かぐや様は夢を見たい   作:瑞穂国

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まさかの二日連続投稿。

今回はとても興が乗りましたねー。

作者的にはそろそろ終わりが見えてきたところであります。


かぐや様は繋がりたい

月が替わって十二月である。冬の度合いは日に日に増しており、冬至付近でもあるこの頃は、陽が沈むのは早く、昇るのは遅い。

 

授業終わりともなれば、日は随分と西へ傾いており、すぐに夕暮れが訪れる。普通に考えれば、生徒はすぐに家へと帰るものだ。

 

だが、秀知院学園では、下校のチャイムぎりぎりまで残る生徒が多い。というのも、間もなく行われる文化祭―――奉心祭への準備が大詰めとなっているからである。

 

学生の成果発表と、地域交流を兼ねる一大行事であり、生徒も教師も、多分に力を入れている。クラブ活動やクラス、あるいは有志の集いで、催し物や展示内容を考えて準備を進めていた。

 

「カササギ」号の完成も間近となった航空研究会も、ご多聞に漏れず展示の準備作業中である。

 

校舎の教室を借りて、過去の活動の様子を、写真と文章で紹介する展示。こちらは藤原と石上の管轄である。

 

また、倉庫内での模型と実機の展示、及びエンジンの展示運転もある。こちらの準備は白銀とかぐやの役割であった。

 

とはいっても、やることはそれほど多くない。他の展示に比べればあっという間に終わってしまう。後は当日に、準備したパネルやらを配置するだけである。

 

―――当日もいくらか時間がありそうですし。うまくすれば、会長と文化祭を回れるかもしれませんね。

 

かぐやの思考は、すでにそんな方向へと向かっていた。

 

どうにかして、白銀に誘わせる。あるいは、できる限り自然に、白銀と行動が一緒になるようにする。そのための策略は、すでにいくらか準備済みだ。

 

が、今日に限ってその策略は、最優先事項にはならなかった。

 

「初飛行が十二月二十五日に決まった」

 

白銀の口から、「カササギ」号の初飛行日が告げられたのである。

 

♂♂♂

 

集合排気管が唸ると同時に、機首の二翅プロペラがゆっくり回り始めた。その様子を確かめ、白銀は改めてエンジンの音を聞く。搭載された星型エンジン「蓬莱」はリズミカルに爆音を上げ、穏やかな振動を操縦席まで伝えていた。

 

各計器の値が正常であることを確かめ、方向舵の動きも確認した白銀は、最後に後ろを振り向いた。複座のこの機体には、白銀以外にもう一人が、後部座席に座っている。

 

飛行用のゴーグルをかけた彼女―――四宮が白銀の目くばせに首肯する。準備完了の意だ。それに頷き返して、白銀は親指を立てるゴーサインを出す。

 

機体横で控えていた藤原が、前輪を抑えていたチョークを外した。機体は徐々に前進を始め、ゆっくりと滑走路へ侵入していく。

 

白銀たちが休日を使って訪れているのは、藤原家の所有する私設空港である。私設とは言っても、藤原家の方針で一般向けに開放されており、小型の民間機、特に航空機製作者の自作機が多く駐機していた。「カササギ」号もこの空港で初飛行を迎える予定だ。

 

藤原家の空港であるので、当然藤原家が所有している機体もある。白銀が今日乗っている機体もそうだ。名前を「千花」という。ちなみに、他にも二機を所有しており、それぞれ「豊美」「萌葉」という名前がついていた。どこから取ったかなど考えるまでもない。

 

白銀と四宮が「千花」に乗っている理由は二つある。

 

より大きな理由は、飛行技術の向上にある。

 

航空研究会内で、アマチュアの小型機操縦免許を持つのは、白銀と石上である。当然、製作した「カササギ」号を実際に操縦するのも、この二人のどちらかになる。その際、いわゆるペーパーパイロット―――免許だけ持っていて経験のない操縦士では困るのだ。そこで、藤原の父が、この空港と機体を貸してくれることになったのである。

 

機体の自作が決まってから、二週間に一度くらいのペース、最低でも一月に一回は操縦桿に触れるよう、訓練を積んできた。白銀も石上も、相当慣れたものである。

 

もう一つの理由は、今後部座席の四宮が抱えているものにある。

 

エンジンを「ANGEL」にしたことで、予算が大きく浮いた。その際、石上が提案したのが、機上無線の追加購入である。より安全な飛行を保証するものとして、購入と搭載が決定された。今日はその試験も兼ねていた。

 

そんな理由があり、今日の飛行である。差し迫った「カササギ」号の初飛行に向け、白銀も飛行技術の更なる向上に余念がなかった。

 

―――・・・四宮と二人っきり!それも!飛行機で!空の上で!

 

嘘である。この男、俗物丸出しである。

 

これまでの飛行は、技術向上を目的としたもので、乗るのは白銀と石上の二人、あるいは教官役のベテラン搭乗員であった。四宮と藤原は地上待機で、手信号での誘導や、離着陸補助の勉強をしてもらっていた。

 

今回は、無線の試用もあるため、そちらに詳しい石上が地上に残ることとなった。そして、機上で交信を受ける側として、かぐやの搭乗が決まったのである。

 

―――「かぐやさん、普段飛行機乗らないんですから。たまにはいいじゃないですか。気持ちいいですよ」

 

とは、普段からちょくちょく飛行機に乗っているという、藤原の言葉である。今回ばかりは、心から「グッジョブ!」と言ってやりたい気持ちであった。

 

そうこうするうちに、「千花」は滑走路へと侵入した。

 

白銀は右手で操縦桿を握ったまま、左手でスロットルレバーを引く。エンジンの唸りが変わり、徐々にその回転数を増していった。同時にプロペラの後流も勢いを増し、機体を前へ前へと推し進め始める。

 

翼が空気を切り裂いて進む中、揚力を産み出す。次第に水平へ移行する機体は、尾部が地面から離れて持ち上がる。ここまでくれば、あとは機首をゆっくりと引き起こしてやるだけだ。

 

「わっ」

 

ふわりとした掴みどころのない感覚が、全身を襲う。前輪がついに地面を離れ、「千花」が空中へと躍り出たのだ。それを確かめた白銀は、操縦桿をわずかに引き、失速しないように気を付けながら、機体を上昇させていく。

 

青々とした芝生の敷き詰められている滑走路が、次第に遠のいていった。眼下に消えた景色を一瞬だけ見遣り、白銀は高度計の針を気にし始めた。予定される飛行高度三百メートル付近で、無線機の試験を行うのだ。

 

高度計の針が三百を回ったところで、白銀は機体を水平に戻した。そのまま緩い旋回を始める。その様子は、地上からも見えるはずだ。

 

「四宮、無線を入れてくれ」

 

エンジンと風の音に負けないよう、後部座席に向けて声をかける。四宮は頷いて、膝に抱えた無線機を立ち上げ始めた。扱い方は石上から伝えられている。

 

操縦桿をわずかに倒し、旋回を維持する白銀。やがて後部座席から声が聞こえ始めた。四宮が無線機に呼びかけ始めたのである。

 

「四宮です。石上くん、聞こえますか」

 

普段よりも声を張り上げて呼びかける四宮。おかげでその声も、白銀まではっきり聞こえていた。

 

「ええ、ええ。感度は良好ですよ。そちらはどうですか」

 

石上の声は聞こえない。あちらからの返答はヘッドフォンを通しており、今その声を聴けるのは、ヘッドフォンをしている四宮だけだ。

 

―――無事繋がったみたいだな。

 

斜め右下に見える空港を白銀も確認する。満足げな石上の顔が見えるようだった。

 

「会長、石上くんです」

 

不意打ちだったのは、後部座席のかぐやが右耳に顔を寄せてきたことだ。

 

声の聴き取りずらい機上で、反射的に顔を寄せてしまう行為の意味は、わかる。だが、四宮の声が、すぐ耳元から聞こえてきたという状況に、白銀の心拍数が急上昇してしまうのもまた仕方のないことだ。

 

ちょっと目を移せば、ゴーグルをした四宮の顔が、すぐ側にある。ガラス越しに、瑠璃色の瞳と、目が合う。

 

「あ、ああ」

 

白銀が返事をすると、四宮は自分のしていたヘッドフォンを白銀に付け替える。ついでにマイクも口元に差しだしてくれた。

 

「今、替わった」

 

『会長、いい感じですよ。無線機の搭載は正解でしたね』

 

無線のノイズを含んではいるが、はっきりと石上の声が聞こえている。これはいい。

 

「だな。これなら、飛行中も陸上から支援が受けられる」

 

『はい。まあ、まだ何回か調整は必要でしょうけど。とりあえず、今日は繋がってよかったです』

 

「ああ。それじゃあ、飛行に戻るぞ」

 

『はい。ご安全に』

 

そこで通信が終わった。四宮がマイクを下げ、ヘッドフォンも取ってくれる。

 

「すごいです。意外とはっきり聞こえるのですね」

 

無線機の手仕舞いをしながら、四宮が呼びかけてくる。

 

「そうだな。正直、電話とあまり変わらん。便利なものだ」

 

「そのうち、電線なしで地球の裏側と交信できるようになるかもしれませんね」

 

「はは、それはいい。無線機があれば、世界中の誰とでも話ができるわけだな」

 

「ええ、ええ。ですからその時は、会長の無線機のチャンネル、教えてくださいね」

 

一瞬ハッとして、白銀は後部座席を見遣る。四宮は笑っていた。口元も、ゴーグルの奥の目も、淑やかに緩んでいる。

 

「・・・なんだ、四宮。どこにいても、俺の声が聞きたいのか?」

 

「ええ、もちろん」

 

ドキリとしてしまう。それは、つまり、俺のことが―――

 

「藤原さんも、石上くんも、チャンネルをもらって。それで、四人でお話が出来たら、素敵じゃないですか」

 

・・・ああ、なるほど、そういうことか。勘違いしかけた自分が恥ずかしくて、白銀はまた前を向く。

 

「その時は俺も、四宮たちの番号が欲しいな」

 

四宮が頷く雰囲気だけ、はっきり伝わってきた。

 

 

 

申請しておいた飛行区域内で、白銀は飛行を続ける。決めていた飛行時間は三十分。その間、白銀は市街地の方へ飛んでみたり、あるいは山の方を目指したりと、できる限り四宮が楽しめそうなコースを選びつつ、飛行機を操っていた。

 

予定時刻が近づき、空港の上空まで戻った白銀は、着陸の許可が下りていることを確認して、後部座席の四宮に呼びかける。

 

「四宮、これから降りるぞ」

 

だが、四宮からの返事はなかった。

 

「四宮・・・?」

 

白銀は後部座席を振り返り、四宮の様子を窺う。

 

空を見上げ、どこかぼーっとした様子に見えた四宮だが、すぐに白銀の方を向いて、申し訳なさそうに笑った。

 

「ごめんなさい、つい見惚れてしまっていて」

 

「・・・そうか」

 

白銀もそれ以上確認は取らず、前に向き直って操縦桿を倒す。機体は緩やかに下降し、やがて滑走路に三点着陸を決めた。

 

♀♀♀

 

少し不思議な感覚に捉われたのは、空に上がって二十分ほどした時だった。

 

ふと見上げた空に、意識が吸い込まれるような気がした。そしてどういうわけか、それをとても懐かしいと感じた。

 

確かに、かぐやにとって空は、決して初めてというわけでもない。「天空の四宮」と言われるほど、航空産業には造詣の深い四宮家である。自前で飛行機や飛行船も持っているし、もちろんそれらに乗ったことはある。

 

だが、懐かしいと感じるほど、空に親しんできただろうか。

 

―――おかしな私。

 

そんなことを思いながらも、四宮は空を見続ける。澄み渡る青に向けて、ふと手を伸ばす。だがその手を、慌てて引っ込めた。

 

手を伸ばせば、届きそうな気がしたから。

 

手を伸ばせば、届いてしまいそうな気がしたから。




タイトルがかぐや様なのに、ほとんど会長のお話・・・

初飛行に向けて着々と準備が進んでますね!

予告すると、文化祭編はありません(えっ)

(以下雑談)

二日連続投稿なので雑談することがありません・・・

とりあえず八話をぐるぐると何度も見ています。かぐや様の妄想の中での圭ちゃんが可愛すぎてな・・・。
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