かぐや様は夢を見たい   作:瑞穂国

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エピローグ。かぐや様が目を覚ましてからのお話です。


かぐや様は夢を見たい

―――や。・・・の・・や

 

「四宮」

 

自分を呼ぶ声に気づいて、かぐやはゆっくりと瞼を上げる。ぼやけた視界が少しずつ焦点を結び、目の前の光景を捉えた。

 

秀知院学園高等部、生徒会室。その中央、会長の執務机からの景色だと気づき、かぐやはゆっくりと二、三、瞬きをした。

 

―――私、寝てた・・・?

 

覚醒していく意識の中、かぐやは自分の状況を少しずつ整理し始める。

 

一体、誰が起こしてくれたのか。かぐやは少し体を起こして、自分の肩を揺らす人物を見た。

 

こちらを覗き込むようにする顔が見える。明るい髪色。しゅっとした顔立ち。引き締まった目元。

 

―――・・・会長だ。

 

先程まで見ていた夢のせいもあり、かぐやは自分の頬が自然と緩むのに気づいた。

 

ここには白銀がいる。それがなんだか嬉しい。

 

白銀の顔を見たからだろうか。かぐやの脳は急速に目覚め始め、いつも通りの回転を取り戻していく。

 

そして気づいた。

 

―――会長!?

 

かぐやの意識が一気に現実へと引き戻される。かぐやの覚えている限り、生徒会室に白銀の姿はなかった。ということは、かぐやが眠ってしまった後、白銀はこの部屋へとやって来たのだろう。

 

考えても見てほしい。部屋に入ったら、普段自分の使っている机で、別の誰かが寝ていたら。

 

―――何てことを・・・何てことをしたの、私!?

 

そんなもの、意味深すぎるではないか。他人の机、それも異性の机に座るなど、ましてそこで眠るなど。男子の部屋で、男子のベッドで眠るのと大差ない。

 

実に意味深。

 

さらに、自分の寝顔を見られたのではないかという羞恥が、かぐやを襲う。

 

咄嗟に唇を拭い、万が一にも涎など垂らしていないか確かめる。それから改めて、かぐやは白銀を振り返った。

 

「お、おはよう」

 

突然体を起こしたかぐやに、白銀は驚いている様子であった。

 

「か、会長。いらしてたなら、起こしてください」

 

せめてもの抵抗で抗議する。白銀は曖昧に頬を掻いた後、少し目線を外して答える。

 

「いや、あんまり気持ちよさそうに寝てるから・・・起こすに起こせなかった」

 

―――見られた!やっぱり寝顔、見られた!

 

寝顔を見られるなど、パンツを見られるのと同義である。

 

「それに、四宮も疲れてる様子だったから・・・少しぐらい寝かせてやっても、罰は当たらないだろう、と」

 

―――っ!

 

何て優しいんですかっ!

 

それを言われては、文句も言えない。かぐやは閉口し、せめてもの抵抗で俯く。意識すると頬が熱い。

 

机から離れた白銀は、ソファに戻り、書類の山をまとめ始める。四宮が寝ている間、ずっとあそこで仕事をしていたのだろうか。

 

「そろそろ、藤原と石上が来る。今日の活動を始めるぞ」

 

白銀の言葉通り、数分後には藤原と石上も現れ、今日の生徒会が始まった。

 

 

 

「そういえば四宮」

 

活動を終え、生徒会室の鍵を閉める白銀が、思い出したようにかぐやの名前を呼んだ。

 

石上と藤原は少し早く帰っている。今は白銀とかぐやの二人きりだ。

 

「なんですか?」

 

かぐやは白銀の呼びかけに答える。

 

「さっきは、その・・・何か夢でも見てたのか」

 

思わずドキリとする。

 

「どうして、ですか」

 

「いや・・・聞く気はなかったんだが。寝言が聞こえてきてな」

 

なぜか目を逸らしながら、白銀が答える。

 

再び、体中の血液が顔に集まってくるのを、かぐやは感じた。

 

―――ね、寝言!?寝言まで聞かれたの!?

 

そんなのは最早、同衾と変わらない。

 

「こう、藤原と石上と・・・俺のことを、呼んでいたから。どんな夢だったのか、気になってな」

 

―――しかも会長の名前を呼んでいたんですか、私!?

 

告白同然の行為である。

 

廊下を歩く間、白銀の顔が見れない。顔を上げれば、熟れたリンゴのような頬がばれてしまうのは、明白であった。

 

「・・・俺も最近、夢を見たんだ」

 

白銀がゆっくりと口を開く。

 

「四宮と、藤原と、石上で、空を飛ぶ夢だった」

 

今日一番、心臓が跳ねる。俯いていた顔を上げてしまうほど、電撃に似た驚きが、かぐやの背中を駆け抜ける。

 

白銀の顔を窺う。

 

「皆で飛行機を飛ばして。四宮は・・・」

 

その先を言い淀んだ白銀は、かぶりを振って話を切った。

 

「いや、すまん。なんでもない。忘れてくれ」

 

―――もしも。

 

かぐやは思う。そんなことはあり得ないとわかっていても、つい都合のいい解釈をしてしまう。都合のいいことを考えてしまう。

 

―――まさか、ね。

 

「・・・寝言を盗み聞きする会長には、内緒です」

 

人差し指を唇に当て、かぐやは薄く笑う。

 

白銀はなぜ、夢の話をしたのだろうか。

 

かぐやも最近知ったことだが、白銀は星好きで、実は意外とロマンチストである。そんな白銀は、もしかしたら、かぐやの寝言に何か思うことがあったのかもしれない。例えば―――

 

―――いいえ、確かめなくてもいい。

 

夢は夢だ。それ以上でも、以下でもない。あれは、かぐやが見た夢に過ぎない。

 

夢は夢のままで、十分であろう。

 

長い長い、生徒会室前の廊下を、白銀と並んで歩く。他愛のないことを話し、お互いに笑みをこぼす。

 

いつもと変わらない、かぐやの日常である。

 

こんな日がいつまでも続けばいい。そんな淡いかぐやの願いを、白い月が優しく包んでいた。

 

 

 

・・・夢のメカニズムは、いまだに解明されていない。

 

だが、もし仮に、夢とは人の深層心理が見せるものなら。深層心理を形作る、記憶と経験が、夢の正体であるなら。

 

記憶と経験を共有した二人。同じ思い出を持つ二人は、もしかしたら、同じ夢を見るのかもしれない。

 

 

雲海の上を、彼は飛び続けていた。

 

ガラス張りの操縦席。風防越しに景色を眺めながら、彼は操縦桿を操っていた。

 

同時に、各種計器を確かめる。特にエンジンの状態を入念に。

 

メーターの数値は、搭載されている「龍珠」エンジンが最高の状態にあることを示していた。それを確かめ、彼は満足げに頷く。

 

この状態で、エンジンタンクの残量を考えれば、十分目的地にたどり着けるはずだ。

 

方位磁針を見れば、彼の機体が真っ直ぐに西を目指しているのがわかる。

 

西へ―――すなわち、今まさに沈もうとしている、太陽の方へと。

 

・・・彼女の行った先を、ずっと見つめてきた。

 

簡単な話だ。約束は守らなければ。約束は果たさなければ。

 

だから彼は、空を飛び続けた。遥か先、彼女の飛び去った空の向こうへ、たどり着くために。

 

もう一度、彼女に会うために。

 

・・・どれほどの時間、飛び続けただろうか。オレンジに染まった雲といくつもすれ違った。

 

チャート上で、機体が間もなく、目的地に到着しようとしていることを確認した時だ。

 

彼の目がふと、何かを捉えた。パイロットとしてはギリギリの、視力一・〇の目が、確かに何かを捉えた。

 

大きな太陽の中に、影が見える。鳥のように翼を広げ、自由な意志で羽ばたく影。純白の姿が夕陽にきらめき、悠然と雲海を渡る。

 

それは真っ直ぐに、こちらへとやって来ていた。

 

風防をスライドして開ける。瞬間風が吹き込み、彼の周りを駆け抜けていく。

 

見間違えることなどありえない。例え何年経とうと、どれだけ隔てられようと、彼女のことを忘れるなどありえない。

 

それは偶然などではなく、必然だった。会いに行くと約束した彼に、彼女は待っていると約束したのだから。

 

彼女の名前を呼ぶ。いつかと同じように、手を伸ばす。

 

翼を広げた彼女は、彼の呼びかけにしっかりと答えた。

 

二人の手が、お互いを探し当てる。触れた指先から手繰るように、しかと握り合う。

 

昼と夜の狭間に照らされる彼女の横顔は、少し大人びて、けれど変わることなく、優しい頬笑みをたたえていた。

 

「・・・探したぞ」

 

彼女は何度も頷いた。

 

風防の端に、彼女が手をかける。目的地まではもう少しだ。それまで、しばしの遊覧飛行と洒落込もう。

 

再び一つになった翼は、水平線に沈む太陽を見送りながら、黄昏れの大空を行く。

 

やがてその背中から、月が優しく顔を出した。




というわけで、本当にここまで、お付き合いいただきありがとうございました。

エンディングから着想を得て、妄想と勢いに任せて書いていましたが、意外と頭を使った気がします。さすがは天才たちの恋愛頭脳戦()

後書きで触れてないところも含めて、本文中に色々と仕掛けたつもりですが・・・これ以上は無粋なので。

ほんとに、難解なパズルをやっている感覚でした・・・。でも、全力で楽しんで書き上げられました。

本編に書ききれなかった話とか、会長とかぐや様の馴れ初めとか、正直未だに妄想にブレーキかかってないので、もしかしたら追加でお話書くかもですが・・・。今はここまでで。

最後まで読んでいただきありがとうございました。それでは、またどこかで・・・!

(以下雑談)

この後最終話!

繰り返す、この後最終話!

なお、私は軽井沢にいるせいでリアタイできない模様。またかよ・・・。でも楽しみに待ってます!

(二期発表来い・・・!)
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