【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

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章区分でもしようかと思ったけど良さげなタイトル思いつかなかったから無しよ
ちなみに前編なので食描写はナイヨ


幻視・紅の館のティーパーティ 前編

遥か下に、いつもより重い足取りで歩く相棒の姿が見える。僅かな明かりに照らされていた姿もすぐに見えなくなってしまって、私はそっと踵を返した。

 

 

「……」

 

 

さっき、蓮子は何を言おうとしたのだろうか。本人は何でもないと言っていたが、流石の私でもそうでないことは何となく分かった。

 

 

「でも、本人に聞くのもあれよね…」

 

 

まぁ、言わないという事はさして重要なことでもないという事か。私は1人、月の照らす帰路につく。

 

 

今度会うときは、何か蓮子の好物でも奢ってやった方がいいか。ぼんやりとそんな事を考えながら、家に入ってそのままベッドに倒れこむ。

 

 

 

「……」

 

 

いっそ、本人に聞いてみようか。そう思ってデバイスに伸びた手は、けれど画面に触れる前に引っ込められる。

 

言い辛い事を、無理に言わせる必要もない。けれど、今日の蓮子がどこかおかしかったのもまた、気にかかるのだ。

 

 

いつもよりぼうっとする時が多かったり、いつもよりこちらを見ていなかったり。普段なら私を振り回してばかりの相棒が、今日はやけに大人しいように、感じたのだ。

 

どうあれ、いつ何を言うかなど蓮子の自由だ。無理に私が介入する必要は、やはり無いのだ。半ば無理矢理に言い聞かせて、目を閉じる。

 

 

蓮子の事だ、きっと明日にはいつも通りに戻っているに違いない。もしくは今日感じた事も、ただの私の勘違いか。

 

 

そうであってほしいと、心の何処かで思いながら。私はそっと、睡魔に身を任せて───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

「う……」

 

目を開けたそこは、見知った場所ではなく。薄く霧のかかった場所に1人で、ぽつんと突っ立っていた。

 

 

「…また、夢…?」

 

 

霧の中を1歩前に進む。すると、前方に巨大な建物の影がうっすらと浮かび上がってきた。同時に、頬を冷たい感触が撫でる。

 

 

「やだ、雨…」

 

 

呟く間にも、段々と雨が降り注ぐ。とりあえず、前方に見える建物に向かって走る。だが建物がはっきりとしてくると、私の足はむしろ遅くなっていった。

 

 

視界に映るのは、紅。全体を紅く色づけられた館が、目の前に鎮座していた。

 

 

流石にここに雨宿りに立ち寄るのはまずくはないか。そうも思うけれど、ますます強くなる雨に他に対処ができるわけでも無し。私は走る速度を上げ、眼前に広がる門を押した。

 

 

 

門には、鍵がかかっていなかった。抵抗なく開いたそれに一瞬躊躇して、それから1歩踏み込む。そうして辿り着いた館の扉を、気持ち強めにノックする。

 

 

「ごめんくださーい…」

 

 

反応はない。聞こえていなかったかともう数回ドアを叩くが、同じ。留守かとも思うが、ならば門にも鍵くらいはかかるはずだ。

 

 

そっと扉に手をかける。ゆっくりと扉を押すと、これも抵抗なく開いてしまった。

 

 

「……」

 

 

 

静かに足を踏み入れる。誰かいないか探して、それから改めて雨宿りを頼めば良いだろう。そう思って、館を進もうとした時だった。

 

 

 

 

「…貴女、だぁれ?」

「!」

 

 

子供のような声。振り返れば、扉の前に少女が立っていた。

金色の髪に真紅の目、手には1冊の本。

 

 

 

けれどそれよりも目を引くのは、少女の背から伸びる、七色の結晶のような物がついた羽だ。

 

真紅の瞳がこちらをじっと見つめる。なんとも言えない息苦しさを感じて、私の言葉はしどろもどろになってしまう。

 

 

「あ、ええっと…雨宿りを…」

「雨宿り?なら、こっちで私達とお茶しましょう!」

 

 

目を輝かせて言うや、こちらの裾を引っ張ってくる。断るわけにもいかず、引っ張られるまま少女についていく。

 

 

 

「私、フランドール!フランって呼んで!貴女は?」

「私は…メリーって呼んで」

「メリーね!早く行きましょう!」

 

 

引っ張る力が相当に強い。嬉々として走る少女…フランちゃんとでも呼ぼうか。その足は、ある部屋の前で止まった。そのままの勢いで扉を開け放つ。

 

 

 

 

「お姉様ー!」

「フラン、そんなに大声を出さないの…誰それ、人間?」

「うん。雨宿りしたいって言うから、連れてきちゃった!」

 

 

 

 

中には様々なお菓子の並べられたテーブルと椅子。その内の1つに、少女…フランちゃんと同じくらいの背丈をした、もう1人少女が腰かけていた。

同じく紅い瞳。やはりと言うべきか、背から羽も伸びている。こちらはコウモリなんかが持つ様な羽だ。

 

 

「ふぅん。まぁ良いわ。そいつの分も咲夜に紅茶を持って来させるわ。アンタ、名前は?」

「あ、メ、メリーです」

「メリーね。…咲夜、いる?」

 

 

少女が声をかけると同時に、背後に気配。見れば、綺麗な銀髪のメイドさんがその場に佇んでいた。足音も、扉を開ける音も聞こえなかったというのにだ。

 

 

「お持ちしました、お嬢様」

「ん、ありがと。じゃあ、皆でお茶会…と思ったけど、パチェが居ないじゃない」

「パチュリー様はまだ図書館に。妹様に本を返してもらうと仰っていましたよ」

「あ、忘れてた。すぐ返してくるわ!メリー、行きましょ!」

 

 

何やら話した後、何故かフランちゃんは私の裾を再び引いた。

 

 

「え、ええっと…」

「悪いけど、行ってあげてくれる?フラン、1度言い出したら聞かないのよ」

「はぁ…」

「でしたら、こちらを。パチュリー様の分の紅茶はお届けしましたが、まだメインの焼き上がりにはかかりますので」

 

 

言葉と同時に、私の手に突如小さめの銀盆が現れる。載っていたのはクッキーと紅茶だ。見れば、フランちゃんも同じものを抱えていた。

 

「図書館へは、妹様に着いて行って下さい。申し訳ありませんが、お願いします」

 

メイドさんが軽く頭を下げる。私も礼を返したところで、フランちゃんが待ちきれないと言わんばかりに部屋を出て行った。慌てて私も後を追う。

 

 

 

「早く早く〜」

 

廊下ではフランちゃんがクッキーをぱくつきながらこちらを見ていた。慌てて駆け寄ると、フランちゃんは図書館とやらへと向かって歩き始める。

 

 

 

「えーっと…」

 

 

こういう時は何か話すべきだろうか。だがあまりに急すぎて何を話して良いやら分からない。そもそも何故私は紅茶を手に歩いているのか。

 

 

「ねぇ、メリー」

「あ、…何?」

「この本、パチェから借りたんだけどよく分からなかったの。外の世界の本だって言うから、メリーなら知ってる?」

 

 

そう言って、ひょいと本が手渡される。見れば、なるほど有名な作家の本だった。

 

 

 

「えーっと、“そして誰もいなくなった”ね…確かクリスティの推理ものね」

「クリスティ…?それ、面白いの?」

「ええ。ただ小さい子の読むようなのじゃないと思うのだけど…」

「えーっ、フランはメリーより歳上よ。人間で私達より長生きなのなんて殆どいないんだから!」

「そうなの…?」

 

 

やはり、彼女は人間ではないのか。羽が生えている時点で何となくわかってはいたが、そういうモノと今肩を並べて歩いているのか。

何とも返せず、視線を本に戻す。すると、何か違和感を覚えた。

 

見た目は、確かに私の知っている本だ。けれど何か、いまいちこれがクリスティだと言われてもピンとこないような、そんな感覚。

その感覚は、本を開いてある種の納得へと変わった。

 

 

 

「これ…本物じゃないのね」

 

 

中の文は全て手書きか何かで書き写されていた。表紙も模写でもしたのか、かなり精密ではあるが目を凝らせば微妙に違う。とは言え、少し見ただけでは分かりようもない。これでは体のいい贋作同然ではないか。

 

 

「…?パチェが貸してくれた時からその本はそのままだったわよ?パチェから何か知ってると思うから、聞いてみましょ!」

 

 

 

足が止まる。目の前には、少し古びた扉が鎮座していた。フランちゃんがゆっくりと扉を押し開ける。そのまま中に入り込むのに私も続く。

 

 

 

夢にしては、随分と長い夢だ。こんな館も少女も、全く覚えのないものである。けれど、何故か今それよりも重要な事に思えるのは。

 

 

 

 

 

 

 

───図書館なら、内部での飲食はご法度ではないのか。

 

 

 

 

 

そんな、夢ならどうでもいいような事を思いながら、私は扉の向こうに足を踏み出した。




「妹様とお嬢様は大変仲がよろしいのですわ」
「以前に喧嘩で館を飛び出したりもしたけどね」
「ねぇ、メリー。また会える?」


【次回 紅の館のティーパーティ 後編】
お楽しみに〜
食要素無くてスマンノ
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