルの攻撃を捌いていたが、痺れを切らしたのか尾を払う攻撃によって武器が弾かれ、無防備となってしまう。

 

マズイ!?

 

「ネプギアァァァァァ!!」

 

「ズェピア、待ちなさい!?」

 

「エルエル!!」

 

俺は走った。

ネプギアの元へと全速力で。

幸い、そこまで遠くはない!

 

間に合え、間に合え!

 

「■■■■──!」

 

「間に合え……!」

 

サマエルは止めとばかりに毒の舌を伸ばす。

 

俺はネプギアに手を伸ばし、そして……

 

 

 

 

 

「─ズェピア、さん……?」

 

「─が、ぁ……!!」

 

ネプギアを押して、代わりに攻撃を受けることに成功した。

 

舌は俺を簡単に貫いた。

そして、それ(・・)はきた。

 

 

「─■■■■」

 

「─ぁ、ギィアァアァァア……!!」

 

 

 

毒だ。

サマエルの毒。

原初の罪を犯した龍殺しの毒を、俺はその身に受けた。

 

焼けるどころではない。

体が溶けているのではと錯覚するほどの痛み。

 

「─ハハ、マジかよ、スゲェ…サマエル、スゲェよ!」

 

下っ端の言葉が耳に入らない。

 

死。

それを感じた。

 

死徒の、体なら、耐えきれると思ったけど、やっぱり無理だったか。

 

「ぁ───ズェピアさん!!」

 

「ァァァ、ガ、ハァ……!」

 

血を吐く、刺された腹からも血が止まらない。

まずい、死ぬ。

 

こんなところで死ぬ。

 

「ちょっと!冗談じゃないわよ!しっかりしなさいよ!?」

 

「エルエル!死んじゃダメです!」

 

治療をしてくれてるのか。

傷による痛みが少しだけ和らいだ気がする。

でも、毒は消えてくれない。

 

サマエルの毒は特殊だ。

あらゆる毒よりも質が悪い。

 

皆が皆、涙を流す。

 

血に濡れることも構わないで、ネプギアは倒れている俺を抱いている。

コンパだって、治療を必死に続けている。

アイエフも、道具を使って……

 

「ズェピアさん、しっかり、お願い…まだ死んじゃいやだ……まだ何も返せてない!」

 

「ネプ…ギア…!」

 

手を伸ばし、頬に触れる。

触れてから、俺の手にも血がついてるのに気付いて、やってしまったと思った。

 

ネプギアはそんな俺の手を手に取り、頬に当てる。

 

「ズェピアさん…まだ、答え見せれてないです…!」

 

「そうよ!家族の所へ帰るんでしょ!?」

 

「そうです!絶対、帰しますから!」

 

「ぁ、あ……そう、だな……」

 

帰る。

そうだ、帰らなくちゃ。

 

『ズェピア』『友よ』『ズェピア!』

 

家族、家族の所へ。

死ねない、死ねない、死ねない死ねない死ねない死ねない───

 

俺が死んだら、ハッピーエンドが、無くなる

 

でも、どうやって……

 

死ぬ、これは絶対に死ぬ。

 

 

 

 

ふと、脳裏に誰かが浮かんだ。

 

『おや、諦めるのかね』

 

─あ?

 

『まだ倒すべき相手がいるのでは?』

 

─ああ、そうだよ

 

『ならば、まだ諦めてはいけない。さあ、この手を取りたまえ』

 

─何だ、お前、肝心なときに来なかったくせに

 

『君も悪い。いや、君が悪いのだが』

 

─後で、説明してくれるのか?

 

『勿論、私と君は──』

 

俺は、その手を、伸ばしてくる手を取る。

そして、伸ばしてきた手も、掴んだ俺の手を握り返す。

 

微笑みが、見えたと思う。

 

ああ─お前か───

 

 

 

 

『─相棒だろう?』

 

 

 

・ ・ ・ ・

 

 

 

「ズェピアさん……?ズェピアさん、目を開けて…」

 

「ッ~アンタッ!!」

 

「何だよ……向かってきたのはソイツだろうが」

 

ズェピアさんの目が閉じて……

待って、逝っちゃ駄目。

 

折角、女神化を見せれたのに、決意を見せれたのに!

平和になったゲイムギョウ界を見せれてもいないのに!

 

私、まだ……

 

「ズェピアさん……うぅ…いや、いやぁ……!」

 

手を握り、死んでいないと否定する。

まだ、手は暖かい。

 

コンパさんも、無言で必死に治療を続けている。

 

 

「──ァ」

 

「─え?」

 

手が、握っている手が、ピクリと動いた気がした。

 

「ズェピアさん…?」

 

「──ゴホッ」

 

呼び掛けると、今度は、咳き込むような声が聞こえた。

 

私とコンパさん、そしてアイエフさんはそれを確かに聞いた。

 

そして、次の瞬間

 

 

「─グレート、レッドぉ……!!」

 

 

グレートレッドの名前を恨むように呼びながら目を覚ましたのです。

 

「ズェピアさん!」

 

「エルエル!」

 

「ズェピア!」

 

「いだ!?あだだだだだだだ!?待って!痛い!?」

 

「あっ」

 

目を覚ましたことが嬉しくて抱き締めてしまったけど、まだ怪我は治ってないことを思い出してすぐにやめました。

 

「いってぇ……でも…!」

 

「ズェピアさん!?立っちゃ駄目です!まだ怪我が……!」

 

「そうよ、まだ安静に…」

 

「そうですよ!」

 

「ネプギア、アイエフ、コンパ」

 

立とうとしたズェピアさんを止めようとしたけれど、名前を呼ばれ、私たちは止まってしまった。

 

だって、今まで聞いた声でも何か違和感があったから。

 

何かが、混じったような。

二人分の声が聞こえたような。

 

そんな気がした。

 

そして、ズェピアさんは立ち上がり、私を見て微笑んだ。

 

「ありがとう、礼を言おう」

 

「ズェピアさん、ですか?」

 

「ああ、そうだとも…ズェピア・エルトナム・オベローンだ」

 

雰囲気が違う。

いつものような雰囲気とはまるで違うズェピアさんに私たちは戸惑う。

 

そして、ズェピアさんは下っ端とサマエルと呼ばれたドラゴンへと向き直る。

 

「な、なんで生きてやがる!?」

 

「■■■、■■■■!?」

 

サマエルが、怯えてるように見えたのは、私だけなのだろうか。

下っ端は死んだと思った人が生きていて驚いているけど、サマエルは震えているように見える。

 

「ああ……とても、痛いとも。とてもね…屈辱だ」

 

「は、はぁ?」

 

「このような力しか出せず、あまつさえ、己の不始末で少女が危うく死にかけた。庇えたからよかったものの……ああ、屈辱だ」

 

やっぱり、聞こえる。

もう一人の誰かの声が。

 

「アイエフさん、コンパさん、聞こえませんか?」

 

「え、ええ……」

 

「エルエルがもう一人いるですか…?」

 

困惑するしかないが、私たちに分かることが一つある。

 

「しかし、感謝しよう、エデンの蛇。君のお陰で今ようやく、何故タタリが使えなかったのかを思い出した」

 

「■■■■■!?」

 

「お、おい!サマエル!どうしたんだ!?」

 

「君が、私を刺し、殺そうとしたお陰だ……礼として、本来の私が、君を滅ぼそう。ネプギア」

 

「は、はい!?」

 

「君は下っ端を頼む。私の世界の敵は、私が倒す」

 

「わ、分かりました!」

 

「頼んだよ。さあ、サマエル───」

 

ズェピアさんはこの上なく楽しそうに笑う。

血に濡れながら笑う姿は吸血鬼のようだった。

 

ズェピアさんが、ノイズのような何かに染まっていく。

 

いや、ノイズだ。

ザザザと音を立てながら、ズェピアさんは姿を変えていく。

 

そして、ノイズが消えた時には

 

 

 

 

 

「─命に保険はかけたかね?」

 

全く知らない姿。

面影すら残らない姿と声で、サマエルへと笑いかけた。




何故元に戻れたのかは次回。
案外簡単な理由です。

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