葡萄酒が添える方ですよ?(すっとぼけ)
「カンパーイ!」
「…かんぱーい」
私の目の前にはご機嫌でグラスを傾ける蓮子の姿がある。私の手にもグラスはあり、中には蓮子のグラスと同じ、赤紫の液体が注がれている。
『私の家でパーティーするわよ!』
と、そんなメールが届いたのがほんの1時間前。日も落ちかけた時間帯に何をいきなりと思ったが、私も予定があるわけでは無い。そうして蓮子の家に着くなりこの相棒がワインを引っ張り出してきて、今に至る。
「大体、何のパーティーなのよ…?」
「理由なんて何でもいいのよ。騒ぎたい時に騒ぐ!コレが秘封倶楽部のモットーよ!」
「…貴女、もう酔ってない?」
平気平気、と言う蓮子は確かに見た目の変化は無いが、いつもよりハイテンションになっていないか。もしかしたらいつもの事かもしれない。
私もグラスを傾けワインを飲むことにする。大してお酒に強くない私でも、グラス1杯程度なら問題は無いだろう。
「甘…。これじゃ殆どジュースみたいなモノね」
ワインと言えば酸味が強めかと思っていたが、蓮子の用意したこれは相当に甘味が強い。後の方に僅かながらに酸味はあるが、強くない私でも滅多な事で酔ったりはしないであろう味わいだ。
と言うか蓮子はコレで酔うのか。本格的にお酒を飲んだらまともに飲めずにダウンするのではなかろうか。そんな懸念を他所に、蓮子は不意に立ち上がった。
「そうそう!今日のメインを持ってきてなかったわ。ちょっと持ってくるわね!」
「あ、うん…」
いつもより大きめの声で告げ、蓮子はずんずん部屋を出て行ってしまった。
「…これは、あんまり長居しない方が良さそうね…」
はぁと息を吐く。本当に酔っているのか知らないが、少なくともあのテンションでは下手に何か言うと絡まれるのが目に見えている。そうならないうちにささっと抜け出すのが吉ね。
と、蓮子が部屋に戻ってくる。その両手には大きな何かと、その上に乗ったいくつかのパックの様なものが見えた。
「おっとと…ちょっと、メリー持ってて」
「はいはい…」
蓮子から積まれたパックを抱えるようにして取る。ざっと見た感じ全部お肉のパックの様だ。もしやと思い蓮子を見ると、テーブルの上にさっきまで抱えていたものを下ろしていた。すぐさま蓮子がスイッチを入れる。
「ホットプレート…。じゃあコレは」
「そそ。レッツ焼肉よ、メリー」
そう告げる蓮子の調子はいつも通りで、さっきまでのテンションの高さは見られない。
「何?メリー」
「いいえ…貴女って酔いが回るのも抜けるのも早いのね」
「まあね。大体あれくらいでそんな深酔いはしないわよ」
「本当かしら…」
私が疑っている間にも、蓮子は慣れた様子でホットプレートに肉を並べていく。私も手伝おうかと手を伸ばしかけて、ある事に気付いた。
「…ねえ、蓮子」
「うん?」
「……野菜は?」
「……」
私の問いに答える事なく、蓮子は肉を焼き続けている。私が一歩踏み出したところで、ようやく蓮子はこちらを向いた。
「…メリー、私がさっきなんて言ったか覚えてる?」
「焼肉ね」
「そう、焼肉。いいメリー、今日焼くのはお肉。野菜の出番はどこにもーー」
「冷蔵庫に何かしらあるでしょ?野菜」
「いや、まああるけど…」
「じゃ、それも焼くわよ」
「え、いや…」
「焼くわよ?」
「……ハイ」
どうやら分かってくれたようだ。若干冷や汗をかいている様な蓮子に背を向け、私は台所に向かうのだった。
◇
「あー、怖かった…」
「元はと言えば蓮子のせいでしょう。お肉だけだとバランス崩れるわよ」
「それはそうだけど…」
「苦手って訳でもないでしょ。早く食べないと冷めるわよ」
恨めしそうにこちらを睨む蓮子をあしらって、ホットプレートで湯気を立てる食材達を小皿に盛っていく。私が野菜を多めに投入したせいで肉野菜炒め同然になってしまったが、正直タレを絡めれば焼肉は成立するだろう。別の小皿にタレを入れ、野菜と肉をくぐらせて、口に運ぶ。
「あつつ…うん、ホットプレートでも焼けるものね」
やや辛口のタレによく火の通った肉、野菜のおかげでくどくもなくある程度さっぱりと食べる事が出来る。
私は肉の部位とかには詳しくないが、蓮子はどの部位がどうとか知っているものなのだろうか。目の前でいつも通りがっついている蓮子に声をかける。
「蓮子は焼肉の部位とかそういうのには詳しいの?」
「んーん、全然。スーパーのやつだからそこまで良いのある訳じゃないしね。単純に安いのかっさらってきただけよ」
「ふーん…」
「あ、ワイン飲む?」
「…いただくわ」
差し出したグラスにワインが注がれる。もう1枚肉を食べ、その後にワインで残った脂を落とす。
「ん、単体だと甘いけど。合わせるとイイわね」
「ふふん、そうでしょうそうでしょう」
ワインにしてはやや強い部類の甘味も、肉の味の濃さである程度中和されている様に感じる。それとも私も多少ながら酔いが回ったのだろうか、普通に食べるお肉よりも上質でとける様な味わいを感じる。
蓮子と食べるというのも、プラスはされているのかも知れない。
「ほらメリー、まだお肉もあるから、ドンドン食べるわよ!」
「はいはい、野菜もね」
いつの間にやら再びハイテンションになっている蓮子がグラスを掲げる。私も、普段よりは心持ち高い声音で応じるのだった。
ーーそして、ふと気付いた時にはすっかり暗くなっていた。
「ん、んー…」
瞬きをして辺りを見やる。蓮子の部屋だった。ホットプレートの電源は消され、中身の殆ど無くなったワインボトルが転がっている。
「寝落ちなんて…珍しい事もあるものね」
まだクリアでない頭で判断し、大きくため息をつく。普段はまるでそんな事は無いのだが、多少なりお酒が入ったせいだろうか。
目の前を見る。若干顔の赤くなった蓮子が、机に突っ伏して寝息を立てていた。
「…まったくもう」
モバイルの時計を覗き込むともう真夜中で、とてもでは無いが歩いて帰るには向かないだろう。
「1日くらい、こんな事もあるわよね」
立ち上がり、蓮子を抱え起こす。そのまま蓮子をベッドまで引きずって、寝かせて毛布をかけておく。そのまま毛布を1つ拝借して、側にあったソファに寝転がる。起きたら多少体は痛むだろうが、ベッドを借りて眠るわけにもいくまい。
「それじゃあ、おやすみなさい……」
どことなく夢心地のまま。またこんな事があっても良いかも知れないと、そんな事を思いながら、私も意識を沈めるのだった。
次の日に、目覚めて蓮子共々慌てる事になったのは言うまでも無いだろう。
<NEXT>
「何かめぼしいオカルトはあった?」
「さっぱりよ。春だからって怖気付いて隠れたんじゃ無いでしょうね」
「春だからって怪しい所にさっぱり出向かなくなった人が何を言うのかしらね」
「あぐ…!メリー、随分痛い所を突くようになったわね…!」
【次回 押しかけ焼餃子 〜秘封初共同作業?〜】
お楽しみに〜