【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

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えー、物語の都合(と言うか作者の個人的な感覚)により、2話構成となったのですが、ただ上下だとなんかなーと思ったので上に当たる今回は星です。星という事はこっちの視点になっております。


河川敷のバーベキュー・星の編

ーーメリーと始めて会った時?そうねぇ。

 

 

テンションの低いやつと、最初はそう思ったわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

大学に入学して間もない頃、大学全体を挙げてバーベキューをするイベントがあった。随分異例だが、いわゆる親睦会もとい顔合わせ、の様な意味だったと思う。

場所は大学近くを流れる川の河川敷。そこに大まかな学科ごとに集まってバーベキューをする、ただし別学部に混ざる等の事は良しといった感じだった。

 

 

「……暇ねぇ」

 

物理科に通う学生の私ももれなくそこに居た訳だが、なにぶん私は友達が多いという事も無い。親睦会とはそういう人間が友達を作るという事も目的ではあるのだろうが、あいにく私は進んで友達を作るタイプでは無かった。

 

「特に共通の趣味がある訳でも無いしねぇ」

 

というか、私と同じ趣味の人間なんてそうそう居ないのではなかろうか。

神秘の探求。私の趣味と呼べるものはコレだ。もっとも私1人で出来る事なんて限られているから、怪しいオカルトスポットを調べてそこに出向く位しか無いのだけれど。

そんな事をしている女子大生が話題を出したり会話に入れるわけも無く。結局私は串に刺さった肉を手に比較的目立たない様な木陰に入り、

 

 

 

 

 

ーーそこで、彼女と出会った。

 

「……何か用?」

 

紫がかった服装に金色の髪。この国ではあまり見ない青の瞳と合わさって、彼女が日本出身でない事は容易に分かった。そして何よりも、私はその雰囲気に興味を惹かれていた。

それはただ珍しい容姿が気になっただけかもしれないし、私と同じ様にどことなく馴染めない人が他にいたという安堵だったのかもしれない。

それでも、私の口は普段よりも軽く動くのが分かった。

 

 

 

 

 

「……食べる?」

「は?」

 

ただし口から出たのは、ひどく間抜けな言葉だったが。

 

 

 

 

 

「私は宇佐見蓮子。それで、貴女の名前は?」

「…ハーン。マエリベリー・ハーン」

「マ、マエ…。オーケー、ハーンさんね。それにしても、何でこんな所にいるの?折角の親睦会なのに」

「その親睦会中にこんな所に来る貴女に言われたくないわね」

 

じと目で睨まれそう言われては、私は苦笑するしか無かった。彼女にも串を渡して同時にかじる。冷めてた。

 

 

 

「私はねー、何というか、あんまりあそこの人達と話が合わないのよ。そりゃあ、必要とあらば話すけど、わざわざこんなイベントで自分から話しに行く程でも無いわ。貴女も同じ様な事情なんじゃない?」

「…そうね。趣味が合わない様な人間と無理に話す必要は無いわ。その理屈でいうと私と貴女も趣味が合う様には到底思えないんだけど?」

「まあまあ、まだ会って間もないんだし、もう少し話してから決めつけてちょうだいよ」

「話もせずにさっさと抜け出したのは貴女も同じでしょうに…」

 

まあね、と肩をすくめて串に残った肉を頬張る。…やはり取ってくる串を間違えたかもしれない。脂がすごい。

 

「ところでえーっと…宇佐見さんだったかしら」

「蓮子で良いわよ。で、何?」

「えっと、この串…野菜は、無いの?」

 

彼女の持っている串にはまだ半分ほど肉が刺さっているが、私が持ってきた時もう半分も肉だった。もちろん私の食べた串も全部肉だ。

 

「それがねー…体力つけろーとかいう講師達のせいで焼いてるのは肉ばっかなのよ。ざっと見たところ野菜はありそうも無いわね」

「何よそれは…バランスよく食べないと体力もへったくれも無いじゃない」

「私に言わないでよ。まぁ安心しなさい、この後しっかり出てくるから」

「はぁ…本当でしょうね?」

ため息をつきながら肉を食べきった彼女を見て、きっと、と心の中で加える。流石に肉だけ食べて終わりは無いと信じたい。それ以外のイベントも無くは無いのだけれども。

 

「あ、そうそう。この後夜までこのイベントやるから、ここで1人で乗り切るのは辛いものがあるわよ?」

「え」

 

目を少し見開いて固まる彼女。確かに夜までやるとは私も思っていなかったが、長い間交流させようという狙いなのだろう。

憂鬱そうな顔でいる彼女に向けて、私はニッと笑ってみせた。

 

 

 

「大丈夫よ、メリー。1人で無理なら2人で、私と一緒に楽しみましょう?」

そう言って私はメリーの持っていた串を取って、自分の串も新しいものを取りに歩いた。河川敷にいくつか設置されたゴミ袋に串を放り込んで、鉄板から新しい串を取り上げる。今度のは焼き立てだった。

 

 

「はいメリー、新しい串」

「…どうも。って言うか、そのメリーって何よ?」

「ん?あー…」

 

ふむ、つい口から出てしまったのだが、どう説明したものか。頭を回転させながら肉を頬張る。ソースがかかっていたのか濃いめの味で美味しい。鶏肉なのか脂も少なめだった。

 

「そうね。アレよ、愛称」

「愛称?初対面でいきなり?」

 

またもじと目で睨むメリーは串から肉を食べるのに苦戦していた。少し熱かったかもしれない。そんな様子を見ながら私は頷いた。

 

 

「ええ、そうよ。マエリベリーもハーンさんも呼びにくいからね。とりあえず呼びやすい様にって考えたら、やっぱメリーじゃ無いかしら。それっぽい見た目もしているしね」

「どんな見た目よ…」

「まあまあ、この呼び方じゃダメ?」

 

このとーり、と両手を顔の前で合わせた私を見て、メリーは大きくため息をつき、串を大きく頬張った。

 

 

 

 

 

「はぁ…分かったわよ。好きに呼びなさい」

「やった!」

 

 

どうしてメリーに対して話しかけに行ったのかは分からない。もしかしたらその時からすでに長い付き合いになる事を本能的に分かっていたのかもしれない。それはあまりに論理的で無いけども。

 

 

 

どうあれ、ここで私とメリーは出会って。2人木陰に並んで、そうして時間は過ぎていく。

 




殆ど食いもんの話してないって?れ、蓮子は食レポ苦手なの!

次回【河川敷のバーベキュー・境の編】
お楽しみに〜

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