私の名前はトム・マールヴォロ・リドル   作:ライアン

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お辞儀をするのだ!(評価、感想、誤字報告ありがとうございます)

ジェームズ達が入学した年:1971年
正史に於いてトムが手下を引き連れて第一次魔法戦争を引き起こした年:1970年
スリザリン:お辞儀&お辞儀に従う死喰い人の多くを輩出

まあ寮で一括りするのはアレな行為とはいえ、ジェームズ達がスリザリンに敵意持つのも無理ないかなって。


セブルス・スネイプ(上)

 セブルス・スネイプはその日、常になく浮かれていた。

 何故ならば彼に取って待ち焦がれていたホグワーツ魔法魔術学校への入学が叶う日であったからだ。

 スネイプは純血の魔法使いの母とマグルの父を持つ半純血であった。

 そして両親の仲は極めて悪く、顔を突き合わせればいつも喧嘩してばかりであった。

 スネイプにとって自らの家は安寧の場所ではなく、いつも喧騒が耐えぬ居心地の悪い居場所でしかなかった。

 だから彼はホグワーツ魔法魔術学校へと通う日が来ることをずっと熱望していた。

 そしてそれがついに叶ったのだーーー彼が家族以上に心を許している宝石のような緑玉色の瞳を持つ少女リリー・エバンズと共に。

 そう、スネイプは浮かれていた。つい先程までは。

 

 ケチがつき始めた*1のは同じ新入生のジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックと名乗る二人の男子がリリーと二人きりであったコンパートメントに入ってきてからである*2

 此処でコンパートメントに入ってきたのがスネイプとも相性の良い、物静かで知性に溢れるレイブンクローに高い適性を持つような生徒であれば、あるいはスネイプにとってリリーに続く二人目の友人となり得たかもしれない。

 しかし、コンパートメントに入ってきたジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックの両名は、非常に活動的な自信家、内向的なスネイプに言わせると高慢ちき、であった事が災いした。端的に言えば、この二人とスネイプは性格的に反りが合わなかったのだ。

 ジェームズとシリウスの方もスネイプが自分たちを歓迎していない事を感じ取ったのだろう、初めは和やかな同じ新入生らしい自己紹介から始まった会話も次第に険を帯びた物となり始めていた。

 

「そういえば、ホグワーツには寮が4つあるみたいだけど三人は入りたい寮って決まっていたりする?」

 

 剣呑になり始めた空気を感じ取ったのだろう、リリーは話題を入れ替えるようにそんな事を聞いていた。

 

「スリザリンさ!スリザリンが一番に決まっているよリリー!だってスリザリンはあのトム先生(・・・・・・)の出身寮だ」

 

 先程までのどこか陰のある、活動的なジェームズとシリウスに言わせると陰気な態度から一転し、スネイプはその瞳を輝かせながら答えた。

 その言葉にはさながら子どもが憧れのヒーローについて語るような尊敬と憧れが満ちていた。

 

「ああ、そうよね。セブは憧れのトム先生の出身のスリザリンに決まっているわよね」

 

 そしてそんな友人の様子にリリーもまた微笑まし気にクスリと笑みを溢す。

 

 リリー・エバンズにとってセブルス・スネイプは自分に魔法界の事を教えてくれた初めての友人であった。

 そしてそんなスネイプの憧れのヒーローこそが今から向かうホグワーツで教師を務めているトム・マールヴォロ・リドルであった。

 曰く魔法界の英雄アルバス・ダンブルドアの正当なる後継者、在学時代にサラザール・スリザリンの残した秘密の部屋を発見してホグワーツ特別功労賞を受賞した、アズカバンの半分を埋めた凄まじく優秀な闇祓い、教師としても極めて優秀で多くの教え子が彼を慕っている、教師としての職務の傍らで年に一つのペースで一般的な魔法使いが生涯を掛けて仕上げるような魔法や魔術に関する研究成果を発表している正真正銘の天才、だけど天才にありがちな偏屈さとは無縁な公明正大な人格者ーーー等と耳にタコが出来るような頻度でセブルス・スネイプはまるで自らの父親(・・・・・)について語るような態度で誇らしげにその武勇伝をリリーに教えてくれていた。

 リリーは知っていた。セブルスが両親、特に父親との折り合いが悪い事を。故に気がついていた。セブルスが会ったこともないその先生に父性を求めているという事を。

 

 正直に言えばリリーは心配だった。何故ならば、セブルスが知っているトム先生はどうも日間予言者新聞という魔法界の新聞から得た情報ーーーつまりは外からの受け売りによる物のように思えたからだ。

 憧れた有名人に実際に会ってみたら新聞やテレビで言われていたのとは全然違う様子でがっかりしたーーーそんな事例がある事をリリーは知っており、幼馴染の憧れるトム先生もそうではないかと不安に思ったからだ。

 だが実際に入学案内の為に訪れた実物を見てリリーのそうした不安は、魔法界という得体の知れないところに家族を送る事を不安がっていたリリーの家族と同様に、吹き飛んだ。

 エバンズ家を訪れたトム・マールヴォロ・リドル先生はとても紳士的で、魔法の使えないリリーの家族を見下したような態度も一切取らずに、とても親切に魔法界のことやホグワーツの事を説明し、更に説明した内容が嘘ではない事を証明するために極めて洗練された美しい魔法をいくつか披露してくれたからだ。

 

 そうして同じくホグワーツへの入学案内が届いていた幼馴染と一緒にトム先生に連れられてダイアゴン横丁で入学のための教材を買い終わる頃にはすっかりリリーも父娘程も年の離れた先生の事が好きになっていたーーー無論、前から憧れていた幼馴染程ではなかったが。

 故に今またトム先生への尊敬の念を顕にはしゃいだ様子を見せる幼馴染をリリーはただただ微笑ましく見つめていた。

 

「へー君ってばトム・リドルに憧れているんだ。そうなるともしかして君も彼と同じ半純血だったりするのかい?」

 

 そんなスネイプの打って変わった様子が功を奏したのだろう。

 シリウス・ブラックは年の8つ離れた従姉から散々にトム先生の素晴らしさについて聞かされていた事もあってその従姉と同様にトム・マールヴォロ・リドルへの敬意を顕にしたスネイプへと先程まであった険がほぐれた様子で興味深そうに尋ねる。

 

「そうだけど……それが何か?」

 

「おっと、誤解しないでくれよ!別にそんな君の両親のどちらか、あるいは両方がマグルだからって馬鹿にしようとかそういうつもりはないんだ」

 

「……だけど、君はあのブラック家(・・・・・・・)だろ?」

 

 ブラック家と言えば自らを純血の王等と称し、純血の魔法使い以外と結婚すれば家族でさえも一族から追放される純血主義の生きた標本とも言うべき一族である。そしてセブルス・スネイプ憧れの存在であるトム・マールヴォロ・リドルを“調子に乗ったマグル混じり”と呼び、彼を批判する先鋒に位置する存在だ。そして目の前のシリウス・ブラックはその名字が示すようにブラック家の人間のはずだ。

 故にセブルス・スネイプは目前の二人を警戒していた。自分が半純血であり、友人のリリーがマグル生まれだとしれば露骨に馬鹿にした態度を取るのではないかと。しかし、それでも彼はまだ11歳の少年である。自分のあこがれの人物の話題になった事で思わず素が出てしまった。それは彼にとっては失態であったが、結果で見ればむしろ幸いだったと言えるだろう。

 

「まあ確かにそうなんだが、あいにく俺は家のそういうノリにどうにも付いて行けなくてね……おかげで両親とは喧嘩してばっかりで勘当される寸前の不良息子なんだ」

 

 両親とケンカばかりしているーーーそれを聞いたスネイプは目前の少年への敵意を和らげた。

 自らも両親との仲が険悪な身としてある種のシンパシーを抱いたのだ。

 

「全く馬鹿馬鹿しい事だよなぁ。かのアルバス・ダンブルドアとトム・マールヴォロ・リドルの二人が半純血だってのに今どき純血が云々だとか骨董品の化石かって話だぜ。そもそも本当に純血に拘っていたら僕たち魔法族はとっくに滅んじまっているよ」

 

 何故ならば目前の二人はセブルスが警戒しているような純血主義者ではなくむしろその真逆と言える存在だったのだから。そしてそんな両名にとってスリザリンの継承者でありながら、純血主義の一族に疎まれる事も厭わず躊躇いなく自らの父親がマグルだということを公表したトム・マールヴォロ・リドルは「クールでカッコイイ」存在だった。

 そしてトムの話題になった途端先程までのどこか気取った様子が消えたスネイプの様子に、二人はすっかりと気を良くしだしたと同時に、先程までのスネイプの露骨に警戒するような様子に納得がいったとばかりに笑みを浮かべた。

 

「ああ、そうか。それで君はさっきまでこっちを露骨に敵視していたんだな。だったら安心してくれよ、俺もジェームズも純血主義なんて心底くだらないと思っているし、トム・リドルの事は最高にクールだって思っているぜ!」

  

「ああ、トム・マールヴォロ・リドルは最高にクールな魔法使いだと思う」

 

 自分が憧れている存在を称賛された事でセブルスは二人に懐いていた敵意がほとんど霧散した。

 

「だけど寮で言うなら僕はグリフィンドールが一番だと思うぜ」

 

 しかし、その上でこれは譲れないとばかりにジェームズは続ける。

 

「なんでだよ、トム先生の凄さがわかっているならそんなトム先生の出身のスリザリンが一番だって事は自明の理だろ?」

 

「だけどグリフィンドールはそのトム・リドルがこの世で最も尊敬している偉大なる魔法使いアルバス・ダンブルドアの出身寮だぜ?」

 

 少し前までであればグリフィンドールとスリザリンの出身者は基本的に犬猿の仲であった。

 しかし、今のイギリス魔法界で代表的なグリフィンドール出身者といえばアルバス・ダンブルドアであり、同じく代表的なスリザリン出身者と言えばトム・マールヴォロ・リドルであり、トム・マールヴォロ・リドルがアルバス・ダンブルドアをこの世で最も敬愛している存在である事はイギリス魔法界の常識だ。

 そしてトム・マールヴォロ・リドルがホグワーツの教師になってから取り組んできた成果もあって寮の違いを基にした諍いというのは大きく減ってきている。そのためグリフィンドールとスリザリン、一体どちらが良い寮かというセブルスとジェームズの諍いは険悪になることもなく、微笑ましいと言える範疇の言い争いに収まっていた。

 

「俺もグリフィンドールの方がスリザリンよりも良いと思うな」

 

 二人の言い争いを聞いていたシリウスはジェームズに味方した。

 彼にとってスリザリンは彼が嫌っている家族の出身寮だからだ。

 生粋の純血主義者であった従姉を改心させたトム・リドルの出身もスリザリンの為、露骨に馬鹿にするような事はしないまでもそれでもスリザリンに入りたいとは彼には思えなかった。

 

「リリーはどう思う?」

 

 二対一となり形勢が不利になったスネイプは縋るように己が幼馴染を見つめる。きっと彼女ならば自分に味方してくれるはずだと信じて。

 

「そうね、私は元々魔法界のことを良く知っているわけじゃないから三人みたいにこの寮に入りたい!っていう拘りみたいなのはないかな」

 

 しかし、そんなスネイプの願いとは裏腹にリリーが告げたのは熱くなっている幼馴染を窘めるような冷静な言葉。その言葉にスネイプは落胆するが、リリーの言葉はそこでは終わらなかった。

 

「でも、もしも寮が別々になったとしてもセブとはずっと仲良くして居たいと思うわ。

 だって、セブは私にとっては初めて出来た魔法使いの友達だもの。

 セブはどう?寮が別々になっちゃったら、もう私とはそれっきり?」

 

「そ、そんなわけないじゃないか!例え寮が別々になったって君は僕にとって大切な友達さ!」

 

「そう、良かった。改めてこれからもよろしくね」

 

 リリーはそうしてスネイプへと微笑みかけると今度はその笑みをジェームズとシリウスへと向ける。

 

「二人もこれからよろしくね。一緒の寮になれるかはわからないけど、せっかくこうして知り合えたんだもの。入学してからも仲良く出来ると嬉しいわ」

 

 リリー・エバンズのその言葉にジェームズもシリウスも笑みを浮かべながら応じる。

 そのまま四人の居るコンパートメントは和やかな空気に包まれ、やがて列車はホグワーツへと辿り着くのであった。

 

 

 

*1
あくまでスネイプの主観に依るものである

*2
スネイプとしてはできればリリーと二人っきりが良かったが、親切なリリーは列車が混雑しているのもあってあっさりと相席を了承してしまい少々切なかった。




セブルス・スネイプ君11歳:自分と似た境遇のトム先生に憧れている。純血主義に対しては自分も半純血で憧れのトム先生が懐疑的なスタンスなのでその影響で割と懐疑的。

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