私の名前はトム・マールヴォロ・リドル   作:ライアン

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闇を祓う者

 ゲラート・グリンデルバルドを倒したアルバス・ダンブルドアは魔法界の英雄となった。

 日間予言者新聞を始めとする魔法界のメディアはダンブルドアへの感謝で埋め尽くされた。ありとあらゆる美辞麗句で以てアルバス・ダンブルドアは讃えられた。それは、アルバス・ダンブルドアという一人の人間がまさしく偶像と化していく瞬間であった。ゲラート・グリンデルバルドの齎した爪痕が深く、「魔法族によるマグルの支配」という彼の言葉に魔法族の多くが口ではそれはいけない事だと批難しながら、心の奥底のどこかで惹かれるものがあったからこそ、余計にそれは進んで行く。グリンデルバルドという存在は絶対悪でなければならないし、それを打倒したダンブルドアは一点の曇りもない光でなければならない。ーーーそれがアルバス・ダンブルドアという人物の素顔を知らない大多数の者の思いだったのだ。

 

 ーーーもしも、もしもグリンデルバルドを倒した理由がそうした顔も知らぬ無数の人と魔法界の未来といった最大多数の幸福のためのみ(・・)であれば、ダンブルドアはその役目を死ぬまで演じ続ける事となっただろう。

 しかし、アルバス・ダンブルドアがグリンデルバルドを倒した理由はそうした顔も知らぬ無数の人のためだけではなかった。彼が立ち上がったのは何よりも、愛する息子に誇れる父親で在りたい、そしてそのために魔法界の未来を守りたい、そんな人として当たり前の想いが最終的に彼を突き動かしたのだ。

 

「わしは決して皆が思うような“英雄”等ではない、誇らしき息子に相応しくあれるようにようやく己が過去と向き合う事が出来た一人の人間に過ぎぬよ」

 

 日間予言者新聞のインタビューにダンブルドアはそう応えた。

 そして告白したのだ。若かりし頃の自分がゲラート・グリンデルバルドの野望に魅了されていたという事を。自分が彼を打倒したのはいわばある種の禊であり、決して称賛されるようなものではないのだと。

 

 人間というのは不思議なものだ。例えばこれが、アルバス・ダンブルドアという存在が完全に理想の英雄、聖人として偶像と化した後にそうしたダンブルドアの過去の過ちーーー汚点が明るみに出れば人々はこぞって、無論擁護する者も当然いただろうが、彼を罵倒しただろう。勝手に抱いていた“夢”を勝手に「裏切られた」と思って。かつて抱いた感謝の心は色あせて。

 しかし、ゲラート・グリンデルバルドという脅威から救ってもらったという感謝の心が真新しかった頃、未だダンブルドアが完全な偶像となる前に、他ならぬ本人の口から自身の過ちについて告白された事で、大半の人々は自らを責めるダンブルドアを、彼自身が望んでいたかは不明として、むしろ積極的に擁護した。

 「過ちを犯さない人間など居ない。大切なのは犯した過ちときちんと向き合えるかどうかだ。その点アルバス・ダンブルドアは自身の過ちと向き合って、その上でかつての親友を止めたんだからやはり偉大な人なんだ」とそんな具合である。勿論、中にはダンブルドアが若き日にグリンデルバルドを止めて居ればこうはならなかった等と言うものも居たが、そうした人物も「ならば貴方はアルバス・ダンブルドア以上の事が出来たのか?」と問われれば閉口せざるを得なかった。結局のところゲラート・グリンデルバルドを止めて魔法戦争を終結に導いたのがダンブルドアであるという事は確かな事実であったが故に。

 

 かくしてアルバス・ダンブルドアは魔法界の英雄となった。

 染みや汚点を何一つとして持たぬ“聖人”としてではなく、過ちを犯したがそれを乗り越えた立派な“人間”として……

 

・・・

 

 1945年。トム・マールヴォロ・リドルはホグワーツ魔法魔術学校を卒業した。

 卒業時に受けたN.E.W.T.(いもり試験)の結果は当然のように総て満点。まさしくアルバス・ダンブルドアの再来だと讃えられた。

 トム・マールヴォロ・リドルが如何なる道に進むかはホグワーツ及びイギリス魔法界の注目の的であった。

 特に闇祓い局はこの若き天才に熱い視線を送った。折しも魔法大戦が終結したばかりの時期。闇の勢力の残党が未だ活発に動いていた事も相まって、魔法界の英雄アルバス・ダンブルドアの秘蔵っ子にして彼の再来とも謳われるトムは是が非でも欲しい存在だったのだ。

 

 トムは迷っていた。

 彼にとっての夢は偉大なるアルバス・ダンブルドアのようになる事ーーーホグワーツの教師となる事であった。

 しかし、同時に教師になるならばもっと多くの経験を経て、偉大なる恩師にして父の手元から離れて一人の人間として一人前になるべきではないかとも思えた。教師となって人を導くには余りにも自分にはまだ経験というものが不足しているように思えたのだ。また、卒業してすぐに教師になることの懸念はそれだけではなかった。それは他ならぬトムが弟のように思い、とてもとてもーーーとてつもなく手間がかかる後輩ハグリッドの事であった。

 

 ハグリッドが入学して以来、トムはハグリッドの面倒をよく見た。根気強く導き、ハグリッドはトムを兄のように慕い、トムもまたハグリッドを弟のように可愛がった。麗しき関係と、そういうべきだろう。しかし、トムは先輩として余りにも頼りになりすぎた。アクロマンチュラの無断飼育を始めとした本来なら退学処分になるようなやらかしをハグリッドが行った際も、トムはなんだかんだで気のいい後輩を見捨てる事が出来ず庇ってやった。

 だからだろう、ハグリッドの中には恐らく本人も意図していない領域でどこか甘え(・・)が存在している。自分がなにかしても先輩であるトムが庇ってくれるというそんな無意識下の甘えが。そして自分が何だかんだでそれに応えてしまうであろうという事がトムにはわかっていた。

 故に、もしもトムがこのままホグワーツの教師となれば、ハグリッドは卒業までの間ずっとトムに甘え続けるだろう。それは駄目だとトムは思った。何時までもーーー何時までもハグリッドの面倒を見てやる事はトムには出来なかった。教師になればハグリッド以外にも目をかけなければいけない生徒は居て、ハグリッドは先輩としてむしろ後輩の面倒を見る側に回らなければいけないのだから。

 

 結局、それが決定打となった。自分自身が偉大なる父の下から離れて一人前となる為にも、ホグワーツを卒業したトム・マールヴォロ・リドルは闇祓いとなった。

 闇祓いは一人前となるまでに本来ならば3年間の修行が課されるが、トムは噂に違わぬ実力を見せつけ一年でその総てを終える。そして晴れて一人前の闇祓いとして認められたトムは闇の勢力との闘争へと明け暮れ、多くの伝説的な功績を打ち立てる。

 アズカバンの半分を埋めた男等と称されるほどに多くの闇の魔法使いを捕らえたーーー自らが編み出した箒なし飛行術を用いて高速で追ってくるトムから逃げおおせる者は誰も居なかった。

 許されざる呪文の発動を感知する探知魔法をイギリス魔法界全土に展開して、治安を素晴らしく良くしたーーー許されざる呪文の使用を感知した瞬間に闇祓いの精鋭が現場へと赴く仕組みだ。

 

 誰もがそう遠くない内にトム・マールヴォロ・リドルが闇祓い局長になると噂した。

 人格、実力、実績ーーー総てに於いてトムは傑出しており、まるで非の打ち所がなかった。

 しかし、多くの闇の魔法使いと対峙している間にトムの心の中にはある想いが去来する。

 それは、こうなる前に誰かが彼らを止めてやったり導いてやったりする事は出来なかったのだろうかーーーそんな思いだった。

 グリンデルバルドの思想に魅了された闇の魔法使い達の姿がトムにとってはダンブルドアに出会わずにグリンデルバルドに出会っていた場合の自分、そんな在り得たかもしれない自分の可能性に思えたのだ。

 

(いや、私だけではない。あの偉大なるダンブルドア先生でさえも一時はグリンデルバルドに魅了されていたんだ)

 

 間違いなく今世紀に於いて最も偉大な魔法使いでさえもそうだったのだ。

 それを思うとトムは尚の事彼らが闇へと堕ちる前にどうにかしたいと思った。

 折しも魔法大戦が終結して既に10年、トムを始めとした多くの有能な闇祓いの活躍も相まってグリンデルバルドの残した傷跡も大分癒えつつあった。

 

 一線級の闇祓いとして働き一人前の大人になった自負がトムにはあった。頃合いのように、思えた。

 1955年。次期闇祓い局長として周囲から見られていたトム・マールヴォロ・リドルは周囲から惜しまれつつも闇祓いを休職。校長となった恩師アルバス・ダンブルドアからの要請に応えてホグワーツ魔法魔術学校の闇の魔術に対する防衛術の教授へと就任するのであった……

 

 

 




多分此処のトムのまね妖怪はダンブルドア先生に出会う事無く闇落ちした場合の自分が出てくる。
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