【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

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さっぱりした物が食べたくなる季節ですねぇ
ところで岡崎研究室の面々はイマイチ喋りが掴めないのが…


岡崎研究室の叡智?

晴れ渡った青空に、セミの鳴き声が響いている。

部屋で読書をする分には中々聞こえてこないものだが、この夏に外を歩くとなれば必ず聞こえてくるこの音は、なるほど確かに暑さとの相乗効果で外出意欲を削がれるものだ。

 

 

「あっつい…こんな日に外出なんてしたら干からびるわよ…」

「それに付き合わされてる私の身にもなって欲しいものね…」

 

 

いつもは無駄に元気な相棒も、こんな日には流石にいつも通りとはいかないようだ。トレードマークの帽子を深く被り、うなだれながら歩く姿はさながらゾンビだ。私もうなだれてこそいないものの、いつもの帽子に加えて日傘をさす位には参っている。

 

 

 

「…それで、なんで私まで外に連れ出されてるかって話なんだけど」

「しょうがないじゃない、教授に友達も連れてきていいなんて言われたけど、思いつくのがメリーしか居なかったのよ」

「よりによって1番暑い時間帯に……」

 

 

今私達が歩いているのは、普段に比べてめっきり人の減った大学のキャンパス。蓮子が何事か教授に呼びだされた言わば付き添い、悪く言うなら巻き添えだ。

昼前に急に呼びだされ、こうして蓮子と歩いているわけだが。私はもちろん、当の蓮子すら呼びだされた理由は知らないという。てっきり課題が終わっていないだけだろうと思ったが、それなら私を呼ぶ必要もなし。

 

そんなことを考える内に、蓮子の足が止まった。だが足を止めた場所は普通教授のいる研究室では無く、大人数の講義などで時たま使う講堂だった。

 

 

「ここで良いの?」

「ここって言ってたけど…なんなのかしらね」

 

 

蓮子も困惑した様子で、扉に手をかける。ゆっくりと開かれた扉の向こうには、

 

 

 

「失礼しまーーうわぁ…」

 

 

蓮子が口を開けたまま半分固まっている。私も目に入ったそれを、何なのか理解できずにいた。

 

 

 

そこは、普段目にする講堂では断じて無く。

 

 

恐らく金属製であろう、異常な形をした管のような物が不規則に組み合わさり、さながら鉄の迷路のような光景だ。あまりにも巨大なそれが、講堂の大部分を占拠してど真ん中に鎮座していた。

 

 

「おっ、来たわね」

 

 

何処かから声が響く。見渡せば、壇上に真っ赤な影があった。確か以前に1度だけ会った蓮子の教授、岡崎教授だ。

 

 

「教授…コレ、いったい何です?」

「見てわからない?」

 

 

驚き半分、呆れ半分といった調子で蓮子が尋ねる。見て分からないかと聞かれれば、全く分からない。蓮子もそれは同じようで、様々な角度から見ては首を傾げている。

 

と、背後の扉が勢いよく開かれた。

 

 

 

「おーい教授ー、作って来たぜー…って、ん?」

 

 

入ってきたのは、小柄な少女。薄く金色をした髪をサイドでまとめて、何故か今のご時世見ることの無くなったであろう制服の様なものを着用している。確かセーラー服といっただろうか?

 

手には相当大きな鍋。彼女は私達を見て一瞬疑問を浮かべた様だったが、すぐに教授の元へ鍋を運んでいった。

 

 

「ありがと、ちゆり。2人もこっちに来て、始めるわよ」

「だから何をですか…?」

 

 

今度こそ呆れ全面で蓮子が問う。その問いに大して、教授は懐から長い箸を取り出した。

 

 

 

 

 

「そりゃあ夏といったら、流しそうめんよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

流しそうめんというのは、本来家の庭程度の広さの場所で行う物だ。竹を半分に割った物だかを用意して水を流し、そこにそうめんを流して食べる。

 

断じてこんな講堂で、曲がりくねった金属に流して行うものではない筈だ。

 

 

「お昼食べるなら先に言ってくださいよー」

「先に言ったらつまらないじゃない、サプライズも大事よ」

「限度があります!」

 

 

そう言う蓮子は言葉ほど憤慨してもいない様で、お椀と箸を手にそうめんが流れてくるのを待っている。

私の手にも、お椀と箸がある。右に蓮子、左にはセーラー服の少女がいる。岡崎教授は講堂の反対側からそうめんを流す役割らしく、視界の端に赤色がちらつく程度である。

 

 

 

「そういえば自己紹介してなかったな。私は白北河ちゆり、教授の助手だ。しかし、教授の講義とかよく受けてられるよな」

「…何か問題でもあるんですか?」

「教授は変わりもんだからな。講堂にこんなデカい物作っちまった時点で完全にヤバいやつだぜ」

「ちょっと、聞こえてるわよ?」

 

 

反対側から教授の重い声が響く。ちゆりさんはやべ、と困ったような笑みを浮かべていた。

 

 

「メリーメリー、そうめん来たわよ」

 

横から楽しそうな蓮子の声。見れば、鉄の迷路をそうめんが駆け抜けて来ていた。迷路が長いからか結構な速度が出ている。

 

 

「おっ、とと」

 

 

逃しそうになりながら、どうにか蓮子がそうめんをキャッチする。どんどん流れてくるそうめんを、私もどうにか箸ですくってお椀に移していく。

 

 

「よいしょ、っと…」

 

 

さっと麺つゆにつけて、口へと運ぶ。しっかり冷やされたそうめんの涼しさが心地良い。

普通のそうめんよりも随分甘味の強い味がする。それでもすっきりとした後味なのは、やはり夏に冷たいものを食べているからか。

 

 

流れてくる量が、段々と多くなってきた。殆ど矢継ぎ早と言っても良いペースだ。流しそうめんはこんな具合に自分のペースで食べる事が中々難しい点はあるが、それでも嫌いではない。

 

 

隣では、蓮子が嬉々とした様子でそうめんを食べている。ちゆりさんも、教授の事を変わり者と言いながらもこのそうめん自体は特に文句もないようで、黙々と麺をすすっている。

 

 

 

と、少しの間そうめんの供給が止まった。すぐにまた流れてきたが、少し、いやかなり変わった麺だった。

 

 

「何かしら、この麺…」

「薄っすらピンクだけど、うーん」

「ああ、苺そうめんな。教授がどうしてもって言うから買ってきたんだ」

 

 

 

そんなものまであるのか、今は。隣を見れば、蓮子も引きつった顔で苦笑いをしていた。

 

 

「苺好きってのは知ってたんだけどね、ここまでとは…」

「苺系なら何でも食いつくぞ、教授は。単位がヤバくなった時にケーキでも持ってけば多分1発だ」

 

仮にも助手の立場の人が言っていい事なのか、それは。そういえば助手と言ってはいても、ちゆりさんは私達よりも小柄だ。いったい何歳なのだろうか。

 

 

ともかく、苺そうめんとやらをつゆにくぐらせる。蓮子はつゆが合わないと思ったのか、そのまま意を決したように食べていた。

 

 

 

 

「んー…ほんのり、香りがするわね」

 

 

普通のそうめんよりも少しだけ弾力があり、食感としては楽しい感じだ。苺の風味が少し感じられるものの、味が前面に出ているわけではない。少し甘い位のつゆと相性ピッタリな味だ。

 

 

「気に入ってもらえたかしら?」

 

 

いつの間にか、すぐ近くに教授がいた。前と同じ真っ赤な衣装で、手に持ったお椀には苺そうめんがいっぱいに入っている。

 

 

「は、はい…」

「教授の変人っぷりはしっかり教えといたぜ…ぎゃふっ」

 

 

胸を張るちゆりさんの頭に教授の拳が振り下ろされた。動きが全く見えなかった。

 

 

「2人の中に割って入るのは悪いとは思ったんだけど、誰かに完成品を確かめて貰いたくて」

「はぁ…2人のって?」

「え?」

 

 

私の問いに、教授は僅かに目を見開いた。

 

 

 

 

 

「宇佐見さんとハーンさんってそういう関係じゃないの?」

「違います‼︎」

 

 

 

何て事を言うのだ、この人は。よもや蓮子が何か言ったのかと蓮子を見れば、蓮子も何やら慌てた様子で目を見開いていた。

 

 

「そ、それよりこの迷路、何でこんなところに作ってあるんですか?」

 

 

これ以上追求されまいとしたのか、蓮子が素早く話題転換をする。それに対する教授の回答は意外なものだった。

 

 

「ああ、近々ウチで夏祭りがあるでしょ?私達の研究室でコレ出すの」

「…この迷路をですか?」

「もちろん。最高の流しそうめん体験が出来ること間違いなしよ!」

 

 

 

 

 

自信満々にそう言ってのける教授に、私達は3人揃って苦笑いを浮かべるしか無かった。

 

 

 

 

 

 

「そうそう、宇佐見さん」

「はい?」

 

 

全てのそうめんを食べ終わり、そろそろお暇しようとしたところで教授から声がかかった。

 

 

「貴女にちょっと話があるんだけど。主に夏前に出した課題について」

 

 

 

蓮子が何度目かの引きつった様な顔を浮かべる。その後、私に困り顔で振り返った。

 

 

「…そういう訳だから、先に帰っててもらって良い?」

「元々そのつもりだったから問題ないわよ。しっかり叱られてくる事ね」

「メリーひどーい…」

「自業自得でしょ。じゃあまた、夏祭りにでもね」

 

 

蓮子は何事か言おうとしたが、教授に襟首を掴まれて引きずられて行く。

 

普段は見られないその姿を少しおかしく感じながら、私は講堂を後にした。

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

「ちょ、離してくださいってば〜!」

「あら、ごめんなさい。ついうっかり」

 

 

ひょいと襟首から手が離される。メリーが講堂を出てすぐの為、まだ講堂の中だ。

 

「ついじゃないですよ…」

「そうそう、それで話ね。課題は全然関係ないんだけど」

「ええ…」

 

 

 

「貴女、本当にハーンさんが好きなのね」

「!」

 

 

思わず表情が強張る。それを見て、教授はからからと笑った。

 

 

 

「やっぱりね〜。学内に夏祭りの案内が出る前に私に祭りの事を聞いてきたから、そうなのかなって思ったのよ。最近はいつもハーンさんと一緒に居るじゃない?」

「だからって、それは友達としてで…!」

「私は別に“恋愛対象として”なんて言ってないわよ?」

「…!」

 

 

教授の笑みが更に深くなる。そして懐から、1枚のメモ用紙を手渡した。

 

 

「はいこれ。当日あんまり人の来なさそうな出店と、良さそうなスポットね。屋上の鍵もこっそり開けておくからそこでも良いわよ」

「ちょ、ちょっと…!」

 

 

話の進みについていけない。だが教授はぐいとメモを押し付けると、そのまま踵を返した。

 

 

 

「まぁ考えるのは貴女だから、そこはちゃんとね。私はその先の行動を応援するだけだから」

「…教授は、変だと思わないんですか?私が、メリーを…」

「さあ、私は“変わり者”だから。ちゃんとやりなさいよ?」

 

 

 

そう言って、教授は講堂から出て行った。

 

 

 

その背中に小さく、頭を下げて。

教授からのメモを手に、私も講堂を後にした。

 

 

 




<NEXT>
「ねぇ、メリー」
「……」
「私、貴女の事がーー」


【次回 夏空に響く言葉は】
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