まあそもそもトムが誰だこいつな作品なので今更ではあると思いますが。
念願の教師となったトム・マールヴォロ・リドルは学生生活、そして闇祓いの時と同様順風満帆と言って何ら差し支えのない教師人生を送っていた。
ハンサムで優秀で、そしてかつて偉大なる恩師が自分にしてくれた事を今度は自分がする番だと生徒に対して惜しみない愛情を注ぐトム先生は生徒から慕われ、同僚から頼られ、そして校長からは全幅の信頼を置かれた。
「君たちの中には自分は闇祓いに就くつもりはないのだから、防衛術をそこまで積極的に学ぶ必要はないと考えている者も居るかも知れません。しかし、油断大敵。闇の魔法使いはある日君たちの続いていたはずの当たり前を奪い去る。残酷にかつ理不尽に。そうなった時、君たちは後悔の涙を流す事となるでしょう。「自分にもっと力さえあればこんなことにはならなかったのに……!」と。そんなふうに大切な人を守れぬ自身の弱さに後悔の涙を流さない為にも、この授業を通して強くなっておきなさい。自分自身と愛する大切な人を守れる位にね」
トムは防衛術の最初の授業では必ずその話をして生徒たちにまず授業に対するやる気を出させた。
闇祓いとしての自分自身の経験に基づくトムの授業は極めて実践的かつ刺激的なもので生徒たちの技量を大きく向上させた。天才は劣等生が何故できないかがわからない故に教師に向かないという説が存在するが、トムの場合に於いてはこの説は当てはまらなかった。何故ならばトムは学生時代、ルビウス・ハグリッドというとんでもない問題児の面倒を見ていた*1が故に。問題児、劣等生に対しての教え方、導き方も熟知していたのだ。
「ダンブルドア校長から決闘クラブを始める許しを得ました。スラグホーン先生はスラグ・クラブと呼ばれる魔法薬学の勉強会を開いていますが、私がやるのはその防衛術版だと思って下されば結構です。意欲のある生徒は是非参加して下さいね」
トムがそう言うとトム目当てで多くの女子生徒が決闘クラブに参加した。
そして女子が多く参加した事で女子目当ての男子も参加した。
真実やる気のある生徒も参加した。
気に食わない奴に衆人環視の場で恥をかかせてやろうと思って参加する者達も居た。
トムはそうした生徒を分け隔てなく受けいれた。
トムは寮の垣根を出来る限り取り払うべきだと考えていた。あいつはスリザリンだからーーーグリフィンドールだからーーーそんな理由で級友と仲違いする等、純血だのマグル生まれだのと言った血統で相手を判断するのと同じ位に馬鹿馬鹿しいことだと思っていたがために。幸いな事にトムはどこかの寮の寮監を任される事もなく、ある種身軽な立場だった。スラグ・クラブのように寮の垣根を越えた生徒同士の交流の和を広げるため課外活動の監督者をやる立場としてはもってこいだった。
そして決闘クラブはそのための第一歩であった。この決闘クラブでトムは違う寮同士の者を積極的に組ませた。仲良くする事を強制するような真似はしない。自分達教師が出来るのはあくまできっかけづくりまでで、でしゃばりすぎては生徒の成長の芽を摘んでしまう事をトムは良くわかっていた。わずかでも良い、寮の垣根を越えた交流が出来るきっかけになればと……そんな程度の取り組みであった。
その甲斐あってと言うべきだろう、徐々にだが大広間での食事の際に他寮の友人の元を訪れる生徒も少しずつだが確実に増えていった。そんな教え子たちの様子をトムは優しい笑顔で見守るのであった。
トムは多くの生徒に慕われたがトムに反発する生徒も当然だが居た。
サラザール・スリザリンの遺産を継承しながら、マグルの父を持ち、その事を隠そうともせずあまつさえ純血主義を「古臭い思想」呼ばわりしていたトムは多くの純血の名門から憎悪を買っていたのだ。そして小さな頃の子どもというのは両親との仲が険悪でなければ基本的に親の思想を受け継ぐものである。家で日間予言者新聞にトムやダンブルドアの記事が載る度に苦々しい顔で罵倒する両親の姿を幼い頃より見ていれば、自分自身も親に倣うのはある種の必然だと言えただろう。
ベラトリックス・ブラックもそんなトムに反感を抱く生徒の一人であった。
彼女はその名が示す通り純血の王と称されるブラック家の人間で、両親から見れば親の言う事をよく聞く極めて素直な良い娘であったーーーすなわち骨の髄まで染まりきった純血主義者だという事である。
ブラック家から見ればトム・マールヴォロ・リドルは『調子に乗った薄汚いマグル混じり』以外の何者でもなく、そんな彼がスリザリンの継承者となった事は悪夢以外の何者でもなかった。
「スリザリンの遺産を取り戻しなさいベラトリックス、アレは薄汚いマグル混じり等ではなく我らブラック家こそが手にすべきものです」
そう強く言いつける両親の言葉にベラトリックスは強く頷いた。
そして翌日からスリザリンの遺産を奪還するための蛇語習得の勉強が始まった。
ベラトリックスの両親は大枚をはたいて飲んだくれの碌でなしーーーされどトム・リドル以外では現在唯一蛇語の使い手であるモーフィン・ゴーントを蛇語の教師として呼び寄せた。下品で粗野なモーフィンと接する事はベラトリックスにとっては耐え難い屈辱であったが、総てはサラザール・スリザリンの遺産を継承する為だと言い聞かせた。そして数年に及ぶ努力の甲斐あって彼女はようやくカタコトながらも蛇語を使えるようになった。そんなベラトリックスを彼女の両親はべた褒めした。蛇語さえ習得したならば、純血の王たるブラック家の人間である愛娘と薄汚いマグル混じりの男、どちらをサラザール・スリザリンの遺産が選ぶのかは彼らにとっては自明の理と思えたのだ。
ベラトリックスには自分が選ばれた者だという自負が確かに存在したーーー事実として彼女は優れた才能を持つ魔女であった。トム・リドルなる調子に乗ったマグル混じりが何するものぞ!自分は純血の王たるブラック家の娘なのだ!すぐにでも追い抜いて見せる!そしてスリザリンの遺産を取り戻すのだと意気揚々とホグワーツに彼女は入学した。
そして、生まれて初めて格の違いというものを思い知らされた。
彼女と彼女の両親が調子に乗ったマグル混じりと見下していた男、トム・マールヴォロ・リドルはベラトリックスが見たこともないほどに優れた魔法使いだった。なまじベラトリックス自身が優れた才能を持つ魔女であったが故に、自身とトムの間に横たわる絶対的な才能の差というものを実感してしまう。文字通り格が違うのだと、ベラトリックスは気がついてしまったのだ。
これでもしもトムが純血の魔法使いであればベラトリックスは素直にトムを崇拝する事が出来ただろう。
しかし、彼は穢れたマグルの父を持つ半純血であり、純血を軽んじる許されざる存在だ。膝を折る事などベラトリックスのプライドが許さなかった。そう奮起すれど、彼我に横たわる差は余りにも大きかった。
才能だけではない、一流の闇祓いとして活躍したトムと入学したばかりのベラトリックスとでは経験ーーー積み重ねた時間の差が確かに存在した。折れそうになる自らのプライドを必死に守るためにベラトリックスは事ある毎にトムに噛み付いた。
しかし、そんな彼女に対してトムはどこまでも優しい笑顔で応じるばかりであったーーートムにとってはベラトリックスもまた彼の愛すべき教え子の一人であり、彼女のような生徒こそを導くためにこそ彼は教師になったのだから。
そんなトムの余裕ぶった態度は、ぶったも何もトムは真実余裕だったのだが、ベラトリックスの苛立ちを助長させた。純血の王たる誇り高きブラック家の娘たる自分があの男の前ではまるで子ども扱いなどと!*2こんな事は許されない!絶対にあの男を自分に跪かせてみせる!等と決意した彼女はある暴挙に打って出る。トムがスリザリンより継承した遺産ーーーヴォルデモートを我が物にせんとしたのだ。
「さあサラザール・スリザリンの残せし遺産よ!この純血の王たる由緒正しきブラック家が末裔ベラトリックス・ブラックに跪きなさい!」
秘密の部屋に現れて意気揚々とした様子でそんな事をたどたどしい蛇語で言うベラトリックスをヴォルデモートは無視した。彼にとっての現在の主はトム・マールヴォロ・リドルであり、努力は窺えるがそれでも余りにも拙すぎる蛇語で語りかけるベラトリックスの様はヴォルデモートにとっては微笑ましさを抱けど従おうなどとは思えぬものであったが故に。*3
「何をしているのバジリスク!貴方が真に従うべき主が現れたのよ!!!」*4
苛立ちと共に告げられるベラトリックスの言葉をヴォルデモートは鼻で笑った。
彼の主たるトム・マールヴォロ・リドルは最初の主であるサラザール・スリザリンにも匹敵する才を持つ魔法使いである。それに比べれば目前の少女は余りにも矮小が過ぎた。飾らずその心境を表すならば寝言は寝て言えと言ったものであったのだ。
自分をまるで相手にしないヴォルデモートの様子にベラトリックスは地団駄を踏んで悔しがった。
何故このバジリスクは自分に従わないのか!自分はあの純血の王ブラック家の人間だと言うのに!マグル混じりのあの男に従いながら、何故自分に従わぬのか!お前はサラザール・スリザリンの意志を実現させる為に居るのではないのか!と。
許されざる怠慢だとベラトリクスには思えた。粗相をした実家の屋敷しもべ妖精と同様に躾が必要だと。
ベラトリックスはヴォルデモートに向けて呪いを唱えた。
『この無礼者めが!!!』
「ひぃ!?」
そして次の瞬間魂の底から震え上がるようなおどろおどろしい雄叫びを前に小さく可愛らしい悲鳴を挙げて、その場に尻もちをついた。
ヴォルデモートに彼女を殺す気はなかった。主からそれは固く戒められていたが故に。だがそれはそれとして分をわきまえぬ無礼者相手には相応の
一体自分が誰に喧嘩を売っているのかをわからせてやらねばなるまいとヴォルデモートは怒りに燃えていた。
そして本物の殺意というものを味わったことのないお嬢様であるベラトリックスにはそんなヴォルデモートの意志などわからなかった。
毒蛇の王の怒気を前にして虚勢が剥がれ落ちた彼女は今すぐにでもそこから逃げ出したかった。しかし、出来なかった。腰が抜けてしまっていたが故に。
にじり寄ってくるヴォルデモートを前に冷静な思考等もはや持てるはずもないベラトリックスは完全なパニックになった。
『済まないヴォルデモート、その辺りで勘弁してあげてくれないか』
そして聞こえてきた聞き慣れた流暢な蛇語を前にヴォルデモートはピタリとその動きを止めた。
無礼な小娘の隣に立つ、己が主の姿を確認して。
『生徒の教育はきちんとする事だな、我が主よ』
『ああ、肝に銘じておくよ。済まないヴォルデモート、迷惑をかけたね』
『……今日の夕食に期待しておく』
シューシューと自身にはまるで聞き取れない流暢な蛇語*5で会話するトムとヴォルデモートをベラトリックスは恐怖に満ちた視線で見ていた。
今更ながらに彼女は自身のこれまでトムにかけてきた言葉を思い出していた。このままバジリスクをけしかけられたらーーー?そんな恐怖で彼女の心は一杯だった。
やがて去っていくバジリスクにホッと胸を撫で下ろすとそこには呆れきった様子の男が居て。
「とりあえず、言いたい事は色々とあるけどまあお説教は後にしよう。無事で良かった。立てるかい、ミス・ブラック」
「も、もちろんです!」
手を差し伸べてくるトムの手を取らず、ベラトリックスは立ち上がるつもりだった。
しかし、彼女の身体は彼女の心を裏切った。安心したためか、腰の力が抜けきったままだったのだ。
何時までも起き上がれないベラトリックスの様子にトムは苦笑を浮かべる。
そして
「きゃ、きゃあ」
「君からすれば穢らわしい半純血なんかに触れられたくないかもしれないが、失礼するよ。君も何時までもこんなところにはいたくないだろう?」
急激に顔が熱くなるのをベラトリクスを感じた。
そっと優しく両手で自分を抱きかかえながら爽やかな笑みを浮かべてウインクをする男の顔を何故だか彼女は直視出来ずベラトリックスはぷいっとそっぽを向く。
「非、非常時故の措置として寛大な心で許してあげます。光栄に思うことですね」
「光栄です。ブラックのお姫様」
それからベラトリックスは秘密の部屋を出るまでの間ずっとうつむいていた。
そして出た後に常にない真剣な様子で自分を叱るトムの言葉は、かつてない程に彼女の心を揺さぶった。ーーー今までは何を言おうが所詮は薄汚いマグル混じりだと、そう思っていたというのに。
その夜、寮に戻ったベラトリックスは中々寝付けず何故か何時までもトムの浮かべた笑顔がその脳裏にチラつき続けるのであった……
まあハンサムで優しい人格者で強くてカッコいいトム先生は当然のように色んな女子生徒の初恋を掻っ攫っています。トム先生はイケメンですのでそれとなくいなしていますけど。
ちなみにトムとベラトリックスの年齢差は25歳……まあ純血やら半純血やら関係なく大抵の親は反対するだろうなって。