【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

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平成最後の更新!つまり!みじかい!


桜花の下のクロワッサン

春もそろそろ終わるという頃、私は蓮子に誘われて近所の公園を訪れていた。曰く、桜が咲いているうちに花見をしたいと。

 

「花見ねぇ…そういえば殆どした事無かったわね」

 

私の手には最近新しく出来たパン屋の袋がある。蓮子のことだからどうせ長々居ることになるだろうと買ってきたものだ。

それにしても蓮子の姿が見当たらない。見通しは良いはずだがよもやそんなに奥まで行ったのかと奥へ進むと、視界の端に見慣れた帽子が入り込んできた。

 

 

 

「メリー、こっちこっち!」

「先に行くなら一言言ってからにして欲しいわね」

「ごめんごめん。場所取られてないかちょーっと気になってね」

 

 

苦笑する蓮子に首を傾げる。私達は桜の木の根元に居るが、その木に別段花が咲き誇っているような様子は無い。入り口の近くにもいくつかもっと咲いている場所はあるし、わざわざ奥に行く必要はない気がするが。

 

 

「んー、メリーは人多いの苦手でしょ?まだ時間早いから良いけど、もう少ししたらシャレにならない位大人数が来るわよ、ココ」

「勝手に心を読まないでってば…まぁ、確かに人が多いのは得意じゃないけど」

「だから奥にしたのよ。ささ、せっかくのお花見なんだからのんびりしましょう?いくつか食べ物とかも買ってきたし」

「蓮子の場合そっちがメインでしょうね…」

 

 

鞄から何やら取り出している蓮子にならって、私も腰を下ろしてパン屋の袋をあさる事にする。

 

「ん、それクロワッサン?メリーも買って来たの?」

「…てことは、蓮子も?」

「ん。私のはチョコのやつだけどね」

 

 

見れば蓮子も私と同じくクロワッサンを手にしている。私の普通のやつとは違うチョコ色のやつだ。チョコ味も嫌いではないのだがやはり普通が一番と言うことでチョコは買ってこなかった。

 

「この時代になっても勝手にパンを温めてくれるような物は無いのよね、そういえば」

「焼きたてが良いなら自分で焼くか開く前のパン屋にでも並ぶしかないんじゃない?」

「…というかメリーのクロワッサンまだ温かそうだけど」

「そりゃあ近くのパン屋で買ってまだそこまで時間経ってないもの。いつもコンビニで済ます蓮子のとは違うのよ」

 

袋からクロワッサンを取り出して一口かじる。蓮子の言う通りまだ温かく、外側のサクサクした食感が小気味いい。

 

 

 

「うん…うん。やっぱりパンは焼き立ての方が美味しいわ」

「…なんだろう、今すっごくメリーに煽られてる気がするんだけど」

 

私としてはそんなつもりは無いのだが。ともあれバターの風味に口がいっぱいになって言い返すのも難しい。

普段は食パンくらいしかパンは食べない私だが、久しぶりに食べてみるとしっかりバターの味がして良い。ジャムなりをつける事もしていない為、これからは朝食に採用するのもアリかも知れない。

 

 

「甘くないクロワッサンなんてのもあるらしいわね、そういえば」

「甘めの方こそ日本特有なんて説もあるけど…そういうのはメリーの方が詳しいんじゃないの?」

「日本に来てからは米食だから、すっかり忘れてしまいましたわ」

 

 

ぱくぱくとクロワッサンを食べ進める。だが最後の一口になった時、不意に目の前から持っていたはずのクロワッサンが消えた。

 

「え?」

「うんうん、焼き立てとまでは言わないけど美味しいわねぇ」

「蓮子…」

 

 

最近はよく蓮子に食べ物をとられている気がするのは気のせいだろうか。最後のひとかけらを美味しそうに頬張る蓮子に苦情を言おうと口を開いたところで、ナニカが私の口に突っ込まれた。

 

 

「むぐっ…⁉︎」

「私のチョコクロワッサンよ。交換交換」

 

 

口にチョコの味が広がる。この手のパンにしては珍しくチョコの味の方がパンより濃くて、チョコスポンジでも食べてる感じだ。ただ、さっきまでの私の食べていたのに比べると、

 

 

 

「ぱさぱさしてる…」

「パン屋のとは違うって言ったのはメリーでしょ。コンビニとかにも慣れとかないとお金がなくなった時辛いわよ」

「私は蓮子と違って無駄使いはしないのよ…」

 

 

2つ食べたせいですっかり喉が渇いてしまった。ペットポトルの紅茶で喉を潤して、残りのチョコクロワッサンを放り込む。蓮子を見ると、何やら公園の入り口辺りを見ながらカバンに荷物をしまい始めていた。

 

「どうしたの?」

「んー?ほら、もう人すっごい増えてきたわよ。パンも食べちゃったし、後は喫茶店かどこかで活動の話でもしましょう?」

「ん、それもそうね」

 

結局、桜なんて殆ど見なかったような気がするが、まぁある意味私達らしいといえばらしいだろう。荷物をしまい立ち上がると、蓮子は既に歩き始めていて、私はそれを慌てて追いかける。

 

 

「ちょっと蓮子、待っーー」

 

 

 

 

 

その時、強い風が吹いて。桜の花びらが舞い、前方を隠してしまって。

 

 

 

「あっーー」

 

 

無意識に手で前を覆う。けれど風の強さによろめいて、体制が崩れ、そのまま倒れこむーー

 

 

 

 

 

寸前に、手を掴まれて。そのまま手を引かれるままにその腕に倒れこんでしまう。

 

 

 

「確かに風は強いけど、メリーももっと体力つけた方が良いわよ?」

 

 

すぐ近くで声。見れば蓮子が、困ったような笑顔でこちらを見ていて。

そこでようやく、状況を理解する。

 

 

 

 

ーー蓮子の腕に、すっぽりと収まってしまっている。

 

 

少しの間、思考が停止する。けれどすぐに、我にかえって。慌てて蓮子の腕からするりと抜けだした。

 

 

「ご、ごめんなさい。よろめくと思わなくて…けど体力は無いわけじゃないわよ」

「あるに越したことはないわよ。とりあえずほら、喫茶店行きましょ?」

「え?」

 

 

目の前に、蓮子の手が差し出される。意味がわからず眺めていると、蓮子はにやにやとしながら、私の手をとった。

 

 

 

「またさっきみたいに転ばれても困るし、手でも繋いでいく事にするわよ!」

「ちょっと、私は別に平気ーー」

「さっきよろめいた人が言っても、説得力無いわよ。大人しく着いてくることね」

 

 

 

そう言われては、何も言い返せない。私は蓮子に勝てるほど口が回るわけでは無いのだ。

でも、こんな事も、たまには。本当にたまには、であるけれど。

 

 

 

 

 

 

ーー2人でなら、こんな事もいいかもしれないわね。

 

 

 

 

 

 

再び風が吹き、桜が舞う。そんな花吹雪の中を、手を引かれながら行くのだった。

 




<NEXT>
「いい加減活動もしっかりしないとね!」
「そう言われても、近頃怪しい噂なんて聞かないけど」
「だから私達が足で探すのよ!…ところでメリー、あんな所にお店なんてあった?」
「新しく出来たんじゃない?それにしては古そうな外観だけど」
「よーし、なら今日の活動場所はあそこにしましょう!」


【次回 ■■・■■■■■■■】
お楽しみに〜
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