アスタが雄叫びを上げながら真っ直ぐ氷魔法の男に突撃した直後、フードで顔を隠した何人かの一人が霧の魔法を行使する。
その人物は恐らく、この村を霧で覆っていた張本人。あの霧に包まれてしまえば、それだけで詰みになりかねないが………アスタにそれは通じない。
「誰が惑うかあああああ!!」
氷魔法の使い手、ヒースへと単身突撃するアスタ。敵の誰もが魔力を一切用いず魔法を無力化した彼に、思わず意識を一瞬だけでも奪われた。
(今!)
瞬間、駆け出す。標的はたった今アスタを妨害しようとした、霧の魔法を使った奴。
この初任務で脅威となるのは、炎と氷という相性差を魔力で覆す、ヒースではない。そのヒースと当たり前のように合体魔法を行う、霧魔法の使い手だ。
ーーーあの合体魔法があったから、この村の住人を守らなければならなかったから、ノエル・シルヴァは成長した。その状況になれば、もしかしたら私も………なんて、考えなかった訳じゃない。
(でも、できる訳ないわよね)
そんなご都合主義に頼る程、私は甘く考えない。そもそも国民を危険に晒すと分かっていて、どうしてそんな選択ができるものか。
「“水の呼吸”捌の型、滝壺っ!」
抜き身の刀を振り下ろし、脳天をかち割る。
原作でヒースとこいつ以外に、どんな属性の者がいるかは描写されていない。つまり回復魔法の使い手は居ない筈だが………念には念を。
(それに、こんな劣勢な状況で………敵を生かす理由もないし)
そんな余裕はない。殺すに限る。
「何でここの村人達を殺そうとしてんだ、テメェ等ぁ!!」
アスタが賊に、ヒースに問いかける。しかし返されたのは、問いとはまるで関係のない村人達への侮蔑。
「………この村は、下民が住む『恵外界』だ。ここにいる者のほとんどは、生活で多少役に立つ程度の魔法しか使えない劣等種…まるで、モノを扱えない獣だ」
それはきっと、この国の誰もが………下民に生まれた人達自身が、感じていること。
「私の時間を奪う可能性のある役立たずな獣を、先に片付けようとしただけの事だ」
そしてヒースの矛先は、私達にも向けられる。
「オマエら、騎士団に入れる程の魔力を持っているんだろう?任務だから助けようとしているだけで、オマエらにもコイツらが取るに足りん獣に見えないか?」
しかし、その事実を主人公は一蹴する。
「その人達は、オレが守るべき存在だ!!」
(そこは嘘でも、“オレ達”って言いなさいよね)
でも、やっぱり………魔力すらない下民でありながらその台詞は………格好いいなぁ。
(私が王族でもなく魔力もなければ………多分、そんな台詞は吐けないでしょうね)
ヒースに向けて駆け出した。奴をサポートする者達こそ面倒な存在だが、この中で一番強いのはやはりヒース。最速最短で仕留められるなら、それに越したことはない。
「そうか…そんなにその薄汚い獣共が大事か………!」
氷霧複合魔法“無限氷礫艦”
(………一人始末しただけじゃ、こうなるか)
霧属性の使い手は、やはり他にもいたらしい。全員が一斉に複合魔法を使い始めたから、顔を隠した連中の誰を叩いたとしても止まる保証はない。
一瞬、思考。少しの間、後ろのアスタとマグナで村人の防御は足りるだろう。
「マグナ、バカスタ!死んでも村人を守りなさいよ!!」
むしろ魔力を操作できない私が防御に加わっても、足手まといでしかない。なら、私がすべきことはーーー
“水の呼吸”弐の型、水車
宙に飛び上がり、前転しながら刀を振り降ろす。だが、魔力を纏っていないただの物理的な攻撃だからか、容易く氷で受け止められる。
(予想通り!)
そして………ここからは、賭けだ。ぶっつけ本番だけど、決して分の悪いような賭けではない筈。まぁ、失敗したらその時ーーーというか、敢えて失敗するという表現が正しいか。
私は左手を刀から放し、そこから魔力を生成した。