そして短い!今の僕にこのシチュで長文書く力は無い許して!
部屋に電子音が鳴り響く。
「うう…ん」
メリーがベッドから上体を起こす。今は春休みの昼前、目覚ましをかけるには少々遅い時間だが、この電子音は目覚まし時計からのものでは無かった。
「ほい、見して」
「ん…」
メリーの手から電子音を立てたモノを受け取る。今時逆に珍しい、脇に挟むタイプの体温計。
これが示す事実としては。
「ふーむ、まだ若干あるわね。まあ明日明後日には大丈夫よ」
「……」
相棒の風邪の看病をしているという事だ。
◇
春休みを利用して東京へ行った私達だが、帰ってきた翌日にメリーは風邪をひいてしまった。ちなみに私は健康体だ、昔から頑丈さには自信がある。
ともあれ私はメリーの看病の為、こうしてメリーの家にお邪魔しているのだった。
「さて、そろそろお昼作ってくるわね」
「ん…。ごめんなさい、蓮子」
「気にしない気にしない。私とメリーの仲でしょ?」
メリーの声を背中で聞いて台所へと向かう。今日のお昼は既に決めてあるし、材料は既に買い揃えてあるので安心だ。
「さて、パパッとやりますか」
鍋に水を張り火にかける。同時にネギと玉ねぎを細かく刻んで、鍋が沸騰する間にうどんの袋麺を取り出す。
「茹でれば即食べれる時代になったものねぇ」
それは随分昔からそうではあるのだが。ともあれ病人が居ても手軽に作れるのは良い事だ。沸騰した鍋に麺を投入し、一緒に卵も投入する。
「別々にやった方が良いらしいけど…まいいでしょ」
茹でている間に衣を準備し、ネギと玉ねぎをくぐらせる。もう一つ鍋を準備し、揚げ始める前に一旦メリーの所へ。
「もうちょい待っててー。ハイ飲み物」
グラスにスポーツドリンクを注いでメリーに渡す。当のメリーは枕に突っ伏していたが、私の声にのそりと起き上がってちびちび飲み始めた。
「……蓮子にあれこれされるのは何だかシャクね」
「あら、じゃあ自分でやる?」
「…そういう訳では、無いけど」
「なら良し。さて、じゃ仕上げてくるわね」
再び台所へと向かい、衣をつけた野菜を揚げ始める。卵とうどんも鍋から引き上げ、うどんを先に器に盛る。つゆも出来合いのものが売られているため、この辺りはほんとに楽だ。私自身料理をそこまでしないけど。
「おっと、油がはねるはねる」
きつね色になった天ぷらを引き上げる。かき揚げの形に揚がったそれを器に盛り、余ったネギをちらす。
「うーん、もうちょっと何か…」
これだけだと何となく寂しい気がして冷蔵庫を開ける。ちょうどカマボコがあったので拝借し、切って盛り付け。
「ん、こんなもんね。おっと、卵があったわ」
最後に卵を落とす。半熟にしたつもりが若干固くなっていたが、まあ味に変わりは無いので良いだろう。
「よし、完成。お待たせメリー」
箸と一緒に器を運ぶ。メリーは完全に起き上がっていて、スポーツドリンクをおかわりしていた。
「うどん…こんなのも作れたのね」
「半分くらい出来合いものだけどね。さ、食べましょ食べましょ」
「はあい、いただきます」
「いただきます」
一口麺をすする。うん、さっと茹でただけだから固いかと思っていたが、案外丁度いい固さだ。つゆは温めただけなので不味くなる訳もなく、あっさりしている。
メリーを見ると、「うどん、あったかい…」と大きく息をついていた。普段とのギャップに思わず笑みがこぼれる。
「うんうん、卵もまあまあイケるわ」
本来の半熟とは違うが、入っているだけでアクセントにはなる。我ながら力作だと思う。
「さて後は天ぷら…」
というよりかき揚げか。つゆを吸ったかき揚げを口にして、
「…んー?」
「…天ぷら、油っこい…」
同時に天ぷらを食べたメリーが顔をしかめる。慣れないことをするべきでは無かったか、食べられない訳ではないが確かに油っこい。というか、仮にも病人のうどんに天ぷらをのせるのは流石にまずかったか。しかもそこまで美味しくないやつを。
「あはは、ごめんメリー、それ私が食べるわ」
「んー、もう食べ終わるから、いいわ…」
見ると、もううどんは殆ど無くなっていた。普段は私に食べるのが早いと言うくせに、こういう時は早いのか。
私も残りのうどんをかきこむ。残ったかまぼこを放り込んで、器を手に立ち上がった。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さま。じゃ、片付けてくるからメリーは寝てて」
「ん…」
既に眠そうにあくびをしているメリーをちらりと見て、台所に向かう。洗うものも大してないから、すぐ片付けも終わるか。
「よし、やりますか」
片付けを終えてメリーの所に戻ると、案の定メリーは寝息を立てていた。
「…割と寝相が悪いのね、メリーったら」
掛け布団が大きくずれている。見た目がお嬢様らしいせいで生活態度もきっちりしていると思っていたが、眠っている限りはそうでも無いらしい。きっちりしている人はオカルトサークル何かに入りはしないだろうが。
「……」
思えばメリーの寝顔を見るのは初めてな気がする。これまで私が居眠りをしてメリーに起こされる事は何度もあったが、逆は珍しい。
ーーもう少し、近くで見てみようか。
不意にそう思い立って、そのままメリーに顔を近づけて。そのタイミングで、腕を何かに掴まれた。
「…んあ?」
掴まれた腕を見る。掴んでいたのは予想通り、この部屋に私以外う唯一いるメリー。だが両腕でがっしり掴まれている。一瞬困惑し、とりあえず腕を外そうと動きかけたところで。
ーー私は、一気にメリーのベッドに引きずり込まれた。
「ちょっ…⁉︎」
そのままメリーに、抱きすくめられる様に密着する。慌てて手を外そうとするが、そういう時に限って中々思うようにいかない。
「んー…蓮子、あったかい…」
加えてメリーの言葉が、私を僅かに混乱させる。普段とのギャップがありすぎでは無いか、これでは。
「んー…あつい…」
そうこうしているうちに、メリーの腕の力が緩んだ。好機と腕を外し、ベッドの外へと脱出する。メリーは意にも介さず幸せそうに寝息を立てたまま。
「全くもう…」
1つ息を吐き、スポーツドリンクを注いで飲み干す。少し、ほんの少しだけ鼓動が早かったが、それももう落ち着いた。
「普段とは真逆ねえ…」
少しだけ呆れの混じった声が漏れる。寝ているメリーの顔は変わらず、眠り続けている。
「どれどれっ、と…」
私はもう一度、メリーに顔を近づける。今度は思いつきでは無く、熱を測る為だ。
「ん、もう殆ど無いわね」
そのまま、メリーの額に自分の額を当てる。体温計を使いたいが、寝ている状態では難しい。ともかく、もう熱は殆どない。これなら起きた時には引いているだろう。
これなら後はメリーだけで大丈夫だろう。最近はオートロックが堅い為、こういう時に外出もお手の物だ。台所に向かい、うどんをもう一回すぐに作れるように支度をしておく。部屋に戻り、うどんの事をメモに書き留めて立ち上がる。
眠っているメリーをもう一度見やって、部屋を後にする。
いつもとは逆にメリーについてあれこれ考えた気がするが、たまにはそういうのも悪くない。今まで振り回した分バランスが取れているというものだ。
「それじゃ。おやすみなさい、メリー」
小さく呟いて。そのまま私はメリーの家を後にした。
<NEXT>
「…ん?あ、メリーは今回居ないんだっけ」
「うーん…とは言えメリー抜きだと間が…」
「そ、そうね。メリーの風邪が治った時の予定でも決めときましょう」
【次回 秘め封じられた葡萄酒 〜焼肉を添えて〜】
次回もお楽しみに〜
「焼肉が…メインじゃ、無いの…」
「はいはい、メリーは寝てる」