かぐや様は夢を見たい   作:瑞穂国

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早いものですでに五話

今回のお話に副題をつけるとすれば、

「作者はラブコメが見たい」

になります


かぐや様は隣にいたい

「すまん、四宮!」

 

見本市の会場を出るなり、白銀は勢いよくかぐやに頭を下げてきた。

 

「さっきは舞い上がってて・・・俺の独断で、決めてしまった!」

 

白銀が言っているのは、先ほどの契約―――「ANGEL」エンジンの買い付けのことだ。

 

決定権は白銀とかぐやに与えられていたとはいえ、元々は研究会内で三つまで絞っていたのである。その中に「ANGEL」は含まれていない。「ANGEL」はカタログに掲載されていない、いわゆる当日持ち込みの品であった。

 

しかし、白銀は決まっていたことを曲げてまで、「ANGEL」を購入したのである。

 

金額的には予算内。それも、他の三つより安いくらいだ。

 

とはいえ、航空研究会の総意を覆す独断を、白銀は良しと思わないのだろう。自分自身で決めた事でも、罪悪感を抱いてしまう、律儀な男なのだ。

 

「会長、頭を上げてください」

 

かぐやも、そんな白銀の性格は理解している。だから受け入れられる。白銀に悪気はない。いつだって、最善だと思えることを、白銀は選ぶのだから。

 

「誰も、会長が悪いなんて思いませんよ。まして責めたりなんてしません。藤原さんも、石上くんも・・・もちろん、私だって」

 

頭を上げた白銀が、かぐやを見ている。

 

「会長は、あのエンジンが一番いいと、思ったんですよね?私たちが造ってきた飛行機には、あのエンジンが必要だと思ったんですよね?でしたら、皆わかってくれます」

 

かぐやは微笑む。偽らざる本心だと白銀に伝えるには、これが一番のはずだ。

 

 

 

帰りの汽車が近づくホームには、人の波が押し寄せていた。

 

市街の中心にあり、ただでさえ利用客の多い駅である。まして夕方となれば、尚更だ。さらに今日は、見本市の見物客も多い。

 

その波に飲まれた白銀とかぐやの二人。油断でもすれば、すぐさまお互いを見失ってしまいそうである。

 

だがしかし、かぐやの内心はそれどころではなかった。

 

―――か、会長が・・・っ!ち、近いっ!

 

浜辺の波は、打ち上げれば必ず引くものである。だが、物理世界における波とは、基本的に一方通行、行ったら返ってはこない。

 

人の波も同じだ。ホームに押し寄せる波が来ることはあっても去ることはない。一方通行の波は改札から入り、出口はホーム、すなわち汽車のみである。

 

結果、汽車を待つホームには人が溜まっていく。

 

人間の密集具合を表す指標に人口密度というものがある。単位面積当たりの人間の人数を表しており、人数を面積で割ることにより求めることができる。

 

今回の場合、分母であるホームの床面積は不変だ。一方、分子であるホームにいる人間の数は増え続けている。

 

分母が変わらず、分子が増えれば、値は当然大きくなる。すなわち、この駅において、人口密度は増加する一方なのだ。

 

密度が増えれば、その逆数である人間一人あたりの床面積は小さくなる。すなわち、隣の人間との距離が小さくなる。

 

かぐやの隣は当然白銀である。両者の距離は十センチもない。時折肩が触れ合うほどの距離。

 

人間にはパーソナルスペースというものがあり、自らの近くに他者が立ち入ることを不快と感じるものである。そこに踏み込むことを許されるのは、ごく一部の親しい人間に限られた。

 

かぐやにとって白銀は、親しい人間に分類される。パーソナルスペースへの立ち入りに、不快はない。しかしだからといって、何の感情も抱かないわけではない。

 

気になる異性の、パーソナルスペースへの立ち入り。緊張と同時に上がる血圧、高まる心拍数。それらが熱となってかぐやに伝わる。

 

陽も傾き、寒さが増してくる時間。けれどもそれを全く感じない。ホームの雑音に混じって、自分の心臓の音だけが、はっきりと聞こえる

 

―――だ、大丈夫よね。会長には、聞こえてないわよね。

 

そんなことを気にするのがやっとで、かぐやは白銀を仰ぎ見る。

 

「人、多いですね」

 

「あ、ああ、そうだな」

 

会話が続かない。いつも通りに振舞えない。そんな自分がもどかしい。

 

一体、どうしてしまったというのだろうか。

 

その時、背中に何かがぶつかった。人だとわかった時には遅い。軽いかぐやの体はすぐにぐらついてしまう。

 

「あっ」

 

漏れた声に白銀も気づいた。

 

「四宮っ!」

 

とっさに白銀の手が伸びる。

 

かぐやも反射的に手を出した。それは、「このままでは倒れてしまう」という、生物的な本能の反射―――ではなく。

 

―――会長と離れてしまう。

 

切実な、乙女としての本能が反射する。

 

白銀の手が、かぐやの手を取った。

 

白銀の手が、かぐやの体を引いた。

 

かぐやは倒れることなく、再び白銀の隣に舞い戻る。たったそれだけの、短い出来事。おそらくお互いに、ただ反射的にしてしまった行動。

 

理性は常に反射から遅れてやってくる。数秒遅れて、かぐやは白銀と手を繋いでしまったことに気づいた。慌ててその手を放す。

 

「あ、ありがとうございます、会長」

 

「あ、ああ。怪我がなくてよかった」

 

答える白銀の顔を見れない。さっき以上に頬が上気している。こんな顔を見せられない。

 

「・・・はぐれたら、大変だな。これだけ人が多いと」

 

―――・・・そうですね。次は本当に、会長と離れ離れになってしまうかも。

 

今日一日、白銀と過ごした分。加えて、この駅での急接近。容量一杯一杯で、かぐやの脳はすでに機能不全気味である。恥だの意地だの、普段持ち合わせていたものはどこかへ吹っ飛んでいた。今のかぐやには、白銀と恋愛頭脳戦を戦う力はない。

 

今の彼女にとって、一番重要なことは、この場で白銀とはぐれないことである。

 

かぐやは手を伸ばす。白銀の制服の袖を、そっと摘む。

 

「四宮・・・?」

 

「はぐれたら・・・大変、ですから」

 

白銀はそれ以上何も聞かない。ただ一言、優しく呟いただけだった。

 

「エスコートする約束だったな」

 

数分後、汽車が到着する。

 

人の混み具合は、駅と大差ない。だからかぐやは、ずっと白銀の袖を摘まんでいる。それはあくまで、白銀とはぐれないようにするためである。

 

四駅先で降りるまで、白銀はかぐやの身を庇い続けていた。

 

 

 

駅には四宮家から迎えが来ていた。買い物があるという白銀とは駅で別れ、かぐやは車上の人となる。

 

「かぐや様、楽しかったみたいですね」

 

隣に座る早坂が、何でもない風に訊いてくる。

 

この専属メイドの性格を、かぐやはよく知っている。ああ言えばこう言う、どこか意地の悪いメイド。だからこそかぐやは、どう答えたものかを、悩む。

 

しかしかぐやは、それ以上悩むのをやめた。思えばまだ、うまく思考ができるほど、頭に余裕がなかった。

 

「まあ、ええ。とても楽しめましたよ」

 

返答が意外だったらしく、早坂はキョトンとした表情を浮かべていた。彼女の意表をつけたのなら、悪い気分はしない。

 

「そうですか。何よりです」

 

早坂はそれ以上何も聞いてこなかった。いつもなら、会長とどうしただの、どうするべきだの、いらぬ詮索と遠回しな罵倒を織り交ぜて小言を言ってくるのだが、今日はそれがなかった。

 

早坂がゆっくりと口を開いたのは、家までかなり近くなってからだ。

 

「・・・かぐや様。わかっているとは思いますが、」

 

「わかっているわ」

 

かぐやはその先を、反射的に防いでいた。それ以上は聞きたくなかった。たとえ正論でも、今は言わないでほしかった。

 

「あまり時間はありませんよ」

 

それでも、この早坂というメイドは、核心を突いてくる。彼女なりの誠意なのだろうが、融通が利かないともいえる。

 

窓からガス灯の照らす街並みを見る。その上に広がる空と星は、街明かりのせいでまばらにしか見て取れない。

 

ただ、白い月のみがはっきりと、夜の中に浮かんでいた。




三話を使った見本市回

色々仕掛けてはいるつもり・・・頑張って回収します

こうして五話書いている間にも、合間合間で書きたい話がたくさん浮かんでくるので・・・本編終了してからその辺の話も書く、かも?です

(以下雑談)

チンチン回来ましたね!絶対アニメ化しないと思っていたのでびっくりです。(祖母と)大爆笑しながら見てました

今回のお話もチンチン回見返しながら書いてました(台無し)

あと、告radioに出てきたhalcaさんの「シシシ」っていう笑い方がかわいくて最高でした
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