憑依転生者『ノエル・シルヴァ』   作:紅ヶ霞 夢涯

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13話

 

 何度も狙った場所に魔力の塊を飛ばそうとするが、やはりと言うべきか上手くいかない。そう都合よく変わりはしないか。

 

「………無理ね。魔導具か何かを買うべきかしら」

 

 代わりと言っては何だが、“海龍の帳”の方は順調だと思う。展開させる位置や大きさの調節が段々と効くようになってきた。複数同時展開は少し難しい。それよりも、今は。

 

「ヤバい。普通に痛い」

 

 私が負った傷なんて自爆でのそれだけのようなものだから、骨折とかはしていない………筈。だけど包帯を巻いて止血をしただけで傷が治るなら苦労はしない。

 

 魔導書(グリモワール)を閉じて地面に転がる。街の安宿にでも泊まろうかと最初は思っていたが、もう動きたくない。今更になって色々と響いてきた。

 

「野宿………しかないわね」

 

 まぁ、一晩で死にはしないだろうと目を閉じる。疲れと眠気に任せて意識を飛ばそうとした瞬間、なるべくなら聴きたくない人物の声がした。

 

 

 

 

 

「あら、こんな誰が通るかも分からない場所で………少し端ないですわよ?ノエルさん」

 

 

 

 

 

 閉じた目を開く。すると星空を遮って私を上から覗き込む、明るい色の長い髪をした少女と目が合った。

 

「………何でこんな所にいるのよ、ミモザ。夜更かしは美容の大敵って知らないの?」

 

「今の貴女にだけは言われたくはありませんわ………その怪我、どうされたのですか?」

 

 ミモザ・ヴァーミリオン。私と同じ王族の出身で、私と同年代の………腐れ縁と表現するのが正しいか。間違っても幼馴染と言えるような、親しい間柄ではないだろう。

 

 そんな彼女は呆れたように溜息を吐くと、私に包帯を外すように言ってきた。え、なに?いじめ?

 

「治しますと、はっきり伝えないと分かりませんか?そんな雑に包帯を巻いただけでは、治るものも治りませんよ?」

 

「いいわよ、そこまでしなくたって。確かに痛いけど、何日か寝てれば勝手に治るでしょ」

 

 強引に包帯を外され、構わないと言っているのに治癒魔法まで施された。怪我の一つも負ってなければ、彼女の好きにはさせないのだけど。

 

「せめて薬草を使ったり………はぁ、何でもありませんわ。相も変わらず頑固者ですね」

 

(薬草………アジト周りに生えていたりするかしら?)

 

 盲点だった。無ければ買おう。今後、また必要な場面はあるだろうから。

 

 ミモザの治癒魔法によって、徐々に傷は癒え痛みも引いていく。彼女の魔力コントロールは、魔法騎士団に入りたてとは思えないくらいに精密で、全ての団の同期と比べても頭一つ抜き出ているのは間違いない。

 

(だから、なるべく会いたくないのよ)

 

 同い年で、同じ王族。優秀な血族が周りにいることも同じなのに………どうして、そこだけが私と彼女とで違うのか。彼女と顔を合わせる度に、彼女が魔法を使うのを見る度に、それを周りから褒められるのを見る度にーーーどうしても、惨めな気持ちにならざるを得ない。

 

「………どうして」

 

 貴女が、貴女だけが王族・貴族の中で、こんなにも私に優しくしてくれるのか。誰一人として私に対してそんな風に接してくれることがなければ、ミモザも他の王族・貴族と同じような性格をしていれば………。

 

 

 

 

 

(私は、きっと)

 

 

 

 

 

 ーーー誰に期待することもなかったのに。

 

 

 

 

 

「何か?」

 

 キョトンと首を傾げる彼女に言葉を飲み込む。そんな想いを直接ぶつけられる筈がない。ただの八つ当たりだ。

 

「………………………何でもないわ。それより、ありがとう。助かったわ」

 

「どういたしまして、ですわ。ところでノエルさんは、どうして此方に?もしかして黒の暴牛団からも追い出されたのですか?」 

 

「縁起でもない事を言わないでよ。そうなったら、私に行く場所なんて何処にもないじゃない」

 

 いや、本当に勘弁して欲しい。私からしたら、そうなってもおかしくはないのだから。

 

「そういうミモザこそ、何でこんな場所に来ているのよ」

 

「へ?あ。え、えぇ………私は任務の帰りに偶々近くを通ったので、少し立ち寄っただけですわ。ひょっとしたらノエルさんに会えるかも、とも思いましたし」

 

 だから何で私なんかに会おうとしてるのかって………まぁ、答える気は無いようなので深く聞かないことにする。

 

「と、ところで黒の暴牛ではどうですか?いい評判は聞きませんよ?」

 

「どうって、評判通りの魔法騎士団よ。粗野と粗暴とを絵に書いたような連中ばっかり」

 

 間違いなく真っ当な魔法騎士団ではない。一般市民がイメージする魔法騎士とは、あまりにも離れ過ぎている。

 

 ーーーけど。

 

「悪い連中じゃないのは、まぁ確かなのよね」

 

「そうですか。良いお仲間に巡り合ったのですね」

 

 嬉しそうに顔を綻ばせるミモザに、思わず首を傾げる。

 

「仲間?」

 

「………………違うのですか?」

 

 全く以て的外れだ。確かに同じローブを纏って同じ魔法騎士団に所属しているが、私が皆の一員だなんて烏滸がましいにも程がある。ソッシ村で黒の暴牛の一員とは名乗ったが、それはそれ。

 

「今は、まだ………違うけど」

 

 いつか、そう言える日が来るのだろうか。

 

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