ルビウス・ハグリッドや主に魔法生物好きな2つ年下のグリフィンドール生の面倒に手を焼かされながらもトム・リドルは大過なくホグワーツでの三年目を終えた。そうして4年生になったトムであったが、此処で奇妙な噂が流れ始める。曰くーーートム・リドルの本当の父親はアルバス・ダンブルドアなのではないのか?というものだ。
明確な証拠があったわけではない。
しかし、この噂はある程度の信憑性を以て受けとめられた。
何せアルバス・ダンブルドアのトム・リドルに対する態度は一生徒に対する一教師の分を明らかに超えていた。
夏季休暇の際には自らの家に招き、彼がバジリスクの主となった際には後見人まで引き受ける等ーーーそれでは教師と生徒というよりはまるで父と息子ではないか、と。ダンブルドアが未だ独身であり、その女性関係が謎に包まれている事も疑惑を加速させた。何らかの事情で離れ離れになった妻の忘れ形見の息子を見つけて、その償いをしているのではないかーーーというわけだ。
トドメとばかりにトム・リドルはアルバス・ダンブルドアの再来等と称される程に魔法使いとして類稀な才能を有していた。純血思想に代表されるように親の魔法の才能が子どもに引き継がれるという考えは、魔法界に根強く存在する。もしもアルバス・ダンブルドアがトム・リドルの本当の父だというのならば、トムが凄まじい才を有しているのも納得であるーーーというわけだ。
明確な証拠は何一つとして無い、しかし、状況証拠という点ではこの上ない程に揃っていた。
トムはにわかに自身の本当の親というものが気になりだした。
かつてトムはダンブルドアに自身の親について知らないか?と問いかけ、彼は知らないと答えた。
トムはそれを信じているーーー信じているが、それでも、もしかして本当は?と周囲に噂された事によってトムの心に一片の疑念が浮かび始めていたのだ。
折しもトムも15歳、どれだけ偉大な存在だろうと父の言うことを何もかもを鵜呑みにするような子どもではなくなっていた。
(僕は先生の言うことを疑っているわけじゃない、これは変な噂をされて迷惑している先生の潔白を証明するためなんだ!)
そうして彼は自分自身に言い訳をしながら自身のファミリーネームであるリドル、そしてミドルネームであるマールヴォロという名前を調べ始めた。
ヴォルデモートから自身の先祖を辿っていけばサラザール・スリザリンに行き着く事を聞いていたのも相まって調査の結果はすぐ判明した。マールヴォロ・ゴーントそれが彼のミドルネームであるマールヴォロの名前の由来であり、その娘であるメローピーが自身の母なのだと突き止めたのだ。
5年生となる直前の夏休み、彼は敬愛して止まぬ偉大なる父に初めて嘘をついた。
友人の家に遊びに行くと伝えて、母の実家であるゴーント家が存在するリトル・ハングルトンを訪ねたのだ。
「トム、気をつけてな。ちゃんと帰ってきておくれ」
ダンブルドアはそれだけ告げると温かくトムを送り出してくれた。
そうしてたどり着いたゴーントの屋敷でたどり着いて聞き出した内容はーーートムの期待していたものとはまるで真逆な内容であった。
ハングルトンに屋敷を構えるリドル家と呼ばれる裕福なマグル、その家の一人息子こそが自身の父親なのだとトムは知ったのだ。それもーーーあろう事かその男は自分を身ごもっていた母をある日捨てたというおまけつきで!
トムの中で急速に憎悪が膨れ上がった。彼の脳裏に過ぎるのは孤児院での日々。自分があんな屈辱的な日々を送ったのはマグルの父が魔法使いの母を捨てたせいだったのだ!
怒りと共にトムはリドル家を訪れ、魔法を使い驚愕するその場に居る人間全てを拘束し、恐怖に満ちた視線を向けてくる自分そっくりの顔を持つ男へと問いかけた。何故母を捨てたのか!と。今すぐにでも目前の男を八つ裂きにしてしまいたい胸の中で燃え盛る憎悪を必死に理性によって抑えつけながら。
ーーーもしも、もしもトムが夏季休暇の間ゴドリックの谷に存在するダンブルドアの家ではなく孤児院で過ごしていたならば、あるいは彼は怒りの余り理性を喪失し、自らの父の弁明を聞くこと無くその手で殺していたかもしれない。だが、孤児院をでてから5年もの歳月が経過していれば流石に憎悪もある程度薄れはする。それがギリギリのところで感情と理性の均衡状態を齎していた。
「お、俺は悪くない!アイツがアイツが俺に怪しげな薬を飲ませていたんだ!そのせいで俺は正気じゃなかった!そうでなければ誰があんな陰気な女の相手をするものか!!!」
そうしてトムそっくりの外見をしたマグルの男は必死に弁解を始めた。
メローピーは自分に奇妙な薬を飲ませており、それを飲んでいる間どういうわけだかを自分はメローピーの事がとても魅力的に見えて愛しくてたまらなくなっていたのだと。
だがある日、その薬を飲むのを止めた途端、急に自分は正気に戻って慌ててこの屋敷に逃げ帰ったのだと。
それを聞いた瞬間、トムの明晰な頭脳は急速に理解を示した。
一般人が聞けば、見苦しい言い訳にしか聞こえないだろう。散々女を弄び捨てた身勝手な男の言い逃れだと。
しかし、メローピーは魔女であった。そしてトム・リドルも魔法使いだった。それがトムに真相へと気づかせた。
すなわち、メローピーは愛の妙薬を使ったのだ。ゴーントの家でメローピーが兄であるモーフィンと父であるマールヴォロより虐待を受けていた事を、トムは酔いつぶれたモーフィンから聞き出していた。*1。
そんな彼女にとってこの見てくれだけは良い男は、とても魅力的に映ったのだろうーーーそれこそなんとしても手に入れたいと狂おしく思う程に。
『真実の愛というのは決して力によって得られるものではない』
かつて告げられた恩師の言葉がトムの頭に過った。
結局母は薬という力に頼ってしまったことで、真実の愛を手に入れる事が出来なかったのだろう。
そして愛する人の心を薬で捻じ曲げているという罪悪感に耐えきれなくなり、投薬を止めーーーそして当然のように捨てられた。
目前の男に対してトムの心の中で燃えたぎっていたはずの憎悪が急速に霧散した。
普段の素行はどうあれ、こと母との関係に於いて目前の男は明確な被害者だ。
魔法の力によって強引に心を捻じ曲げられ、好いても居ない女と一緒に居る羽目になったのだ。
そんな風に自らの心を操られて自覚がないままに作らされた子どもを我が子だと思って愛す事が出来なかったからといってそれを責める事は出来ないだろう。
ーーーならば、自分は母を憎めば良いのだろうか?
だが、それをする事はトムには出来なかった。
母は哀れな女だった。家族からの愛を受ける事もできず、それどころか虐待を受けていた。
そんな哀れな女にとってみれば、ある日心の中に燃え盛った恋心は文字通り唯一の生きる希望だったのだろう。
心の赴くがままに悪魔の囁きに耳を貸したからといって、どうしてそれを責める事が出来るだろうか?
実際に自分は母よりも遥かに恵まれた立場にありながら、心に溢れ出した感情の赴くままに無力な相手に魔法という力を振りかざして、一歩間違えば取り返しのつかない事をするところだったではないか。
憎悪の炎が鎮火された事でトムの瞳に急速に普段の思慮深い理性が戻った。
トムは自分の魔力で散乱した部屋を戻すと、リドル家の者に忘却呪文をかけ、一連の出来事を忘れさせるとすぐにその場を立ち去り、リトル・ハングルトンを後にした。自分の父親は愚劣なマグルであり自分を捨てた。ーーーそれだけならばトムは心置きなくマグルと父を憎む事が出来ただろう。
だが、自分という存在が生まれたのはそもそも母が魔法の力を以て、父の心を捻じ曲げたせいであり、そんな母は父と兄から虐待を受けていた哀れな女だったという事実が怒りの矛先を無くし、トムの心をひたすらに疲弊させた。ーーーただただトムはダンブルドアに会いたかった。
「おかえり、トム」
優しい笑顔を浮かべながらダンブルドアは
その言葉だけで、トムは沈んだ心が救われた思いだった。此処こそが自分の居場所なのだとそう思えた。
ダンブルドアはトムの疲れた様子を感じ取ったのだろう、温かいホットチョコレートをいれてくれた。
「トム、楽しかったかのう」
優しいながらも総てを見透かすかのような瞳でダンブルドアはトムを見つめ、友人での家の日々について聞いてきた。
「ごめんなさい、ダンブルドア先生。僕は先生に嘘をつきました」
トムは観念したかのようにありのままを告げた。
ダンブルドアに隠し事をしているという事に耐えきれなかった事もだが、何よりも誰かに自分の知った真実を打ち明けてしまいたかったのだ。一人で抱え込むにはトム・リドルという少年の出生は、余りにも救いのないものであったのだ。
そうして話を聞き終えたダンブルドアはどこまでもどこまでも優しい瞳でトムを見つめて
「トム、確かに儂と君は血の繋がった親子ではない。
だがなトム、君は儂の息子も同然だ。それでは、駄目かな?」
ダンブルドアはそう告げるとその大きな掌でそっと頭を撫でてくれた。
限界だった。トムの瞳から大粒の涙が溢れ始めた。
「先生……僕も……僕も先生が僕の本当の父親だったらと……ずっと、ずっと……」
「そうか、いや正直言って不安だったのじゃよ。こんないい歳して嫁さんも貰えていない寂しい男にそんな風に思われて、気持ち悪くないだろうか……とな。そうか、君はそんな風に思ってくれていたのじゃな……本当に、良かった」
その言葉がトムにとっては総てだった。血のつながりなど無くてもアルバス・ダンブルドアこそがトム・マールヴォロ・リドルにとっての父だった。
トムはダンブルドアの胸の中で子どものように泣き続けた。
「さてトム、明日一緒にレオナルド*2に詫びに行こう。
いくらショックだったとは言え、君はマグルに対して魔法を使ってしまったのだからな。
何、心配する必要はない。事情を考えれば止むを得ない部分もあるし、何より君は取り返しのつかない過ちをしてしまったわけではない。レオナルドもその事は十分にわかってくれるじゃろうて」
「すみません先生……僕のせいで……」
「気にすることはない。親が子の為に頭を下げる等という事は当然の事なのじゃからな」
翌日トムはダンブルドアと共に魔法省を訪れて謝罪を行った。
初犯であった事、平静を乱しても無理のない事情があった事、かのアルバス・ダンブルドアが後見人を務めている事、そしてトム・リドル自身が極めて優秀な優等生であった事が総て加味された結果、口頭での注意で終わり、トム・リドルは無事無罪放免となり、晴れやかな気分で新学期を迎えるのであった。
【朗報】トム・リドルシニア見事生還を果たす。