強いて言うならリクエストに応えられたか甚だふあーん!
「あ、メリー!こっちこっち!」
久しぶりに訪れた駅のホーム。そこでいつもより大きめのリュックサックを背負った蓮子は笑顔で私に手を振っていた。
「そんなにはしゃがないでよ蓮子…」
「いいじゃない。折角の小旅行何だし、メリーも楽しまなきゃ損よ?」
「楽しむのは東京に着いてからね。というか、蓮子にとっては里帰りでしょ?」
そう言って笑う蓮子に対して私はため息1つ。そんな私の手にもいつもの大学用より大きな鞄が握られている。
春休み。
大学生たる私達は若干ながら早めの春休みを頂き、その間に蓮子と共に日帰りで東京へと向かう事になった。
蓮子曰く「東京は東京でオカルトとかは沢山あるのよ。私にとって庭みたいなものだから、案内は任せといて!」との事。非常に不安だが、かと言って蓮子がいないよりはマシだろう。
僅かにテンションの上がった私達の前に、丁度列車が滑り込んでくる。ただの列車では無く、京都と東京を高速で結ぶ、通称“ヒロシゲ”。およそ1時間もあれば着いてしまう列車に、蓮子は嬉々として乗り込んでいく。
「ほらメリーも。着いてからの計画でも話しながら行くとしましょう!」
「はいはい。はしゃいで肝心な時にエネルギー切れにならないようにね」
分かってるわよ、と返す蓮子に苦笑を返して、私もヒロシゲに乗車する。
こうして、私達の小旅行が始まったのだ。
◇
そしてやってきたるは東京である。
かつて首都であった東京だが、今でも都会に変わりはない為、首都だった頃と同等以上には人が住んでいるらしい。
「それで、まずは何処から行く?」
「そうねえ、とりあえず東京タワーかしら。建ってから随分経つってのに、まだ人は見にくるからね」
「今となっては東京も珍しいものが多いものね」
「それもそうね。さ、行くわよメリー」
そう言って、蓮子は私の手を握る。呆気にとられている私をよそに、そのままてくてく歩き始めた。
「ん?どしたのメリー」
「…何でもないわよ」
確かにエスコートは任せると言ったがそういう意味ではない。が、それでわざわざ手を離さない私も私なのだろうか?
蓮子に手を引かれながら、私はそんな事を思うのだった。
「いやー、やっぱり高いもんよねー」
「そうねえ。でも1番高いのは別の建物じゃ無かったかしら?」
今私達の眼前には蓮子の言う東京タワーがそびえ立っている。少し剥げ気味の赤の塗装で、それでも周りに観光客と思しき人は多かった。
「そうよ。でもあっちは逆に人が多すぎるのよ。中からの景色も京都とそんなに変わらないしね」
「あっちは色も普通だしね。そう言えば、この色合いを見てるとこの前会った岡崎教授を思い出すわね」
「思い出さないわよ。メリーは変なところで思い出すんだから」
軽く憤慨している蓮子を見て小さく笑う。憤慨したまま、蓮子は自分のリュックを漁り始めた。そのまま見守っていると、取り出されたのはまさかの大きめの三脚とカメラのセットだった。
「…どうしたのそれ」
「んー?日帰りとは言え旅行に行くなら写真くらい撮りたいじゃない。モバイルだと景色映らないからね」
そう言う間に手際よく三脚を組み立て、カメラを乗せる。そして何事かカメラをいじると、突然私の方に走ってきた。
「ちょっと蓮ーー」
「はいメリー、笑って笑って!」
そのまま私の肩を組み、そうまくし立てる。私がまごついているうちにカメラからシャッターの音と僅かなフラッシュ。
「…写真撮るなら先に言ってよ」
「ごめんごめん、突然言った方が驚くかなーって思って」
「そりゃ驚くわよ…」
三脚を畳む蓮子の横でカメラを覗き込む。そこには、満面の笑みを浮かべる蓮子と、半端に笑う私が写っていて。
「あら、メリーったら顔固まってるじゃない」
「…いきなりやった誰かさんのせいでね」
「ごめんってば。ほら、まだ旅行は始まったばっかりよ?もっといい写真でも撮りましょう?」
カメラをしまい、蓮子がまた手を差し出してくる。
「…まあ、良いけどね」
その手をとって、私達は再び歩き始めた。
「…それは良いんだけどね」
「うん?」
「ちょっと…ううん、大分お腹が空いて」
既に京都を出てから大分時間が経って時刻は昼時。ヒロシゲに乗っている間も何か食べはしなかったので何かお腹に入れたいのだが。
「うーん、どこか食べれるところ…」
蓮子と共に辺りを見回す。とは言えここの地理を知らない私が何か見つけられるとは思わないが。
「あ、あそこにしましょう!」
蓮子が1箇所を指差す。そこにあったのは一軒のお寿司屋だった。
「お寿司ね。最近、というかほとんど食べた事ないわね」
「ふふん、東京は寿司発祥の地だからね。割と寿司屋が多いのよ」
「それなら期待出来そうね」
蓮子と共にのれんをくぐる。中に他のお客はおらず、店主らしい男性が1人いるのみだった。
「いらっしゃい。好きなところに…といってもカウンターしか無いが」
男性の言う通り、中は意外と小さくカウンターが数席のみ。個人的にカウンターはあまり得意ではないが、どうとでもなる。その為に蓮子がいるのだ。
「ふむふむ、今時こういう店も珍しいわね。んーと、私サーモン尽くし!」
早速蓮子は注文をしている。さて、私は何を食べようか、と。
「彼女にも同じのを!」
「おい」
勝手に決めないで貰いたい。ついでにその言い方も。
「何よ、メリーったらこういうカウンターで声はるの苦手でしょ?」
「他のお客さん居ないんだから別に小声でも良いじゃない」
と言うかお店でそんな事を言わないでほしい。男性を見ると、何がおかしいのか僅かに笑いながら魚をさばいていた。
「お嬢さん達仲が良いねえ。そっちの金髪の子は何にするんだい?」
「…私もサーモン尽くしで」
あいよ、と男性が再び魚をさばき始める。隣の蓮子が軽く吹き出していたので軽く蹴りつけておく。
そうしているうちに、素早く注文したものがやってきた。
「はいお待ち、サーモン尽くし2つね」
よくお寿司が乗っている木の台のようなものに、意外と沢山の種類のサーモンが乗っている。矛盾した言い方だが、そのままだったり炙ってあったりしてあるため間違いではない。
「おお、これは凄いわね」
蓮子が目を輝かせてそう呟く。何だか観光より食事目当てに来たような感じもするが、一々言うのも野暮だろう。
「よし、いただきます」
「いただきます」
箸をとり、まずは炙りサーモンから食べる事にする。
これは醤油をつけるものなのだろうか。テレビ等を見る限り意外と別れているが、これといって決まってはいないらしい。私はそのまま頂くことにする。
「…意外に、柔らかいものなのね」
炙ってあるぶん身が固くなってるかと思っていたが、そんな事は無かった。炙られたお陰で余分な脂が落ちて私好みの味だ。
続いて普通のサーモンに醤油をつける。蓮子はシャリごと箸で掴んでつけているが、あれだとシャリが醤油に落下するのが怖いので私は魚だけさっとつけて終わりだ。
「ん、こっちも柔らかくて美味しい」
若干醤油をつけすぎたかしょっぱくなっているが、それでも味を損なわず口の中で溶けるように柔らかい。
「…メリーったら食べるの早いわねぇ。そんなにお腹空いてたの?」
ふっと蓮子の言葉で引き戻される感覚がした。蓮子の方を見ると、まだ半分ほど残っている。大して私はもう殆ど食べてしまい、後は巻き物のみになっていた。
「メリーったらそんなに一気に食べたら太るわよ?」
「…その話はしない。それにお寿司はカロリー低いのよ」
多分。私は残った巻き物を口に入れる。
「…これもサーモン?」
「尽くしだからね。サーモンの巻き物はウチ位しかやってないよ」
男性の言葉通り、巻き物の具はサーモンと、後はキュウリだろうか?巻き物は鉄火巻きと河童巻きくらいしか食べた事は無いが、先程食べた2つより食感がしっかりしていてこれまた美味しい。
最後に一緒に出された緑茶を飲む。お寿司と一緒に飲む組み合わせとしてほぼ一択のような感じがするが、それも納得の相性だ。
「ふう…ごちそうさまでした」
「ごちそうさまでしたー」
私と蓮子がほぼ同時に食べ終わり、手を合わせる。と言うか、蓮子も結局食べるのが早いではないか。ただ蓮子は体重の事など大して気にしていなさそうなので、私だけ気にしているようでシャクなので言わないが。
「お粗末様。お嬢さん達は観光で?今ならスカイツリーが人少なめでオススメだよ」
「あ、そうなんですか?行ってみます!行きましょ、メリー!」
「初めて来る私よりはしゃいでるわね…」
会計を済ませてお店を出る。次にお寿司を食べる機会があれば、他のネタも食べてみたい。流石は発祥の地だろうか。
「あ、スカイツリー、ここから見えるのね」
「え、本当?」
蓮子が見ている方向を見やる。だが、そこには空が広がるばかりでスカイツリーは一向に見えない。
「メリーよりは目が良いのよ。さ、行きましょ?」
いや、単に視力の問題では無いと思うのだが。ともあれ、私は先んじて蓮子の手を取って歩き出す。
ぽかんとしている蓮子に私は告げる。
「ほら、行きましょ?エスコート、してくれるんでしょ?」
蓮子が一瞬だけ、顔を背けて。すぐに笑って、私の手を握り返して歩き出す。
「ええ、もちろん。まだまだ行くわよ、メリー!」
こうして、蓮子と共に様々な所を回って。思えばオカルトスポット以外で旅行をするのは初めてかもしれないと、そんな事を思いながら、蓮子との時間は過ぎていった。
<AFTER>
「はぁ…やっと帰ってこれた…」
「あはは…まさか帰りのヒロシゲを逃しかけるとは思わなくてね」
「大体は蓮子のおかげだけどね…」
「ま、まあまあ。ほら、次回予告次回予告」
「次回?んー、確か麺だったわね」
「メリーの予告が段々と雑になっている…」