私の名前はトム・マールヴォロ・リドル   作:ライアン

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トムって歯車が一つ違っていればむしろ純血主義を鼻で笑う感じになっていたとしてもおかしくなかったと思うの。


スリザリンの超克者

 

 夏季休暇中トムは多くの事をダンブルドアと語り合った。

 その中にはトムにとっては余り思い出したくない孤児院での出来事も含まれていた。

 

「トム、孤児院で儂は君に出会う前に君に関する良くない噂を聞いた。

 だがこうして君と多くの時間を共にして、君がただ徒に他者を虐げるような子だとは思えん。

 無理にとは言わん、よければ話を聞かせて貰えんかな」

 

 そう問いかける恩師の言葉にトムは必死になって言葉を重ねた。

 自分にとって魔法が使えるという事は当たり前のことだった。歌の上手さや絵の上手さを誇るように、自分はこんなにもすごい事が出来るのだと自慢したかったのだと。

 だが、マグル共はそんな自分を褒めるどころか、気味悪がり、「化物」等と自分を虐げてきた。だから自分は自分自身の尊厳を守るために戦ったのだーーーと。

 ダンブルドアはそんなトムを叱るでもなく褒めるでもなく、ただ黙って話を聞いていた。そして話を聞き終えるとただ一言こう言った。

 

「トム、それで君の心は晴れたかのう?」

 

 勿論だとトムを答えるつもりだった。いい気になって自分を馬鹿にしてきた連中が怯えすくむのを見るのは最高の気分だったーーーと。

 だが、言えなかった。ダンブルドアの優しくも総てを見透かすような瞳で見つめられると、トムはちっぽけな自分の強がり等すぐに見抜かれてしまうように思えた。

 

「僕はただ、認めて貰いたかっただけなんです……」

 

 あらゆる虚勢が剥ぎ取られたトムは気がつけば一滴の涙と共にそんな本音を溢していた。

 そうーーー自分はただ認めてもらいたかっただけだった。

 歌を褒めてもらったマイケルのようにーーー

 絵を褒めてもらったアリスのようにーーー

 こんな事が出来るなんてトムは凄いね!と褒めてもらえるとそう思ったのだ。

 だが違った。自分が魔法を使って見せた時、返ってきたのは称賛ではなく恐怖に満ちた眼差しであった。

 嗚咽と共に吐露されたトム・リドルという少年の真実をダンブルドアは黙って聞いていた。

 

「トム、どうか覚えておいて欲しい。

 力による恐怖で人を従える事は出来る。

 だが、そうして得られるのはあくまで表面的な態度だけ。

 真実の愛というのは決して力によって得られるものではないのじゃよ」

 

 孤児院の時にはついぞ得ることが出来なかった確かな温もりが、優しく自身の頭を撫でるダンブルドアの大きな掌から伝わってきた。

 

「でも……先生が僕をあそこから助け出してくれたのは僕に特別な才能があったからじゃありませんか」

 

 ダンブルドアは静かに頭を振った。

 

「トムよ、それは違う。儂が君の手を取ったのはあの日、君が儂に対して助けを求める手を伸ばしたからーーーただそれだけの事なのじゃよ。ホグワーツでは助けを求める者には、必ずそれが与えられる。その事をどうか覚えておいて欲しい」

 

・・・

 

 

 夏季休暇が明けて2年生となったトムは順調そのものの学園生活を送っていた。

 初めて出来た後輩の面倒ーーー特にマグル出身者の面倒をトムは良く見た。

 「誰もが君のようにすぐさま魔法界に溶け込めるわけではない。無論、そうした子たちが安心して学生生活に送れるようにするのが我々教師の役目だが、それでもどうしても目と手が届かないところが存在する。先輩として君がそうした子達を助けてくれれば儂はこの上なく嬉しい」

 そう彼がこの世で最も敬愛する人物に頼まれればトムとしては選択肢などあってないようなものだ。

 スリザリンには純血の生徒が多いーーーしかし、マグル生まれやマグル育ちの生徒が全く居ないというわけではない。

 そうした生徒がどうなるかと言えば、それは所謂イジメの標的へとなるのだ。

 

 トム・リドルは自身の所属するスリザリンを素晴らしい寮だと思っていたが、唯一純血主義については馴染む事が出来なかった。

 それは自分自身が果たして純血の魔法使いなのかという不安を抱いていたのもあったが、何よりも彼が最もこの世で敬愛する父親同然の存在、アルバス・ダンブルドアが純血主義に対して反対の立場をとっていたのが大きかっただろう。何故ならば子どもというのは自分を庇護してくれる()に自然と好かれようとするものだから。

 

 無論親が一方的に自分の思想を押し付けるような真似をすれば、それに対して反発するという事も起こりうるだろう。

 だが、アルバス・ダンブルドアは決して自分の思想を押し付けるような事はしなかった。

 彼はどこまでも誠実に、そして慎重にトムを導いた。あくまで何が正しいと判断するかはトム自身の自由意志に委ねたのだ。

 後は当人がどちらの思想をより信じたいかという問題であった。

 純血以外にホグワーツで学ぶ資格など無いと言い放った友人の言葉とーーー 

 両親の事など関係なく自分を認めてくれた偉大なる恩師の言葉ーーー

 一体どちらにトム・リドルが救われたかと言えばーーーそんなものは明らかであった。

 人は自らが信じたいものをこそ信じる。両親が純血の魔法使いである保証の無いトムにとって、アルバス・ダンブルドアの言葉こそが真に信じるに値するーーー否、信じたい思想だったのだ。

 加えて彼は才能を持った魔法使いの子どもがマグルにどのように扱われるかをその身を以て知っていた。

 「化物!」と周囲から罵られ、排斥され、ようやくたどり着いた魔法界でも自分の居場所はなかったと悟った時の絶望を思うとトムはとても他人事だと思えなかった。ーーー何せそれは他ならぬトム自身が一年の頃抱いていた悩みだったのだから。

 

 故にこそトムはそうした生徒を積極的に庇った。

 そうして助けられた者達が紡ぐ感謝の言葉はトムの気分をこの上なく良くすると同時に、彼がなりたい存在を明確にした。

 すなわち慈悲と助けを与える者(・・・・)

 かつて自分を地獄からすくいあげてくれた恩師のようにーーーマグル生まれ、マグル育ちの者達に手を差し伸べる事を通してトム・リドルは昔の自分自身を救っていたのだ。

 つまるところ、トム・リドルはアルバス・ダンブルドアになりたかったのだ。

 

 トムにとって幸運だったのはダンブルドアの次に自分に目をかけてくれていたスリザリンの寮監ホラス・スラグホーンが聖28一族でありながら、そうした差別意識を持っていなかった事だろう。

 彼はマグル生まれだろうと決して差別せずに寮を問わずに才能あふれる生徒を集めた「スラグ・クラブ」と呼ばれる交流会を開き、当然のようにトムもその会へと積極的に参加した。寮の垣根を越えて多くの友人、そして彼を慕う後輩が出来た。

 

 ただトムにとっては残念な事に何もかもが順風満帆というわけには行かなかった。

 そんなトムに対して次第に一部の純血の生徒たちは距離を置くようになり始めたのだ。

 ーーートム・リドルがああまで穢れた血に甘い態度を取るのは、自身も穢れた血だからではないか、そんな風に考えたからだ。トムが今まで実の両親について暈した態度をとっていた事もその疑惑を加速させた。

 

 一年の頃はアレほどまでに「スリザリン生の鑑」等と評して讃えてくれた多くの学友やスリザリンの先輩たちがこぞって掌を返す様にトムは深い哀しみを覚えると同時に強い憤りを覚えた。

 己が両親や先祖を誇る事、それ自体は当然だろう。自分とてもしもダンブルドア先生のような偉大な人が自分の本当の父ならばと何度も夢想した。

 だが、だからといって両親が魔法使いで無ければ、どれほどの功績を積み上げようと決して認めぬというのならばそれはーーーそれは余りに狭量過ぎるではないかと。

 トム・リドルにとってマグル生まれ、マグル育ちの魔法使いとは愚かなマグルに虐げられた可哀想な、庇護の対象であった。

 なのに純血主義を掲げる者達は本来手を差し伸べて然るべき上の立場に有りながら、見下すだけではなく、迫害さえする始末。

 なんたる驕慢!なんたる怠慢!己が真に選ばれた者という自負があるのならば、迷える同胞に手を差し伸べるべきではないか!

 だというのに、彼らは純血でないかも知れないという理由だけで学年で首席たる自分を見下し、半小鬼というだけで次席たるフリットウィックを見下す。

 

 そんな純血主義を掲げる同級生たちの余りに器の小さい様子はトムの心に強い失望を齎した。

 つまるところ、彼らは自分自身に自信が無いのだろう。

 だからこそ、血統などという当人自身にはどうにもならぬ物を拠り所にするのだと彼には思えたのだ。

 そしてそれは血統等気にかけずただひたすらに魔法の腕と知識を深める事に邁進する「スラグ・クラブ」の面々に比して、余りに狭量かつ幼稚な態度と思えた。

 トム・リドルにとってもはや純血主義とは仰ぐものではなく、その逆の超克の対象となり始めたのであった。

 

 当然のようにスリザリンの中で次第に孤立し始めたトムだったが彼に恐れは無かった。

 孤児院の頃と違い、寮監であるスラグホーンを始めとした多くの教師、「スラグ・クラブ」にて知り合ったレイブンクローのフィリウス・フリットウィックを筆頭にした多くの他寮の友人、彼に庇われたマグル育ちの生徒たちーーーそうした多くの味方が彼には居たからだ。

 

 何よりも

 

 「トム、君の行動は決して間違っていないと儂は思う。真の友とは決して一度も喧嘩しない存在の事を言うのではない。時にはぶつかり合う事も必要じゃろう。トム、儂はな君がそうして時に友人とぶつかり合う事も恐れぬ勇気を持っていた事、何よりも悩める友に手を差し伸べる優しさを持っていた事が、本当に嬉しい。そして君のような生徒を持てた事を教師として心より誇らしく思う」

 

 そう、トム・リドルが世界で最も尊敬する人物が自分は間違っていないのだと太鼓判を押してくれたからだ。

 それだけでトムはどんな相手にでも立ち向かえる気がした。

 基よりトム・リドルは才に溢れ、その才に裏打ちされたプライドの高さを持つ自信家だ。

 心から信じられる偉大な存在に認められたという事実は、彼の奥底に植え付けられていた孤立への恐怖を取り払ったのだ。

 トムは高慢ちきな純血主義者共の蒙を啓かせるためにどうすれば良いか、その聡明な頭脳をフル回転させ始めた。

 決闘なりで叩きのめす事は彼にとって余りに容易であったが、それでは真の意味で相手にこちらの正しさを理解させた事にはならないと考え、まずは純血主義等というものがどうして生まれたのかを深く学んでいった。

 そうして彼はたどり着いた、代表的な純血主義者として知られるサラザール・スリザリンの残した、彼の後継者のみが受け継ぐ事のできる秘密の部屋がこのホグワーツに存在するという事を。

 

 スリザリンの後継者が他ならぬサラザール・スリザリンの提唱した純血主義を否定するーーーそれは彼らに大きな衝撃を齎すだろう。

 そして目論見通り、トム・リドルはスリザリンの秘密の部屋へとたどり着き、その功績を以てホグワーツ特別功労賞を受賞し、自身の本当の母親を知るのであった……

 

 




なお、マグル嫌いは特に変わっていないので魔法族によるマグル支配を唱えるゲラート・グリンデルバルドとの相性は抜群だ!
ゲラート「魔術の暗黒面を学ぶのだ……若きマールヴォロよ」
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