私の名前はトム・マールヴォロ・リドル   作:ライアン

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ベラトリックス・ブラック(下)

 例の事件を経てからというもの新入生に於ける反トム・マールヴォロ・リドルの急先鋒にして生粋の純血主義者ベラトリックス・ブラックの態度は急激に落ち着き出した。それまではトムに諭されても馬耳東風と言った様子だったのが、頬を赤らめながら素直に頷く殊勝さを見せるようになったのだ。

 

 トムは素直に喜んだーーーこれまで同様に生徒に自分の誠意が通じたのだと。

 教師となって7年目。既に多くの生徒をトムは送り出しており、その中にはベラトリックスのようにトムに反発する生徒も数多くいた。そんな生徒にもトムは決して押し付けがましくならないように根気強く導き接した。トムを慕ってくれるようになる生徒も居れば、最後までトムに対して隔意を抱いたままの生徒もいた。でもそれで良いのだとトムは思っていた。自分達教師が出来るのはあくまで成長のきっかけとなる事。何が正しいのか、最後に決めるのは結局生徒自身なのだから。それでもトムは思うのだ。やはり、自分の想いが伝わり、生徒が成長した姿を見るのはまさしく教師冥利に尽きるーーーと。

 

 劇的に変わったわけではない。されどベラトリックス・ブラックは少しずつだが確実に変わりつつあった。

 マグル生まれの生徒に対する「穢れた血」という差別的な呼び方ーーーそれを控えるようになった。

 「スリザリンこそ至高の寮である以上他の寮生との交流など必要ありません」ーーーそんな事を言っていたのがトムの主催する決闘クラブに進んで参加するようになった。

 「私を指導したいというのならば最低限純血になって出直して頂けませんか?」と高慢な顔で言っていたのが、照れくさそうに頬を染めながら「あの……その……貴方は半純血ではありますが極めて優れた魔法使いですし、特別にそう特別にこの私を指導する権利を与えてあげなくもないですよ!」ーーーそんな事を言いながらトムに指導を求めるようになった。

 純血の王を自称するブラック家の娘であり生粋の純血主義者であるベラトリックス・ブラックは徐々にだが確実に変わり始めていた。当然トムは笑顔を浮かべながら誠実に彼女を導いた。かつて偉大なる父が自分を導いてくれたように。これまでにも多くの生徒にそうして来たように、このベラトリックス・ブラックという意地っ張りな少女を導くのだと使命感に燃えた。

 

 そんな様子を見ていた同僚にして学生時代からのトムの親友たるフィリウス・フリットウィックはただ一言こう呟いた。「トムがまた一つ罪を重ねてしまった」と。

 

・・・

 

 一体自分はどうしてしまったんだろうーーーそんな事をベラトリックス・ブラックは思う。

 あの一件以来、彼女の頭からは寝ても覚めてもトム・マールヴォロ・リドルの笑顔が離れなかった。

 いつだってーーーそういつだってそうなのだ。「穢れた血」という言葉を使おうとしたときも彼が哀しげな顔を浮かべながら自らを窘めるところが頭を過り、ベラトリックスはその言葉を使う事が出来なくなってしまった。おかげで休暇で戻った際には両親と妹に心配までかけてしまう始末だ。

 自分が、半純血(・・・)マグル生まれ(・・・・・・)に絆されるなどーーーそんな事は、そんな事はありえるはずがないというのに!だというのに、「穢らわしいマグル混じりに絆されたか?」などと余りにも邪推が過ぎるではないか!ただ自分は少しばかりーーーそう、ほんの少しばかり周囲に寛大になってやるのも良いかとそう思っただけの事である。自分が半純血(・・・)であるあの人(・・・)に惹かれているなど、そんな事はーーー

 

「そんな事、有り得ないんですから」

 

 自室で一人になったベラトリックスは頭に過ぎる一人の人物を振り払うようにポツリと呟く。

 そう、そんな事は有り得ない事だ。何故ならば自分は誇り高きブラック家の娘なのだから。

 純血の王たる家に生まれた自分が夫とするのは同じ純血の魔法使いと決まっているのだ。

 何故ならば、それこそがベラトリックス・ブラックが生まれながらに背負う義務なのだから。

 自分は純血の誇りを忘れて家系図から抹消された愚か者達とは断じて違うのだから。

 そんな風に自らに言い聞かせながら、ベラトリックスはベッドの中へと潜り込んだ。

 久方ぶりに帰ってきた実家で愛する家族と過ごす日々に、何故かどこか冷たさと物足りなさを覚えながら。

 

・・・

 

 それからの時間はあっという間に過ぎて行き、気がつけばベラトリックスは最高学年である七年生となっていた。優れた才能を持ち、それに奢ること無く研鑽を重ねた彼女は当然のように監督生となり、首席となった。

 純血主義である事自体は変わらぬものの、「自らを支える誇りにするのは良い。だが、それを他者を見下す道具にしないで欲しい」ーーーとある人物からそんな風に言われたベラトリックスは寛大(・・)に振る舞った。自分にも他人にも厳しくーーーされど面倒見が良く親切で、とても優秀なベラトリックスはスリザリンの女帝と称されて同級生や後輩達から恐れながらも慕われた。

 誰からも将来を嘱望される優秀な魔女であった彼女だが、その彼女をして恩師であるトム・マールヴォロ・リドルは別格(・・)だと言わざるを得なかった。

 入学時とは比べ物にならないほどに成長したにも関わらず、彼女は自分とトムの差が縮まったとは到底思えなかった。

 

 ーーーどうしてあの人は半純血なのだろう。純血でさえあれば私はこんなにも悩まずに済んだというのに。

 

 卒業を間近に控えた事でベラトリックスは両親から結婚を勧められ始めていた。

 同級生のロドルファス・レストレンジがその候補であった。

 しかし、ベラトリックス自身の心はと言えばまるで彼に心惹かれるものがなかった。

 優雅で果断で寛厚で成熟したトムに比べればロドルファスは粗野で優柔不断で傲慢で幼稚にしか思えなかったからだ。

 ーーーただ、それはロドルファス・レストレンジ自身の問題というには余りに酷だっただろう。

 つまるところこれは結局、ベラトリックス・ブラックがトム・マールヴォロ・リドルに夢中になってしまっているというただそれだけの事なのだから。

 だが、それは許されざる恋だった。何故ならばトム・マールヴォロ・リドルは半純血であり、ベラトリックスは純血の王であるブラック家の人間なのだから。

 

「血筋とかそんなに気にするような事?大事なのは姉さん自身の心でしょ?」

 

 ベラトリックスの2つ年下の妹であるアンドロメダは悩める姉に真剣な表情で伝えた。

 

「気にするに決まっているでしょ。私は誇り高きブラック家の人間なのよ。我が家の家訓は知っているでしょ、アン」

「『純血よ永遠なれ』よね。でも純血であることってそんなに大事かしら?うちは純血を保っている事が自慢みたいだけど、それでも家系からスクイブは出ているし、姉さんの愛するトム先生やそのトム先生が尊敬するダンブルドア校長は半純血だけど、この二人以上の魔法使いなんてそれこそ数百年遡らないと居ないじゃない」

「それは……」

 

 ベラトリックスもわかっていた。自分の家の考えは偏っているのだと。

 純血でない魔法使いにも優れた魔法使いはたくさんいるーーー何せ他ならぬベラトリックスが尊敬して止まぬトム・マールヴォロ・リドルとて父親はマグルだったのだから。

 

「まあ日間予言者新聞でその二人の記事が載る度に舌打ちしている父様と母様には認めたくない事なんだろうけどーーーでも、姉さんはそうじゃないでしょ。改めて聞くけど本当に良いの?このまま父様と母様の言われるがままに好きでもない人と結婚する事になって、それで本当に姉さんは幸せ?」

「他人事だと思って簡単に言わないでよ……純血以外の魔法使いと結婚するって事は家から勘当されるって事なのよ?」

「他人事じゃないわよ。だって私も卒業したらテッドと結婚するつもりだもん」

「は?」

 

 聞き捨てならぬ事を聞いたベラトリックスは2つ年下の妹をまじまじと見つめる。

 姉に見つめられたアンドロメダは得意気な顔を浮かべて言葉を続けた。

 

「卒業したらテッドと結婚するって言ったの。知っているでしょ、私と同い年のハッフルパフのテッド・トンクス。彼なんてマグル生まれだもの、一応説得はしてみるけどまあ石頭の父様と母様が認めてくれるだなんて事はまず有り得ないでしょうし、十中八九勘当でしょうね」

「アン……貴方そんなあっさりと言っているけど、怖くはないの?」

 

 ベラトリックス・ブラックは怖い。

 何故ならば家を勘当されるという事はこれまでベラトリックスを支えていたものが消えるという事だからだ。

 ずっとベラトリックスは自身が純血の王ブラック家の人間である事を支えにしてきた。

 だが勘当されてしまえば、もはや自分はベラトリックス・ブラックではなくただのベラトリックスなのだ。

 ブラック家の威光をもはや当てにする事は出来ず、それどころかそれらが敵に回る可能性さえあるのだ。怖くて当然だろう。

 

「そりゃあ不安が全く無いって言ったら嘘になるけど……でもテッドと一緒ならきっと乗り越えていけるって信じているもの」

 

 頬を染めながら告げたその妹の姿は姉であるベラトリックスから見てもとても魅力的で、とても大人びて見えた。自分がうじうじと迷っている間に妹が自分のはるか先へ行ってしまった事をベラトリックスは悟った。

 

「もちろん不安は凄く凄~くあるわけで、そういう意味でとっても優秀でとっても頼りになる姉が先陣を切ってくれたら妹としてはとっても有り難いな~と」

 

 上目遣いでそんな事を申し出る妹の姿にベラトリックスは苦笑する。

 アンドロメダが意地っ張りでいつまでも素直になれず踏ん切りがつけられない姉に妹のため(・・・・)という口実を与えてくれるのだとわかったが故に。

 

「全くこういう時に先に生まれた方は苦労するわね。倣える前例が居ないんだもの。

 私の方の式には呼ぶから、貴方の方も式には呼んで頂戴ね、アン。家族が誰も出席してくれなかったら悲しいもの」

「うん!勿論!……でも姉さんの場合はまずは愛しのトム先生を落とすところから始めないとね」

「ひ、秘策はあります!見ていなさい、私が本気になればトム先生だってすぐに私の虜になるに決まっているんですから!」

「姉さん……一応言っておくけど愛の妙薬は使っちゃ駄目だよ?」

「使いません!」

 

 かくして自らの愛に殉じる事を決めたベラトリックス・ブラックはトム・マールヴォロ・リドルへと猛アピールを開始する。この可愛らしい教え子からの熱烈な求愛に対してトムは自分が歳を取りすぎている事や教え子に対して手を出すなど教師としてあるまじき事だと紳士的に諭して彼女からの思いを、これまでもそうであったように、やんわりと断った。しかし、それでもベラトリックスの愛は変わらなかった。

 1969年、ホグワーツを卒業したベラトリックス・ブラックは両親と猛喧嘩の末、実家を飛び出し闇祓いとなる。そして卒業後もベラトリックスのトムへのアプローチは続いたーーー卒業した以上自分達はもう教師と教え子ではない以上誰に憚る事はないと告げて。

 1973年、根負けしたようにベラトリックスの愛をトムは受け容れ、2人は夫婦となる。この時トムは46歳、ベラトリックスは22歳。父娘程も年の離れた2人の結婚式には、多くの人間がその門出を祝うべく出席したのであった。

 




原作ベラトリックス「アンドロメダは穢れた血とくっついたブラック家の面汚し!」
今作ベラトリックス「アン!私の可愛い妹!」

ニンファドーラから見ると優しいトム伯父さん(原作だと父親と自分の死の元凶)
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