春も好きです。
夏も好きです。
秋も好きです。
好き嫌いはよくないぜ?
ハイ本編へどうぞ。
【M】
ふー、と吐く息も白く染まり始めた今日この頃。
二人の頬が、何もないときにまで赤く染まることはなくなりました。
マフラーの色を
こなれた日常が完成しています。
例の彼氏さん彼女さんは、閉じた踏切の前で楽しそうに、とりとめもないことを喋っています。世界はそれを愛と呼ぶんだぜ……。
六か月間も二人で登校し続けていて、よく飽きないものです。
というのは、もてない男子の考え方なのでしょうね。
半年前に彼氏さんの告白から始まった一組のカップル。広い宇宙の下で同じ国に生まれ、偶然同じ学校に通い、たまたま同じクラスになってはお互いを想い合うようになった、奇跡の存在。
作者ほかの人間からしてみれば、自分のクラスにリア充がまた一人誕生したというだけの話なんでしょうが、本人たちにとっては、人生を揺るがす大事件なんですよね。
勇気を出して自分の気持ちを伝えたら、実は相手も同じ気持ちだった彼氏さん。
好きな人から告白された彼女さん。
その事実だけでご飯何杯でもいけそうです。
私、先回自動書記を担当していました前原は、そんなキュンキュンストーリーが大好きです。
作者にそういう日が早く訪れんことを切に願います。まる。
がたんごとん、という音が大きくなってきました。電車が通過していきます。
二人は、頼りなく曲がった危険色の棒から一歩後ずさります。
私はここで退散するとしましょうか。これから、いろんな意味で、たいそううるさくなることが予想されますので。
それでは皆さん、ごきげんよう……。
ガタガタガタガタガタガタ
【J】
とてつもなく大きな音を立てて、我々の乗った電車が駅を通過して踏切に差し掛かっていきます。
私の向かいには、浮かない表情の作者が座っています。今日も彼女ほしそうな面してますね。しょうがないですね。
私ジョニーと作者は今日もリア充監視の旅を続けています。もう六か月になるでしょうか。踏切に
開いたボックスシートの窓から、例の二人のリア充が談笑しているのが見えます。ついでに冷たい風がごうごう吹き込んでいて、周りの乗客が不機嫌そうに我々を睨んでいます。
ちょーっと居心地が悪いので、逃げ出すことにしましょう。
私は窓を全開にして、
よし、ここだ!さあ行きますよ作者さん!
「え、ちょっとまって」
私は有無を言わさず作者の腕をひっつかんで、窓から飛び降ります。どこぞの秘密結社のエージェントみたいでした。ジョニーかっこいい。作者がどう思ったかは別として。
「のおおおおおおお!お、俺氏、死を覚悟するなう!初めてのツイッタァァァアアああああああ!!!」
乗客は唖然として、私に引っ張られ、悲鳴を上げながら落ちていく作者を見守っています。
「誰か落ちたぞ!救急車呼べ!」と車内は騒然とするのかなーと思いきや、しませんでした。後ろにいた乗客がぶつぶつ文句垂れながらカラカラと窓を閉めて終了。この薄情者!
――――しゅたっ
――――どん、「ぐえっ!」ざしゅっ、ざしゅっ、ざっずざざざざざざざざざざざざざあ「……」
一秒ほどの滞空を経て、着陸。
思ったより高いところからのダイビングとなりました。
前者は私ジョニーが華麗に舞い降りた音。後者は作者が地面に二、三度バウンドしたあげくに不時着した音です。
ちっちっちぃ、まだジョニー流の身のこなしが身についていないようですねぇ作者さん。こんなことで彼女を抱えて走れるんですか?何ならお姫様抱っこできます?お?
「……」
……返事がありません。あれれ、おっかしいぞ?ここで食いついてこない作者など作者ではありませんよ。私が代わりに書いてあげましょうか。
「……」
私ジョニー、今になって作者のことが心配になってきました。生きてるといいですけど。まだ生命保険かけてないので。
私はそろそろと、線路沿いの砂利に顔をうずめている作者に近づきます。
おーい作者さーん、生きてますかー?
死んでないですよね?もちろん。作者ですもんねー?
作者さんはぐったりしています。うつぶせに倒れて動きません。
作者の頭部を取り囲む砂利が鈍い赤色に染まり始めているのは、私の気のせいですか。
大丈夫ですか。
私は作者さんの肩を揺すります。反応がありません。
抱き起こして見た作者の目は
……これは………まずい…!
私は救急車を呼ぶべく、すぐ近くの踏切に向けて走り出しました。
やりすぎました。はしゃぎすぎました。
もう少し、私は作者さんと、バカ話がしたかったですよ……!
しかしまだ、間に合うはずです。
間に合うよな。
間に合わせる。私は一層強く地面を蹴って急ぎます。急展開もいいところ。
「あの」
びくう!と私は肩を震わせます。例のリア充の片割れ、彼氏さんに話しかけられました。
「何かあったんですか?窓から飛び降りてましたよね?」
私の連れが酷い怪我をしてしまって……、至急、救急車を呼ぼうと思いまして。私は答えました。
「僕が電話しておきます!」
彼氏さんはスマートフォンを取り出して、病院に電話をかけてくれました。
私はいくらかお礼を言った気がしますが、よく覚えていません。これで彼氏さんに一つ、貸しを作ってしまいましたね。だからどうした。
「血が、血が、いっぱい出てる……」
私は作者さんに駆け寄っててきぱきと応急処置を施し、彼氏さんは貧血気味になった彼女さんを支えながら、折れそうな心で救急車を待ちました。
自分の行いを悔やむ気持ちなんてこれっぽっちも起こりませんでした。
ただただ、助かってくれ、信じていないはずの神に、懇願していました。
青空を憎らしく思ったのは、その時が初めてでした。
……なんて妄想をしてしまいました。
私としたことが、何を泣きそうになっているのでしょう。
耐えろ!耐えねばならんのだよ!自分を
作者は線路沿いの砂利の上でひっくり返っています。
……死ぬわけがないではないですか。あの方は作者ですよ?彼女ができるまでは絶対に死なないと豪語する、もてない男日本代表です。地球が滅びても、独り身の俺は生き延びられる、などとほざくお調子者。
【S】
……ああ、死ぬかと思った
俺こと作者はうつぶせの体勢から顔だけ上げて周りを見渡した。霜が降りて白くなった草原が狭くなった視界に広がっている。
俺の体のいろんな部分が燃え尽きそうだぜ……真っ白にな……。
【J】
なぜ、あのような妄想をしてしまったのでしょう。
自然と物事の意味を探している私ジョニー。
神とやらの思し召しでしょうか。なんか嫌な感じ。
運命というなら無言で受け入れましょう。するっ。
私ジョニー、神は信じませんが運命論は割と好きなのです。無駄な意味づけもよくやります。あれは楽しいですね。
つまりこの場合、意味を見出すとすれば、私ジョニーはもっと作者に優しく接しなければならない、ということなのでしょう。まじめだなぁ私。
それならば。
ほら、立てますか。私は倒れたままの作者に手を差し伸べます。
「な、なんか優しいな。心境の変化か?成長期?」戸惑う作者でした。
それはこちらのセリフです。今日の作者さんはどうもテンションが低過ぎますよ。……また誰かに振られたんですか?
「やめい。言うのにちょっと間を置くだけで現実味が増しちゃうだろ。その呆れ顔から哀れみの要素を感じとっちゃうだろ」
……。
「微笑むんじゃねえって!慰めんな!そんな顔するな!よく考えもせずに、誰彼構わず告白したりしないよ」
……好きな人はいるんですね。ふーん。
彼女ほしいと言っている割には、作者の周辺に全然女っ気がないので、BLにでも走ったのかと思っていました。
……相手は女性ですか?本当に?ほーんーとーうーに―?
いえ、私はBLに抵抗があるわけではないのです。GLも全然へっちゃら。なんなら応援するまであります。
問題は、作者がBL(
「言葉に気をつけなさい。あと、勝手に他人の
ほほう。面白そうですね。お聞かせ願いましょう。
なんやとおおおおおおおおお!?
作者のありえない告白に、思わずたじろぐ私です。
作者さん、本当なんですか……。
「ああそうだ。さっきも言ったとおり、俺はホモだ。隠しててごめん。でも、自分の中に生まれていたこの気持ちに気づいたのは、ごく最近のことなんだ。その日から俺は悩んで悩んで悩み抜いて、今日に至る。そう……話は昨日までさかのぼる」
一日悩んだくらいでよく「悩み抜いた」なんて言えましたね。
楽しい国語からやり直してはいかがでしょう。
「それで、だな……。俺が、伝えたいのは、その……俺が、ずっと好きだったって気づいたのは…………」
私はごくりと唾をのみます。
遂に聞けるんですね。さあ言っちゃってください、かつてどれだけしつこく聞いても教えてくれなかった、作者の想い人の名を!
「じ、ジョニー、お、お前のことなんだ…………」
私はその瞬間、目の前が真っ暗になった気がしました。
……さすがにそんなことはないですか。ねぇ作者さん?
「当たり前だろ。人を何だと思ってやがる……。あのなあ。俺が落ち込んでたのはなあ!……自動書記担当の前原さんに怒られたんだよ。あそこにいるリア充に石を投げつけた件で」
……なんだ、そんなことか。
いささか落胆し、拍子抜けして、安堵する私でした。
まあいくらキモいキモい言ったところで、作者が本気で自身の性癖を打ち明けたなら、結局、私は彼を受け入れてしまうのかもしれません。
無意味な仮定はさておいて。
気分悪くなってきた。あとで胃薬飲んどこう。
若いですね。
作者はまだまだ若い。
彼女もできそうにない。先は長いぜ。
作者さん。
「うん?何かね?」
あなたに彼女ができないのが運命によって定められたものだとしたら、あなたはそれを受け入れますか?
成り行きで心理テストじみたことを尋ねてしまいました。ジョニーです。
「ああん?受け入れるわけねえだろ。受け入れたら負けだっつーの。というか俺に彼女ができない理由は俺以外にも……、まあそれはいいか。一生だって
なぁーんだよそれ。間延びした返事をし、作者の手を引っ張って起こします。
なんだかんだ言っても作者は男の子ですものね。諦めきれないものがあるのかもしれません。
それでこそ作者。それでなくても作者。
冷ややかな風が、砂利道に座り込む作者のくせ毛を揺らしています。
踏切を渡る彼氏彼女を見つめる作者の
そして今作者は、どんなことを考えているのでしょう。
半開きになった口から、
急に視線を下げて口元をもごもごさせる作者。
あ、今、いやらしいことを考えていましたね。
少し肌寒いが平穏な世界に、今日も我々は生かされています。
戦争もなく、災害もなく、治安も悪くないこの町でこれ以上、作者は一体、何を求めるというのでしょう。
恋を知らない私には、理解しかねます。
作者は、自分のことを理解してくれる
……早く、気付くべきではないですか。
あなたが必要としているものは、彼女でなくとも良いのではないですか。
誰かといつも一緒にいられる、一人で生きていく必要のない現状では、まだ足りないというのですか。
そうでしょうね。
今ある幸せに気づくのは、来たるべき未来、その幸せが享受できなくなった時なのですから。
ですから、あの彼氏さんが彼女さんのありがたみに気づくのは、別れた後かもしれない。
生きる喜びなんかを悟るのは、死んでからかもしれない。
恋人であっても、初めのうちはうまくやることができたとして、いつか進展がなくなれば、あとは自然と、
いわゆる
それはどんな関係にも付きまとうものだそうですが、果たして、今しがた我々に気づかず踏切を通り過ぎていったあのリア充さんたちは、乗り越えることができるでしょうか。
作者は二人をどこまでも追いかけるつもりのようですので、覚悟しておいた方がよいと思います。
別れの瞬間までばっちり記録させていただく予定です。
別れを望んでいるわけではないですが、もしそうなった時には。
では、その時まで、どうぞよろしく。作者さんにリア充さん。
ほらあ、何をぼーっとしてるんですか。行きますよ。
「
スパーン。
私は作者の後頭部をはたきます。隠し持っていたハリセンがこんなところで役に立ちました。
いい音。しびれるぅ
「はっ。俺はこんなところで何を?確か夢の中ではきれいなお姉さんに囲まれて……、くそっ夢だったか……」
……ネタのつもりでしょうか。
哀れむ気も起きないので、私はニコニコ笑顔で作者を置いて猛ダッシュ。
「おい待てよ。俺のありがたい話はまだ終わってないぞ」
フハハハハ、聞こえねえなあ!私一人でリア充観察してきますよおおっ!
「待て、俺もつれてけっ。というか俺の場合、人間という人間を観察しすぎて毎日がエブリデイなんだぞ」
異民族の言葉はヨクワカランアルネ。
肩をすくめて両手を上げる私。変顔も忘れません。
「うお、すげえ様になってる。写真撮らせろ」
やなこった
「あ、逃げんなコラアアアアアアアアアアアアア」
さくしゃ が せまってきた!どうする?
▷まま に いう
▷せんせい に ちくる
▷うけいれる
▶にげる
選択肢が
「……?なんだか後ろが騒がしいな。小学生でも遊んでるのか?」
彼女さんとの話を中断して彼氏さんが振り返ります。
「
イェ、イェッサー!
ところで矢部って誰よその女!
電柱の陰に身を隠す作者と私。
作者と体が密着していますが、私が男であるがゆえに色気のかけらもありません。作者的に超無念。
「……気のせいか」
よしよし。
今日も我らのストーカー稼業は順調です。そのうち訴えられそう。
……それにしても、あの二人は変わらず幸せそうですね。
会話がどうこうではなく、雰囲気が、安定しています。
思わず、不幸になれと呪いをかけてしまいそうですね。
そう思いませんか、作者さん?
「……」
作者さん?
「……俺は、今のところは……見ているだけで十分かな」
……そうですか。
それは……とても、いいことです。何が。
ええ。
「俺、先に帰ることにするわ」
……それではまた家で。
作者はもと来た曲がり角を、重くも軽くもない足取りで消えていきました。
どうしちゃったんでしょう、作者さんは。
そしてどうしちゃったんでしょう、私。
無性に感動しています。
心境の変化。マジ素晴らしい。人の成長を目の当たりにするのはいいものですな。
そういえば、今回は悟り系ワードが多かったのではないかと思われます。
なんでか。
心境の変化です。
じゃあそれはなんでか。
……叱られました。
前原さんに。こっぴどく。
つまり、元凶はあの女!許さん!
「何を許さないんですか?どうも。前原です」
ひぃ……い、いや。何でもありません。断じて何も言っておりません。
「神に誓って?」
もちろんじゃあないですか。アーメン。
私は手慣れた風に胸の前で何度も十字を切ります。私はキリスト教徒私はキリスト教徒
「……神は信じていないんじゃなかったのかな?全部聞いてたよ?」
あ、あの……おおおお許しを!すいませんでしたっ!
土下座で許しを請う私でした。
【M】
空が高いです。
自分の存在のちっぽけさを身にしみて感じるこの季節。
かじかむ寒さを温め合える存在が近くにいるのは、なんて幸せなことなんだろうと思う、雪のちらつき始めた冬の午前でありました。
【J】
ジョニーです。
はあ……前原さん怖かったあ……。
「前原ですが何か?今聞き捨てならないセリフが」
いっ命だけは!御慈悲をおおおおおお!!