【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

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もう1年の6割終わったってマジ……?


ターニング・ポイント

走る。

走る。

 

 

蓮子の家はそう離れているわけではないけれど、いつまでも進めていないような錯覚をして、頭を振る。

 

呼吸が荒い。足が重い。恐る恐る端末を覗き込んでも、蓮子の表示は、やはりどこにもない。

 

 

「蓮子…」

 

 

視線を上げれば、蓮子の家はすぐそこだった。私は駆けより、はやる気持ちを抑えてインターホンを鳴らす。

 

 

大学が休講の今日、この時間から蓮子が外に出る用事など普通はない筈だが、もしも反応が無ければ。

 

 

 

 

 

そんな思いは、目の前であっけなく消え去った。

 

 

 

 

 

鳴らしてすぐに、解錠音が響く。中から姿を現した人物を、私が見間違うハズも無かった。

 

 

 

 

「蓮子…」

 

「ん、おはよメリー。こんな時間にどうしたの?」

 

 

 

目の前には、いつも通りの蓮子がいて。いつものように、笑っていて。

 

 

 

 

「───っ!」

 

 

 

 

 

 

気付けば私は、半ば突っかかるように、蓮子に身体を預けていた。

 

 

 

「わ、メ、メリー?」

「……」

 

 

口から漏れるのは、安堵の息。私の腕の中にいる相棒は、困惑しながらも私の頭にそっと手を乗せてくれた。

 

 

 

「端末から、蓮子のデータが消えてて…何か、あったのかって…」

「大丈夫大丈夫。ホラ、この通り、何ともないわよ」

 

 

僅かに頬を赤くした蓮子が大仰に手を広げてみせる。同時に、頭をわしゃわしゃと撫で回される感覚。

見れば、蓮子は今までのどの顔よりも優しげな顔で私を見つめていて。

 

 

 

「大丈夫、蓮子さんに何かあるわけ無いわよ。まだ2人でやりたい事だって沢山あるんだから、ね?」

「……そう、ね」

 

 

面と向かって告げられた言葉に、私はわずかにそっぽを向いて応える。真正面からこういった言葉を言える蓮子は、正直少し羨ましく思うところもある。

 

ともかく、蓮子に何もないようで何よりである。そう思うと、急に眠気が顔を出してきた。噛み殺す必要も無いかと大きく欠伸をしていると、蓮子が吹き出すように笑い出した。

 

 

 

「メリーったら、そんなに急いで起きてきたの?すごい眠そうな顔してるわよ」

「ええ、誰かさんのせいでね…ふあぁ」

 

 

目元を擦っていると蓮子がくいと自分の部屋の方を指差した。なんだろうかと見てみれば、先には案外綺麗に整えられたベッド。

 

 

「……何」

「ん?眠いなら寝ていいわよ、って事だけど?」

 

 

事だけどではない。簡単に自分のベッドを明け渡すやつがいるか…と、思いはするが。考えてみれば別に見ず知らずの異性でも無いのだから、遠慮は必要ないのかもしれない。

 

 

「じゃあ、お言葉に甘えて少し寝させてもらうわ」

「あら、もう少し何か言ってくるかと思ったけど意外ね」

「眠くてそれどころじゃないのよ…どうせ大学も休みだし」

 

 

すっかり寝る気万全の声だなと自分でも薄々自覚しながらも、歩みを進めて蓮子のベッドに潜り込む。途端に押し寄せる睡魔に抗う気も無く、瞼が落ちる。

 

 

「───」

 

 

何事か、蓮子が呟く。聞き取れず、薄く目を開けて、蓮子を見て。けれどそれ以上の事は出来ずに、私の意識は沈んでいく───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼▼▼

 

はっとして、飛び起きた。

身体を預けているのは、蓮子のベッド。外からは鳥の鳴き声が聞こえて、どうやらそう長くは眠っていなかったのだと思う。

 

端末を見れば、お昼を少し過ぎた程度。そのせいか台所と思わしき場所から何やら調理する音が聞こえる。

その音を聞きながら、私は軽く寝返りをうってため息をついた。

 

 

いくら予想外だったからと言って、柄でもない事をしてしまったと、冷静になった今になって思う。

 

 

 

 

───けれど。けれど私がああまでする程に、私の中で蓮子の存在は、大きくなってしまっている事もまた、事実なのかもしれない。私がまだ、それを自覚できていないだけで。

 

 

 

 

「あ、メリー起きてたのね。軽くだけどお昼作っちゃったから食べましょ?」

「…蓮子って料理するのね」

「少なくともメリーより出来る自信はありますわ」

 

 

 

食卓に並ぶのは白米と肉野菜炒め、ここ最近あまり見ない和食だ。蓮子はどちらかといえば和食が好みな気がするが、まさか自分で調理するまでとは思ってもなかった。

 

 

「…ねぇ蓮子」

「んー?」

「私の端末には蓮子の連絡先とか無いんだけど…蓮子の方は大丈夫なの?」

 

 

箸をとる前に私が言うと、蓮子はどこか気まずそうな顔をして、自分の足元に置いていた端末を差し出した。

 

 

「それが昨日、メリーと別れてから急にデータが飛んじゃって…復旧まで少しかかるとかで、貸し出された端末なのよ、今持ってるの。だから少し経ったら元通りになると思うんだけど…」

「……」

 

 

 

何があったかと思えばそういうことか。差し出された端末も、少し古いものになっていた。

 

 

「ならその時点で連絡くらいしてくれたっていいじゃない。アドレスは分かるでしょう?」

 

「このご時世に非通知で電話かけても普通は拒否されちゃうわよ。設置型電話なんてもう殆ど普及してないし、何よりメリーは非通知でかけても取らない確信があるわよ」

 

「…確かにね。端末1つで片付けようとするのも、色々問題ね」

 

 

そんなわけでこっちのアドレスも一応登録しといて、との蓮子の言葉に従って登録する。何はともあれ、これで万事解決だ。

 

 

端末をしまって、食事に手をつける。やや塩味が強いが、充分美味しいレベルの野菜炒めだ。下手に口を出すとまた私よりも料理が出来るなどと言うので口に出しはしないが。

 

 

 

「美味しい?」

「…まあまあね」

「素直じゃないわねぇ」

 

 

大仰に肩をすくめる蓮子から、僅かに視線をそらす。

 

 

 

 

…何故だろうか。蓮子の顔を、上手く見れない。さっきまでの取り乱しぶりのせいだろうか。

 

 

「メリー?」

 

 

 

蓮子が首を傾げる。私は何でもないと首を振り、もそもそと食事を口に運ぶ。

 

 

 

 

 

「いやーでも、まさかメリーがあんなに慌てて家に来るなんて思わなかったわ。蓮子さんも案外大事にされてるのね」

「……」

 

 

 

悪戯っぽく笑う蓮子に、いつもの私なら何がしか言い返していただろう。

 

 

けれど今の私には、どう返していいのか分からなくて。

 

 

 

……私は蓮子の事を、大事だと思っているのだろうか。

大学で最初にできた友人で、それからよく分からないサークルに引きずり込まれて。

付き合いの長さはともかく、濃さで言えば間違いなく今までで最大のものだ。

 

 

 

けれど。

いくら付き合いが濃いからと言って、友人相手にこう思った事など1度もない。少なくとも私はそうだ。

 

 

 

蓮子なら、こんな悩みでも理解してくれるのだろうか?

 

 

一瞬だけ視線を移して、すぐにまたそらす。私個人の勝手な悩みに、蓮子を巻き込むわけにもいくまい。

 

蓮子はやはりいつも通りのままで。それがほんの少しだけ、恨めしいくらいだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局最後まで、その疑念が晴れることはなくて。食事を終えた私は軽く礼だけ言って、家を後にする事にした。

 

 

 

「…じゃあ、私はそろそろ行くわ。急に押しかけて、ごめん」

「大丈夫よ。どうせ大学さえ無かったらお互い暇でしょ?」

 

 

快活に笑う蓮子に、私も軽く笑みを返して。踵を返そうとしたところで、不意に蓮子から呼び止められた。

 

 

 

 

「メリー」

「何?」

「んー、えっと…」

 

 

珍しく歯切れが悪い。少しだけ悩むような素振りを見せた後、蓮子は少し照れたように笑って。

 

 

 

「メリーが慌てて来てくれた時ね…あんまり上手くは言えないけど、その…嬉しかったわ。それだけ」

「……」

 

 

 

 

どくん、と。心臓が跳ねたような、そんな音が聞こえた。

 

 

動悸が早まる。何とか表情には出さないようにしながら、私は今度こそ踵を返す。

 

やはり、今日の私は変だ。今蓮子の顔を直視しようと、出来ない。目を合わせてしまったらどうなってしまうのか、私は想像出来なくて。

 

 

 

 

 

「…別に、少し焦っただけよ。次からは何かあったら連絡くらいしてよ?」

 

 

 

それだけ言って、歩き始める。背後で扉を閉める気配。振り向けば、笑顔のままの蓮子が手を振っていて。私も手を振り返して、扉は閉ざされる。

 

 

 

 

「……」

 

 

 

しばしその場に佇んで。私は帰路に向かって歩き出す。動悸はいつのまにか元通りになっていた。

 

 

 

 

何故突然、こんな事になってしまったのか。今日目が覚めるまでは、何も異常なぞ無かったというのにだ。

 

「…蓮子」

 

 

呟くように、名前を呼ぶ。その時の私は、どこか安心したような気持ちで。その気持ちに1つの心当たりを覚えて、私は首を振る。

所詮、多少本をかじって得ただけのものだ。うかつに信じ込むような真似をするものではあるまい。

 

 

 

けれど頭の中では、蓮子の事をずっと、考えてしまっている。

 

頭の中で思い返すのは、先程の光景。蓮子は変わらぬ笑顔で、手を振ってくれていた。きっと再び同じ顔をされても、私は同じように顔を背けてしまうだろう。

 

 

その中に何か引っかかるものを感じて、私は頭を押さえる。

 

 

 

確か私は、眠る前に何かを言われて、その時に蓮子の顔をちらりと見た。さっきの蓮子は、その時と同じ顔をしていたように、思うのだ。

 

 

 

分からない。今までで1番思考がまとまらない。蓮子について考えようとすると、また動悸がするのだ。

深呼吸をして、私は再び歩きだす。きっと連絡が通じないハプニングからくる一時的なものだろう。明日からはまた大学で顔を合わせる。その時には、いつも通りになっている筈だ。

 

 

 

ただ1つ、気になることは。

 

 

 

私に手を振っていた蓮子と、何事か私に話しかけた、眠る直前に見た蓮子。

 

 

 

 

 

───その顔が、とても辛そうな…何かを堪えるような顔をしていたように見えたのは、私の気のせいなのだろうか?

 

 

 




<NEXT>
「私には、見守ることしか出来ないわ」
「別にいいと思うぜ。自分に正直に、だ」
「……」



【次回 カタオモイデオロギー】
お楽しみに〜
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