「ねぇメリー、今日何の日か知ってる?」
「私達にとってはごく普通に大学に行く平日ね」
そんな事を言いながら蓮子と並んで大学からの帰り道を歩く。もちろん今日が何の日かを知らないわけではない。
2月14日。誰がそう呼んだか忘れてしまったが、今日は世間で言うバレンタインデーである。女性から男性へチョコレートを送る特別な日。だがそれを全うするには私にも蓮子にも障害があるわけで、
「けど蓮子、私も貴女も特に誰かと付き合っているわけじゃないでしょう?」
「何も恋人にだけあげる訳じゃないでしょ。ほら、友チョコなるものだってあるし」
「そうなると、いつも半ば無理やりサークル活動させられている身としては蓮子に送る義理は無いわね」
「えー、メリーひどーい」
わざとらしく空を仰ぐ蓮子。私の言ったことを否定しないあたりが蓮子らしいところだ。
「で?この後はどうするの?いつもの喫茶店で活動内容の話し合いでもする?」
「それも良いけどうーん…あ、丁度見つけたしあそこでも寄っていきましょう」
蓮子が指差した先は小さな公園だった。この季節はまだまだ寒いためか他の人の姿は見られない。
「えー…寒いしいつものとこで良いじゃない」
「まーま、そんなに長居はしないから大丈夫よ」
そう言って私の手をとって公園へと入ってしまう。まぁ家に帰ったところで何をするでも無いから構わないか。
「公園なんて来るの久しぶりね」
「メリーはインドア派だものねぇ。私はちょくちょく来てるんだけど」
「蓮子のことだから、どうせ遊具ではしゃいでそうね」
「何歳だと思ってんのよ。流石にそんな事しないしない」
そう言う蓮子は今ブランコを立ち漕ぎしている為怪しい。1人だったらとっくにはしゃいでいそうなものだが。ちなみに私は運動がそこまで得意ではないので近くのベンチでそれを眺めている。
「で?ブランコに乗りたいだけなら私は今すぐ蓮子を置いて喫茶店に避難する選択肢があるんだけどー」
「つれないわねメリーも」
「蓮子と違って私は寒いのが苦手なのよ」
途端に冷たい風が吹き抜けてきて、ぶるりと身をすくませる。正直なところさっさと帰りたいのが現状なのだが。
「メリーってばほんと寒さに弱いわねー。じゃあ早めに帰るとしますか。ちょっとこっち、私の前来てー」
相棒がその気になってくれたのはありがたい。鞄を掛けて言われるままに蓮子の正面に立つ。蓮子はゆるく立ち漕ぎをしながら片方の手で器用に鞄を探っていた。そのまま足でも滑らせないかなーとぼんやり考えていると、不意に蓮子は鞄の中から何かを取り出してーー
「ほらメリー、キャッチキャッチ!」
「え?っとと…」
唐突に投げ渡されたそれを何とか受け止める。投げられたのは小さめの四角い包み。これはもしやと思い蓮子を見やると、
ーー蓮子が私目掛けて真っ直ぐに飛び込んできていた。ご丁寧に両腕まで広げて。
「そぉーれっと!!」
「ちょっ、わぷっ!?」
動きの止まった私は、必然的に蓮子に抱きしめられる形になってしまう。呆気にとられて蓮子の顔を見つめていると、蓮子はいつも通り笑っていた。
「たまにはこういうのも良いかと思ってね。ハッピーバレンタイン、メリー」
そんな事を言われた私はようやく我に返り、
「ちょ、ちょっと何してるの、よ!」
「あ痛ぁっ!頭はたかないでよメリー!」
「はぁ…全くもう」
頭を抑える蓮子に背を向ける。抱きつかれたせいか体温が若干高くなっている気がする。ふぅと深呼吸して私も鞄の1番上に置いてあった中身を取り出す。
「悪かったわよ。まさかそんな反応されるとは思わなくて…」
「…それはもう良いわ。それよりはいコレ」
「ん?包み?ってコレはもしかして…チョコ⁉︎」
受け取るやいなや私から離れて包みをしげしげと眺める蓮子。その姿が少しおかしくて、私は笑いながら蓮子に言われた言葉を返す。
「ええ、そうよ。ハッピーバレンタイン、蓮子」
せっかくだし公園で食べていきましょう!とは意気揚々という蓮子を抑えて私の家まで歩き、そこで蓮子とは別れた。
「じゃね、メリー!また明日!」
いつもより若干声色の上がった蓮子を見送ってから、私は蓮子から貰った包みを開ける。
中から出てきたのはごく普通の、市販品のブラックチョコレート。けれど蓮子から貰えたという事が嬉しくて。
「紅茶でも飲みながら、頂きましょうか」
自分の部屋へと歩を進める。一口だけ先につまみ食いしたチョコレートは、ブラックとは思えない位に甘かった。
<NEXT>
「メリーのチョコうまい」
「はいはい、食べてないで次回予告は?」
「えー、前回だってまともなのじゃ無かったし…もぐもぐ」
「そうね…ならそう、前の通り私達が出会った時の事でも話しましょうか」
「良いわねーそれも。確かあの時はーー」
【第3話 河川敷のバーベキュー】
お楽しみに〜