【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

8 / 31
生姜焼き単体だと豚肉のやつになるらしいですね
他の肉の呼び方見たこと無いけど。


学食の生姜焼き

「つ、疲れた…死ぬ…これだから休み明けの講義ってやつは…」

「蓮子は年がら年中そんな感じじゃない。何で大学来たのよ」

「それとこれとは別でしょ…。何でメリーはそう平然としてられるわけよー」

「周りを見てみなさい。蓮子ほど疲れ果ててる学生なんて居ないわよ」

 

私達は今学食に入ってきたところだ。記念日という事で休講を貰った私達だったが、翌日から講義だというのに蓮子は夜中までオカルトスポット探しに精を出していたらしく、このざまである。というか、蓮子と一度だけ一緒の講義だったが、その時蓮子は寝ていた気がするのだが。面倒だったので起こさなかったけれども。

 

「ん、今日はあんまり混んでないわね。さて、何食べようかしら」

「そうねえ、最近自分で作ったばかりだったから学食は久しぶりね」

 

私達の大学の学食は値段の割に量が多いという事、それと無駄にメニューが多い事が特徴だ。定番の定食や丼モノから何処で作っているのかたこ焼きやアメリカンドッグ等々がある。ちなみに最近の人気メニューは焼肉定食らしく、今学食にいる生徒の大半も焼肉定食を食べていた。

 

「あんま長く考えても混んじゃうし、私は日替わり定食にするわ。メリーは?」

「ん。じゃあ私もそれにするわ」

 

もちろん日替わり定食だってある。私はこれを頼むのは2度目なのだが、正直1度目は失敗だった。ゴテゴテに盛られた肉ばかりのメニューで目を剥いたモノだ。あの時は死ぬかと本気で思った。

 

「何遠い目してるのよメリー。そんなにお腹空いたの?すいませーん、日替わり定食2つー」

 

蓮子が注文をしている間に私は席を確保しておく。蓮子は蓮子で私の知る限り日替わり定食は初めての筈だが、内容の分からないものに首を突っ込むのは蓮子らしいと言えばらしいか。

手荷物を置いて蓮子の元へと向かう。トレイを持っているところを見るともう出来上がったらしい。

 

蓮子に続いて私もトレイを受け取る。さて今日のおかずは何になる事やらーー

 

 

 

「これは…生姜焼き、だったかしら」

 

トレイの上にあるのは普通のご飯と豆腐の味噌汁、それと大きめの皿に盛られたサラダと焼いた豚肉だった。ほのかに生姜の香りがするので恐らく生姜焼きだろう。

 

「だったかしらって、もしかしてあんまり食べた事ない?」

「そうね。私どちらかと言えば魚派だし」

 

肉も嫌いなわけではないが、私にとっては少し油が多い気がする。蓮子の向かいに座り、同時に手を合わせる。

 

 

「んじゃ、いただきます」

「いただきます」

 

まずは味噌汁からにする。何気に豆腐の味噌汁は久しぶりに飲むなと思いながら少し冷ましてすする。やはり暖かい汁物は落ち着く。と、

 

 

「……この味噌汁、豆腐しか入ってないわね」

 

先に味噌汁を飲んでいた蓮子が眉を寄せる。私も箸で中を少し探ってみたが、確かに豆腐以外の具は入っていなかった。

 

「あはは…ここの日替わり定食は何かしら抜けてるところがあるらしいわね」

「全くもう、もう少しくらい何か入っててもいいじゃない」

 

肩をすくめる蓮子をよそに、今度は生姜焼きを食べる事にする。既にある程度切られているので自分で切ったりする必要が無いのがこういう料理の利点だと思う。

 

 

「うん、美味しい」

 

タレの味に僅かに辛味があるおかげでご飯が進む味付けだ。生姜も効きすぎておらず飽きも来にくい。出来ればポン酢が何かでも食べてみたい。

 

「そうそう、メリー」

「何?」

 

既に半分程食べ終えた相棒が話しかけてくる。何故蓮子はこうも食べるのが早いのだろうか。私が遅いわけではないと思うのだが。

 

「メリーが遅いだけよ。それでね、この生姜焼きって、昔は焼肉なんかと割と混同されてたらしいわよ」

「心を勝手に読まないで…。で、これと焼肉が同じように見られてたって?」

「そうみたい。まぁ、私からしてもどっちも肉を焼いたものには変わりないし、多少味が違うだけだから分からなくも無いけどね。焼肉の方が味が濃くて米が進むー、ってのも聞いたけど」

「そうかもね…」

 

最後の一口を頬張る蓮子を見ながら、何となく蓮子の言う光景を思い浮かべてみる。

味や名前は違うのに、見た目の類似で纏められてしまうもの。食べものに限らずそう言う事例はあるだろう。むしろ食べ物以外の方が多いに違いない。

けれど。

 

「やっぱり生姜焼きは生姜焼きだわ。この料理にしかない味だもの」

「あら、メリーにしては珍しい発言ね。メリーの家の本みたいに全部一緒くたにするかと思ってたんだけど」

「失礼ね。私の持ってる本は全部ちゃんと分けられてるの。中身や作者とかね。大体蓮子はそういう所が甘いからーー」

 

 

 

ーーそこから先はあまり覚えていない。柄でもなくヒートアップして何かを語った気がするが、気がついた時には蓮子と並んで帰り道を歩いていた。

 

「おーいメリー、だいじょぶー?」

「大丈夫よ。何を蓮子に話したかは覚えてないけど…」

 

私が言うと蓮子は少しだけ顔を背けた。そしてぼそりと一言。

 

 

「あれは…うん、ヤバかったわ」

 

…どうやら学食の私は随分と喋ったようだ。この相棒をここまで疲弊させる位なのだから。

 

「いやー、あんなメリー始めて見たわよ。本のことになると怖いわねー」

「んー…ぼんやりとだけど本の事だけじゃなくてね」

「うん?」

 

多分、直接的な原因は蓮子の言った生姜焼き云々の話だろう。食べものに限った話では無く、私は恐らくーー

 

 

「ーーただ、いくら似ていてもソレは偽物だって、言いたかったのかもね」

 

「…なるほどね。大丈夫よ、本物との区別、私がつかない訳ないわ」

「別に私に関して言ってるわけじゃないんだから…」

 

まあまあと笑う蓮子をよそに、昼に食べた生姜焼きを思い返す。

偽物云々で話が逸れてしまったが、とりあえずあれは美味しかった。正規メニューに無くて日替わりの一つだと言うことは、あまり人気は無いのだろうか。

 

「…まあ、美味しかったしいずれメニューにも入るでしょう。焼肉とかにも負けないくらいには、ね」

「ん?どったのメリー?」

 

何でも無いわ、と首を振って歩き始める。まだまだ大学生活は長い。その間に、もしかしたら全てのメニューが成立して、日替わりメニューなんてものも無くなるのかもしれない。

それはそれで面白みに欠けると思うのかも知れないが、そんな日もいずれ見てみたいものだ。

 

今日の夕飯は何にしようか、なんて考えながら、私達は帰路を歩くのだった。

 

 

 




<NEXT>
「ここは…どこ?」
「ん?ここらじゃ見ない人だね」
「貴女も早く帰った方が身のためかもね」
「貴女は……食べてもいい人間?」


「あら、こんな夜中に迷い込むなんて…不運な人間ですこと」

【第6話 幻視・■■■■■】
お楽しみに〜
※いつもと同じグルメだよ!ホラーとかじゃないよ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。