魔力の暴走。それ自体はよくある訳ではないが、広く知られている現象。
けど、それを。下民や平民でも稀にするかしないかの魔力暴走を、仮にも王族である私が起こしてしまうなんて。
(これじゃあ本当に、シルヴァ家の恥晒しでしかないじゃない)
暴走した水の魔力が、森の至る所を破壊して回る。黒の暴牛のアジトに向かっていないのは、不幸中の幸いと言えるだろうか。
息が出来ない。苦しい。もう外の様子も分からない。
(何をやっているの、私)
魔力操作の練習を何年も重ねても、まるで上達しなかった。上達する兆しさえ感じることはなかった。これから先も同じことをして、魔力操作を習得できる日が訪れると思わない。
ーーーやっぱり、私が魔法騎士なんて。
「うわああああああああああ!!!???」
そんな思考を遮るように、叫び声が聞こえた。そして次の瞬間には、暴走していた魔力が弾ける。
僅かな浮遊感の後に落下が始まったと思いきや、気づいたら水が降り注ぐ地面に転がっていた。
すぐ近くで団長に褒められる主人公がいて、彼は「オイ、オマエ!」と声を掛けられる。
「なんちゅー魔力持ってんだよ!!すっげぇーな!!オレ魔力ないから羨ましいぞ、チクショオオ!!!!」
罵倒や侮蔑。そういった負の感情が一切ない、純粋な言葉が私へとぶつけられた。
「特訓して自在に扱えるよーになれぱ、オマエ無敵だな!!オレも負けねーように頑張んねーと!!」
すると主人公の台詞に触発されたのか、マグナが呆れたように肩をすくめながら口を開く。
「何だ、魔力がコントロール出来なかっただけかよ。早く言えよ、出来損ない王族」
マグナを含めた、黒の暴牛団員の視線が向けられる。それらの中にはやはり、私を下に見るような色はない。
「オレ達は出来損ない集団、『黒の暴牛』だぞ。テメーの欠点ごとき、どーってこたねぇんだよ。バカタレ」
口は悪いが、不快ではない。マグナ以外の団員から次々に向けられる言葉も、全てが私を好意的に捉えたもの。
「ほいよ!」
主人公が片手を差し出す。私はそれに同じように片手を伸ばしてーーー。
「うるさい」
その手を弾いた。
疲労困憊を自覚しながら自力で立ち上がり、主人公を睨み付ける。彼は手を弾いたことに対する文句を言いかけた様子だが、私の眼光に怯んだのか口噤む。
「よくも、私を助けたわね。逆ならともかく、下民が王族を助けるですって………?冗談も程々にしなさい。とんだ恥の上塗りよ」
吐き捨てるのは、紛れもない本音。
ーーー正直、振り払う直前まで彼の手を握るか迷った。十数年の生活の中で、こんなに温かい言葉を貰ったのは初めてだから。
(でも、だからこそ)
それに甘える訳にいかない。甘えることなど、許されていい訳がない。
「………………………………………………けど。助けられた事実を認めない方が、余程の恥になると思うから、一度だけ言います」
水分を含んだ髪を左右に払い、改めて主人公に視線を向ける。
「助けてくれたこと、感謝するわ。甚だ不本意だけど、借りが出来てしまったみたいね」
まさか私がお礼を言うと思わなかったのか、キョトンとする主人公に更に言葉を続ける。
「だから貴方に何かあった時は、今度は私が貴方を助けるわ。それで貸し借りなし。以上」
一方的に告げて、着替えの為に自室へ戻った。アジトに入る瞬間まで、背中には主人公たちの視線が刺さっていた。