水が溢れる。魔力が“水”という形を得て生じたそれは、今朝の魔力暴走とは程遠く安定している。
「水創成魔法、“海龍の帳”っ!」
私を中心にして半球状に形成した水の結界は、無数に降り掛かる氷礫を荒々しい渦で飲み込んだりしている訳ではない。しかし、確かに攻撃を防ぎ切っている。
例えるなら、未だに私が使えない拾壱ノ型“凪”に近い。
(何て顔をさせているのよ、私)
ようやく、周りを見る余裕が生まれた。一度は少なからず払拭させた不安が、再びソッシ村の人々を覆っていた。その事に、今の今まで気づかなかった自分が情けない。
「私は王族、ノエル・シルヴァ」
名乗りを上げる。今まで私という存在を語る時、唯一用いてきた肩書き。私は今日この瞬間に、もう一つの肩書きを自ら告げる。
「そして魔法騎士団、黒の暴牛の一員よ!もう、この村の人たちには傷一つだって付けさせないっ!!」
静謐という言葉さえ浮かぶ水の結界、“海龍の帳”。そこに込めた魔力を感じ取ったヒースは、ほんの僅かな隙を見せる。
それだけで、アスタにとっては十分だった。
「俺には魔力なんかねぇ」
“海龍の帳”から飛び出し、ヒースに剣を突き立てる。
「それでもお前をぶちのめすっ!!」
その後は辛くも勝利した。アスタも私もボロボロで、マグナも魔力を使い切った本当にギリギリの勝利だったけど………勝ちは勝ちだ。
マグナはともかくアスタは相当に傷を負った筈だが、何故か少し休んだだけでピンピンしてる。私は村の人から包帯だけ貰って雑に巻いておいた。今更になって痛みが段々と強くなっている気がする。
「おい、ノエル。大丈夫か?」
「黙って。こちとら貴方みたいな筋肉バカと違って、繊細に身体ができてるの」
大丈夫な訳があるか。むしろ何で直撃を何度も喰らったアスタの方が元気なんだ。
流石に帰りは大人しくマグナの箒で運んで貰うことにした。この状態で走るとか正気じゃない。骨折じゃ済まなさそうだ。
「あ、マグナ。この辺で降ろして頂戴」
「あ?急にどうした?」
「このままアジトに戻った所で、私の怪我を治せる人はいないじゃない。街の協会とかで診て貰うから、報告は任せるわ」
私の言い分に納得してくれたのか、マグナは街の近辺に降りてくれる。協会まで同行しようとした彼らを追いやり、一人で街に背を向けて歩き出す。あの場所は確か、ここから近い筈だ。
足を運んだのは寂れた廃墟………の、残骸とでも言うべき場所。石造りの門やその周りの地面には、球状の破壊痕がいくつもある。
「………しばらく来てなかったから、ちょっとだけ懐かしいわね」
私が黒の暴牛に入る以前、滅多に人も来ないからと鍛錬場に選んだ廃墟。マグナには後で謝ろう。
“海龍の帳”を展開する。初めて成功した魔力のコントロールの感覚を、早く反復したくて仕方なかった。