設定変更という荒業を駆使して作者とジョニーはドラゴンボール的能力を習得、人もまばらな休日の早朝の街で遊び、戦いまくっていた。
ところが調子に乗ってバリアを解いた作者にジョニーの放った巨大な気弾が炸裂、煙が晴れるとそこに作者の姿は無かった……。
作者はどこに!?
【J】
……さあどうしたものでしょう。
作者がいないことにはこの私、何もすることがないのです。作者と共にこれまで生きてきましたので。
町を直そうと思ったらまずこの穴を塞がなければなりませんが、作者はおそらくこの穴の奥で御存命中。作者を待つよりほかに手立てがありません。
てことはこの話、終わりません。まずいですよ。「作者を待ち続けるジョニーの物語」が始まってしまいます。誰が読むのそれ。
私は穴の奥の暗闇に向かって大声で作者の名を呼びます。
……。
私は耳をそばだてますが、いっこうに返事はありません。
……ああもう、面倒くさいですね。
私が探しに行くしかないようです。
私は後ずさって軽く助走をつけ、穴の奥にダイビング!
しようとしたところで、脳内に声が響き渡りました。冷たくはっきりとした意志を感じさせる、聞き覚えのある声が。
(―――――無駄ですよ。)
な、なんて!?ギリギリあと一歩のところで踏みとどまる私。
無駄な思考の全く無い、静かなテレパシーが再度私の脳内に入り込みます。
(―――――無駄だ、と言っているのです。)
怒りにも似た表情で私が振り返ると、自動書記の前原さんが裾の広がったデニムパンツを揺らしながらこちらに向かって歩いてきているところでした。いつもと同じ格好なのに今はなんだか不謹慎に見えるのはどうして。
私は強い口調で言い返します。
何を言っているんですか、前原さん!作者がいなければこの話が終わらない、というか別の意味で終わってしまうんですよ!
前原さんは私に声の届く範囲に入るまで、それ以上何も口を聞きませんでした。
静かな微笑みをたたえながら歩み寄る姿は、天使でも、悪魔のようでもありました。
テレパシーが切られたのかまだ働いているのかさえ、私にはわかりませんでした。
ようやく声の届く距離までやってきた前原さんは、普段着のパーカーのポケットに両手を突っ込んで、重々しい言葉を口にします。
「作者は死にました。もう後戻りはできませんよ。」
作者はこの下にいるはずでしょ!何をもって死んだと言い切れるんですか!
私は穴の底を指さしながら言いました。
「……作者は最後の瞬間、バリアを張り直しませんでした。これだけ言えば、お分かりですよね?」
う、嘘つこうったってそうはいきませんよ。雲のマシンかなんかで脱出してたんじゃないですか?その辺の
「出てきません。作者が死んだのは本当です。私だって作者との付き合いは短くありません。……今更、嘘などつきませんよ。この巨大な穴は、ここから約二〇キロメートル地下のマグマだまりにまで届いています。入ればまず、助かることはあり得ません。……こういうことがあるかもしれないから、普段から調子に乗るなと言ってきたんですけどね……」
前原さんはいつにもまして悲しげな瞳を、私が開けた深い穴の暗がりへと向けています。
私たちはどちらからともなく、深い穴のふちに腰掛けます。
作者的には興奮するシチュエーションなんでしょうけれど……。
私は途方に暮れて空を見上げました。
作者のごとくまっさらな白い雲が、澄み切った冬空に幾筋も弧を描いています。ゆっくりのんびりとではありますが、それらは別々に、確かに動いていました。
……こういう時ほど、自然の美しさを身にしみて感じるときはありませんね。
……このまま終わりになってしまうんでしょうか、私たち。
「どうでしょう。作者の作り上げたこの世界がいつまで持続するのか、それは私にも分かりかねますので。数分後には終焉を迎えるかもしれませんし、このまま半永久的に続いていく可能性すらあります。あるいは、
前原さんは冷静に言葉を
―――「しかし、やり直す方法はあります」
まだ何か手立てがあるんですか!?
すっかり諦めていた私は首をちぎれんばかりに動かして前原さんを見ます。
「ええ。これは
―――「『夢オチ』というものです」
は?
「今日あった出来事が全て夢となり、あらゆるものの時間は昨日へ、この場合、作者が学校で授業を受けている時間へと戻ります。そうすれば作者が死ぬ未来は無くなり、また二人して二人を追いかけ回す日常が再始動する。あなたが望むのなら、の話ですが」
望みます望みます!だから早く作者を生き返らせて。
「……なぜですか?」
なぜって……、……一人で追っかけたって、楽しくないじゃないですか。ストーカーみたいですし。
「一人ではいけませんか?……あなたにはあの方が必要なのですか?」
駄目です。ダメダメです。私にはあのお調子者が必要なんですよっ!
【M】
ジョニーさんは懇願するような目で私を見上げます。
……なるほど。
承りました。
私は瞳を閉じて微笑み、ジョニーさんと横座りの状態のまま、
全ては夢のままに……。
私とジョニーさんの真下に、光の渦が現れます。そしてそれはだんだんと大きくなり、私たちを、世界を飲み込んで。
ごうごうと渦巻く時間の流れに逆らって。
ゆるくまとめられた黒髪がゆったりと時空の風になびきます。
作者もよく、ここまで凝りに凝った仕掛けを作るものですね……。
様々な色に輝いていた世界が一転、白い光に包まれていきます。
すたっ、とコンクリートの地面に降り立ちます。今度は割れていませんね。よし。案の定、ジョニーさんは着地に失敗して膝をすりむいています。お約束。絆創膏渡しておきましょうか。
―――さあ、着きましたよ。
【S】
……はっ。
俺は覚醒した。なんだこの、体中にみなぎるパワーは……!
俺は飛び起きた。ガタンと大きな音が鳴ってしまい、板書中の教師が呆れの視線を俺に照射してくる。ぐあっ…溶ける……。
どうやら、自分でも知らぬ間に眠りこけてしまっていたようだ。こういう時は隣の席の女子が優しく起こしてくれる(意味深)のが定番なのだが、あいにく隣は男子である。からかい上手の何木さんを呼んでくれ!
我ながら気持ち悪い妄想をしていると、徐々にこれまでの経緯を思い出してきた。
なんかすごいアクション系の夢を見た気がする。以上。
ふあ、と欠伸を噛み殺し、黒板の字をノートに転写する作業に入る。
冬にしては強い日差しが窓際の俺の席を照らしまくっている。机に反射して光が俺の胸に眼球に飛び込んでくる。
周りに気取られないように注意を払いつつ、前から後ろまで部屋中をざっと見渡してみる。
ここは教室。俺の通う高校の、俺の所属するクラス、二年一組の教室。
……俺、生きてるね、死んでないね?両手をギュッパーしてみる。おててっていいな、つないじゃお!両手をつなぐ。セルフ握手。なにこれさみしい。
腕やら首やらをぐいぐい捻って自分の生存を確認。よし。よぉし。ぃよぉーし。
『夢オチ』がちゃんと発動したんだな。ジョニーもスパッと同意してくれたんだな。
万事オーケー俺マジ有能。ぐっと机の下でガッツポーズをする。
どうしてあの時バリアを張りなおさなかったのか。それには理由がある。キリッ
あんな巨大な気の玉を真正面から受けたら、刺激で俺の中の何かが目覚めるかなーと思ったんだよね。いやあ、教室で目覚めましたわ。ハイ。
何はともあれ、俺は今生きている。その事実だけでも良しとしようじゃないか。
いやあ今日も世界は平和だね。
俺は机の横にかけてあったビニール袋に手を伸ばし、(昨日の俺が)昼に飲もうと買っておいたコーヒーを取り出した。
鼻歌交じりに何度か振って。
カシュッ、と
飲み口に口をつけながら窓の外を見る。
晴れ渡った空は、やはり夏とは比べ物にならないほど透き通っている。今日は風が強いのか、時折ひゅんという音がして窓がかたかたと鳴った。
寒い冬に暖かい部屋でぬくぬくするのは最高だね!
ごくん、と記念すべき一口をいただく。うまい。ふー、と息をついて、もう一口。
不意に、視界が暗くなったような気がした。
なんやろな、と窓の外に目をやった。
窓の外側にジョニーがへばりついていた。
やけに目立つとがった鼻、見開かれた大きな瞳、窓に押し付けられたほっぺたに、サンタハットみたいで特徴的な三角帽子。間違いなくジョニーである。そういやもうすぐクリスマスだった。
ぶほっ、と口に含んでいたコーヒーを残らずジョニー(窓)にぶちまける。
げほげほと俺が
……なぜそのような鬼の形相をしていらっしゃるのでしょうか?
はっ!
ここ、教室!いま、授業中!ここに俺の死亡フラグが確立!
俺の席のそばまでやってきて、教師は肩をわなわな震わせながら口を開く。……俺も別の意味で肩を震わせているんですがいかがでしょう。
「……授業中だ」
は……はひ……。俺氏、涙目。
「何をコーヒー飲んどるんじゃあー!」
がみがみ怒り始める教師。怒られるのは概して気分のいいものではないが、ねちねちよりましだ。その感情は『もし怒られるなら体育教師が爽やかでよさそう』というのに似ていると思う。割と高確率で鼓膜が破れるというのが難点だけど。
ひいいいすいません……
「後で職員室に来い……。あと、窓も
そこんところ強調しますね先生……。……え、窓?
そこで俺は振り返って、窓にほとばしるコーヒーを初めて見たのだった。ジョニーは既にいなかった。
Oh....
「このコーヒーはもらっておく」
そう言い残してその教師は俺の飲みかけのコーヒーを回収していった。
ええ……冷えちゃうじゃないの……。絶対飲まないでよ。それは俺のダーッ!
【J】
作者の行方は誰も知らない、という結末ですか。職員室でしょうけど。
私ジョニーと前原さんは、屋上のとある位置から作者を覗き見しています。作者の高校の校舎はなぜだかロの字になっていて、真ん中が中庭になっているので、向かいの校舎の屋上からは作者のいる教室の窓際が丸見えなんですよね。
何もかも、昨日のままですね。安心しました、ジョニーです。
今の私的には、今日は春風そよそよの気分なんですが、何を隠そう冬ですので北風がびゅうびゅうしています。
どうにかなりませんか前原さん。
「どうにもなりませんねジョニーさん。受け入れてください」
前原さんはクールに答えて、強く吹いた北風に身を縮めています。わあ可愛い。日頃の力強さ(震え)とか欠片もないですね。多分からかったら殺されます。高木さんまさかの敗退。
私はともかく、前原さんはどうやってここまで入ったんですか。
「……裏ルートを使いました」ためらったかと思えばしれっと言った前原さん
警備員を殺した、とか?
すいません調子乗りましたごめんなさいお願いですからその腕を下ろして!
登場人物死亡の惨劇がまた繰り返されそう。命だけは……!
【M】
……やれやれ。
ため息をつき、
(……助かった。ふっ、チョロいぜ前原さん!命乞いには弱いんだな!いつか復讐してやる!)
ジョニーさんのテレパシーがばっちり聞こえています。西片のような発言は得意なようですね。
……やはり殺しておけばよかったでしょうか、二人とも……。
「な、何を言ってるんですか前原さん!?人間に絶望したAIなの?うわあ!黒い!顔の上半分が黒い!目だけが光ってる!こわいこわいこわい」
ジョニーさんが怯えています。何なの?
私はジョニーさんを睨みます見据えます。私としては視線を動かしただけのつもりだったのですが……。
「ひぇぇえええええ!!!こっ…殺されるっ……」
逃げ出したジョニーさん。本当に何なの?
ふっと息を吐き、作者のいる教室に目をやります。
作者は窓の外をぼーっと眺めていました。つまりこちらの方を向いていました。
屋上にいる私(とジョニーさん)に気づきます。小さく手を振ってきました。
私は握っていた拳をほどいて、作者に向かって手を振り返しました。
【M】
前原です。
私、一応女性という設定ですが、そういう描写が圧倒的に少ないですね。
……ふむ。
ちょっと作者に掛け合ってみることにします。始めは言葉で、渋るようなら腕力で。
……こういう言動が問題なのか。
うーん、悩ましい……。