科学世紀に大阪城は残ってるの?なんて事は置いといて。
「あ、いたいた!メリー、こっちこっち!」
「珍しく遅刻してないのね。遅刻してたら置いてく事も考えてたけど」
もっとも置いていく事は現実的に不可能なのだが。
カフェテラスで今後の予定を話し合った後の週末の早朝、私達は新幹線のホームに立っていた。無論秘封倶楽部の活動のためなのだがーー
「……私、今日の行き先聞いて無いんだけど」
「あれ?言ってなかったっけ?」
などとのたまう相棒からは、昨夜メールが届いたきりだ。しかも内容は、
『明日は朝から活動よ!新幹線に乗ってくから準備してホームに集合ね!』
という1文と当日の時刻のみという手抜きぶりだった。今すぐモバイルを起動してメールを叩きつけてやりたい気分だったが、軽く蓮子の足を踏むに留めておいた。
「痛い痛い、冗談だって。今回はなんとね…大阪まで出向くわよ!」
「大阪ね…何処か怪しい所はあったかしら」
カフェで蓮子に見せてもらった雑誌には確かに大阪も載っていたが、さしてめぼしいモノは無かったと思うのだが。
「それがね、あの後調べてみたの。そしたらなんと、大阪城に着物を着た女が徘徊しているそうよ!」
「百歩譲ってそれが本当だったとしても、それは私達の探してる様なモノとは違うんじゃない?」
「そこはほら、その女のところに境界があるかもしれないしね」
「適当ね…」
適当なのはいつもの事なのだが。そのタイミングでちょうど列車がホームに到着した。
「何はともあれ、詳しくは向かいながらよ!」
乗り込みながら蓮子が笑いかけてくる。やれやれと肩を竦めて、私も列車に乗り込むのだった。
♢
そしてやって来たるは大阪である。かつて「天下の台所」と呼ばれた様に、ここには様々な食文化が集まっていた。科学世紀になり天然の食材が滅多に食べられなくなった今でもそれは健在で、ここにある多種多様な食を求める人々は多いようだ。
我が相棒もさぞ喜ぶ事だろう。相棒の様子が普段通りであれば、の話だが。
「……大丈夫?」
「うう…飲み過ぎたかも…」
「かもじゃないわよ。いくら時間があるからって朝から飲酒は…オススメしないわ」
この相棒、乗るやいなや荷物から酒やらお菓子やらを引っ張りだし、そのまま小宴会みたくなってしまったのである。私は酒に強いわけでは無いのでお菓子をつまむ程度にしたのだが、正解だったようだ。
「とりあえずホテルでも取りましょう。しばらく休んだ方が良さそうだし、大阪まで来て日帰りする気なんてないでしょ?」
「流石メリー!分かって…うぷ…」
「はいはい分かったから。ホテルまでは頑張ってちょうだいね」
幸いにも明日は休日だ。そうでもなければ新幹線の距離をサークル活動には費やしはしないだろうと、私も蓮子も最低限の道具は持って来てある。
駅から近いホテルに入り、活動の時まで休む事となったのだった。
そして夕刻。
「蓮子さんふっかーつ!いやぁ空気が美味しいわー」
「ホテルを出るまで寝てただけでしょ、まったく」
ホテルに着くなり蓮子は寝てしまい、昼前の大阪に1人になった私は折角だからとたこ焼きなどの大阪名物を堪能し、趣味である本屋巡りをしてからホテルに戻り蓮子を叩き起こした。
そのまま蓮子をホテルから引きずりだし、目的の場所までのタクシーに乗り込み今に至る。
「もうちょっと優しく起こしてくれても良いじゃない…」
「そんな事してたら真夜中になるわよ。ほら、着いたわ」
タクシーを降りると、眼前には大阪城が広がっている。観光地としてある程度整備されており、夕刻でも観光客はそれなりにいる。
「よし、着物女が徘徊してるっていうのが本当か、確かめに行くわよ!」
「それ、今行って意味あるの?幽霊は夜に出るものよ」
「昼間でも目撃情報があるらしいから大丈夫よ!ほら、メリーも早く!」
…それは幽霊とは言えないのではなかろうか。何はともあれ、ここまで来たからには引き返す余裕も無い。私は蓮子に続いて大阪城への階段を登った。
ーーそして、結果から言えば何も得られなかった。
「もー、何よスタッフってー!紛らわしい格好してんじゃないわよ!」
「噂なんてそんなものよ。大体昼間にもいる時点で察しはついてたでしょ?」
私達が城内を見回っている時、観光客に紛れて確かに着物姿の女性はいた。だがそれを蓮子が先走って問い詰めた結果、その人はただの案内役のスタッフだったというオチだった。それでも負けじと隅々まで調べていた蓮子に付き合っていたおかげですっかり夜になってしまった。
「はぁ…無駄足…お腹空いたぁ…」
「蓮子はお昼も食べてないものね。コンビニで何か買ってーーあら?」
前方の明かりにふと足を止める。来た時は夕方だった為気づかなかったが、視界の隅にひっそりと営業中の店があった。すぐ隣の看板には「食事処」の文字も。
「あ、あれお店じゃない!やった、今夜はあそこで食べていきましょう!」
「あ、ちょっと蓮子…!」
言うやいなや猛然と走り出す相棒に慌てて追いすがる。そこまでお腹が空いていたのか。
「いらっしゃいませー」
店内は思ったよりも混んでいた。他の客も大阪城の見物帰りだろうか。店員さんの案内で2人がけのテーブル席に着いた。ちょうどおしぼりとお冷が置かれる。
「さてさてメニューメニューっと。ぱっと見洋食屋さんよねぇ、何食べようかしら」
「そうねぇ、折角なら普段食べない様なものを食べてみたいけれど」
とは言え、この時代に生きている身としては高級品以外で普段見ないようなものはあまりないのだが…と、蓮子がふと壁を指差した。
「メリー、おすすめだって。あれにしない?」
蓮子の指差した壁には、「人気No.1、オムライス」とでかでかと書かれた張り紙があった。
「あら、そういえばここ最近食べてないしそれにしましょうか」
「そうと決まれば善は急げよ。すいませーん!注文お願いしまーす!」
頼むからそんな大声を出さないでほしいのだが。他の人の視線が多少なりとも向けられ若干気まずい。相棒はそんな事気にも止めていないだろうが。
「オムライス2つで!」
「オムライスお2つですね。ケチャップかデミグラスソースお選びいただけますが」
おっと、予想外の選択だった。私と蓮子は一瞬顔を見合わせてーー
「私はケチャップで」
「私はデミグラスで」
店員さんが去っていく。お冷を飲んで一呼吸置いて、私と蓮子は向き合った。
「…蓮子、オムライスにはケチャップが王道よ」
「その考えは古いわメリー、メリーの事だからデミグラスはハンバーグにしかかかってないと思っているようだけど、今やデミグラスのオムライスの方が多いと私は思っているわ」
無言でしばし睨み合う。再び口を開こうとしたところでオムライスが運ばれてきた。
「お待たせしました、オムライスになります」
わあ、と私と蓮子は同時に声を上げた。
とろとろになった卵で覆われた端からケチャップライスが覗いている。その上に薄っすら光沢のあるソースがかけられて艶を出している。
「美味しそうね…」
「そりゃあ大阪はオムライス発祥の地の1つって言われてるくらいだからね。色々穴場とかもあるかもよ」
「へえ…」
蓮子が大阪に行くと決めたのはこの為じゃないでしょうね。なんて思いながらスプーンを入れる。まずは何もかかっていないところから一口。
「あ、美味しい…」
ケチャップライスと卵が互いを邪魔せずいいバランスで混ざり合っている。ケチャップライスに入っているコーンや鶏肉のお陰で食感も良い。
ケチャップのかかった部分もケチャップの酸味が効いていて美味しい。割と多めに盛られているが飽きずに食べ切れそうである。
「うんうん、やっぱりここにして正解だったわね!こっちも一口食べる?」
「あ、いいの?」
蓮子は頷くとスプーンを持ち上げて、
「はい、あーん」
「……」
一瞬動作が停止する。何食わぬ顔でスプーンをこちらに差し出す蓮子を見て、
「…ここお店の中なんだけど」
「大丈夫大丈夫、誰も気にしないわよ。それともいらない?」
「……」
ええい、なるようになれ。蓮子の差し出したスプーンを素早く口に運ぶ。
「…あ、こっちも美味しい」
デミグラスの方は旨味が凝縮されていて濃厚だった。もし次来る事があればこっちも試してみようかしら。
「うん、ケチャップもいけるわね」
蓮子の方も私のオムライスを勝手に食べていた。お互い様なので構わないのだがそれは私のスプーンでは無いのか。
「メリーだって私のスプーンで食べたんだからこれこそお互い様よ」
意地の悪そうな顔で言う蓮子。人の心まで読まないで欲しい。
「ありがとうございましたー」
食べ終わり、店から出ると空には星が広がっていた。
「はぁ、美味しかった。どうメリー、私の言った案も中々のもんでしょう?」
「少なくとも今回に関しては認めざるを得ないわね」
オカルトの方は振るわなかったが、確かにあのオムライスも中々のものだった。さっきのようにスプーンを差し出されるのは出来れば遠慮したいが、それを相棒に言っても詮無い事だろう。
「あ、ここ以外とホテルから近いみたいよ。行きにタクシー使う必要なかったわね」
モバイルの地図を広げながら蓮子が言う。確かに距離はそれほどでも無いが、よもや忘れているのだろうか。
「タクシーを使ったのは主に蓮子の体調面を考えての事なんだけど、それについて何か言う事は無いのかしら?」
「……ゴメンナサイ」
「まぁ、オムライスを食べれたのは蓮子のおかげという面もあるし、これでチャラね」
微笑みながらそう言うと、蓮子も笑っておもむろに歩き出す。私も同じ足取りで蓮子に並ぶ。
「そうこなくちゃ!さあ、夜もいい時間だし、星でも見ながら帰りましょう?」
「ええ、はしゃいだりしないようにね」
満天の星空の下で、私達は歩き始めたのだった。
<NEXT>
「決まってないって何よ!」
「ま、まあまあ…元々ネタが浮かんだら書くくらいらしいから仕方ないんじゃない?」
「もうバレンタインよ!?私とメリーのバレンタインの事とか書くことは山ほどあるでしょうが!」
「なにかあったかしら」
「ひどい…」
「まぁ可能性ね。それが駄目なら…そうね、私と蓮子の出会いの話でもしましょうか」