【完結】秘封道楽 〜少女達の食探訪〜   作:ユウマ@

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新天地(?)だよ!登場機会は多くないんですがね


幻視・夜雀の屋台

ーー夢、なのだろうか。

目を開けた時、私は見知らぬ森の中に立っていた。

 

「ここは…どこ?」

確か私は、いつも通り蓮子と帰って、いつも通りの時間に寝てーー目が覚めたらという訳だ。

私は夢遊病の類では無いし、そうでなくとも京都にこんな森は無いはずだ。格好も寝巻きでは無くいつもの服装だし。夢だとしたらと自分の頬をつねってみるが。

 

「…痛い」

 

痛みも肌に触れた感触もいつも通り。こういう時はどうすれば良いのだろう。辺りを見回そうにも、夜の暗闇と木々が生い茂っているせいでほとんど判別出来ない。僅かに漏れる月明かりで前方に道があるのが何とか分かる位か。

こういう時に蓮子がいれば面白がって色々調べだすのだろうが、あいにく私にそんな度胸は無い。とりあえず進んでみようか、と足を踏み出した所で背後から物音がした。私は恐る恐る振り返ると、ソコにいたのはーー

 

 

「…女の子?」

 

背丈は小学生ほどだろうか。私と同じ金髪の女の子が佇んでいた。顔は俯いていて表情は分からない。闇に溶けるように顔から下が見えないのは、黒い服でも着ているのだろうか?

どうあれこんな所に1人でいるような感じでは無い。私は少し迷って、少女に声を掛けようとした時、

 

 

「ねぇーー」

 

少女が口を開いた。あどけない様な声に安堵しようとした所で、

 

 

 

ーー無意識に、私は一歩後ずさった。

はっとして少女を見る。よく見えなかった顔がゆっくりと上がっていく。少女の口元は、小さな笑みを浮かべていて。その顔が完全に私に向けられーー

 

 

 

 

 

「ーー貴女は、食べてもいい人間?」

 

 

ーー少女の赤い瞳と、目があった。

 

「っ!」

 

次の瞬間、私は全力で逆方向へと走り出した。

理屈はよく分からない。でも、私の本能が全力で警鐘を鳴らしている。あの少女はマズイと。月明かりで僅かに見える道を走る。追ってきている様な気配はしないが、だからといって立ち止まって確認するという考えは私には無かった。

視界の先で木々が徐々に減っていく。それと同時に、月明かり以外の光がちらりと見えた。

 

 

「あそこまで行けば…」

 

行ってどうなるか分からないが、あの少女が霊的なナニカだった場合は光は苦手な筈だ。それとも科学世紀の幽霊は光を克服しているだろうか?

めちゃくちゃな思考のまま森を抜け、光がより大きくなる。屋台か何かだろうか、その光の元に、私は全力疾走のまま飛び込んだ。

 

 

 

 

 

「うわぁ⁉︎い、いらっしゃいって…スキマ妖怪⁉︎こんな時間に何の用?」

 

「はあ…はあ…」

 

正面から先程とは別の少女の声。息を整えて見上げると、鳥の羽の様な装飾がついた帽子を被った少女がこちらを困惑した様な顔で見つめていた。

 

「あの、私森で…女の子が…」

 

上手く説明が出来ない。そもそもあの少女が本当に逃げなければいけない様な存在なのかも分からないのだ。言葉に詰まる私に少女がグラスを差し出した。

 

 

「人違いかな…?でもただの人間じゃない様な感じもするし…うーん、まあ良いや。お客なら歓迎するよ。取り敢えずそれ飲んで落ち着いて」

 

グラスを一息に飲み干す。ごく普通の水だったが、全速力で走った身体にはよく染みた。

 

「落ち着いた?この辺におっかないような妖怪は居ないと思ったけど、とりあえずココでいきなり暴れたりする様なのは居ないから安心してよ。ハイ椅子」

 

「…ええ。ありがとう」

 

どこから取り出したのか丸椅子に座り少女に微笑みながら、少女の言葉について考えていた。

 

 

妖怪。彼女は何度かそう言った。ここが何処かはまだ分からないが、ここでは危険な人物や怪しい者をそういうのか。それとも、

 

 

 

 

ーー本当に、妖怪がいるとでも言うの?

 

 

ありえない。だが、ココは夢である可能性が高い。少女達を見た覚えは無いが、蓮子との活動や私の記憶から見ている夢だと考える方が自然だろう。

そんな事を考えていると、不意に私の前に皿が置かれた。

少女を見ると、少女は笑いながら別の皿を手にとって、

 

 

「いやー今日はお客さんが来なくてね、サービスよサービス。あ、お酒もあるけど飲む?」

 

「い、いえ…」

 

一応お酒も飲める年齢ではあるが、私はあまり強くはない。差し出された皿を見ると、中は普段あまり見慣れない食べものだった。

 

 

「これ…蒲焼き?」

「そそ、ウチの屋台の定番よ。意外と人気なのよー」

 

タレがかかったそれは、確かにウナギの蒲焼きに見える。ここまで来ると余計に現実離れしている感じがするが、やはりココは夢なのだろうか。妙な夢だが、特に深刻に思っていないのは蓮子と一緒にいる弊害だろうか。

 

「…いただきます」

 

どうあれ蒲焼きを食べて命の危機に陥る事もあるまい。蓮子との話のネタにはなるだろう。皿に添えられた割り箸で蒲焼きを半分に切って口へと運ぶ。

 

 

「……おい、しいけど…」

 

とてもクセが強い味だ。食感も魚のようにほろほろした感じでは無く、もっと歯ごたえのある感じだ。ひょっとしたらウナギの蒲焼では無いのかもしれない。

 

「ありゃ、苦手だった?ヤツメウナギは初めて?」

「や、ヤツメウナギ?」

 

意外な名前に軽く目を見開く。ヤツメウナギと言えば、今の時代滅多に食べられる事のないモノだ。私も名前を聞いた事がある程度のものだが、そんなものまで夢に出るのか。

改めて蒲焼きを口に運ぶ。確かにクセが強いが、食べられない程のものでもない。タレが濃いめで、上手く打ち消されている為だろうか。

とはいえ万人受けはしないでしょうね、と思いながら食べ終えるとそれを見計らった様に新しい皿が置かれた。

 

「んー、ヤツメウナギが苦手ならこっちはどう?最近は人里でも売ってるみたいだし」

 

皿で湯気を立てているのは、何らかのつゆと私もたまに見る食材、こんにゃくや卵にちくわぶ。つまるところ、

 

 

 

「おでん、ね」

 

こんにゃくを切って口に運ぶ。私のよく知る、ごく普通のおでんの味。随分長く煮込まれていたのか若干ふやけ気味ではあるが、その分つゆが染みていて温まる。

 

「美味しい…」

「うんうん、気に入って貰えて良かった良かった。どんどん食べてって言いたいけど…そろそろ屋台を畳まないと」

 

外を見ながら少女が呟く。つられて外を見てみると、既に日が出ようとしていた。そこまで長くいたつもりは無いが、すっかり夜も更ける頃合いらしい。

そこまで考えて、ふとある事に気づく。

 

 

「あ、えっとお代…」

 

夢の中で何を言っているのだろう、と一瞬思ったがここは夢にしては随分リアリティがある。そのせいで口をついて出たのかもしれない。

だが少女は笑って首を横に振ると、小さな包みを渡してきた。

 

 

「いーのいーの、お客来なくて暇してたからさ。それに貴女はウチ来るの初めてでしょ?今後ともよろしくって事で、はいこれ。お土産に」

 

思わず受け取ってしまう。返そうかとも思ったが、少女は既に屋台の掃除を初めていた為どうにも言いにくい。と、不意に背後から足音がした。少女が「もうお店閉めるんですー」と声を上げるが、足音は止まらない。何だろうかと私が振り返ると、

 

 

 

 

「ええ、貴女も早く帰った方が良いわ。これ以上、迷い込みたく無いのなら、ね」

「え……?」

 

目の前にいたのは、日傘をさした金髪の女性。だが、その姿はあまりにも。

 

 

 

 

 

ーー誰かに、似てー

 

 

そんな考えが頭をよぎる瞬間、強烈な眠気に襲われる。とても抗う事が出来ず、私は屋台の机に突っ伏してしまう。少女が何事か声を上げ近づいてくるが、それより先に急激に意識が遠ざかる。

目を瞑る前に見たのは、先程の女性の顔。私を見下ろすその女性は、金の髪に紫がかった瞳。それは、まるでーー

 

 

 

 

 

ーーわたし…?

 

 

 

そのまま、私の視界は暗転した。

 

 

 

 

 

 

 

「変な夢を見て、見覚えの無い包みがあった、ねぇ…」

大学の学食。私と蓮子は昼食をとりながら、私の見た夢についての議論をしていた。

次に目を開けたとき、そこはいつもの、私の部屋だった。ぼんやりする頭で、ああやはり妙な夢だったなどと考えていた時にふと机を見ると、昨夜には無かった筈の、あの夢で少女に渡されたものと全く同じ包みが置いてあったのだ。

 

 

「それも不思議だけど。あと1人の顔だけさっぱり思い出せないって、本当なの?」

「ええ…」

 

夢の内容は、割と鮮明に覚えている。金髪の少女から逃げ、森を抜けた先の屋台で少女に色々振舞って貰った。

だが、そこまでだ。もう1人、誰かを見た覚えがあるのだが、そこだけがすっぽりと抜け落ちてしまっていて、思い出せないのだ。

悩む私をよそに、蓮子は包みを開け始めていた。

 

「とりあえず、この中に手がかりがあるかもしれないしね。何があるかなーっと…」

「呆れる程前向きね…」

 

夢の感じ的に危険物が入っているとは考えにくいが。包みを開け出てきたのは小さな箱。そのままの勢いで箱も開けた蓮子は、少し眉を寄せて疑問の声を上げた。

 

「…何これ?蒲焼き?」

「え?」

 

箱を覗き込むと、確かに私が夢で食べたのと同じ見た目の蒲焼きが入っていた。やや小ぶりではあるが、ヤツメウナギなのだろうか。

私が考える間に蓮子は蒲焼きを1つつまむと、一瞬眺めてから口に放り込んだ。

 

「んー…何というか、ウナギっぽくは無いわねぇ。私はあんまり好みじゃないわ」

 

私も1つ口に運ぶ。確かに夢で食べたのと同じものだ。あれよりも若干タレの味が濃くなって食べやすくはあるが、やはり慣れない人にはクセが強いようだ。

と、不意に蓮子が目を輝かせて私の手を掴んだ。

 

「…何?」

「何って、コレは今日の活動は決まりよ!実際に夢で食べたものがここにあるなら、その屋台自体も何処かにある筈よ!今日は夜まで待って、その屋台を探しに行きましょう!」

 

どうやら、スイッチが入ってしまったらしい。はしゃぐ蓮子をよそに、私はため息1つ。

 

「あのねえ…大体どう考えても怪しいでしょう?ない筈のものが勝手に机にあるなんて」

「そんな事言っても、実物を見たからには信じるしかないじゃない。それともメリーはそれが夢かどうか分からないままで良いの?」

「…そうは言ってないけど」

 

駄目だ、もう止まる気はないらしい。そもそもこういう話を蓮子にした時点で結果は分かりきったものではないか。

とは言え。私もこの包みがなぜあるのか、あの屋台が実在するのか気にならない訳はない。もしかしたら当事者の私からしたら蓮子よりずっと知りたいという欲求があるのかもしれない。

 

「…そうね。夢なのか何なのか、ハッキリさせたいわね」

「その意気よ!よし、それじゃ早速情報収集よ!」

 

はしゃぎながら学食を出る蓮子を追って、私は包みを持って後を追うのだった。




<NEXT>
「穴が空いてればゼロカロリーよね」
「何メリー、今時そんなの信じてるなんて乙女ね」
「意外と大事なことよこれは。この理論が正しければ穴の空いた食べ物がこれから主流になっていくのよ?」
「……現実は?」
「うう…」

【第7話 喫茶店のバウムクーヘン 】
お楽しみに〜
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