【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

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もうバレンタインは過ぎたって?思い続ける限りバレンタインだと思うの


バレンタイン・アナザーサイド

バレンタインデー。恋人や友達なんかにチョコレート等を送る特別な日。特別な日なら学校が休講になればいいのにと思っているのは私だけでは無いはずだ。実際のところそんな事はありえずいつも通りに講義を受け、私は相棒の元へと向かう。

私、宇佐見蓮子は大学でオカルトサークルの部長をしている。といっても部員は私と相棒の2人のみ、サークル活動以外でもほとんど相棒としかいない為、交流は広くないのだが。そんな私にも今日ばかりは利点があった。

 

「こういう日には準備が少なくて楽なのよねー」

 

そんな事を呟きながら歩く私の鞄の中には、1つの包みが入っている。相棒に送る、バレンタインチョコレート。私は料理、もといお菓子作りはまっさらなので市販品だが。

 

「まぁ、送る日ってだけでものの出来は何とも言われてないしね。って、呑気にしてる場合じゃないわ、急がなきゃ」

 

モバイルの時計は既に相棒との待ち合わせ時間を示している。遅刻常習犯の私でもこんな日位は間に合うようにと思っていたが、こんな日でも私の遅刻グセは相変わらずなようだ。

相棒の機嫌が悪くなっていませんように、と小さく祈って私は待ち合わせ場所に走った。

 

 

「ごめんごめん、お待たせメリー」

「5分遅刻よ、蓮子。毎回きっちり5分遅刻してくるんだから、その分先読みで行動出来ないの?」

「蓮子さんは感覚で動くからね、何処かで5分早く行動したらその分何処かで5分ロスするのよ」

「そこ自慢されても困るんだけど…」

 

呆れたように首を振る我が相棒、メリーをまあまあとたしなめながら2人並んで大学からの帰り道を歩く。さて、何処かにチョコを渡すいい場所はあったろうか。会った時にサッと渡してしまっても良かったが、何となく味気ない気がしてそれは避けた。やはり特別な日にはそれなりに特別な感じにしたいと思う位には今日という日を楽しんでいるのだ。

 

「ねぇメリー、今日何の日か知ってる?」

「私達にとってはごく普通に大学に行く日ね」

 

ありゃ、案外つれない。メリーは甘いもの好きだからむしろチョコを要求してくるかと思ったんだけど。ただ口に出すと同じ言葉を返されそうなので黙っておく。

 

「大体私も蓮子も恋人なんて居ないでしょ?」

「いやいや、何も恋人にあげるだけじゃないのよ。友チョコだってあるし」

 

因みに私は友チョコすら1つも貰っていない。大学も多少はバレンタインムードだった為何とも物悲しい話だ。恐らくメリーも貰ってはいないのだろうけど。

 

「で?この後はどうするの?いつもの喫茶店で活動内容の打ち合わせでもする?」

「それもいいけどうーん…」

 

喫茶店でチョコを渡してしまうと完全に喫茶店のケーキに埋もれる未来が見える。別にその場で食べるわけでは無いから構わないのだけど…。

そんな事を考えていると、ふと公園が視界に入ってきた。公園、公園でチョコ。いける。何となくだがムード的なものだってあるだろう。

 

「丁度見つけたしあそこでも寄って行きましょう?」

「えー…?寒いしいつものとこで良いじゃない」

はっきりと眉を寄せるメリー。だが蓮子さんは決めた事はある程度曲げない主義なのだ。素早くメリーの手を引いて公園へ歩き出す。

 

「まあまあ、そんなに長居はしないから大丈夫よ」

後はこれでベンチでも座ってチョコを渡せばオーケー。そんな気持ちで私は公園へと足を踏み入れた。

 

 

 

そして今、私は1人でブランコを立ち漕ぎしている。

正確に言えばメリーも公園にはいる。ただブランコには乗らずにベンチに座っているが。私もそこに座れば良いのだが、何となく目についたブランコを漕ぎ始めてしまい、それをやめられずに今に至る。

 

「蓮子のことだから、公園に1人で行ったら遊具ではしゃいでそうね」

「私を何歳だと思ってんの。流石にそんな事しないしない」

 

口ではそう言うが、実際に遊具を漕いでいる人間が言っても説得力が無いだろう事は分かる。現にメリーも疑いの目でこっちを見ているし。何はともあれコレはあれだ。

 

完全にチョコを渡すタイミングを失った。

 

どうにかしてチョコをスマートに渡さなければと頭を回転させていると、不意にメリーがじと目で告げてきた。

 

「で?ブランコに乗りたいだけなら私は今すぐ蓮子を置いて喫茶店に避難する選択肢があるんだけど」

「つれないわねメリーも」

「私は蓮子と違って寒さに弱いのよ」

 

まずい。メリーからは大して機嫌の悪さは感じられないが、万一メリーの機嫌が悪くなったりでもしたら完全にチョコを渡すタイミングが無くなる。別に私はブランコを漕ぐために公園に来たわけでは無いのに…。

ふと、自分の鞄を見やる。メリーに渡す包みは片手で十分持てるサイズだ。そして私は今ブランコを立ち漕ぎしている。

何となく、閃いた気がする。普段は絶対にやらない様なモノの渡し方。バレンタインらしいかどうかは置いておいて、思いついたからにはやってみるしかないだろう。

 

「メリーってばホント寒さに弱いわね。じゃあ早めに帰るとしますか。ちょっとこっち、私の前来てー」

メリーが私の前に歩いてくる。それを見ながら、私は片手でどうにか鞄を漁り、目的の包みを掴む。それを引っ張りだしながら、

 

 

「ほらメリー、キャッチキャッチ!」

 

メリーの方へと放り投げた。

 

「え?っとと…」

若干もたつきながらも、メリーはどうにか包みをキャッチする。それを見届けてから、私はブランコをゆるく漕ぎ。

 

 

 

 

ーーメリーの目の前に、身体を躍らせた。両腕を広げて、まるで抱きしめるように。

 

 

「そぉーれっと!!」

「ちょ、わぷっ!?」

 

そのままメリーに勢いよく飛び込む。いつもより若干テンションが高い様な気がする。だが私は気にもせず、いつも通りに笑ってメリーに告げた。

 

 

 

 

「たまにはこういうのも良いかと思ってね。ハッピーバレンタイン、メリー」

 

飛び込まれて呆然としているメリーはその一言で目をわずかに見開き。

 

 

「ち、ちょっと何してるの、よ!」

 

その言葉と同時に返ってきたのは、頭に猛烈に響く痛みだった。

 

「あ痛ぁっ!頭はたかないでよメリー!」

 

そのままメリーはそっぽを向いてしまう。はたかれた頭がじんじんと痛む。だがそれと同時に自分のやった事がとてつもなく恥ずかしい様に思えてきた。体温が急激に上昇していくのを感じる。

 

だから、一瞬気付かなかった。

 

いつの間にかメリーが振り向いて、私に包みを差し出しているのを。

 

「ん?包み?コレってもしかして…」

私が投げ渡した包みと少しだけ似ているラッピング。そうでなくてもこんな日に渡すものは、

 

「もしかしてチョコ⁉︎」

 

まただ。また体温が上がっていくのが分かる。とっさにメリーから身体を離し、包みを見つめる。

 

ーー何だか、あれこれ考えて渡したのが馬鹿らしくなるわね。

 

何故私はさらりと渡す事にしなかったのだろうか。考えてみれば特別な日ではあっても私達にとってはただの日常だというのに。

思考が上手くまとまらない。ただ、目の前のメリーが笑っていて。

 

 

 

 

「ええ、そうよ。ハッピーバレンタイン、蓮子」

 

 

告げられた私と同じ言葉に、私はメリーの顔をまっすぐに見れずに。私はわずかに目を逸らしながら笑ったのだった。

 

 

 

 

その後、公園でチョコを食べようという私の提案は見事に却下され、ぶらぶら歩いてメリーの家の前まで歩いてきた。

 

 

「またね、蓮子」

 

いつもより機嫌の良さそうなメリーと別れて、1人帰路を歩く。ふと気になって、メリーから貰った包みを開けてみた。中身は、ごく普通のブロック状のミルクチョコレート。私が貰った、唯一のバレンタインチョコレート。

時折体温が上がったのは、チョコレートを貰えて嬉しかったからなのか、それともーー。

 

「……甘い」

 

チョコレートを1つだけ食べて鞄にしまう。どうせならコーヒーと一緒に食べた方が合いそうだ。

空は暗くなってきていた。どうせなら星でも見ながら食べる事にしよう。

 

未だ回転の鈍い頭のまま、私は星の出始めた道を歩き始めた。

 

 

 




メリー編より文字数が多いという事実
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