避難訓練・鬼   作:アンギュラ

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避難訓練・海
明日


  

 

避難訓練

 

 

 

避難訓練

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

避難訓練の数週間前には、各個人につき1機のヘッドギア状の機器が県民に送付されていた。

 

 

 

 

港町すむ相馬リョウスケは、半信半疑な表情でそれを箱から取り出す。

 

 

 

 

「本当にこんなのでさぁ、震災の日を追体験出来んのかなぁ……なぁってば!」

 

 

 

少し語気を強めて振り返った先には彼の妻であるフミエが怪訝な表情を浮かべていた。

 

 

 

「なぁ、いつまで怒ってんだよ。決まった事なんだから仕方ないじゃん!」

 

 

 

「だって私ヤなんだもん!震災の時の事なんて思い出したくないに決まってるじゃん!それにさっ!まだ中学生のタカシに【アレ】を見せろって言うの!?ショック受けたら大変とか考えない訳!?」

 

 

 

「そりゃ俺だって思うところはあるさ!でもさ、俺は知って欲しいんだよ!アイツ、去年までの町民避難訓練の時だって、サボって友達と遊びに行ってたじゃないか!夕飯の時にいくら言ったって空返事でテレビ見て笑ってるしさ……まるで震災に遭うまでの俺達を見てるみたいで心配なんだ」

 

 

 

 

「解るけど……だってあんな震災、少なくとも私達が生きてる間には無いでしょ?きっと……」

 

 

 

「断言出来るわけ無いだろ!?政府機関の気象のプロだって最終的には、【予想は予想ですから】とか言ってさ、逃げなかった俺達が悪いみたいに言ってさ、世間もそれに同調するような流れだったじゃんか!」

 

 

 

 

「もういい!聞きたくない!とにかく私はヤだからねっ!」

 

 

 

「おい!……あぁ、もう!」

 

 

 

 

リョウスケは、頭を抱えていた。

 

 

 

 

 

仮想空間を用いた震災の日の追体験をもって、それぞれの地区単位で危険ヶ所や避難場所、防災構造等の不備を個人ごとに洗い出し、本当に効果をあげる防災都市に的確に税金を投入して変えて行こうと言う行政の言い分は十分理解できた。

 

 

 

小手先の設備に対して、無駄に数千億円もの工事費を費やした所で、機能もろくにせずに瓦礫と化したのでは意味が無いからだ。

 

 

 

 

だが、そこに国民感情への考慮はまるで存在していない。

 

 

 

この避難訓練は有効であり、政府与党への良いPRだと考えた行政は、民衆に相談も意見も聞くことなく、物事を進めてしまったのだ。

 

 

 

 

結果、先程のフミエの様に、訓練に難色を示す物が大勢現れた。

 

 

特に、震災の時に目の前で大切な人を失った遺族の反発や怒りが尋常でなかった事は言うまでもない。

 

 

 

県庁や国会議事堂前には、連日プラカードを持った市民がシュプレヒコールの叫びを上げた。

 

 

 

 

それに同調した野党もデモに加わり、テレビでは連日の様にこの話題を取り上げたのだ。

 

 

 

しかし、政権交代で国家運営が未だに定まっていなかった時期に震災が発生した事によって対応が後手に回った影響から、震災後初めてとなる衆院選で与党は歴史的大敗を喫し、現在与党である自由民権党の総裁である現首相による1強体勢が確定してしまっており、国の最も末端たる民衆の声が非常に届きにくい状況となってしまっていた。

 

 

 

 

 

結果としては、■■県の県民はやむ無く行政に従わざるを得なくなってしまったのだ。

 

 

 

 

勿論、マスコミやネットの掲示板は政府の対応を痛烈に批判し、支持率は一時15%以上下落するなど、与党内でも危機感を口にする者が出始める事態となった訳だが、彼らは既に手を打っていた。

 

 

 

 

記者会見時に、官房長官が■■県に6500億円もの特別復興予備税を投入していたと明らかにしたのだ。

 

 

 

その内訳の中には、【避難訓練当日に営業を強制休止する上での損害額や人件費の保障、それに精神的苦痛の賠償も含まれていると公表したのである。

 

 

 

それを発表した途端、世間の怒りの矛先は■■県民に向けられた。

 

 

 

震災復興に使用された巨額の税金でも飽きたらずに、まだ【欲しがる連中】がいると批判しだしたのだ。

 

 

 

ネットでも……

 

 

 

『マジでアイツらクズ!』

 

 

『民度ランキング最下位県必至www』

 

 

 

など心ない言葉が飛び交い、民衆は辟易していた。

 

 

 

 

泣き寝入りで向かえた避難訓練の前日、つまりは【震災の日】

 

 

 

 

リョウスケは、1つの灯籠を海に流した。

 

 

 

 

 

「あーちゃん……明日、明日だね」

 

 

 

 

 

リョウスケはそれだけを言い残すと足早に海を後にするのだった。

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