〈sideアスタ〉
本当なら、マグナ先輩がきっと正しい。オレだって昔から矢鱈と鍛えてはきたから、他の奴らよりか少しは“人の身体”ってもんに関して知ってるつもりだ。
だからこそ、今のノエルを見て………危ない状態って事は直ぐに分かった。そうでなくても、誰が見たってそうと分かるくらいに重傷だ。
「諦めんな!」
それでもオレが思わずそう声を上げたのは、理解してしまったから。ノエルは、ユノがいなかった場合のオレだったかもしれないと。
魔法騎士になって、黒の暴牛に入ってからの初任務。当然、ノエルと仲良くなったとは思っていない。そもそも、そんなに話してすらいないし。
「お前だって努力してきたんだろっ!?それは絶対に………こんな所で、こんな奴らに負けて、そこで這いつくばる為じゃない筈だっ!!」
ノエルの様子を伺う余裕はない。剣を振り回して氷を防ぎながら、言葉を吐き出し続ける。
「オレやマグナ先輩じゃ無理だ。防ぐだけで精一杯だけど………お前が何とかしてくれたら、絶対に勝つ!」
鍛えているのは初対面の時に知って、魔力暴走する程に限界まで努力する奴だって事も知った………そんな努力を、たった独りで続けてきた。
(いや、違うか)
今も続けているんだ、ノエルは。
そんな独りでこれまで頑張ってきたであろうノエルが、折れかけている。その原因がマグナ先輩の言葉であるなら、掛けるべき言葉は“下がれ”じゃない。今、オレ達にはノエルの力が必要で………なら、今のノエルに掛けるべき言葉は。
「だから立てっ!限界越えろ、ノエル!!」
〈sideout〉
(勝手な事ばかり、言ってくれちゃって………)
私が一体、どれだけの努力を重ねてきたと思ってる。何も知らない癖に………王族としての立場も、だからこその誹謗中傷も、それに何一つ反論できない未熟な私を。
………諦めるな、限界を越えろ、ね。
諦めたりなんかしなかった。限界だって幾度も越えようとした。だけど何をどれだけやっても、決して結果が伴うことはなかった。私の努力が無駄だったという事実を、私は私自身のこれまでで証明してしまっている。
「貴方に、何がっ」
分かるものか、と。言おうとして………出来なかった。そんな台詞を、彼に向けて吐ける筈もないんだ。
だって、知っているから。一切の魔力を持たず生まれ、同じ孤児院には圧倒的な才能を持った幼馴染。魔法帝になるという共通の夢を抱え努力を重ねながらも、周りの誰もが幼馴染のみを囃し立てる彼の日々は。
(………どんなにクソッタレな気分だったのかしら)
そんな日々を乗り越えて、彼は魔法騎士になった。私と違いコネなどない彼は、その実力を魔法騎士団の団長であるヤミに認められ、黒の暴牛に入った。
アスタは勝ち取ったんだ。お情けで魔法騎士のローブを与えられた、私なんかとはまるで違う。私より彼が努力を重ねていて、私よりも優れていることなんか………とっくの昔に知っている。
ーーーそれでも。
「本っ当に………生意気な、下民ね」
立ち上がる。それだけの動作がこんなにも辛い。今にも息が止まりそうだ。膝を折ってしまえば、どんなに楽になるだろう。
それでも立ったのは………意地、としか言いようがない。だって王族としての誇りとか、そんなものは生憎と持ち合わせていない。
「いいわーーーやってやるわよ」
私よりずっと酷い環境にいた彼にこんな言葉を掛けられてしまっては………意地を張るしかないじゃない。
ーーー初めて、私の魔導書に魔法が刻まれる。