話が進んでいないように見えて進んでいます。・・・進んでるよね?
一点、本来この作品で起こってはいけないことが起こっています。伏線です。はい(ネタバレ)
航空研究会に所属して以来、かぐやが常に身に着けるようになったものがある。
それは、髪留めであるリボン。赤を基調として、黒のラインが入ったものである。
元々かぐやは、黒髪を腰付近まで伸ばしたストレートヘアであった。しかし、何かと機械いじりが多い航空研究会。長い髪は作業中に巻き込まれると、怪我の原因になりかねない。白銀や藤原のアドバイスで、かぐやは髪をまとめることにした。そのためのリボンである。
―――「なかなか似合ってるな」
決して、そんなことを白銀に言われたから、身に着けているわけではない。断じてない。
そんなわけで、今日もかぐやは、リボンで髪を留めている。何と言っても、白銀とかぐや、二人で買い付けに行った「ANGEL」エンジンの、納品の日である。
♂♂♂
白銀が足を踏み入れた倉庫には、先客がいた。点けたばかりらしいストーブに手をかざし、コンロのやかんを眺めている人影が、白銀の方を振り向く。
四宮かぐや。トレードマークのリボンを揺らす少女が、白銀に微笑みかける。
「おはようございます、会長」
「ああ、おはよう。四宮」
容姿端麗。眉目秀麗。立っているだけで絵になる美少女。おまけに、鈴を鳴らすような、麗しく凛とした声の持ち主ときた。
並の男であれば、まともに彼女の顔を見て会話などできないであろう。
だがそこは、学年一位、四宮と並び称される白銀である。そこいらの雑草とは格が違う。
他者から見れば天使のような微笑みも、白銀には日常であり、だからいつも通りの返事を返す。
「少し待っていてくださいね。もうすぐお茶が入りますから」
ちょうど外気で体が冷えていたところだ。この申し出はありがたい。こういうところ、よく気がつく人間なのだ、四宮という女は。
おそらくは、自転車で登校する白銀を見つけて、沸かし始めたのだろう。もはやこれくらいで驚きはしない。
「今日エンジンを取り付けたら、本当にもうすぐ完成ですね」
沸いたお湯で紅茶を淹れながら、四宮が呟く。
「そうだな。うまくいけば、年内に一回目の飛行まで持っていけるかもしれない。これもみんなのおかげだ」
淹れたての紅茶を受け取り、白銀も呟く。
四宮の交渉術がなければ、学園から予算を取り付けることはできなかった。
藤原の人脈がなければ、民航連の協力を得られなかった。
石上の処理能力がなければ、効率的な予算運用はできなかった。
材料を全員で探し回り、白銀と四宮で強度計算をし、藤原と石上で模型実験を行い、また全員で実機を組み立てる。
誰一人欠けても、できなかったことだ。
「年内に・・・」
一口カップに口付けた四宮が、意外と早いですね、という顔で機体を見る。今はすでに十一月の終わり、まもなく十二月というところだ。あと一カ月で自分たちの機体が飛ぶと言われれば、確かに早いと感じるだろう。
四人で作り上げた機体が、優雅に空を飛んでいるところを、白銀は想像する。それはさぞかし、心躍る光景に違いない。
藤原と石上の二人も加わり、航空研究会四人が揃ったところで、「ANGEL」の搬入作業が始まった。
先日の整備士がトラックを運転し、「ANGEL」を倉庫へと運び込む。
「これが会長の選んだエンジンですかー」
荷台でシートを被るエンジンを眺めて、藤原が感嘆の声を上げた。石上も興味深げにエンジンの各部を見ている。
それとは逆に、航空研究会の機体を見つめる者もいる。運転席から降りてきた、整備士である。
「・・・」
彼は無言のまま、ゆっくりとした足取りで、機体の周りを回っていた。時折顔を寄せ、手を触れ、機体を一周見て回る。
彼は特に感想を述べることもなく、そのまま四人の方を振り向いた。
「このまま、エンジンを据え付けていいのか」
「はい。お願いします」
代表して答えた白銀に、整備士が頷く。
機体を水平に保ち、その機首へ荷台から降ろしたエンジンを持ってくる。整備士の指示に従って、白銀と石上で油圧ジャッキを動かし、エンジンを持ち上げた。取付位置に高さが合うと、エンジンを固定して、エンジンカバーをかけるのが四宮と藤原の役目だ。
大仕事は、一時間半ほどで完了した。
「いい機体だ」
工具類を片付けた整備士は、それだけを言い残して、トラックで走り去っていく。その影が見えなくなったところで、改めて白銀は―――四人は、機体を見る。
足りないものはほとんどない。あとはプロペラをエンジンの先につけ、部材を支えるピアノ線を張り巡らせれば完成だ。
チラリと見遣った四宮も、目の前の機体を静かに見つめている。その横顔が、ほんの少し、緩んでいる気がした。
―――あと少しだ。
感想も感慨も、いくらでも湧いてくる。だがそれら漏らすには、まだ少しばかり早い。
全てはこの機体が、空を飛んでからだ。
♀♀♀
「そういえば会長、この機体の名前ってどうするんすか」
片付けも終わろうとしたところで、ふとそんなことを言い出したのは、石上であった。
作業をしていた全員が顔を上げ、石上の方を見、次いで白銀に目線を移す。
「そういえば、考えてなかったな」
航空機政策の立案者であり、航空研究会の会長にして、主任設計者でもあるはずの白銀は、そんなことをぽろっと口にした。
「えーっ、そうなんですか」
藤原が驚きという風に声を上げる。
「そろそろ必要とは思っていたが・・・。なんだ、その、俺の一存で決めていいものでもないだろ」
頬を掻きながら白銀が言う。ここにいる全員で決めるべきだと、彼は言っているのだ。
「じゃあ、今決めちゃいましょう。この先、飛行庁に書類を出すときとか、必要になりますし」
「あー、それもそうですね」
石上の言葉に、書記である藤原も大きく頷いた。
飛行庁は、交通省の下部組織であり、飛行物体全般の管理を行う国の機関である。製作した航空機は飛行庁に届け出る義務があり、その際に機体番号が発行される。
これとは別に、機体ごとの個別の呼び出し符号と名称を自由に登録することができた。こちらは交信等で使用される。
機体の完成が見えてきた今、機体の名前はこれから絶対に必要になるものだ。
―――私としては、会長のつけたい名前がいいと思うのですけど。
白銀の方を窺う。彼は手を顎に当て、考え込む仕種をしていた。
「飛行機の名前ってのも、色々あるしな」
「ですねー。ぱっと思いつくところは、人名ですよね。男爵とか、公爵とか、聖なんとか、みたいな」
白銀の言葉に藤原が反応する。
その理論で行けば、この機体につけるのは白銀の名前がいいだろう。
「白銀」号、あるいは「御行」号だろうか。
―――わ、悪く、ありませんね。
かぐや的には断然アリの判定であった。
「あとは鳥とか、自然現象の名前も多いですよ。軍用機だと伝説上の生き物とかもあります」
石上も候補の幅を広げていく。
以降は、各々がいいと思う名前を候補として出していき、喧々諤々と意見を交わす。四人とも、この機体にかける思いはひとしおであり、当然ながら熱が入る。週一の報告会を上回る白熱した議論が交わされるなか、かぐやはふと思う。
我が子を想って名前を考える親とは、こういう気持ちなのだろうか、と。
収拾がつかなくなりつつあった議論は、最終的に藤原提案のゲームとくじ引きで結論を得るに至った。
製作した機体は、「カササギ」号と名付けられた。発案は白銀である。
カササギと言えば、東洋の伝説に登場する鳥でもあったなと、かぐやは思い出す。牽牛星と織姫星を結ぶため、天の川に橋を架ける鳥だ。星好きな白銀らしい命名である。
その機体が―――「カササギ」号が、年内に空を飛ぶ。かぐやにとっては非常に喜ばしいことであった。
―――ええ、本当に。
自室の窓から、空を見上げる。今日は星がよく見えた。
まるでそこに、手が届きそうなほど。
まるでそこに、手が届いてしまいそうなほど。
仕掛けは今後に関わるところが三つ?かな。あとは、小さいのが一つ。いやまあ、小さいのもどこかで回収するかもだけど。
そういえば、百人一首に鵲の歌がありましたねー。「鵲の~」ってやつ。詠み人は確か・・・おっと、こんな昼間からいったい誰g(削除)
(以下雑談)
昨夜の八話も面白かったですねー。期末テストであんなに燃え上がれるアニメも珍しい・・・あと会長のシャドーボクシング、妙に作画がいいんですよね(笑)
次回は風邪回っぽいので、またまた楽しみです。