主人公のアスタと会ったその日の夜。『黒の暴牛』団員が寝静まっているであろう深夜に、私はアジト付近の森の中にいた。
「はぁ…はぁ………どうしてっ」
魔力を木の幹に描いた簡素な的に延々と放っているが、この十数年一度たりとも狙ったところに当たった試しがない。
『魔力のコントロールも出来ないなんて、情けないわねー……』
ネブラ姉様の言う通り、魔力のコントロールなど出来て当たり前。平民は愚か下民ですら、少しの練習で出来ることだろう。
姉様に私を励ますような気は一切なかっただろうけど、それでも時折私の鍛錬を見に来てくれて嬉しかった。
『何だその薄っぺらい魔導書は……本当に王族かオマエ』
私もこんな魔導書で少なからず恥ずかしい思いがあった。けど私の魔導書がこれである以上、もうこれでやっていくしかないと改めて覚悟した日だった。
私が魔導書を授かったとき、そう言いながら誰より先に私のところに来たソリド兄様。
例え嫌みを言う為だったとしても家族が来てくれたという喜びを感じていたのを、きっとソリド兄様が知ることはない。
『お前のような一族の恥曝しは、『銀翼の大鷲』には必要ない』
ーーーこの出来損ないめ…
心底から軽蔑した風にそう言ったノゼル兄様。ネブラ姉様とソリド兄様みたいに嫌みを言われたことはないが、ただ淡々と「お前は出来損ないなのだ」という事実を告げられた気がした。
事実私は出来損ない以外の何者でもない。その程度のことはとうに理解している。
でも、だからこそ。
「せめて……せめてもう一回だけ会って、ちゃんと話をしないと」
私が魔導書を授かるまでシルヴァ家に居させてくれたことにお礼も言えてない。私のせいで少なくない陰口を叩かれたことに謝罪も出来ていない。
ーーー最も大切なモノを奪ったことを責められてすらいない。
「おぇっ」
急に吐き気を催した。膝を着いて胃の中身を地面に吐き出す。
微かに血が滲んでいるように見えた。
気づけば日が昇りかけていた。
一晩中延々と魔力を放っていたと思うと、自分でも気が滅入る。それだけやってもやはり一度も当たらなかったから。
息が荒い。額を流れる汗が気持ち悪い。少し離れた的さえはっきり見えないくらいに視界が滲み、自分が真っ直ぐ立てているのかすら怪しい。
「なんでっ、どうしてっ………!」
思った通りにいかないのか。
疲労のせいか魔力をただ外に打ち出すことも上手くいかない。それでも最後に一度だけ魔力を放とうとする。
「……あっ」
そしてヤバいと思ったその瞬間に、私は自身の暴走した魔力に飲み込まれた。