アスタが魔法の霧を反魔法の剣で斬り裂いて作る道を、真っ直ぐにマグナの駆る箒が進んでいく。
やがて霧が晴れ、視界が開けた。
そこには村の真ん中に集まった、否。集められた村人達と、それを包囲する白いローブに身を包み、ほとんどが顔を隠した妙な集団。その集団の一人が氷の魔法を操っていてーーー
ーーーそれと必死に戦っている、一人の男性がいた。
「オッサン!!?」
マグナがその男性に向けて声を上げる。すると男性がマグナの方を見たかと思えば、彼は目を見開いて、次に安堵の表情を浮かべた。
すぐに箒から飛び降りる。マグナが操る箒を追い抜き、安堵からか気を抜いてしまった男性に駆け寄った。
「“水の呼吸”肆の型、打ち潮ッ!」
殺到する氷柱を振り払う。そして刀を正眼に構え氷魔法の使い手から目を離さないまま、肩越しに男性ーーーソッシ村の村長に話しかける。
「貴方、この村の村長?村の人はここに集まっているので全員?」
どちらの問いにも肯定が返された。「そう」と短く返事をした私の前にアスタとマグナが出たので、私は村長を抱えて村人の輪に入れる。
「………誰か、治癒を使える人はいる?」
「あ、はいッ!私が!!」
進み出てくれた女性に村長を預けると、村人たちの視線が私に集中した。
「………………………」
(………何か、言わないと)
恐怖と不安に満ちた目だ。実際に交戦していたのは村長一人だけだったが、全員が命の危険を感じたのだろうし、危うく村長が死にかねない瞬間を間近で見たのだ。まずはどうにかして、その感情を払拭しないと。
(でも、何をすれば)
明らかな異常事態に、ギリギリで駆けつけた魔法騎士はたったの三名。しかも有名どころの魔法騎士団の団員ではなく、悪名の方が広まっている黒の暴牛。登場しただけでは、安心させてあげられない。
(それに)
この面子で一番魔法騎士団歴の長いマグナからしても、氷魔法の男は恐らく格上だ。マグナもそれが分かっているからか、彼から仕掛けようとはしていない。
何をすれば良いだろう。何からやれば良いだろう。どんな行動が正解だろうか。
(………敵の正体は不明。実力が突出している男が一人。保護対象は多数だけど、幸い一箇所に集められている)
こんな状況であの人たちなら、一体どうするだろうか。
〈アスタ〉
「ーーーもう大丈夫。私たちが来るまで、よく耐えたわね」
穏やかな声が背後から響いた。と思った直後、その声は一転して力強いものへと変わる。
「後は任せなさい!!」
(………すげぇな)
純粋にそう思った。
俺には魔力がないけど、俺の周りの奴らは魔力を自由に扱っていた。どんなに魔力の少ない下民でも、魔力を操れない奴なんていなかった。きっとノエルは俺が思う以上に、誰にも彼にも劣等感を感じている筈だ。
そんなノエルが「後は任せろ」と言った。そこに、どれだけの覚悟が必要だったのか。
「へへッ」
(負けてらんねーな!)
「笑う余裕があるの?頼りになるわね」
言いながらノエルが隣に並ぶ。そして今度は、俺とマグナ先輩だけに聞こえるような小さな声でこう言った。
「守るわよ」
「おうッ!!!!」
「ケッ、言われるまでもねーわ」
俺は反魔法の剣を、氷の魔法を使っていた男に構えた。