叶わない恋をしよう!   作:かりほのいおり

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感想読めてないのほんとごめんなさい
ゆとりができたら読みます


0 夢、あるいは昔話

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 少なくとも当人の間で勝負をするとか、そういう約束どころか会話をしたことはなかった。それはただの意地の問題であり、彼女がそれを意識していたかはどうかは分からない。

 それは勝手に競り合って、勝手に負け続けたというお話。

 

 高校1年生の冬、文系に進むか理系に進むかの選択肢を迫られた自分は、特に悩むことも無く文系を選んだ。世界史に関しては自信があるというという単純な理由と、文学部への憧れという理由。

 

 努力の分だけ点数を稼げる暗記科目。まあ実際、他の教科も努力すれば点は稼げるのだろうけれども、興味があるものは覚えがいいのが世の中の常である。自分にとっては世界史がそれだった、ただそれだけの事だった。

 井の中の蛙と言われるかもしれないけれど世界史だけはこの学校、同学年の中では1位を取るだけの自信があった。

 

 私立学校であり、学力でクラスを割り振っていく中、自分は一応文系の中で一番上のクラスに居て。

 そうして迎えた2年生1学期の中間テストである。

 

 学年で上位の成績を貼り出すとかそういう慣習はなかった。クラスによりテストが違うから、点数では比べられないという理由。

 代わりにクラス内での順位が発表されるだけ。でもこのクラスの中で1位を取れば、学年で1番上といえるのは確かだった。

 バランスよく分かれてるならともかく、このクラスに学年で頭のいい奴らが集められているのだから。

 

 テスト後の手応えはというと、他の教科の点数はそれなりながらも、世界史は満点を取ったという確信があった。

 確信があるテストの自己採点は気楽であり、予想通り100点の見込みだった。同点が居たとしても100点ならばクラス内1位は確定である。

 

 他の科目もそれなりの点数。まあ総合でクラス内1位がどうかは怪しいが、世界史で1位ならそれで良かった。

 

 結果から言えばクラス内の総合1位は別のやつだった。というか去年から同じクラスの友人だった、まあそこら辺はあいつが日本史選択だった事もあり、極めてどうでも良いことなのだけれども。

 

 世界史は予想通り満点であり、しかしながら同率1位という結果で終わっている。彼女のことを意識することになったきっかけ、それが始まりの話。

 

 ●

 

 階段から足を踏み外したような浮遊感、ガタリという音と額に走る軽い衝撃。慌てて顔を上げると、前方の机にも、教卓の前にも誰も居なかった。

 窓の外に視線を向けるも、日はすっかり沈んでいた。

 

 不覚にも気づかないうちに寝ていた。ほんの少しの寒気と下敷きにされていた腕の痺れ、黒板に残された白い文字の羅列を眺めながらぼんやりと考える。

 頬がヒリヒリするのはきっと腕を枕代わりにしていたからだろう、学ランの肌触りは枕に適していないから。

 

 腕の下に置かれて少し皺のついた世界史のプリントを鞄に仕舞い込みながら首を傾げる。

 ほんの少しの違和感があった。何かが、おかしい様な気がする。

 

 帰りのホームルームはいつやったのだろうか、黒板を消さないままやったのだろうか?

 6限は世界史だったかと思い返すも、靄がかかったようにうまく思い出せなかった。

 それは自分が寝起きだからだろうか?

 いくら考えても答えは出ないままだった。

 おぼろげな意識のまま、なんとなく義務感に駆られて黒板の前に立つ。11月15日という日付を明日へと書き換えて、それ以外の文字を一切合切消して行く。

 

 文字を消すたびに意識が冴え、寝る前のことを思い出す。

 そうだ、放課後に世界史の補講を受けていたんだった。やる事といえば過去問の演習とそれの解説、希望者のみだからあまり受けてる人はいなかったけれども。

 

 一通り消し終えて、効きの悪い黒板消しクリーナーで後処理をする。

 蛍光灯で照らされた黒板は、自分でもありえないと思うほど綺麗になっていた。もしかしたらこれが天職かもしれない、黒板消し専門職という職業があるのならばだが。

 我ながら満足のいく仕事の出来だったと同時に、どうして黒板という名前で緑色なのかというふとした疑問が頭に浮かんだ。

 今更考えるようなことでもないけれど、一度浮かんだ疑問は容易に消えなかった。これは黒板ではなく緑板と呼ばない理由はなんなのだろうか?

 

「いやいや、本来は黒板は黒色だったらしいよ。でも黒い塗料は貴重だったから、だから緑色で代用されるようになったらしいんだ。ま、諸説あるらしいからこれで確定という訳でもないんだけれどね」

 

 一人っきりクラスに取り残されていたと思い込みの意表を突いた言葉、そして自分の思考を読み透かしたかのような解答だった。

 背後から飛んできた声に慌てて振り返る。ちょうど自分が座っていた席の後ろに腰掛けている奴がいた。自分が寝ているうちに既にいたのか、それとも黒板を消すのに集中しているうちに入り込んでいたのか。

 どちらかはわからない。ただ、知らない奴というわけもなかった。

 

「……来てたなら起こしてくれよ、委員長」

「あまりに気持ちよく寝てるから、起こすのも悪い様な気がしてさ」

 

 そう言いながら委員長は日本史の一問一答をパラパラとめくっていた。

 高校に入学して以来、3年目になる腐れ縁ではある。まあ学力でしかクラスが変わることがないから、あまり珍しいことでもないのだけれども。

 

 その委員長とやらと放課後の教室で二人きりである。めんどくさそうな状況だった、起こしてくれないで自然に起きるのを待ち構えてる時点で不審に思うべきなのだ。それはつまり、起こさないことに利点があると考えるべきで、委員長が帰らずに待ってるということはこうなることを想定していたということで。

 

 そこまで考えて真っ先に思いつくスマートな切り抜け方は、関わらず話し掛けずに速やかに教室から退出することだろう。

 問題点はたった1つ。鞄は自分の席に置きっぱなしであるから、絡まずに帰るにしても一度近寄らなければならない。

 

 ならば妥協案。一旦教室の外へ、男子トイレにでも逃げ込んでしまおう。生理現象であるからその行動にとやかく言われる心配もない。

 数秒の気まずい沈黙の後、その結論に従って1番近いドア、つまりは教室の前方の扉に手を掛けた。

 

 びくともしない、というか鍵を掛けられている。教室の内側に鍵を掛ける機能はない、つまりは外側から施錠されていた。

 この状況を説明できるだろう人へ抗議の視線を向けると、彼女は困った表情でお手上げのポーズをしていた。

 

「言い忘れていたけどね、警備員が自分達が教室の中にまだ残ってることに気付かず両方とも施錠してしまったらしい。つまりは密室って事」

「いや、ありえないだろ。常識的に考えて照明がついてたら教室の中に人が残ってないか確認するにきまってる」

「ジェーケーね、でも実際閉じ込められてるんだから仕方ないんじゃない?」

 

 そうなってしまってるのだから仕方ない、そんなことが原因じゃないとしても。その原因は九分九厘の確率で委員長なのだろうけれど、どうやって密室を作ったのか推理するのも時間の無駄だろう。

 それより考えるべきなのはこういう状況を作って何をしたいか、それを予想することにすら情報が足りないのが現実なのだけれども。

 

「で、警備員が戻ってくるまで暫く話でもしようって言うんだろう?」

 

 仕方なく自分の席へと腰掛ける。椅子を横に向けて、半身を向けた状態。窓の外はすっかり日も暮れていて、もう運動部の声すら届いて来ない。

 

「察しがいいね、君」

「……そりゃ、ずっと一緒にいるからな」

 

 良くも悪くも、一緒にいすぎた。だから変わらないし、変えられない。恐らく、この関係は卒業まで変わらないだろうことを二人とも知っている。

 そのことを後悔してるかと言われたら別に後悔はしてないから、そういうものなのだろう。なにから話をしようかと一問一答を閉じて考え込む姿をぼんやり眺める。

 

「次のテストは、勝てそう?」

「勝ちたいけどなー、ここまでくると負けすぎて自信が無い」

 

 腕を組んで天井を見上げる。初回のテストで引き分けになって以来、ムキになって自分が世界史に打ち込んでる事を委員長は知っている。そしてその結果として負け続けている事も。

 初めの中間テスト以来、世界史はクラス2位のままだった。

 期末、中間、期末、期末、中間、期末、中間、都合7回のテストがあったわけだけれども、自分はことごとく満点を逃しているし、彼女は満点を取り続けている。

 自分が満点とったところで初回の中間テストと同様に引き分けで終わるわけで、それはつまり、いままで勝つ機会もなかったというわけで。

 

 教師も教師で満点を取られないための作問をしてることには気づいてた。自分が見落としていた部分を本番前に潰せることは有難いし、ある程度の難易度でないと勝敗がつかないし、それはそれで困る。

 問題は点を取らせないために作った問題に引っ掛かるのが悉く自分で、彼女はそれを切り抜け続けているということだろう。

 

「まずこっちが満点取らなきゃいけないんだよな。相手のミスとかもう有り得ないだろうし、ケアレスミスを祈って願って、その上で満点を取る必要がある」

「一科目で争うのが不毛な気がするけどな、それ」

「それはそうだけど」

 

 世界史に関しては無類の強さを誇っていたが、他教科も同様に隙がない訳ではなかったし、むしろ隙しか無かった。世界史で得点を荒稼ぎしても、その他の教科が猛烈に足を引っ張り、総合得点でクラストップ10位に一度も食い込んだことがない。

 そして総合1位を安定して取り続けてるのが、自分の隣にいる委員長である。日本史、世界史で多少の点数のブレはあるとはいえ、それでも勝ち続けていた。

 

「世界史じゃなくて日本史にすればよかったのに」

「うるせー、お前が得意な教科に誘導してるだけだろ」

「ま〜自分がいない教科で勝手に争ってくださいよ、低レベルな次元で」

「お前、世界史で一度も勝ったことないけどな」

 

 1年の頃の文系理系の選択前では世界史においてはことごとく自分が勝っていたし、日本史においてはことごとく委員長が勝っていた。

 それぞれが得意な方に分かれて、そしたら1教科のみの上位互換が現れてタコられ続けている状況。日本史に行ってくれれば楽だったのに、なぜこっちに来たのか。

 

「ま、元々世界史には進む予定がなかったんでいい感じに手を抜いてただけなんですけどね」

「それなら逆のことも言えるけど」

「知ってるよ、君がちゃんと勝つために勉強してた事」

 

 そう、自分が手を抜く筈が無かった。

 世界史ほど力を入れてなかったとはいえ、勝てなかったとしても教科を捨てた訳でなく、隠れて努力してた事も、勝てなかったからこそ自分が別の科目に進んだ事も事実。

 その言葉を即座に否定できるはずがない、自分の努力を認めないどころか、一切無かったなんて否定するなんて許せるはずが無いだろう。

 

「……本当に世界史で手を抜いてた?」

「秘密、いう訳ないじゃん」

 

 自分勝手な理論を振り回せることが、心の底から羨ましかった。不機嫌なこともきっと表情からバレていたのだろう。良いように此方を振り回しておいて、彼女は素晴らしく綺麗な笑みを浮かべた。

 

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次はなるべく早く

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