〈マグナ〉
目的地の、ソッシ村が見えてきた。しかしそこは遠目にも分かる程、深い霧で覆われている。
「マグナ先輩、何か霧がヤバいですね!!」
「うるせぇ!そんな大声出さなくても聞こえてるわ!!」
後ろのアスタに怒鳴り返し、考える。俺も下民だ。黒の暴牛に入るまでは、『恵外界』で暮らしていたから分かる。
この辺りで霧に覆われる村など、聞いたことも見たこともない。つまりは、明らかに異常だ。
(どうする?)
あれが何らかの原因で自然発生したなら、別に何の問題もない。幸いここには魔法を…魔力を無力化できる、新人のアスタがいる。簡単にどうにかできるだろう。
しかし、万が一にもそうじゃない場合は?
村一つを覆う魔法の使い手。明らかに新人二人を抱えて、対敵していい相手じゃない。一度アジトに戻って、誰かしら増援を………駄目だ。その間に何かあるかもしれねー。
「速度を上げて!!」
「ッ!?」
いきなり耳元でノエ公が叫んだ。これまで無言だったこともあり、驚きで箒の操作が僅かにブレる。………………………あと、近い。
「きゅ、急に叫ぶんじゃねぇ!?ビックリするだろが!!」
「いいから早く!バカスタは先頭で待機。貴方の剣で霧を斬って道を作るの。分かった!?」
「いや、いきなり言われても。どうしたんだ、ノエル?」
舌打ちが聞こえたのでチラリと後ろを見る。ノエ公がアスタの胸ぐらを掴んで持ち上げ、箒先頭にある飾りに叩きつけるように運んだ。
………ってオイ、待て待て。
(今、箒が揺れなかったぞ!?)
箒の上で派手な動きをすれば、その分だけ箒も揺れる。箒を操る人物に余程の腕前があれば、話は変わるだろうが………俺にそんな腕はない。なら、つまり。
(………いや)
それは、今は置いておく。それより今は。
「ちょっと待て、ノエ公!まだ何かあると決まった訳じゃ「何かあったらどうするの!?」ッ、それは」
「何もないならそれでいい。でも、あれは絶対に何かある」
普段のこいつは、嫌いとまで言わないがぶっちゃけ苦手だ。王族らしくツンケンした態度をしている癖に、その目の中には下民に対する憧憬すらある。多分、今朝も下民・平民に対する劣等感が爆発した結果だろう。だからって、あの言い方はどうかと思うが。
(ーーーそれでも)
生意気には違いないが、それでも後輩だ。その後輩に、ここまで言わせて。
(それで引き下がったら、もう俺は先輩でも漢でもねーだろ!!)
「最高速度で突っ込むぞ!振り落とされるなよ!!」
そして俺は、深い霧に箒を進めた。