かぐや様は夢を見たい   作:瑞穂国

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またまたやってきました。

表題の通りです。お弁当回。全三回を予定しております。


【幕間】かぐや様はいただきたい(夢)
かぐや様はいただきたい(夢)


秀知院学園の学生たちにとって、昼休憩は非常に重要な時間である。

 

勉強最優先の学園は、朝から夕方まで全て授業で埋め尽くされている。しかも、一つ一つの授業がかなり重めだ。当然のことながら、誰も彼も脳を酷使し、その分大きなエネルギーを消費する。

 

よって、当然の帰結として、脳は大量の養分を求めるようになる。そしてそれを補充するのが、昼休憩、すなわち昼食の時間である。

 

秀知院学園において、昼食の選択肢は三つ存在する。

 

一つ目は、弁当を持参すること。家政婦や侍従を雇える、裕福な家がほとんどの秀知院学園において、もっともオーソドックスな昼食である。

 

二つ目は、学食の利用すること。ただし、秀知院学園の学食はあまり大きくなく、一度に百人までしか入らないため、お昼時は込み合う傾向にある。

 

三つ目は、購買で購入すること。サンドイッチを中心に扱っており、それほど量を食べない学生や、弁当では足りない学生が主として利用している。

 

秀知院学園の生徒たちは、これらの選択肢を上手く使いながら、各々束の間の休息を過ごすのである。

 

♀♀♀

 

「かぐやさーん!」

 

教室の中から、藤原の呼ぶ声がした。

 

ちょうど昼食の時間だ。藤原とは別々のクラスであるかぐやも、この時間ばかりは彼女のクラスに顔を出し、昼食を共にする。おしゃべりな藤原といた方が、昼食の間も退屈しない。

 

それに、理由はもう一つ。

 

「会長も一緒に食べましょー」

 

「ん?ああ、そうするかな」

 

藤原のクラスには、白銀もいるのだ。このクラスで食べれば、時たまこうして、白銀も昼食に加わってくるのである。それこそがかぐやの狙い。

 

白銀は食事中あまりしゃべる方ではないが、別にそれでも構わない。白銀とともに食事をしていることに意味があるのである。それに、かぐやが言ったことに対しては、ちゃんと相槌を打ってくれるし、言葉も返してくれる。

 

ささやかではあるが、この昼休憩の時間を、かぐやは幸福なものと捉えていた。

 

「聞いてくださいよ、かぐやさん。今朝、お手伝いさんがものすごく張り切っちゃって、お弁当のおかずがすごいことになってるんですよ」

 

そう言いながら、藤原が自らの弁当箱を取り出す。彼女の言う通り、今日は普段通りの弁当箱ともう一つ、小さな容器がついている。ふたを開ければ、小さな仕切りで区切られた空間に、色とりどりのおかずが並んでいた。確かにこの量は、女子一人で食べきるにはいささか多い。

 

「あら、本当に。藤原さん、食べきれるんですか?」

 

「まあ、なんとか。私、出されたものは全部食べる主義ですので」

 

―――その結果が、あの胸なのでしょうか。

 

半目で藤原の立派な胸部に視線を送りつつ、かぐやも自分の弁当を開く。

 

かぐやの弁当は、専属の料理人ができたてを昼休憩に届けてくれる。旬のものをふんだんに取り入れ、栄養のバランスに気を遣った逸品だ。量も、それほど食べるわけではないかぐやに合わせ、藤原よりいくらか少ない。

 

今日の献立は、秋の味覚づくしである。

 

「・・・豪勢だな、二人とも」

 

言いつつ、白銀も弁当を取り出した。

 

「あれ?会長、お弁当なんですか?」

 

藤原が驚いたように声を上げる。

 

普段白銀は、昼食を学食や購買で済ませている。昼休憩中の白銀といえば、サンドイッチかバゲットを片手にしているイメージである。時たま、昨夜の残りだというおかずを一品二品持ってくることはあるが、弁当を持ってきたことは今までなかった。

 

「ああ、今日はな」

 

「会長がお弁当なんて、初めてじゃないですか?」

 

「そうか?これまでもちょくちょく弁当だったぞ。君らと食べる時が、たまたま違っただけで」

 

藤原の質問に答えた白銀が、弁当箱を開いた。

 

かぐやはその中身に、思わずほうっと息をつく。

 

かぐやの知る弁当とは、栄養や見た目のバランスを考え、規則正しく行儀よく、箱の中に詰め込まれたものである。先に箱という制限があり、その中に嵌め込まれるようにして、食材が並んでいる。それがかぐやの弁当だ。

 

だが、白銀の弁当は違う。

 

野菜炒め、卵焼き、ハンバーグ、タコさんウインナー、敷き詰められたご飯に、のりたま。それが白銀の弁当の全てである。好きなものを好きなだけ詰め込んだ、まるで子供の宝箱のようなお弁当。箱という容器に縛られず、所狭しと詰め込まれたおかずたち。それが白銀の弁当だ。

 

「田舎のじいさまが、色々と送って来てくれてな。それで、昨日の夜作りすぎて、結構余ったんだ」

 

だから、今日は弁当にしたのだという。

 

「えっ、それじゃあもしかして、このお弁当、会長の手作りなんですか?」

 

「ああそうだぞ」

 

―――会長の・・・手作り弁当・・・!?

 

かぐやの背中に電撃が走る。そんなものは食べたいに決まっている。特にあの、存在感マシマシのタコさんウインナー。あれをぜひとも食べてみたいものである。

 

タコさんウインナーのつぶらな瞳が、かぐやの方を見つめていた。

 

―――・・・でも。

 

だがしかし、事はそう簡単ではない。

 

力あるものには、相応の振る舞いが求められるものである。貴族には貴族の、弁えなければならないルールが存在する。たとえ階級制度がなくなろうと、爵位持ちの四宮家令嬢には、守らなければならない最低限の振る舞いというものがあった。

 

すなわち、他人の物を乞うことなど、あってはならないのである。それは実にはしたなく、浅ましい行為だ。上流階級出身者として恥ずべき行為だ。

 

「おいしそうですねー、一口分けてくださいよ」

 

―――藤原さん!?

 

何の躊躇いもなく媚びへつらい始めた藤原に、かぐやは驚愕の目を向ける。

 

かぐやほどではないとはいえ、藤原もまた十分なお嬢様である。しかしながら彼女は、どうも上流階級としての自覚に欠けるきらいがあると、かぐやは思っていた。

 

そしてその自覚のなさが、今もまた発揮されている。

 

「ああ、いいぞ。どれが食いたい?」

 

―――会長!?

 

藤原の要求をすんなり受け入れる白銀。

 

「じゃあ、そのハンバーグを一口」

 

「ハンバーグだな。ほら」

 

そう言って白銀が差し出したハンバーグを、藤原が口にする。

 

―――・・・あっ・・・。

 

かぐやの中で何かのスイッチが入る。

 

―――そうですか、そうですか。つまり、藤原さんはそういう人なのですね。

 

頭の中の温度が、急激に下がっていく。突発的に訪れた氷河期が、かぐやの思考をも急速に冷却し、脳内にブリザードを巻き起こす。

 

―――他人に寄生する害虫。おこぼれに平気で預かるハイエナ。栄養を胸に吸われた脳カラ。人の皮をかぶったケダモノ。なんておぞましい。

 

吹き荒ぶ雪と氷の嵐を止める者は最早ない。平穏な昼休憩の教室で、人間一人の命が危機に陥っていることを感知している者は一人もいなかった。

 

♂♂♂

 

―――なんだあの、四宮の軽蔑しきった眼は!?

 

藤原にハンバーグを食べさせた瞬間、四宮の周りの気温が瞬時にマイナス値へ下降したことに、白銀は気づいていた。

 

おいしそうにハンバーグを頬張る藤原とはあまりにも対照的な、神すらも射殺さんばかりの眼光が、グサグサと白銀に突き刺さってくる。

 

白銀は自らの記憶を手繰り、行動を顧みる。自分は何か、四宮の気に障ることをしただろうか、と。

 

あるいは―――

 

―――俺の弁当は、そんなに惨めか?

 

白銀は、たった今開いた自らの弁当を見る。

 

確かに、白銀の弁当は、ほとんどが昨夜の余り物である。その見た目も、中身も、四宮や藤原のものと比べれば、随分と見劣りするものであろう。

 

―――「まあまあ。会長ともあろうお方が、随分とお可愛いお弁当ですこと」

 

そんなことを思われているのかもしれない。

 

だが、とそこで白銀は思いなおす。

 

半年だ。航空研究会の一員として、白銀は四宮と半年間、関わってきた。その中で、ある程度、四宮かぐやという人間のことを理解してきたつもりだ。

 

思い返せば、白銀の昼食は、いつだって四宮のものより見劣りしていた。それに対して、四宮があんな反応をしたことはない。今日だけが特別なのだ。

 

だとすれば、何かもっと、明白な意味がある。明確な理由がある。それが一体何なのか、考えるのは白銀の役目だ。

 

―――・・・まさか。

 

白銀の頭脳が一つの仮説にたどり着く。

 

四宮かぐやという少女は、滅多にその本心を見せてはくれない。彼女の本心は、彼女自身の決意という形でしか、示してはくれない。白銀の想像以上に、四宮は奥ゆかしい少女だ。

 

白銀は今一度四宮を見る。そんな彼の右手には、弁当箱。

 

「四宮も・・・食べる、か」

 

「・・・え?」

 

白銀の言葉に、四宮は拍子抜けした様子で、キョトンとしている。

 

白銀が出した答えは、「四宮もおかずが欲しかったのではないか」というものだ。

 

真正の箱入り娘、深窓の令嬢として育った四宮は、いわば好奇心の塊のようなものである。航空研究会で必要な備品類を買い出しに行った時も、一番興味深げにしているのは四宮だ。

 

今回のお弁当にしたってそうだ。贅を尽くしたお弁当が、できたてで届けられる四宮にとって、冷めることが前提の、余りものと好きなものだけを詰め込んだ白銀の弁当は、物珍しいものだったのかもしれない。それを食べてみたいと思うほどに。

 

正解かどうかは、わからない。「そんな下々の食べ物を、私に食べさせるおつもりですか?」と言われるかもしれない。否、四宮はそんなこと言わないであろうが。

 

「え・・・えっと、あの」

 

氷点下の気温はどこへやら、四宮は戸惑ったように視線を泳がせる。

 

―――これは、不正解だったか・・・?

 

白銀が慌てて、発言を撤回しようとした時だ。

 

「あの・・・私にも、一口、ください」

 

「・・・あ、ああ」

 

俯きながら答えた四宮に、白銀は頷く。

 

―――正解・・・なのか?

 

やはり、どうしたって、四宮の本心はわからない。いつか石上も言っていたことではあるが、男が女の心情を百パーセント理解することは、到底無理な話なのかもしれない。いつだって、白銀は四宮の考えを掴みかねている。

 

だが。

 

「どれが食べたい?」

 

「えっと、タコさんウインナーを」

 

「これだな。ほら」

 

「では、いただきます」

 

四宮が、ゆっくりと唇を開く。潤んだピンクがウインナーをくわえ、そっと口の中に含む。実に穏やかに、ウインナーを咀嚼した四宮は、それはそれは嬉しそうにしていた。

 

頬を染めて笑う四宮を見ながら、白銀は思う。正解かどうかはわからないが、間違いではなかったであろう、と。

 

 

 

―――本日の勝敗。白銀の勝ち(?)。

 

♀♀♀

 

噛み締めたウインナーは、冷めていた。しかし、それが嘘のように、中からうま味が溢れてくる。

 

藤原とお弁当のおかずを交換することは、よくあることだ。だから別段、特別なことではない、はずだった。

 

―――はず、なのに。

 

かぐやは思わず、頬を抑える。

 

あまりにも自然なしぐさで、何も気にしていなかったが。

 

今、白銀に「あーん」されていなかっただろうか?しかも、そうして差し出されたタコさんウインナーを、かぐやは何の躊躇いもなく咥えてしまった。

 

それでは、まるで。

 

―――まるで、恋人じゃない。

 

白銀のお弁当が食べられて、嬉しい。白銀が差し出してくれて、嬉しい。白銀が食べさせてくれて、嬉しい。

 

あまりの喜びに頭の中から抜けていた羞恥心が、今になって現れる。嬉しさと恥ずかしさがない交ぜになり、かぐやの頬をより一層熱くする。

 

上手く隠せているだろうか。浅ましい女と思われていないだろうか。色々な考えがぐちゃぐちゃに行き交う。

 

ただ一つ。

 

「うまいか?」

 

満足げに笑みを浮かべる白銀を見る。

 

誰かが自分の作ったものを食べてくれるのは、きっと想像以上に嬉しいことなのだろう、と。

 

 

 

―――本日の勝敗。かぐやの勝ち(?)。




さー、今回は甘さ控えめで行きましょー。

糖分を取りすぎるとロカボガールになれませんからね。

ところでロカボって何ですか(おい)
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