叶わない恋をしよう!   作:かりほのいおり

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あいー


27 休日、待ち合わせ、及川さん

 ●

 

 いつもより早めの6時丁度に設定した目覚まし時計。

 それが鳴るより先に自分が目を覚ますことが出来たのは、間違いなく今日が約束の日だったからだろう。

 

 ベットの中でスマホの待受画面をぼんやりと眺める。二度寝するという選択肢はない、こんな日に遅刻したら最悪だ。

 それでも起きて動き始めるにはほんの少しだけ気怠くて、アラームが鳴る1分前に漸く目覚ましを切った。

 

 それでも、まだまだ布団からでる元気は出ないけれど。

 

 何をする訳でもなく寝ぼけ眼で何となく開いたトーク画面。

 上下に履歴順に並んだマグカップとトイプードルのアイコン。とりあえずマグカップの方を選んだ。

 

 今までの経験からして渚に遅刻する心配は無いだろう。きっといつも通りに、彼女は約束の時間丁度に来るだろう。

 そう分かっていながらも、とりあえず『おはよう』と打ち込んだ。

 

 渚はまだ眠っているだろうか、もしかして自分だけが1人浮かれているのだろうか。

 たわいもない疑問を掻き消すように伸びをして立ち上がり、窓の外を覗き込む。

 

 空を覆い尽くすどんよりとした鈍色の雲。

 折り畳み傘を忘れまいと心に刻んだところで、握りしめたスマホが新しいメッセージが来たことを知らせてくれた。

 

 きっと今日は良い日になる、そんな気がした。

 

 ●

 

 いつもと同じ学校に向かう電車、いつもと同じ号車に乗り込む。

 座席には余裕を持って座れた。何故なら休日でもあるし、いつもより遅い時間だったから。学校の始業時間ならとっくに一限目が始まっている頃だろう、まあ今日は平日ではないから関係ないのだけれども。

 

 当然のように学校の最寄り駅を通り過ぎ、数駅過ぎたところで席から立ち上がる。到着したのはショッピングモールの最寄り駅である。

 

 改札を出るなり、ショッピングモールへと向かう人並みから外れて、ベンチに向かう。スマホの時計は約束の時間の20分前を示していた。

 渚が予定時間ぴったりに来るだろうことは予想できてはいるが、それはそれとして自分は余裕が無ければ安心出来ないタチだった。

 

 とりあえず渚には待っていると連絡して暫くの暇な時間。

 予定では映画を見る予定だけれども、どの映画を観るかは彼女に任せていた。

 

 だから、まだ自分がどの映画を見るかは知らない、そしてそれを知る気も無かった。それが映画を見るのが本意では無いという訳でも無く、映画に興味がないという訳でも無い。

 

 映画を見るのは好きだし、どんな映画を見るのか楽しみではある。

 まあ自分の家で映画を見ることはほとんど無いのだけれども、それは映画は劇場で見てこそという主張があるからだ。

 

 そういう風に自分が思っているのは、後ろ向きな話で自分が自宅で映画を見ることに向いてないからである。

 映画を自分の家で見るということが出来ない人間だからだ。

 

 金曜とか日曜日とかの夜中9時からの番組として流してくれる映画を見るのはまあ良い。問題は映画を借りた時とか、月額で見れる映画を見ようと思った時の話。

 

 両者の違いは至極単純、早送りボタンの有無である。

 見ようと思いさえすればボタンを押すなり、シークバーを動かすなりなぞるなり、指先一つで自分の好きな場面まで飛ばしてしまえるから。

 大多数の人にとっては自宅で見れる一番とも利点とも言えるそれが、自分には弱点でしかなかった。

 

 要するに早送りボタンがあれば押したくなってしまう人間なのだ、なぜならそこにボタンがあるのだから。

 それは映画を真っ当に楽しむ為にはやっちゃいけない事だとわかってはいるのだ。話を理解するにあたって見落としちゃいけない部分もあるし、作った側からしてここは見て欲しい部分もあるに違いない。

 

 多分、自分がやるようなことは物語を台無しにするような行為で、実際邪道に違いなかった。

 

 それでも、である。

 

 例えそうだとしても、どうにも抗い難い衝動があった。

 それはきっと誰にでもある感情。自分には結末を知りたいという衝動があった。端的に言えば、知識欲だろうか。

 

 結末を知りたいのだ、自分が安心するために。

 多分、衝動の根源はそこなんだろう、安心するためにカンニングをしてしまう。知ってさえいれば身構えることができる、そうして居れば余裕を持って映画を見れる。

 

 多分、世界で一番映画を見るのに向いていない人間だろう。

 なら同じ映画を2度見ればいいんじゃないかと言われたこともある、結末を知った上でもう一回映画を観ればいいんじゃないかと。

 その解決方法は一見的を得ているようにみえて、微妙に論点から外れていた。

 

 だって結局、結末を知らない映画を一本耐えなきゃ行けないのだから。それは先を知らなくても耐えられる人間の理論である。

 そして自分は耐えられない。ならば結末を知った上でもう一回見る。

 実質2回見たこと同様である。

 

 我ながら思う。

 多分、屑だ。

 

 さて、そういう自分からして映画館とは有難い場所だった。

 なぜなら早送りボタンもない、文明の利器にして人類の敵であるスマホを取り出し、ネタバレを検索する事もない。

 完全に世の中から隔離されて否応なくただただスクリーンを眺めるしか無い場所。

 

 全くもって素晴らしい、自分が唯一真っ当に映画を見れる場所である。

 まあCMと一部の場面削りに目を瞑れば、テレビでやってる映画をリアルタイムで見ることも似たようなものだけれども、それはそれとして。

 

 映画ではなく現実だとしても、結末を知りたいと思う様なもんなのだろうか。ふと、そんな事を思った。

 

 例えば高校を卒業した時。自分達3人がどういう過程を経て、どういう関係になってるのかとか。

 それを今なら知ることができると誰かにいわれたら、自分は知りたいと即断できるのだろうか。

 

 ●

 

 予想通り、及川 渚は約束時刻丁度やってきた。白いパーカーにデニム、つば付き帽子と彼女らしいラフな私服姿である。

 ベンチに腰掛ける自分の前に立ち止まり、挨拶して自分をスルーして周りをぐるりと見渡して開口一番。

 

「あれ、赤坂さんは?」と、そう言った。

 

 成る程と納得する。

 確かに赤坂さんを誘っていたのは事実である。ただ、その事を渚には伝えてなかった。あくまで自分のスタンドプレー、1人を除け者にするのはなんとなく嫌な気がしたから。

 渚からその言葉が出てきたのは、自分と彼女の勝手を知ったる仲だからこそだろう。

 

「誘ったんだけどね、断られちゃった」

 

 悪い返事は無いだろうと甘い見込みは、バッサリと行かないの一刀両断である。まあ断られた事もわざわざ言う必要は無いし、闇から闇へ葬り去るつもりだったが、聞かれたからには答えるしか無い。

 

「だろうね。でも誘いを断られてるのは予想外だなぁ、赤坂さんのことだし休みの間も四六時中勉強でもしてんのかな」

 

 渚の言葉に思わず苦笑する。想像するに容易く、否定しきれないのが怖い所ではある。

 完璧に見える赤坂さんだけれども、いつか破裂する日が来るのかもしれないし、彼女なら耐えることが出来るのかもしれない。それが良いか悪いかはともかくとして。

 

 渚は深々と息を吐いて、自分に手を差し出した。

 

「まあ、とりあえず行こうか」

「ほいさ」

 

 並んで歩き始める、見る映画とかは決まっているのだろうか。

 その思考も読んだのか、渚は口を開いた。

 

「これはもう見たとかいう映画はある? どれでも良い感じ?」

「渚のセンスに任せるよ、オススメの映画とか見たい映画があればそれで」

「悪いけどオススメは無いよ、見た映画をもう一回見るのは勿体無いし」

 

 そう答えが来る事は知っていた、彼女は片っ端からお話を消化していく人だ。きっと渚の見たい映画を見ることになるだろう、それでも外れの映画を選ぶ事はない。

 感性が似ているからか、それとも彼女の趣味が良いからか、渚のおすすめするものにハズレがない事を自分はよく知っている。

 だからこそ、惹かれるのだろう。

 

「そういえば、まだ玲はあの知りたがりグセ治ってないの?」

 

 頷きを返せば、渚は呆れたように首を振った。

 自分の映画についての話は昔、彼女と話したことがある。2回見れば良いんじゃないとアドバイスしたのも渚だった。

 2度同じ映画を見ようとしない人から2度同じ映画を見ればというアドバイスをされるのは、なんとなく不思議な感じがする。

 彼女も自分も2回同じ映画を見る事はない。

 広義で見れば同類なのかもしれないし、真逆のなのかもしれない。結末を知った映画を見る事は2回見ることに含まれるだろうか。

 

 その疑問投げかける勇気は持ち合わせていない。一緒にするなと言われること間違い無いし、実際その通りなのだから。

 

「やっぱり理解に苦しむよ、最期の知れた映画ほどつまらないモノはないと思うんだけど」

「でもさ、どうしようもない終わり方をしてもラストを知ってさえいればダメージを半減出来る気がするんだよ」

「気がするだけじゃ無いの、それ。オチを知った映画だと主人公とかの選択にムカついて余計ダメージ喰らうんじゃない?」

 

 確かに、そういう意見もあるのだろう。

 

「多分、自分は諦めれられるんだろうな。仕方がないことだって」

 

 所詮映画だから、割り切れちゃうんだろう。

 だって自分のことじゃないから、画面の向こう側でしかない他人事だから、そういう結末を受け入れるんだろう。

 

「ボクは嫌だな。結果を見ないと分からないような最善手だとしても、それからかけ離れた選択をしちゃうのは許せないよ」

 

 特に悪役の方、そう渚は言葉を付け加えた。

 

「答えを教えてあげたくなるんだ、こういう風にやれば目的を達成出来ますよって」

「神様みたいに?」

「そう、神様みたいに。きっとそんな日常も楽しいだろうさ」

 

 そう言って彼女は人差し指を立てて、くるりくるりと回した。

 

 『神様始めました』、そんな文字が書かれた板を抱えた渚の姿が脳裏に浮かぶ。多分、報酬はぼったくるのだろう、想像するに容易い絵面だった。

 

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