私の名前はトム・マールヴォロ・リドル   作:ライアン

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最強の杖を手に入れていたのにその上で真っ向勝負で打ち破られた時グリンデルバルドはどんな心境だったんでしょうね?


アルバス・ダンブルドア

 自身の父親がマグルであったーーーそれも、愛の妙薬の力で強引に魔法使いの母に心を歪まされていたという事実はトム・マールヴォロ・リドルの精神に大きな影響を及ぼした。

 これまでトムにとってマグルは憎悪と軽蔑の対象であった。ダンブルドアと過ごす日々で多少は和らいだものの、それでも彼の心の中には確かなマグルへの怒りが存在した。

 マグル生まれ、マグル育ちに対する差別心ーーーそうしたものはトムの心の中には存在しなかった。何故ならば彼らは自分と同じ魔法族、手を差し伸べるべき同胞だったからだ。

 しかし、それはあくまで同じ魔法族に対してのみで、彼の中には依然としてマグルに対する確かな隔意が存在していた。何故ならば彼にとってのマグルとは自身を迫害した孤児院の連中であったから。魔法という自身には存在せぬ素晴らしい力を妬み、あまつさえ排除しようとする醜い連中。それがトムの知っているマグルであった。

 

 だからそう、現在魔法界を騒がせている最も恐ろしい闇の魔法使いであるゲラート・グリンデルバルドの掲げる思想にも本音を言えば、トムはどこか惹かれていたのだ。何故優れた存在である自分達魔法族がマグルに配慮して隠れて暮らさなければならないのかーーーという彼の主張は若く己の才能に絶対の自信を抱くトムにとってとても魅力的に映った。

 しかし、魔法族がマグルに対して魔法を使う事を一切躊躇わなかった結果がメローピー・ゴーントがトム・リドル・シニアに対してした事であり、それは誰も幸せにしなかった。父親は人生を台無しにされて、母親は一時の幸福の後の絶望を味わい命を落として、トム自身も孤独な幼少期を送った。

 

ーーー魔法族はやはりマグルと距離を取るのが正解なのだろうか?

 

 そうだと言える気もしたし、そうだとも言えない気もした。

 何故ならば、魔法族の存在がマグルに明かされていないからこそ、マグルは自分のような魔法族を未知の怪物として扱ったのだから。もしも魔法族の存在が公になっていれば、それこそすぐに自分は選ばれた魔法族として相応しい敬意と待遇を得られていただろう。今が正しいと胸を張って言うには魔法界が閉鎖的であることの被害を受けている者が余りに多い気がした。親を知らなかった自分自身の事だけではなく、マグル生まれの者にはそれが原因で魔法界に来るまで孤独な幼少期を過ごした者が多く存在したーーー無論、そうでない者も居たが。

 

ーーーならばやはりグリンデルバルドの考えは正しいのではないか?

 

 それも、どうなのだろうか。

 そう言うには彼のやり方は余りにも乱暴過ぎた。

 多くの罪なき人をーーーマグルだけではなく同胞であるはずの魔法族も彼は殺めている。

 自分一人では答えが出そうになかったトムは真っ先に敬愛する父に問いかけてみた。

 

 「先生はゲラート・グリンデルバルドの考えについてどう思いますか?」と。

 ダンブルドアは何かを振り切るようにしばらく逡巡するかのように目を閉じた。

 そしてその後で常と変わらぬーーー否、常とは異なる静かな決意を宿して穏やかな口調で語り始めた。

 

「そうじゃな、彼の思想はとても危険でーーーそしてそれ故に魅力的じゃ。

 彼の言葉には確かに人を惹きつける魅力がある。

 彼の考え総てが間違っているーーーとは言えないだろうて。

 だが、彼と彼の考えを支持した者達が決定的に誤ってしまった点がある。

 それは自らの意に従わぬ者を敵と定めて、力で以て其の者を排しようとしてしまった点じゃ」

 

 ダンブルドアの言葉が一度そこで止まった。

 ダンブルドアは酷く迷いーーーそして怯えているようであった。

 それはトム・マールヴォロ・リドルにとっては見たことのない弱々しい姿だった。

 

「ある一人の愚かな男の過ちの話をしよう。己が才に驕り、甘美なる野望に惑わされ、大切な者を失ってようやく己が過ちに気づいた信じがたいほど救いようがない、とても愚かな男の話じゃ」

 

 ダンブルドアはそうしてゆっくりと語り始めた。

 かつてグリンデルバルドが自分にとって無二の親友ーーー否、それ以上の存在であったことを。

 彼の甘美なる野望に魅せられて、共にマグルを支配しようとしていたことを。

 そしてその結果、失ってようやく気づくことの出来た大切なーーー大切な妹を失った事を。

 心の底より敬愛する、この世で最も偉大な人物からの告白をトムは黙って聞き続けていた。

 

 この世で最も敬愛する人物が自らを責め続け、卑下し続けるのを見るのは辛かったが、そこから目を背けることも、否定することもトムには出来なかった。何故ならば、ダンブルドアがこの事を話したのは自分の為なのだと、トムにはわかってしまったがために。大切なとても大切な事を、目の前の恩師は自分に伝えてくれているのだと思ったがために。

 

「トム、覚えておいて欲しい事がある。どんな世界であれ、そこには確かに生きている人が居る。

 それはマグルの世界であれ、魔法界であれ同じ事だ。どれ程今が間違っているように見えても、そこには今を生きる無数の人々が存在する。権力を手にして良いものとはそれらを背負い根気強く向き合っていく覚悟のある存在だけなのじゃよ。

 何が正しいか、何が間違っているかは君自身が決める事じゃ。だが、決める際にはよく考えて貰いたい。

 君がその決断を下した時、君が大切に思い、君を大切に想う者は果たしてそれを笑顔で祝福してくれるか?という事を。そして迷った時はその者達にきちんと相談して欲しい。取り返しのつかない過ちを犯してしまった、愚かな男の心からの願いじゃ」

 

 トム・マールヴォロ・リドルにとってアルバス・ダンブルドアとはこの世で最も偉大で無謬にして無敵の存在だった。

 何故ならば彼は真実偉大な存在でありーーートム・リドルにとっては父も同然の存在であり、男にとっての父親とはそういう存在なのだから。

 しかし、そんな偉大な父親も一人の人間だとこの時トムは知った。

 ならば、トム・マールヴォロ・リドルの心に浮かんだのは目前の存在に対する失望だろうか?

 ダンブルドアはそう思っていた。きっと自らの過去を明かせば、目前の少年の自分に対する尊敬の眼差しは失望へと変わるだろうとーーー恐れていた。だからこそ今まで打ち明ける事が出来なかった。

 

「先生……でしたら先生もどうか覚えておいて下さい」

 

 しかし、そんなダンブルドアの怖れとは裏腹に、トムは先程までと決して変わらぬ尊敬に満ちた眼差しをダンブルドアへと向けて自らの思いを伝え始めた。

 

「この僕をトム・マールヴォロ・リドルを救い、此処まで導いてくださり、今もまた大切な事を教えてくれたのは他の誰でもないアルバス・ダンブルドアなのだという事を。

 迷った時は先生にきちんと相談します。だから先生も一人で抱え込まずに、迷った時は僕に相談して下さい。今はまだまだ未熟で頼りないかもしれないけど、先生の背負う荷物をせめて半分位は背負えるようになってみせますから」

 

 子どもにとって親とは絶対的な存在だーーーだが、どれほど偉大な親であっても一人の人間である事をやがて知る事となる。そうして人は子どもから大人になるのだから。

 トム・マールヴォロ・リドルという少年は親であるダンブルドアが思う以上に成長して大人になっていたーーー要はそういう事なのだ。

 

 微笑みと共に告げられた己が息子からの言葉にダンブルドアは大きく眼を見開いた。

 やがて、一滴の涙を零しながら微笑んだ。

 

「トム、本当に……本当に君は……儂には勿体無い自慢の息子じゃて」

「それはもう僕の父はなんと言っても、あのアルバス・ダンブルドアですから」

 

 微笑みながら告げられた自慢の息子の笑顔。

 それがダンブルドアの心にあった怯えを拭っていく。

 ダンブルドアはずっと恐れていた。自らの過ちを直視する事を。

 妹であるアリアナを本当に殺したのが誰かを知る事を。

 それ故、彼はかつての親友に会う事から逃げ続けていた。

 

(じゃが、もうそれは終わりにするとしよう)

 

 何故ならばそれは親として余りにもカッコ悪い事だ。

 自らの過去を知り、それでもそれに負ける事無くトム・マールヴォロ・リドルと胸を張って名乗る自慢の息子に比べて。

 親として子どもに見せるのならば、やはりカッコいい背中だろうと。

 

(息子が自らの過去へと向き合ったのだ。ならば親である儂もそれが出来ずにどうするというのか)

 

ーーー真の友とは決して一度も喧嘩しない存在の事を言うのではない。時にはぶつかり合う事も必要じゃろう。

 

 こんな事を偉そうに言っていた自分が何時までも友人とぶつかる事を恐れ続けるなど、それこそ過ちを重ね続けるも同然だろう。

 静かな決意がダンブルドアの心を満たしていく。それは周囲の求めるがままに応じた偶像としての在り方ではない。

 トム・マールヴォロ・リドルという自慢の息子に対して父として恥じぬ生き方をしたい、誇れる親でありたい、そんなダンブルドア自身の心から湧いた意志だった。

 

 1944年。アルバス・ダンブルドアは大陸で猛威を奮う闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドを打倒する為にホグワーツ魔法魔術学校の教職を一時的に休職。そして伝説的な決闘の末にこれを打倒。

 マーリン勲章勲一等を受賞し、名実共に魔法界を救った英雄となったのであった……

 

 

 




トム主人公の長編だと多分ダンブルドアがグリンデルバルドに負けてその仇をトムが討つパターン。
グリンデルバルドが討たれたのが1944年なのは作者のミスではなく、トムの影響でダンブルドアが決意するのが原作よりも早かった為です(念の為)
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