「……」
黙々と、キャンパス内を食堂に向かって歩く。いつもなら隣に蓮子の姿があるが、今日は私1人だ。
蓮子はといえば、何やら講義の事で岡崎教授に呼び出されているらしい。テストの成績はともかく遅刻癖のありそうな蓮子のことだ、出席数が足りずに単位が取れない、なんて事にならなければ良いのだけど。
どうあれ、そのせいでお昼は別行動となった。私は講義が終わるや早足で食堂に向かい、どうにか空いている席を確保する。
「ええっと…特に食べたいものが無いのよね…」
学食のメニューの前で頭を悩ませる。蓮子がいれば同じものに合わせていて考える事は無いけれど、その機会が多かったせいか1人で学食となると食べたいものがあまり浮かんでこないのだ。
「…日替わりでいいかしら」
確か、前は生姜焼きだったろうか。たまにはランダムなのも良いだろうと、日替わりメニューを選択して受け取り口に行く。正面に立つと同時に皿の載ったお盆が流れてくる、そこに盛られていたのは。
「ええっと…ドライカレー、だったかしら?チャーハンがどうみたいな名前もあった気がするけど…」
カレー色をしたご飯にみじん切りにされた野菜、それに不釣り合いな位に大きな鶏肉に、輪切りにされたゆで卵がのっている。受け取って近くに持ってくると、ほのかに漂うスパイスの香りが鼻や食欲を刺激した。
これは意外と辛そうだ。気持ち水を多めについで、スプーンで小さくすくいとる。そのまま鶏肉と一緒に一口。
「はふ、美味しい…ん、でもちょっと辛い…」
見た目以上に鋭い辛さに、思わず目をつぶる。出来立てのそれをどうにか飲み込んで、水を飲んで一息いれる。
「ふぅ…思ったより、割と辛いのね…」
メニューを遠目に見れば、確かに隅に小さく“辛さ注意”の文字が見えた。もっと見える位置に大々的に書いてほしいものである。
と、ふと思い当たる。ゆで卵はこういう時のためのものでは無いのか。早速今度はゆで卵も一緒に大きく一口食べる。
「うん、うんやっぱり」
ゆで卵のお陰でいくらかマイルドになり、より楽しめるような味だ。入っている大ぶりの鶏肉も若干スパイシーでどんどん手が進んでいく。あっという間に、半分程食べてしまった。
「ふぅ…」
水を飲み干し、口を休める。その間に、ふと、この間の事を考えていた。
蓮子と2人、不思議なバーに行った帰り道。バーでの出来事も充分不思議ではあったけれど、それを上回るであろう事が起こってしまった。
私は、視界に謎の亀裂を見た。
一瞬の出来事であったから、疲れていたのだと言われればそれまでかもしれない。けれど、私はどうにも、それで納得できる気はしないのだ。いつか、またあの亀裂を空に見るような気がして、どうにも落ち着かないのだ。
「ねぇ、蓮子はどうーー」
無意識に、目の前に話しかけようとして、口を閉じる。今は、私1人だけで。蓮子がいない事を、すっかり失念してしまっていた。
ここ数ヶ月、秘封倶楽部の活動が盛んで、蓮子と一緒にいる機会が増えたからだろうか。なんとなく、蓮子が居ないと落ち着かないのだろうか。
「…まさか、ね」
蓮子に振り回されるせいで、それが一般化してしまっただけだ。一般化して欲しいとは、そこまで思っていないけれど。
どうあれ。帰る時には、蓮子と一緒に帰れるだろうか。食べ終わったらメールでも入れる事にしよう。
水をおかわりして、残りのドライカレーを口に運ぶ。下の方が辛味があるのか、先程より強いしびれるような辛さの中、どうにか完食したのだった。
「ごちそうさまでした、と」
思ったよりも時間がかかってしまった。3杯目になる水を飲み干し、カレーの皿を返却する。食べながらデバイスを眺めたりはしていたが、やはり蓮子がいないとどこか寂しく感じるものだ。そう思うあたり、私も蓮子の影響を受けているといえるかもしれない。
「さて、蓮子にメールを…と」
幸いこの後講義は無いため、蓮子の方が終わるまで図書館にでも行って時間を潰すとしよう。
そう思いデバイスを開こうとすると、丁度メールの着信音が響いた。表示された名前は、蓮子のもの。
「あら、何かあったのかしら…」
活動に関する何かか、あるいは今の用事の事か。そう思いメールを開いた私は、しばし呆然とするほか無かった。
「……え?」
メール自体は、急いでいたのかたったの1文だけのそっけないもの。けれど私は、その普段見ない内容を、しばし認識出来なくて。
つまるところ。
『ごめんメリー、今日、メリーの所に泊まらせて!』
ーーたったこれだけを把握するのに、私は数分の時間を要することになったのだった。
<WARNING>
「……」
「こ、これから来るの⁉︎」
「とりあえず、部屋を掃除しないと…」
【次回 緊急、秘封お泊まり会⁉︎】
お楽しみに〜