叶わない恋をしよう!   作:かりほのいおり

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あいー(次は多分金曜)


ex.3 及川渚と1人反省会

 ●

 

 及川 渚が玄関の扉を開けると夕食の匂いが漂っていた。もうそんな時間だったかと思う、時計を見ると6時をほんの少し超えた頃。

 晩御飯の準備をしている母親に帰ってきたことを告げ、自室へと向かう。

 

 灯りを付けて帽子と鞄を適当に机に放り、ベッドに身体を投げ出す。心地良い疲労が身を包んでいた。

 出来れば夕食の前にいつもやること――映画の半券を感想と一緒にスクラップブックに纏めておく習慣――を済ませておきたいけれど、少しだけ時間が欲しかった。

 

「楽しかったなぁ」

 

 誰に言い聞かせるわけでもなく、そう呟いた。

 楽しい1日だった、間違いなく。良き友人は相変わらず良き友人のままで、いつもとなんら変わりのないように見えた。

 

 映画を見て、感想を言い合って、お昼を食べて、また映画を見て。買う予定の無い服を見てまわって、ついでにプリクラも撮って。

 

 本当に楽しい1日だった。

 保存したプリクラのデータを眺めようとスマホを取り出す。馬鹿みたいにでかくなった目を見て、思わず笑みが溢れた。そのまま横にスクロールして、今日一枚だけ撮った写真を呼び出す。

 

 佐々木 玲の後ろ姿、こちらが撮ったことには気づいていないだろう。だって自分が気づかれないように撮ったものである。

 彼女は写真を撮られることを嫌っている。とまではいかないけれど、なんとなく避ける風潮にある。プリクラならノリノリで撮るのに、カメラを向けられた途端に仏頂面でやる気のないピースをする人間だった。

 

 本当に馬鹿の一つ覚えのように、カメラを向けるとピースをするのだ。

 真顔ならまだしもクソダサいピースは本当にいらない。そのピース、はっきり言ってダサいよとはいまだに言えていなかった。まあ、それはそれで面白いからそのままで放置しているのだが。

 面白いのは面白いで良いのだけれども、やっぱり写真映えというものは無いから、それならば自然体の後ろ姿でも撮っておいた方が得だった。

 

 後ろから撮った写真ではあるけれど、可愛い雰囲気はちゃんと捉えられていた。服とスカートは妹に選んでもらったと自称していたが、果たして本当だろうか?

 もしかしたら服のセンスがおかしいと指摘されても、自分が選んだ服じゃないという理由で妹に責任を押し付けられる、そんな卑屈な理由かも知れない。でも姉としてどうなんだろうか、それは。

 

 そう思うぐらいには佐々木 玲は自分に自信が無い人間だった。写真にしても服装にしても、自分に自信が無いから予防線を張っているんじゃないかと思うぐらいには自信が無い。

 

 スマホを置いて、ベッドに寝転んだまま天井を眺める。

 

 ――その彼女がどうして赤坂 舞の勝負に乗ったのか。

 それがどうしてもわからなかった。

 

 2人の思考が自分にはわからない。

 出来るだけ自分の思い通りに動くように物事を回していたけれど、最近では全てが空回っていた。

 

 あの日、学校にやってきた時にみたもの。

 玲と赤坂さんのぎこちない会話を見て、自分の何か知らないところで何かが始まってしまった予感は、今を見ると嘘ではなかった。

 

 だからこそ速やかに終息へ向けて解決するために動いた。

 変わらない平穏な日々を続けるための行動、それは多分、間違いではなかったはずなのだ。

 

 動いたから失敗したとは思わない。

 自分が動いたからこそ、少しの時間稼ぎは成功した。

 あの赤坂さんを部活に入れないように、遠回しに嫌われるような立ち回り。あまりにも急であり即興でやるしかなかったからこそ、我ながら少し拙く、それ故に玲には怪しまれたけれども、目的は概ね成功したと言って過言ではないだろう。

 

 安心して気が抜けたのか、ついつい体調を崩してしまって1日だけ学校を休んだ。たった1日、しかしこの日がターニングポイントだったのだろう。再び学校に行くと玲と赤坂さんは下の名前で呼び合うようになっていた。

 

 なんでだよ!と叫びたくなったが必死に抑えたのももう昔の話である。まるで意味が分からなかった、休んでた間に何があったというのか。

 

 そうこうしてるうちに、玲がもう一度赤坂さんを勧誘すると言い出し、自分の焦る気持ちに反して失敗して、しょげ込んでるのを見て思わずアドバイスしてしまって。

 

 そう、自分がアドバイスしなきゃ良かったのだ。

 そうしたら赤坂さんも部活に入ることなく、部活が解散してたりしてなかったりしたかもしれない。部活の存続に限らず、ここまで赤坂さんと繋がりができることはなかっただろう。

 

「……本当に、そうかな」

 

 本当にそうだろうか?

 もしかしたら自分が動こうと動くまいと、玲は勧誘に成功していたのかもしれないんじゃないか?

 自分のミスを認めたくないだけかもしれないけれど、彼女のあまりに緩い性格と意味不明な行動をしている赤坂さんをみるに、最終的な結果は変わらなかったんじゃないか?

 

 読めないものは読めないと諦めてしまった方がいいと分かってる、事態は自分の手中から飛び出してしまっているのだから。それでも、知らないものを知らないままにしておくのは嫌だった。

 

 だから、部室に2人っきりの時に赤坂さんに尋ねたのだ。頼まれたからとしか答えない彼女に、どうして部活に入ったのかと自分はしつこく尋ね倒した。

 

 結果、赤坂さんは根負けして答えてくれた。簡単に教えてくれたかのように言ったけれども、実際にはなかなか時間がかかった。しかも入る条件をいうだけという口の固さ、それ以上深掘りすることは出来ないまま。

 

 その条件から余計に訳がわからない。

 玲に鎌をかけるまで嘘かと思うぐらいには。でも本当だった、謎は謎のままである。

 

『期末テストで私に勝つことが条件』

 

「……無理ゲーすぎる、断るための条件を承諾されたってこと?」

 

 いや断るだけならば、ばっさり切り捨ててしまえばいい。条件をつける必要があったということだ。条件そのものか、条件が建前か、もしくは期限的な意味合いの条件としての必要。

 

 わかりやすくいえば、期末テストまでの猶予だ。

 そこまで籍を置いてあげるから新しく新入部員を捜せということかもしれない。でも玲がその為に動かない理由が分からない、再び廃部の危機が訪れるかもしれないというのに全くもって動こうとしなかった。

 流石にそこまで能天気ではないだろう、もしかしたらただのアホかもしれないけど。

 だから3番目だ、他の2つの方がまだあり得る。

 

 2番目は条件が建前ということだ。

 赤坂さんはツンデレ。なかなか笑える妄想である、デレが無いからツンツンだ、前世はウニかクリに違いない。

 もし彼女がツンデレなら負けたとしても何かと条件をつけて残るだろう、貴重なデレが観れるかもしれない。

 笑えるから1番自分が信じたい考えではあるけれど、そう言えない理由があった。

 

 玲が赤坂さんが部活に居る条件を言わなかったこと。

 玲自身に、その条件に心当たりがありそうなこと。

 

 赤坂さんが本当に『玲が期末テストで自分に勝つ事』を期待している。

 自分からしてみれば鼻で笑うような夢だった。

 

 有り得ないことだ、玲は記憶力は確かに良いと思う。

 最近映画を見る時、眼鏡を付けているという話は忘れていたけれど、大抵のことは忘れていない。

 その記憶力はテストに生かされたことは無いのだが、実際覚えるだけじゃ解けない問題なんて幾らでもあるからおかしいことではないだろう。

 

 赤坂さんの期待はわからない、その期待をかけられる玲も分からなくて当然だ。

 

 それでも、さりげなく探りを入れた。

 あり得ないとは思っている。それでも念のため、有り得ないことばかりが続いてるから。探られたことにきっと彼女は気づいてないだろう、ただの優しさだと思ってるのだろう。

 そして、佐々木 玲は優しすぎて、嘘をつけない人間だった。

 

『まあ、良いよ。ボクは許す。相談しなかったって事は相談しないだけの理由があったんだろうし、それを玲が言いたくないなら無理強いはしない』

 

 彼女はたった一言、分からないと言えば良かったのだ。

 赤坂さんが自分に期待している理由が分からない、過剰な期待をされていると。

 嘘をつける人間ならば分からないと言うだろうし、心当たりがないのであるならば分からないと言うだろう。

 

 それでも彼女は言えなかった。

 優しすぎて、嘘を付けなかった。

 

 佐々木 玲には赤坂さんに期待されるだけの理由に心当たりが有る、もうこれはほぼ確実だろう。

 そして、それを3人の中で自分だけが知らない事も。

 

「……聞いちゃえば良かったのかな」

 

 1人グダグダしていないでその手に握ったスマホで尋ねるか、その昼食の時に畳み掛けて仕舞えば良かったのだ。

 そうしなかったのはなぜだろうか、自分に問い掛ける。

 

 なんでだろうな。

 

 自分がらしくないことをしているのは分かっていた。今のところはっきり言えるのは、彼女に関しては遠回しな手段を選びがちだということだけで。

 

 もう全部が全部、自分の手から離れて回っていた。

 玲と赤坂さんとの勝負に自分は見物することしかできない、それがなんとなく嫌だった。はっきり言うととても嫌だった。

 

 でも、自分にできることは何も無い。

 どこまで行っても2人の話なのだ。今しがた遊んだばかりなのに、少し前から少し遠く感じてた距離感が更に離れた様な気がしていた。

 

 今日、本当は会わない方が良かったのかもしれない。

 

 そう思ってしまった事が、嫌だった。

 今日は楽しかった、それは間違いなく事実なのだから。

 

 ぼんやりと天井を眺めていると、スマホからメッセージの到着を告げる通知音が聞こえてきた。

 見ないでも誰からのメッセージかは予想が付いていた、きっと彼女が家に着いたとでも報告が来たのだろう。

 

 それでも、今の自分に返信する気力はなかった。

 

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